結成、第零班
五代目火影に就任した自来也を始めとする里の上層部が一室に集い、ルーキーの班編成について異例の会議が開かれていた。
通念、アカデミーの卒業生の班編成は毎年担当者により身体能力と成績を考慮し均等となるように組まれており、そこに火影は関与することはなく最終的な確認と承認をするのみであったはずだ。
「イルカ、二人の様子はどうだ」
参考人として呼び出された海野イルカは、その錚々たる面々を前に気後れした面持ちで立っていた。このような会議が開かれる理由は明白で、「二人」という曖昧な言葉であってもそれが具体的に誰を指し示すものかは明白だ。
「あの二人の力は逸脱しています。アカデミーの授業の中ではその力量も測れていません。……正直なところ、スリーマンセルなど組める気がしないのですが」
組手の時間はナルトとサスケがほぼ教員のような立場になっていることさえあった。その後の助言も的確で、クラス全員の力の底上げにも一役買っている。
「そうだろうのぉ……」
自来也は腕を組んで唸る。
「いっそ、火影直属の暗部として選抜するのはどうだ」
「暗部の選抜は、中忍以降だとワシの代で決定したはず。特例はない」
水戸門ホムラが提案するも、ヒルゼンは却下した。いくら能力が高くとも、下忍としてスリーマンセルでチームワークを学ぶことができなければ後々支障が出るだろう。
「イルカや、二人は他の生徒とも仲良くしていますか?」
そう問うたのはうたたねコハル。突出した能力のため、クラスで孤立しているのではないかと危惧していた。
「それが、不思議と仲良くできています。ナルトとサスケは互いに友達だと言いますし、日向ヒナタも彼らとよく一緒にいます。アカデミーの一年目の頃からずっとです」
「ふむ……日向ヒナタ。宗家の嫡子か。……流石というべきか、くノ一の中では群を抜いている」
自来也は生徒たちの成績データから、日向ヒナタと書かれたものに目を通した。
「はい。ヒナタはナルトとサスケから強い影響を受けているようです。普段の性格は大人しく、けして忍に向いているとは言えませんが……」
「もう答えは見えているじゃない。その三人で班を編成したらいいわ。それから監督上忍には、上忍の中でも最も優秀な者を付けるべきね」
「お前もマトモなことを言うようになったのぉ」
「失礼ね。その言葉、そのままアンタにお返しするわ」
それから数日後、アカデミーで卒業式が執り行われた。今日、生徒たちは両親と一緒に登校し、アカデミーの広場へと向かう。その通路の脇にあるブランコに乗って、ナルトはその光景を眺めていた。この状況は今も昔も変わらない。
サスケも両親と共に登校しているのが見えた。前とは違う幸せ。今日という特別な日に、その尊さを噛み締める。いつもは表情の変化が乏しい彼も自然な笑みを浮かべていた。
視線に気づいたのかサスケと目が合うと、すぐに駆け寄ってきた。フガクとミコトもナルトに向けて手を振っている。
「ナルト、行くぞ」
サスケは照れくさそうに目を背けながらナルトに向けて手を差し出した。
「ああ」
ナルトはその手を取ると、勢いよくブランコから飛び降りた。
ヒアシと共に登校してきたヒナタもナルトとサスケに気がつき、小さく手を振る。
ナルトはヒナタが今日はやけにスッキリしていることに気がついた。いつものもっさりした服装ではない。
「その服、似合ってんな」
「ほんと?ありがとう。下忍になる日だから新調してきたの」
「そっかー。オレってば何も考えてなかったってばよ。あ、ヒナタの父ちゃんおはようございます!」
「ああ、おはよう」
サスケの両親も小さく会釈した。
「……フガク、アカデミーでは娘が世話になったな」
「子どもたち同士の関係だ。そう畏まるなよ」
「この年頃の娘はくノ一同士でつるむものとばかり思っていたが、数年間娘の話を聞いていてもナルトくんとそちらのサスケくんの名しか出てこなくてな。親として少々心配もあったが、娘は二人に近づきたい一心で、逞しく育ってくれた。……おとなしい気質は変わらないがな。だから感謝している。よければ今日の夕飯は我が家でどうかね?」
「まあ。せっかくだからサスケ、ナルトくんと行ってきたらどう?」
「……なら、夕方ナルトとお邪魔します」
「ああ、歓迎しよう」
ヒナタも嬉しそうに目を細めた。
その日は晴天の下、卒業式が執り行われた。卒業式が終わると生徒だけが教室に残り、大人はそれぞれ帰宅した。これから生徒だけに下忍の班編成が発表される。卒業生全員が息を飲んでイルカの声を待った。
「第零班、うずまきナルト、うちはサスケ、日向ヒナタ」
ナルトたちの班編成は初めに発表され、ヒナタはナルトやサスケと同じ班になれたことを喜んだ。
イルカがすべての班編成を読み上げると、午後まで自由時間となった。時間になったら担当上忍が教室まで迎えに来るということだ。イルカが教室を出ると、三人の座る机の周りに生徒たちが集まった。
「ナルトとサスケが同じ班かよー!」
「零班強すぎだろ!」
「ヒナタ、サスケくんと同じ班とか羨ましい!」
第零班はアカデミー生でもわかる程のチート班だった。
サスケはサクラと目が合い目をそらしたが、彼女は何か決意したようでヒナタに声をかけた。サスケはオレじゃないのかと、肩透かしをくらった気分だ。サクラはヒナタの腕を引っ張って、人気のない裏庭にやってきた。
