開けた大地に、各隠れ里から集った八万にも及ぶ忍が整然と並ぶ様は壮観で、これから始まる熾烈な闘いを想起させた。
多くの視線が壇上の端に並ぶ者たちに注がれる。そこにはもう死んだと思われていた人柱力やうちは一族の姿があった。
「これより第四次忍界大戦が開戦する!その前に八尾、九尾の人柱力についてだが、戦線に出す方針となった。それともう一つ、言うまでもなく彼らの生存についてだ。彼らは部隊に属さず、各自遊軍として動いてもらう」
雷影・エーはやぐらに視線を向ける。やぐらはエーの横に立ち、忍連合軍の面々を見下ろした。
「オレは元、水影。三尾の人柱力でもある。名をやぐら。暁の手のものによる幻術に落ち、霧隠の里を血霧の里とした。術は解かれ、尾獣を抜かれ死ぬはずだったところを、そこにいる木ノ葉隠れのうずまきナルトと、うちはサスケ、それから……ここにはいないが日向ヒナタに助けられ、生き永らえた。そこにいる他の人柱力も同じだ。オレに関してはあまりにも不甲斐なく、この場に立つのも憚られるのだが……暁にはこの戦でもって借りを返すつもりでいる。咎めはその後に受けよう」
これまで各里の大きな戦力として考えられていた人柱力。尾獣を抜き取られているとはいえ、尾獣チャクラをコントロールする程の力量のある忍だ。かつてその大きすぎる力を恐れた者たちでさえ、その生存の報告を受け希望のように感じられた。それから人柱力を助けた者の存在も詳らかになり、八万の隊列の中に立つヒナタは、名を出されたがために周囲に並ぶ者からの注目を集めることとなった。
「ヒナタ様……いつの間にそのようなことを」
隣に立つネジも半分呆れたような表情をしてぽつりと言葉をこぼした。他里の忍を助け匿うということは場合によっては処罰の対象にもなり得ることだ。
「ナルトくんとサスケくんの助けになりたくって、つい……」
常ならば、日向宗家の嫡子としての自覚を持って頂きたいと説教をたれるところだが、戦時中は良くも悪くも常識が変わる。ネジは言葉を飲み込み再び前を向いた。
「オレも、名が出たついでにこの場を借りて言っておきたいことがある。名を、うちはサスケ。暁のうちはオビト、うちはマダラを輩出した一族の者として責任がある。一族は、奴らを止めるべく参戦する。この写輪眼の能力をもってして、忍連合軍の勝利に寄与することを願う」
戻ったうちは一族の中には当主の父・フガクをはじめ母、兄、それからシスイの姿はなかったが、あの頃のようにたった一人のうちは一族の末裔ではなく、今は同じ一族の者が側にいる。これから対峙するマダラとオビトが同じ一族の出ということもあり、一族の立場を明示する必要があった。
この時、フガクは建物の裏でサスケの演説を聞いていた。サスケも彼の存在には気づいていたが、出てこないのなら自ら立つしかないと言葉を述べた。
その落ち着き払った声を聞くと、もうあの頃の少年ではないことを思い知る。扉間の言っていた精神汚染はどうやら杞憂であったようだと、フガクは口元を緩めた。
あの頃は、サスケが急に参戦してきても何を考えているのか分からなかったり、今にも何かしでかすのではないかだとか勘ぐったりと、腹の底から信頼してタッグを組むことはなかったが、今は違う。サスケと手を取り合ってこの戦場を駆け抜けることができる。前よりも多くの人を助けることができるかもしれない。今の自分達なら何でもできるような気がする。まるで一族当主にでもなったかのようなサスケの言葉を聞いては、昂りはやる気持ちは抑えきれなかった。
「オレは九尾の人柱力、うずまきナルト。遊軍隊長だってばよ!たしかにオレん中の九尾が持ってかれたら無限月読が発動するわけだけどよ、オレは守られる側じゃねえ。みんなで……全忍が、協力して未来を守り抜くんだ。暁の言う無限月読ってのは確かに一部の者にとっては救いなのかもしんねぇけど、ソレやっちまったら忍の歴史はそこで終わる。オレたちの忍道もそこで終わりだ。だから負けらんねぇんだってばよ!今は里も何も関係ねぇ!オレたちは忍だ!」
