追放されたので隣国乗っ取って取り返しに行く系王女   作:サイリウム(夕宙リウム)

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13:訓練ですわ!

 

 

「というわけで50人集めましたわ~! ふふん、冴えない顔ばっかりですけど人数いれば十分ですわね! これからうんと稼がせてやりますわよ~!!!」

 

「あ、あんのぉアデ様? さ、冴えないってのはちょっとオラ……」

 

「そこ煩い! シャラップっ!!!」

 

「す、すみませんだ……」

 

 

というわけであれから17日後、国外脱出からちょうど一カ月で目標の50名を集め終わりました。

 

様々な村から集まった男女混合の50名、全員が金で売られた可哀想な子達です。もうどこにも逃げられませんし、帰る場所もございません。日々の糧を得るにはワタクシの言うことを聞く以外の選択肢はなく、反抗しようにも全員一度ぶん殴ってるので力関係は把握済み。とっても“従順”になるまで暴力を振るい続けました。

 

んふー! これが一番手っ取り早いんですわ~!!!

 

 

「……やっぱこの人鬼か悪魔じゃ?」

 

「ジェーン煩い! ……んん! 話を戻しますわよ!」

 

 

そんなようやく“傭兵団”としての形が出来たワタクシたちですが、その中身はお粗末です。

 

確かに武器や防具は“拾った”ものがあるので見た目だけは様に成るよう整えることが出来るでしょうが、練度はクソ。なにせつい先日まで村で畑を耕していた方々ですもの。武器なんて握ったこともないでしょう。しかも『村から売りに出された』ってことは『村では必要なかった』ということに他なりません。基本的な能力は低めでしょうし、生まれ故郷から売りに出されたという事実が精神的なデバフに成り得ます。

 

ま、そんな状況で戦場に出せば秒で死ぬ未来しかありません。超不味いですわ!

 

 

(人を率いる器を示すなら、全員生存が基本ですわよ!)

 

 

というかワタクシの配下になったからには老衰で死ぬまで扱き使ってやって、死んでも地獄で扱き使ってやるのです。五体満足でお家に帰す必要がありますし、何不自由ない上に豪遊できる程度には稼がせてやらねばなりません。それが王としての責務、というよりワタクシの矜持ですわ!

 

……いやまぁ彼らの家こと故郷の村にもう帰る場所はありませんし、そこから身柄を買ってそのような立場に落したのもワタクシですし、彼らが帰るお家はワタクシの“手”の中以外存在しないような状況にするつもりなので酷いマッチポンプみたいなものなのですが……。

 

と、とりあえずコレは放置! 今はやることはただ一つ!

 

 

「訓練ですわ! 今日からデスマーチ! 死なないために、死んだ方がマシな地獄を体験させますわ!」

 

「……矛盾してないですかソレ? あとやっぱ悪魔じゃん。いや魔王? こわ。」

 

「その首引っこ抜きますわよジェーン!」

 

「死ぬが???」

 

 

戦場で死ぬぐらいなら先に地獄を見せてでも生存率を上げる! それが訓練! これ鉄則ですわよ!

 

というか母国の近衛とか、ワタクシの直轄兵とかもこれで育成してるのでモーマンタイですわ! 実績あり! 死亡者なし! 安心安全のアデ様印ですわよ! あとワタクシも5回くらいやってるのでお墨付きですわ!

 

ほら皆も片手で鉄板ブチ抜いてみたいでしょう?

 

というわけで実演して差し上げましょう! これが訓練の成果! 取り出したるは鉄板代わりに良い感じの鉄鎧! そんな戦場で拾ってきた奴をぴょいと上に投げた後、全力で拳をストレート! すると轟音と共に弾け飛ぶ鉄の破片!  残るのは天高くそびえたつ我が拳のみ!

 

ほら、簡単でしょう?

 

……力籠めすぎて弾け飛んじゃった。どうしよ。

 

 

「は???」「こわいだ。」 「え、私達死ぬの?」

「おかあさぁん!」「逃げたい……」「人間?」

 

「……全員から恐怖と困惑の視線向けられてますが?」

 

「よし! もう一回ジェーンでやってみましょう!!!」

 

「本当に殺されるの私!?!?」

 

 

あぁもう煩いですわね! シャラップ!

