伝達蝦蟇が出した連絡用の小さな巻物には任務終了との一言が書かれていた。フガクとミコトはイタチとシスイに合流しすぐに里へ帰還した。その日はすでに開戦が翌日と控えており、里は緊急時のため子どもや忍でない者や高齢者はペイン襲撃後に新たに新設された避難所に集っていた。よって里はもぬけの殻のような状態で、避難所の他に唯一人の気配があるのは火影塔のみであった。
彼らを出迎えたのは、ヒルゼン、ダンゾウ、大蛇丸の三人。
「長期任務、ご苦労であった」
報告すべきことは既に連絡蝦蟇に渡しているため、帰還を伝える他には特に話すことはない。
「三代目、僭越ながら……何故私たちのみが里へ戻るようにと?」
息子のサスケも戦に参戦しているのだろうと、フガクは約二年の間顔を合わせることがなかった息子の身を案じていた。
「それについては私が説明するわ。サスケくんを気にしているのよね。それは私もそう……。その前に、全てを知る者に会いにいきましょう。あなた方もきっと、その方と話がしたいでしょうから」
大蛇丸の言葉からは話が見えてこない。彼は一体何をしようとしているのか。
「その前に、サスケが今どうしているか教えてやったほうがいい。父親として心配しとるだろ」
大蛇丸の意味深な発言を一旦切るようにダンゾウが口を挟む。このような人物だったろうか。家族の情だとか、そういったモノは彼にとって排除すべきモノではなかったか。イタチにそうさせたように。
「暁との戦にあたり、九尾の人柱力たるナルトは保護対象だ。その護衛としてサスケを置いていたのだが……つい今しがたあった報告によると、ナルトを連れて姿を消したかと思えば五影の軍事会議に乱入し戦線に出ることになったようだ。しかもその際に六道仙人を呼び出した上に、……よくわからんがその六道仙人がサスケとナルトを大人の姿に変えた、らしい……」
「六道仙人」というパワーワードが出た上に、「大人になった」という疑問符が浮かぶ発言。言葉は少ないはずなのに情報量が多すぎる。フガクは思わず額に手を当て項垂れた。しばらく顔さえ見ていない息子は、里の命に背いた挙句わけのわからない状態になっているのかと。ミコトもイタチもさすがに動揺しているようだった。
「ああ、私も六道仙人と大人になったサスケくんをこの目で見たかったわ……。本当に残念」
「サスケ……おまえは……」
サスケの輪廻眼が六道仙人の顕現に繋がったのだと推測できる。これまでにもサスケの力を察する機会はいくつもあったが、それを直視しようとせず誤魔化してきたのは自分自身だ。サスケは今、大きな時代のうねりの中心におり、自分の手の届かない所に行ってしまったような気がした。
「時間をムダにしてる場合じゃないわ。さあ行きましょう。……マダラに対抗するための助力を得に」
向かったのは木ノ葉隠れの里内にある神社。戦禍の影響で所々崩れかかってはいるが内部の損傷はほとんどなく、いくつもの般若の面が壁一面に並べられていた。
「これね」
大蛇丸は一つの般若の面を手に取った。
「ここは?」
イタチは幼少の頃から里の成り立ちに興味を持ち、里に点在する遺跡や史跡を巡っていたことがある。この神社を訪れても一神社だというだけで特に何も得るものはなかったはずだ。
「うずまき一族所縁の神社よ。千手一族とうずまき一族は同じ祖先を持つ遠い親戚のような関係で、うずまき一族は特に封印術を得意とした。それゆえに渦隠れの里は戦禍に巻き込まれて消滅して、一族は離散したけれど。……それよりも前にこの神社はここにあった。なぜかしらね。まあそれはさておき、私の興味はうずまき一族の封印術。その封印に関係するのがこの面よ」
「ミナトは屍鬼封尽を用いて九尾のチャクラをナルトに封印した。その代償は自身の魂。つまり、ミナトの魂は未だ死神に囚われたままということじゃ」
「それを解除する術もあるのよ。というより私が術を改良して編み出したのだけれど」
「大蛇丸……そのクセの強ささえなければなぁ……」
ヒルゼンは盛大にため息を吐いた。
「私はこういう立ち位置なんですよ。猿飛先生」
大蛇丸は薄く笑む。
「お前もワシも変わったもんだな」
ダンゾウはポツリと独りごちた。
「さあ、次に行きましょう。フガクさん、案内してもらえるかしら」