「ヒナタ、これなんだけど、サスケくんに渡してくれない?」
「え……?」
それは透かし模様の入った真っ白な封筒。丁寧に蝋で封がされ、桜の小枝が添えてあった。
「イタチ先生宛てなの……」
サクラの顔は真っ赤になっている。
「うん、わかった」
「ありがとうヒナタ!……ぜんぜん仲良くしてなかったから、断られるかと思ってた……」
「恋する気持ちはわかるもの」
「ヒナタは告白、しないの?」
「同じ班になったから……。気まずくなるのは避けたくて」
「そうね……。私だって、卒業するのに今さらこんな事しちゃって。顔を合わせなくて良いから、やっと行動できたのよ。ヒナタも頑張ってね!ライバルが少ない今のうちに落とすのよ!」
「う、うん」
ヒナタは受け取った封筒を汚さないように、そっとポーチにしまった。
零班の担当上忍は、なかなか教室に姿を現さない。何も知らないヒナタは不安げだが、ナルトとサスケはこの時点で誰が来るかは予想できていた。
「ほ、本当に来るのかな……?」
他の班の担当上忍はもう迎えに来ており、教室にはもうナルト、サスケ、ヒナタの三名しか残っていない。
ヒナタは腰に付けているポーチを見た。本当は帰宅する際に渡そうと考えていたが、今は暇をもて余している。
「サスケくん」
「なんだ?」
「手紙を預かったの。イタチ先生宛てだって。渡して欲しいって頼まれたんだけど……」
「兄さんに?」
受け取った封筒には「イタチ先生へ」と丁寧な字で書かれている。その筆跡には見覚えがあった。
「……サクラか」
ナルトの手前あえてサクラの名を出さなかったというのに、すぐにバレてしまいサクラに対して申し訳なく、ヒナタは困ったように眉を寄せる。
「サクラちゃん、サスケんことが好きじゃねーの?!」
ナルトの鈍感具合は相変わらずで、サスケは小さく溜息をつく。アカデミーでもサクラとは意図的に接点を持たなかったというのに、どうしたら恋愛に発展するというのか。
「ううん。サクラちゃんはずっとイタチ先生のことが好きだよ。だから国語と歴史のテストはいつも満点。宿題も完璧にしてた。やっぱり……男の子ってそういうことに疎いんだね」
「知らなかったってばよ……」
「あ、このことは、サクラちゃんのために秘密だから」
「……今ちょうど休憩時間、だな。兄さんに渡してくる」
今回のサクラの恋の相手は、兄のイタチ。兄であれば安心して任せることができると思った。やはり元妻は賢い女だ。
「兄さんっ」
「どうした?」
職員室を訪ねてくるのも、肩で息をするほど急いで来るのも珍しい。イタチは席を立った。
「これ、サクラから兄さんに。預かったんだ」
それがラブレターであることは、恋愛に疎いイタチにもわかった。
「……女の子らしいね。わかった。目を通しておく。……サスケ?」
まだ用があるのだろうか。サスケは黙ったままイタチの前を動かない。
「サクラは、一般家庭の出だが頭も良いしチャクラコントロールも抜群で、忍の才能がある。あと、好きになった奴には一途だ。国語と歴史の授業に命かけていたくらい。……しつこいと思うぞ。根性もある」
「え?」
「オレは、お似合いだと思う」
イタチはそれだけ言って去っていく弟の後ろ姿を見ていた。
(サスケ、もしかしてこの子のこと……)
サスケが特定のくノ一のことを話題にすることなど今までになかったことで、イタチは盛大に勘違いをしていた。
サスケが教室に戻ってしばらくすると、ようやく担当上忍が姿を現した。
「おっそーい!!ってばよ!」
「ごめーんね。怪しいヤツをみかけちゃって」
「ぜってーウソだってばよ!」
「ナ、ナルトくん先生も謝ってるから……」
ヒナタは椅子の上に立ち上がっているナルトの服を引っ張りながらそう言った。
「女の子は優しいね~。ナルトとサスケは俺のこと知ってるだろうけど、ヒナタは知らないよねー。俺ははたけカカシ。よろしくね」
「よろしくお願いします!わたしは日向ヒナタといいます」
「素直なくノ一で良かった良かった。おじさん安心しちゃったよー。じゃ、場所を変えようか」
四人はアカデミーの校舎の中でも見晴らしの良い踊り場に向かった。
「イルカ先生から聞いたけど、おまえらって仲良いんだな。お互いの事はだいたい知ってるだろうから、先生におまえらの事教えてくれ。例えば好きなもの、嫌いなもの、将来の夢とか。誰からでもいいぞ~」
「じゃあオレから言うってばよ!好きなものは一楽のラーメンとおしるこ。嫌いなものは野菜!んでもって、将来の夢は火影になること!」
「火影ねえ。もしかしたらなれるかもな」
「……オレの好きなものはおかかおむすびとトマト。嫌いなものは納豆と甘いもの。将来の夢は火影になったナルトを影で支えられる忍になること」
「……ナルトのことが好きなんだね」
「わたしの好きなものは、シナモンロールとぜんざい。嫌いなものはカニとエビ。将来の夢は、ナルトくんとサスケくんの隣に並んでもおかしくないくノ一になることです」
「零班はナルト教のナルト信者だな」
「「そうです」」
サスケもヒナタも真顔だ。
「……おまえらの第一印象だけど。……なにこいつら面白い、だ。とっても好印象」
カカシはにっこり笑った。口元は黒い布に隠れて見えないが。
「ま、今日はこんなところかな。明日は八時に第八演習場ね。朝食は抜いてこいよー。吐くぞ」
最後はドスを効かせて言ったつもりだったが、ビクッとなったのはヒナタだけだった。