ナルトの言葉は不思議と聞く者の心に響く。それが嘘偽りのない心からの言葉だからだろう。魂の叫びのようなナルトの言葉に、忍たちは雄叫びを挙げた。一緒にやってやろう。絶対に負けない、と。ミナトはこれがあの小さい赤ん坊だったナルトかと、鼻の奥がツンと熱くなるのを堪えていた。だが、ひとしきり盛り上がったところで、主に木ノ葉隠れの里の忍たちが口々に「あの二人はなんで急に歳とったんだ?」「変化か?」などと言って騒つく始末。ナルトはそりゃそうだよな。と、苦笑した。
「ここここれはだなぁ……オレにも説明がつかないトンデモ現象だってばよ」
「はいはい、次。各部隊長の紹介だ」
カカシは淡々と話を進めることにした。が、その時。
ーーーザッ
「初代火影・千手柱間、ここに推参!!皆の者、押して参ろうぞ!」
バルコニーに現れた五つの人影に、皆眼をひん剥いていた。鎮まり返る空気に柱間は首を傾げる。
「兄者……すべっておる」
フガクとミコトは歴代火影達の横になどとても並べたものではないと、うちは一族の者たちの側に移動した。うちは一族の者が、マダラの宿敵でもある忍の神の異名を持つ千手柱間を連れて参戦したことで、サスケの「オビトやマダラを止める」という言葉は一気に現実味を増す。大蛇丸という男はどこまでも計算高いと扉間の口角がわずかに上がる。
「里という括りを取り払い忍たちが一同に集うこの光景、まっこと素晴らしいの!オレは、子ども達が死なぬよう、一族という括りを取り払い里というシステムを作ったが、戦無き世は叶わず夢半ばで倒れた。……まさかこのような形で再び夢が見れようとはな。……いかんいかん。感傷に浸っている場合ではないな。よし……皆の者!この戦を必ず生き抜き先を見ようぞ」
柱間の声に続き、忍たちの声が上がった。
千手柱間は先代アシュラの転生者。今代のアシュラの転生者であるナルトと同じく、あらゆる人を惹きつける稀有な力があるらしい。要するに、天性の人誑し。
「ん?お主がサスケか」
視線を感じた柱間が後ろを振り返ったことで、考え事をしながらどうも凝視してしまっていたことに気がついた。どう返そうかと考えているうちにも柱間は距離を詰める。
すらりとした体躯に白い肌。凛々しい切長の目。すっと整った鼻筋。形の良い薄い唇に小さな顎。その顔立ちはかつての旧友を彷彿とさせるものがあったが、彼とはまた違う奇しい魅力があった。
「…………まっこと、稀に見る別嬪ぞ」
べっぴん。サスケは柱間から発せられた思いもよらぬ一言に目を丸くし、破顔した。常なら自分の容姿について何と言われようと我関せずであったが、これは笑わずにはいられない。
「ふっ……はは、アンタ……さっきの夢見がちな演説といい、オレに言うことといい、ナルトに似ている」
忍の神をサラリとアンタと呼び微笑む姿に、柱間は息をのむ。
「流石は初代火影だってばよ……」
ナルトにもサスケの笑いのツボは未だよくわかっておらず、そのような表情を見るのはいつぶりだろうか。ナルトは柱間をライバル認定した。
「あれが、サスケ……」
「年を重ねる毎に綺麗になる子なのね……」
フガクとミコトは成長したサスケの姿を見て呆然としていたが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。フガクにはうちは一族当主として指示を出す立場だ。サスケもふらりとフガクの横に並び立つ。
「各々、各部隊の戦闘サポートにあたるように。配置に付け」
フガクの号令とともに、うちは一族は事前に知らされていた部隊の側に付いた。
「俺はうちはフガク。黄ツチ隊長、よろしく頼む」
フガクとミコトは、黄ツチとその娘の黒ツチの援護を与っている。
「フガクというと……あの、兇眼のフガクか!……味方ならこれほど心強いことはない。まさか、このような日が来るとはな。それと……」