「はい?」
「うちは一族に伝わる石碑。サスケくんは一族の呪いだと言っていたわね」
「サスケには教えていないが……」
「俺も、教えていません」
イタチはなによりサスケが大人の中に入ることを拒んでいた。自分がつらいと思ったことを弟のサスケには経験させたくなかったのだろうか。フガクは今になって思い至った。
「誰も教えていないのに知っている。なぜかしら?そういえば……報告によると、ナルトくんとサスケくんはこれから戦で起こりうることを知っていたとか」
これまでにあった様々な出来事がフガクの脳裏に過ぎった。サスケがクーデターを止めるようにと縋ったあの日。写輪眼について尋ねた時のサスケの言葉。パズルのピースが一つ一つ繋がっていく感覚。
南賀ノ神社本堂の地下にあるうちは一族の集会場は特殊な石で作られた史跡でもあり、あらゆる感知を退けることのできる場所。大蛇丸がそのことを知っているとは思いもよらず、フガクはたじろいだ。だが、彼の目的もここまで来てようやく合点がいった。屍鬼封尽と四代目火影・波風ミナトのこと、それから「全てを知る者」「マダラと対峙するための戦力」となると自ずと答えは見えてくる。
その入り口は、うちは一族のチャクラに反応し開く仕組みとなっている。地下へと続く階段の先には、開けた空間と石碑があるのみ。フガクが火遁で松明に灯りを灯すと、石碑に刻まれた文字が浮かんだ。
大蛇丸は徐に巻物を取り出し、封を解くと四体の白ゼツが現れた。フガクも白ゼツの厄介な能力について知っている。その手足は蛇によって縛られており身動きが取れないようだが、それだけではないはずだ。
「木遁の力を抑える毒よ。……効き目は良いようね」
まだ試作段階なのか、大蛇丸はわざわざ屈んでそれぞれの白ゼツの様子を観察している。
「木遁?もしや……行方不明のヤマトに関係があるのか」
つい数日前、任務中ヤマトが薬師カブトによって攫われたとの報告が上がっていた。うちは一族からの情報をもとに彼の行方を追っていたが、掴んだとしても指の間をすり抜けるようにいなくなる。うちは一族の者を当てることも考えられたが、その戦闘の様子を第三者に見られた場合は計画が露見する可能性があり、カカシを含む里上層部の判断で断行できずにいた。
「ええ、どうやらそのようです。敵に情報が漏れたとも考えていいでしょうね。六代目にも報告済みですよ」
白ゼツの細胞を検査機にかけたところ、ヤマトに近い配列がみられた。また、ヤマトは木ノ葉隠れの里の根に所属している暗部であり彼の持つ情報量は多い上に、木遁には尾獣の力を縛る力があるため戦況を左右する可能性も考えられる。
二本目の巻物には穢土転生の術式があり、白ゼツを取り囲むように床に転写された。穢土転生の術。死者を蘇らせるという二代目火影の作った禁術で、薬師カブトが行おうとしているものだ。
「さあ、始めましょうか」
ーー屍鬼封尽・解
大蛇丸が般若の面を付けると、死神の放つ禍々しいチャクラが放出された。さらに彼は間を置かずに刀で自らの腹を裂く。
ーー穢土転生
大蛇丸は両手を床に付き、チャクラを流し込むと術式が反応し三体の白ゼツの形態も変化する。大蛇丸は傷ついた己の身体を捨て、四体目の白ゼツに取り付き自己再生した。屍鬼封尽を解除するには相応の対価が必要で、この方法は大蛇丸だからこそなし得たことだ。
白ゼツだったものは三人の男性の姿に変化した。初代・千手柱間、二代目・千手扉間、四代目・波風ミナト。
「間に合ったようね」
おそらくカブトも彼らのDNAは所持しているだろう。こちらが先に穢土転生をすることで、カブトは彼らを穢土転生しようともできないこととなる。
「何ぞ?!……ここは、うちはの」
柱間はキョロキョロと挙動不審であったが、見覚えのある場所であることに気づき落ち着きを取り戻す。
「兄者、ワシらは穢土転生されたようだ。隣は……四代目火影か」
ミナトの火影羽織には四代目と刺繍されていた。
「波風ミナトといいます」
「ほう!四代目まで続いておるとはな!里も長く安定しておるようだな」
「安定しているかはよくわかりません……私は三代目よりも先に死んで封印されていましたし」
「お前たちは……サルとダンゾウか?その分だと協力してよくやっているようだな」