 

騒ぐだけならもう始めていきますわよ! ということで訓練の準備としてお着替えです!

 

配布するのは鉄の鎧! これで全身をいい感じに守りますわよ! ついでに補強した鉄盾もプレゼント! 武器は槍を持たせて出来上がるのはいっぱしの兵士さん! 戦場でもコレで行きますから配られたのは大事にするんですのよ! 解ったらほら整列整列! 逃げた奴は銃殺刑、ふらついた奴はお尻ぺんぺんですわ! ほらハリー!!!

 

 

「あ、着方覚えるまで手伝ってあげますわ。ほらジェーンも。」

 

「落差……ッ!」

 

 

そうやって急かしてみれば、超特急で動き出す彼ら。ちょっとおろおろしてますが、手を貸してあげながら整えていきます。ま! 元の持ち主から“譲り受け”、このワタクシが綺麗に磨いた鎧たちなのです。いざという時身を護るものなのですから、大切にするのですわよ!

 

……しかしまぁ全く鍛えていない元村人たちです。完全におべべに着られているというか、鉄鎧が重すぎて真面に動けてないですわね。しかも槍も盾も持たせているわけですから歩くことすらままならないかも。まぁ人間死ぬ気に成れば何でもできるので大丈夫かと思いますが、先が思いやられますわねぇ。

 

 

「よし! じゃあ初めは“走る”訓練ですわ! その装備で死ぬまで走ること! 死にそうになったら助けてやりますが、足を止めた奴は後ろから火だるまにしますわ! どんな速度でもいいからとにかく前に進むんですのよ~!!!」

 

「「「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!!」」」

 

 

そんなわけで早速訓練開始。

 

片手で魔法を起動し、大き目の火をつけ目の前に投げてみれば、一目散に逃げだす彼ら。ちょっと面白いのでもうちょっと虐めたくなりますが、一定の速度で、そして集団で移動するように声を張り上げていきます。

 

ま、基礎体力の向上ってやつですわね。

 

ワタクシのように数百人相手に立ち回れる存在がいるのがこの“異世界”ですが、耐久度はそこまで高くはありません。ワタクシでも四方八方から銃弾を受ければ死にますし、どんな魔法が使える貴族でも農兵が腹に槍を叩き込めば死にます。回復持ちなら時間がかかりますが、大体3本くらい槍を突き刺せば人は死ぬのです。ジャイアントキリングがいつでも狙える世界、ってやつですわね。

 

ですがまぁそれを狙うにも“最低限”ってものがありまして……。

 

どれだけ必殺が狙えるとしても、相手の懐に辿り着かなければその前に死にます。敵の攻撃を避けるために前へと走り、懐に入るためにさらに走る。どこまで行っても必要なのは“体力”であり、死の間際で自身を救ってくれるのも“体力”です。

 

 

(結局頼りになるのはソレですからねぇ。逃げるのにも使えますし。)

 

 

というわけで大体合わせて30㎏ぐらいかしら?

 

鉄の全身鎧、元が“拾ってきた”装備品なので全身に鉄の板を張り付けているレベルの鎧を着せて、ただのランニングです。今日は倒れるまでずっと走って頂きます。本音を言えば鉄の盾、『降り注ぐ矢の雨から身を護る』防具を上に掲げながら走って欲しかったのですが、初日からそれを求めるのは酷と言うものでしょう。

 

……故郷の近衛には最初からソレ要求しましたけど。

 

ま! ワタクシも小さいころやりこんだ鍛練なので効果は証明済み! 解ったらとっとと走るんですのよ~!!!

 

 

「ひぃぃぃ!!!」

「お、おもぃぃ……!」

「兵士さんってこんな辛いの!?」

「あ、あのジェーン様。これ、いつまで……?」

 

「主人が良しと言うまでですね。……覚悟だけはしておいた方がいいですよ。」

 

「あらジェーン! 暇そうですわね! じゃあ貴女は特別メニューですわ! 装備は勘弁してやりますが、ワタクシが“本気”で攻撃しながら追いかけるので皆様と一緒に走りなさいっ! というわけで死ぬが良い!!!!!」

 

「は!? ちょッ!?!?!?!?!?」

 

 

どうせお前も戦場に連れていくのです。だったら鍛えねばなりませんし、そろそろ彼女の“本気”も知っておきたいところ。確かに放置していてもなんやかんやで生き残りそうですが、貴女ワタクシのメイドでしょう? 新入りの兵たちに嘗められるわけにはいかないでしょうし、周囲に強さを示さなければなりません。ワタクシはもう格付けが終わってますが、貴女はまだでしょう?