黄ツチの目線はフガクの後ろへ移った。
「後ろのは息子だ。……俺よりも遥かに強い」
「奇襲部隊の後にこの部隊が続くと聞いた。オレはこの後奇襲部隊の援護に向かう。ある程度片がついたらこちらに合流するつもりだ」
「承知した」
淡々と放たれる言葉に気圧され、黄ツチの額に汗が滲む。
「……うっわ、すっげぇ美形。強烈だな」
娘の黒ツチの放ったその一言は、張り詰めた空気を一気に緩ませた。周囲の者がサスケについて同じようなことを思っていたとしても、そのまま口に出せる者はそうはいない。
「お前は黙ってろ!」
彼女は父親にドヤされるもイタズラっぽく笑うだけだった。彼女はおそらく未来の土影。以前初めて五影会談で顔を合わせた時にも同じようなことを言われたような気がする。
ナルトの影分身と、チャクラでのリンクについて雷影が説明し終えると同時に、ナルトは印を結ぶ。
ーー多重影分身の術
百体の影分身は雷影塔のバルコニーを飛び降りて各群軍の忍たちの横に着いた。忍連合軍の総数八万に対して影分身は百となると、およそ八百対一。いっそ千の影分身を出そうとも考えたが、そうすると影分身で使える術も限られてくる。今は他の人柱力やうちは一族、再不斬と白もいる。何も自分だけが頑張らなくてもいい。
「はぁっ!!」
ナルトの姿はオレンジ色のチャクラの衣を纏ったように変化し、影分身も皆、本体と同じようにチャクラを帯び、やがてそれは忍連合軍全員を包んだ。
「……っよし!」
皆を包んでいたオレンジ色のチャクラは消えたが、消えてなくなったわけではなく小さくなっただけだ。
「ナルト……こんなことまで」
ミナトは思わず感嘆する。忍連合軍の数は数百人でもなく、数は八万だ。一人一人のチャクラに合わせて九尾のチャクラを入れ込むのは相当の技量がいる。
「チャクラ量はオレと張るの。……いや、それ以上やもしれん」
「九喇嘛が力貸してくれるからだってばよ」
「九喇嘛とは、なんぞ?」
「九尾の名前だ。あいつらも人と同じでちゃんと名前もあるし意志もある」
柱間はこれまで九尾については「厄災」や「戦争の火種」などと、負のものとして認識していた。ましてや人格のあるものとしてなど考えたこともなく、ナルトには驚かされてばかりだ。
「我愛羅!みんな!オレたちでやってやるってばよ!」
「ああ。……だが、あまり無茶はするな」
人柱力は皆、尾獣から先の戦いについて一通り話を聞いており、ナルトが死にかけたことも知っている。
「さて……オレたちも、そろそろ配置に付くとしよう。散!」
やぐらの声に皆は頷き、姿を消した。
微動だにしなかったサスケが不意に口を開いた。
「父さん、母さん、また後で」
ーー口寄せの術
指を噛んで大鷲を口寄せすると同時に飛翔し、周囲の者はその風圧に驚き空を仰ぎ見る。
「サスケェ!」
その大きな声で名を呼ばれるだけで自然と頬が緩む。オレンジ色のチャクラの衣を纏ったナルトが空から降ってきて、当たり前のようにサスケの口寄せした大鷲に着地する。二人を乗せた大鷲は大きく羽ばたき瞬く間に西の空へ向かって消えた。
「……顔の変わり方露骨過ぎねぇ?」
またしても黒ツチの余計な一言に黄ツチが顔を顰める。
フガクもその様を見てナルトとサスケの仲は相変わらずらしいと大きなため息をつく。
「フガク殿、どうされた?」
「いや……親として受け入れようと、腹を括っただけだ」
六歳のころから多くの時間を共に過ごしていた二人。この第四次忍界大戦では何故か影の横に並び立ち、八万の忍を率いる側になっていた。長い間離れていたため何があったかは知れないが、変わらないことだけは確かだ。これから先もそれは変わらないのだろうと、フガクは二人の消えた方角を見て思いを馳せた。
私がサスケ推しなのはおわかりかと思いますが、うちのおっサスはアニスケェのイメージです。神がかってカッケー岸スケェもいいけど、聖母のように微笑むアニスケェがいい。