ヒルゼンとダンゾウは扉間の小隊に所属しており、忍術の師でもある。二人の間には相容れないものがあり、扉間は将来どうなることかと案じていたこともあった。二人が本当に手を取り合ったのはほんの最近のことであったが、分かりづらいが表情を緩ませた扉間を前にここではあえて何も言うまいとダンゾウは口を噤んだ。
「お久しゅうございます。初代様、二代目様。それからミナト」
「先生、お久しぶりです。……何ですか、この顔ぶれは」
ヒルゼンの横には里の闇とも言われていたダンゾウに、大蛇丸。それからうちは一族のフガクとミコト、イタチ、シスイ。何の集まりだろうかとミナトは考えあぐねていた。
「術者は?」
「私ですよ。敵が穢土転生を利用し名のある忍たちを差し向けてくるとの情報が入ったため、先手を打たせて頂きました。本来の術のようにあなた方の意志も行動も縛りませんからご安心を」
「ふむ……やはり平和の世は簡単には訪れぬ、か。……敵は手強いのか」
「ええ。敵の首領はうちはマダラを騙るうちは一族の者。それから何らかの手段を用いてマダラの蘇生を目論んでいるそうですよ」
「マダラか。……それでオレを穢土転生した、と」
「……ところで、そこの後ろのはうちは一族の者か」
特有の顔立ちと忍装束にあるうちは一族の家紋。扉間は会話が切れたところを見計らい口を挟む。
「うちは現当主のフガクだ。それから妻のミコト、息子のイタチとその友のシスイ」
「二代目様、シスイはカガミの孫にあたります」
「そうか。どうりで顔立ちが似ている。カガミはワシの部下で、うちは一族と里の間を取り持つことに尽力した男だった」
シスイは黙ったまま頭を垂れる。その様子に扉間は薄く笑んだ。やはりうちは一族らしいと。口数が少なく、己を出さない。忍らしいといえばそうだが、自己開示が苦手ともいえる。
柱間はフガクを見据える。
「お主に一つ確認したいことがある。……同族を討つこととなるが、良いのか?」
その問いにフガクは瞠目した。これが初代火影か、と。気遣いとともに、うちは一族当主としての覚悟を問われているような気がした。
「その者は十五年前に九尾を操り里を襲った者と同一人物で、ミナトを屠った者でもある。その一件でうちはの名は地に落ちた。九尾を操るといえば皆考えることは同じだろう。……俺には、そのような者を一族から輩出した責任がある。里に対しても。一族に対しても」
「……そうか。実直な男だの。お主のような者が当主であればうちは一族も安泰であろう」
「いいや。……一族を取り纏めることも儘ならず、道を踏み外そうとしたところを幼い息子に諭されたこともある」
彼は、柱間の最もよく知るうちは一族の長であった男とはあまりに違う。謙虚すぎやしないか。それに子どもの言葉に耳を傾けることもできるとは。その違いがなんとも面白く、柱間は大口を開けて笑った。
「ガハハハハ!それでこそ安泰だ。……では、戦場へ向かうとしよう」
「話はまとまったようね。私とダンゾウは薬師カブトの元へ向かうわ」
「フガク、すまんが、イタチ、シスイ、援護を頼めるか」
二人は無言で頷くと、四人はすぐに姿を消した。
「では、ワシは里の守護の任に戻るとする」
五人が抜けると、歴代火影を案内するのはフガクとミコトの役目となる。
「フガクさん、よろしくお願いします」
「ああ」
向かうは雲隠れの里に設置された忍連合軍本部。途中休憩を挟みつつ、五人は急行する。まだ日は高いが、夜通し駆けずして翌日の開戦には間に合わない。
扉間は戦力確認のためにフガクに問う。
「お主の写輪眼はどこまで変化している。言いたくなければ言わずともよいが」
「永遠の万華鏡写輪眼まで。……大蛇丸の助力もあり、眼は移植した」
「それでもその精神状態を保っておれる、か」
「……二代目は写輪眼の精神汚染についても?」
「ああ。カガミがいたからな。我が一族は医療にも長けておるため、うちは一族の失明に関する対応策がないかと研究していた。……あの大蛇丸とかいう者が成し遂げたか」
かつて扉間が写輪眼について研究をしていたことは既に知り得ており、その目的はうちは一族の力を封じるためだと理解していた。だが、扉間本人がそのように言うのであれば認識を改めねばならないようだ。