 

というわけで……、鉄拳ッ!!!

 

そう叫びながら殴りかかってみれば、最低限の動きだけで回避する彼女。しかも軽く手を添えてその軌道とワタクシの重心をずらそうと足掻いてきます。

 

しかしながらこちらもそれぐらい想定済み。即座に踏み込みより距離を詰めながら、重心のズレを無効化。更なるインファイトに持ち込みます。そのゴング代わりに頭蓋を彼女の脳天に叩き込もうとしますが……、迎撃して来るジェーンのお手々。

 

体に染みついた反射というものなのでしょう。思わずといった形で懐からナイフを取り出し、狙うのは我が動脈。両手に握られたナイフ、その左を“解りやすい”首の方へと向けながら、こちらの死角に右のナイフを忍ばせ、此方のふとももへと動かしていきます。

 

このままいけば両方とも突き刺さるといったところで……。全身を回転。その“切っ先”が肌に突き刺さるよりも早く、流します。

 

 

「ッ!?」

 

「甘い!!!」

 

 

確殺のつもりで力を込めていたのでしょう、流れたナイフに体が吸い込まれ、大きな隙を生んでしまう彼女。

 

その隙を逃さずナイフに両の拳を叩き込み、粉砕。壊れたソレから手を離し一歩下がろうとするジェーンに向けて叩き込むのは、更なる追撃。まだ“お遊び”の部類ですのでほんの少しだけ“添える”だけ。腹部に手を当て、押し込みます。

 

 

「おごッ!?」

 

 

体を水袋と捉え、揺らす。最初の町でチンピラ冒険者にも見せたあのワザですわ!

 

これ頑張ればフルプレートの鎧持ちな相手にも通用するのでジェーンも体で覚えるんですのよ!

 

 

「と言うわけでここから連打ですわ~!」

 

「しぬぅ! しぬぅ! タ、タシュケテ!!!」

 

「そう言いながら捌けてるじゃない! もっとギア上げても良さそうねぇ!!!」

 

「ムリ! ムリ! アッッッッ、シヌ!?!?!?」

 

 

ふふ! ここまで出来るんでしたら国でもスパーリングの相手にしておくべきでしたわね!!!

 

 

「め、目で追ぇねぇだ。」「多分あれ、手のひらで拳逸らしてるぞ」「そうなの?」

「走りながらアレ出来るの人間じゃないだ」「やばいとこ来ちゃった」「帰りたい……」

 

「あ、もしかして皆様余裕ある感じ? じゃあジェーンと同じことやりましょうか!!!」

 

「「「 走ります!!!」」」

 

 

よろしい! 言う事ちゃんと聞く子は大好きですわ! 今日の晩御飯3倍にしてあげましょう! たらふく鍛えてたらふく食って死ぬほど寝るんですのよ~!

 

 

(……さて、どこまで行けるでしょうねぇ。)

 

 

練兵中の彼らに声をかけ、ジェーンに拳を叩き込みながら思案を巡らせます。

 

兵たちを集め南へと移動するさなか。何度か大きな町に立ち寄り武器を売り、情報と食料を買ってまいりました。そこで得たものや相場の値段から考えられるのが、『目標の戦はそろそろ』という事実です。

 

先日考えていたように、介入する戦は“ドンエーニュ王国VSセヌリア王国”というもの。兵力差で確実に負けるであろうドンエーニュに参加し、敵を蹴散らすというものです。本来であればワタクシ以外の兵たちも“矛”と成るよう準備を整えていたのですが……、おそらく開戦まであとひと月もないでしょう。

 

 

(多分ですが、事前に準備してましたわね。)

 

 