「ガハハハ!人は見かけによらんの」
「他の者はどうなんだ。把握しているものかも知らんが」
「イタチとシスイも俺と同じだ。他はおそらく写輪眼まで。……いや」
「どうした」
「息子のサスケは右眼が永遠の万華鏡写輪眼に、左眼は……輪廻写輪眼だ」
「なんと!輪廻眼!伝説上のものではなく実在するのか!」
「まさか……ありえん。……年はいくつだ」
「今は十五歳で、開眼したのは……六つの時」
「何かの、間違いではないのか……?アレは子どもには無理だ。精神状態は問題ないか」
「長期任務でもう二年は顔を合わせていない。先程聞いた話ではナルトと共に五影の軍事会議に乱入したとか」
「それは……どうなんだ」
扉間の反応を見たフガクは、急にサスケのことが心配になった。
「すみません、フガクさん。今、ナルトって」
「ナルトは息子が六歳の頃からの親友だ。聞いている限りでは今もそうなんだろうな」
穢土転生を行った直後にナルトの話をしてやればいいものの、そのような話にはならなかった。
「あなた、あのことを話しておいた方がいいと思うのだけど」
「あのこと?」
「六道仙人の……」
「あれか……」
どう伝えるべきかとフガクは押し黙る。
「なんぞ?」
「その軍事会議に乱入した時に、サスケとナルトが六道仙人を顕現させたらしい」
「なんと!伝説上のものではなく実在するのか!」
柱間は輪廻眼の時と同じ反応をした。
「先程サスケは十五歳と言ったが、六道仙人が大人にしたらしく今何歳なのかもわからん。その後に六道仙人は消えたとか……」
「それってうちの息子もですか……?」
「ああ」
「ガハハハ!六道仙人も不思議なことをするものだ」
「もう無茶苦茶な話だな」
扉間の呆れたような台詞に、フガクは全くもってその通りだと深く頷く。
「ところで、ミナト。おまえ……九尾襲来事件の時は本当に敵の正体がわからなかったのか?」
「あの時は本当に……冷静ではなかったね。攻撃はすり抜けるし、オレの術も戦略も看破されるしで、息子を守るのでいっぱいいっぱいだったよ」
「うちはオビトだ」
「え?」
「任務中に殉死したとされていたが、そうではなかったらしい」
「信じられない……」
「ああ、無理もない。オビトは一族の中でもどちらかというと才に恵まれない子どもという扱いだった。性格も、一族にしては珍しく、よく喋る子だったな」
まさかそのような者が九尾を操るまでの力をつけて里を襲って来るとは夢にも思うまい。
「ん……そうだね。ということは、オビトがマダラの名を騙っていたという解釈で間違いないかな」
「そうだ。なぜマダラを騙っていたかまではわからん」
「ちなみに、マダラの復活についてはどこから?」
「サスケとナルトがそう言っているそうだ」
「えっ……なに?みんなそれを信じてるの?」
「すまんミナト。俺も又聞きで詳細は分かっていない。上層部や大蛇丸は信じているようだが、最悪の事態に備える感覚だろうか……」
「ん!何が起こるかわからないのが戦だからね」
「む?!マダラの復活はない……のか?」
なぜか落ち込む柱間。
「……兄者、大蛇丸も『目論んでいる』と言っていただけで断定はしていなかっただろう」
扉間は嘆息する。
「話を戻すが、サスケは六歳の頃に開眼したと言っていたな。その時の様子はどうだった」
「明らかにいつもとは違う様子で……眼について尋ねたら、悪夢を見たと言っていた」
「悪夢ではそうはならんだろう」
「俺もそう思ったさ」
「それで、どうしたんだ」
「……里の上層部の一部の者も知るところとなったが、特に何もなくそのままにされていたな」
それを聞いた扉間は、里の体制はどうなっているのかと少しだけ心配になった。
夜間は疲労も眠気も感じないエドテン火影たちが見張りをする中でうちは夫妻は仮眠をとり、翌日朝には雲隠れの里内に到着した。
ここまで来るとナルトやサスケのチャクラをしっかり感知できる。もう少しで息子に会えると胸を高鳴らせるミナトであったが、柱間の提案で気配もチャクラも潜めて忍連合軍の集まる広場の正面の建物の裏にへばりついていた。
「……せーので前に出ようぞ」
というのも、大勢の忍の前に出るタイミングをうかがうためであった。