この世界における“フランス”ことセヌリア王国ですが、現王はワタクシ同様対外戦争を躊躇しない性格であり、領土欲に溢れた人物です。伝え聞くウワサ程度なためどこまで信用できるか解りませんが、少なくとも人の死を数字として処理できる胆力を持ち、策を練る頭を持つのでしょう。そうでなければこの“移動に時間がかかる”世界において1月で攻め込めるわけがありません。

 

まだ街道などが発達しておらず、人の生活圏の外には魔物がいる。そんな状況で攻め入る準備を整えていたということは……。

 

 

(可能な限り領土を刈り取るつもり。)

 

 

その攻撃は苛烈なものになるでしょう。“フランス”も各地に国境線を抱え、その領土欲を周辺国に知られているが故に敵も多い。よって“全力”を出すことは出来ないでしょうが、それなりの兵力を送ってくるはずです。そんな危険地帯に飛び込むわけですから、ワタクシが命を預かる兵たちには出来る限りのことを為さねばなりません。

 

今回の訓練、開戦ギリギリまで叩き込むのは『身を護る』ことのみ。

 

既に“何故か”出来上がってるジェーンは別メニューですが、その他はただひたすらに死なない教育を施していきます。走りながら体力をつけた後は、盾と槍でどうやって生き残るかを教えるつもり。……しかしながら戦に間に合わせるため国境線へと移動しながらになりますし、たった一月で出来ることなど限られています。

 

 

(故郷の練兵でも1からの場合は半年ぐらいかけますからねぇ。)

 

 

教える範囲を限ったとしても、間に合うものではないでしょう。死の恐怖をちらつかせながら効率を上げ、同時にジェーンをもっとひどい目に遭わせることで“アレよりマシだ”という精神的な余裕を生み出してはいますが、流石に6倍の効率は生み出せません。守ることに限ったとしても、何処まで仕上がるか……。

 

ま、やってみないことには解りません。時間が許す限りワタクシの出来ることをしていくとしましょう。

 

 

……え? ジェーンの扱いが酷いって?

 

 

いやでもこの子ワタクシの直臣ですし。地獄まで付いて行くって豪語してくれたから……、ねぇ?

 

 

「うんうん! やっぱ思った以上に出来ますわね! 今度は魔力アリで行きましょう! 全力パンチですわ~~~!!!!!」

 

「ホ、ホワァァァァァァ!?!?!?!?!?」

 

 

あら、奇声しか上げなくなっちゃった。

 

 






〇可哀想なジェーン

影、ことアデライード様の母国であるエンラード王国の暗部所属。

現女王から継承権第一位の長女ことアデ様の“側付き”へ推薦されるほどに能力が高く、同時に王族への忠誠心も高い。本人の気質がアデ様と合うことや、クーデターされる前のアレコレからその忠義は決して揺らぐものではない。必要ならば主人の為に身を投げ打つぐらいは平気でする。

……が、護衛より本人が圧倒的に強いせいで護衛が要らないし、身を投げ打つ前に主人が拳で破壊するし、しかも国外脱出してからの主人のハジケぶりが本当にヤバくて正直逃げたいのは確か。たまに出る奇声は素。

本人が言うように伯爵家の四女であること、魔力の保有量が少ないのは事実。

しかしながら常人の範疇で限界ギリギリまで鍛え上げた肉体と、“ピンポイントでの魔力強化”を持つため戦闘力は高い。攻撃が敵に当たるインパクト時にのみに全身の出力を魔力で上げることが出来るため、破壊力が違うのだ。鉄板ぐらいならギリ貫ける。……まぁアデ様の単純な筋力に劣るが。

戦闘スキルにも富んでおり、ナイフなどを使った近接~中距離では王族の護衛として申し分ない強さを持つ。1対多は苦手のようだが、1対1ではそう負けることはない。まぁそれも人間の範疇であるため、人を超えた何かであるアデライードには劣る。というかアデ様が単純な出力にかまけず変な戦闘スキルまで持っているのがおかしい。

この後アデ様にボロ雑巾のようにされる日々が続くようだが、彼女は耐えられるのだろうか。

ま、まぁ圧倒的強者に揉まれて戦闘力は上がるから……(震え)





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