追放されたので隣国乗っ取って取り返しに行く系王女   作:サイリウム(夕宙リウム)

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15:殲滅ですわ!

 

「と言うわけで人間固定砲台ですわ~~~!!!!!!」

 

 

そう叫びながら起動するのは、ワタクシの魔法。

 

誰でも使えるがゆえに、魔法使いたちが真っ先に覚える『身体強化』。心の臓から湧き上がる魔力を全身に行き渡らせることで、その出力を大幅に上げる術理。魔力を何かに変換する必要もなく、ただ魔力を広げれば良い。その取得難易度は非常に低いとされています。

 

けれどそれは、“常人”の話。

 

幾ら魔法や魔物と言う前世存在しなかったモノがあったとしても、この世界の文明は14世紀レベルでしかありません。現代日本では一般的とされる知識すらも、この世界では未知のもの。それを知るワタクシが利用しないわけがありませんでした。

 

 

(心臓から湧き出るのであれば、血管を支えに巡らせればいい。)

 

 

血液循環の発見は17世紀。1628年のウィリアム・ハーヴェイを待たなければなりません。

 

しかし私の中には、彼より進んだ21世紀の知識がある。心臓の構造、そしてその血液が全身へと周り戻って来る一つの“環”を構築しているということ。この関係性を理解したわたくしは、心拍に合わせ魔力を流せば、より簡単に。そしてより強力に効果を及ぼせるという事実に行きつきました。

 

 

(この瞬間、この身は頂点への切符を手に入れた。)

 

 

毛細血管の一本一本、その細部まで魔力を流し、心臓へと戻していく。

 

その強化率は、他の凡人の数十倍。通常の魔法使いが強化できない細部まで高め、向上し、凌駕する。この分野に関する魔力操作で自身を上回るものはいないと豪語できるまでの試行錯誤。その結果がワタクシの魔力強化です。この時代に於いて正確な身体構造を理解するのは“私”だけ。知識と力が結集した答えでした。

 

……けれどコレで終われるワケがありません。生まれつき常人よりも強靭な肉体をより強化し、それを慣らし、向上させていく。魔力強化無しで強化時と同じ出力を出せるように成れば、更なる高みを目指す。この繰り返し。

 

理を得た瞬間から始めたその作業は、前世の自身。そして今世の自身から見ても。

 

“異様”と呼べるほどの力を与えてくれたのです。

 

 

 

そして今。

 

ソレを。

 

全力で回す。

 

 

 

 

「いつ見ても化け物以外の何物でもないでしょ。……はいアデ様。」

 

「えぇ、ありがとう。」

 

 

そう答えながら受け取るのは、単なる鉄の槍。

 

先端の穂を金属で作り、柄を木であつらえた何処にでもある様な存在。それを受け取りながら、肉体から流れる魔力、血管一本一本に流れるソレを、より伸ばしていきます。本来ならば、秒も必要としない作業。けれど気を高め精神を落ち着かせるために、より洗練させていく。

 

木目の絶たれた細かな管に魔力が宿って行き、切り出される前の瑞々しい色が柄に戻って来る。それと同時に穂先の鉄も光を帯び始め、強く生じるのは熱。これだけでも、破裂すれば十数人を吹き飛ばせる劇薬。

 

けれどたったそれだけが戦の幕開けを飾るのは物足りません。

 

 

「“Ignicioun”」

 

 

母国の言葉で、“火”を灯す。

 

普段ならばノーモーション。言葉すら必要とないものを、敢えて口にする。それにより生じるのは、強化。簡易に済ませるものを正確に行うことで生じる熱の向上。魔力を宿さぬ鉄なら焼け落ちるほどの業火。

 

それを許容限界まで、籠め続ける。

 

 

「こんなもの、ですかね。」

 

 

それでは、始めていきましょう。

 

何の罪もない民、ただ敵国に生まれてしまっただけの彼らに思う所が無いとは言えません。

 

しかしながらここは戦場。

 

要らぬ感傷はしまっておき、数の合理と暴力が支配する世界。

 

精神を切り替え、ギアを引き上げ、ただ笑う。

 

 

 

……よしッ! 行きますわよッ!

 

即席ッ!

 

 

 

 

 

「グングニルッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

瞬間、ワタクシの手から放たれるソレ。

 

極大の光と共に飛び立った槍芯は光となり、直後数キロ離れた敵陣地へと突き刺さる。

 

そして巻き起こるのは、爆発。

 

核の炎と見違えるほどに周囲を吹き飛ばすそれは、着弾付近にいた数百人を丸ごとこの世から消し飛ばしてしまう。大地は一部結晶化し、まるでそこだけが世界から切り取られたかのような光景。けれど彼らは痛みすら感じずに消えたのだ。それがどれだけ幸せかは、後に続く響き渡る絶叫が教えてくれる。

 

光から逃れられたものでも“熱”からは逃げられない、体を守るはずの鎧が溶け、その身を焼き焦がしていく。そしてその異常は恐怖として周囲に伝わり、20000の軍勢に揺らぎが生じ始める。

 

これを逃すほど、“私”は優しくはない。

 

 

「次弾。」

 

「ほいさ。」

 

 

自身のメイドが戦場に似合わぬ声で手渡してくるそれを受け取り、即座に投射。さらに敵を消し飛ばしていく。

 

そもそもこの“砲弾”に堅苦しい魔術は一切使用していない。ただ魔力強化を施し、ただ点火する。注ぎ込む魔力量が少々多い事、そしてこの身の膂力に頼った単なる投擲であること以外は何の変哲もない攻撃。つまり燃費は、悪くない。

 

やろうと思えばあと100は撃てるだろう。一撃で200人を同時に消し飛ばせることが出来れば、一人で殲滅できる計算。しかしながら相手がただ突っ立っているだけで終わることはないだろう。3発目を投擲し終えたあたりから、組織的な動きが見えてきた。……しかしまだ、刈り取れる。

 

相手が対策を講じるよりも早く投射し、この防壁に辿り着くまで可能な限り削り続ける。数にして50撃てれば良い方だろう。けれどその程度であれば十二分に魔力は残るし、体力の消耗も実質0。

 

何の問題もない。

 

 

「は、はぇぇぇぇ。おっかねぇぇぇ。」

 

「あ、そうそうベルカちゃんでしたっけ。ウチの主人に付いて行くなら覚悟した方がいいですよ。色々ヤバいんで。あ、あと追加で槍どんどん持って来てください。ウチの馬車の所にまだあるんで。それと他の人たちにも“用意”を。」

 

「わ、わかりましただ!」

 

「……んで? アデ様。」

 

 

あら、どうしましたジェーン。わざわざベルカちゃんを離して。何か特別なお話でも?

 

追加で8本目の槍を投擲しながら彼女に問いかけます。

 

確かにある程度用意していたのは確かですが、20程度。相手の出現が急だったということもあり、適当につかんできた槍を投げている状態です。故に追加の槍は欲しい所。それに敵さんからすれば正体不明の魔法攻撃なのです。その破壊力が故に防壁付近では使えないと判断し、突撃の号令を飛ばすことでしょう。

 

相手が防壁に辿り着いた後は厄介な防衛戦が始まるので“用意”の指示は間違っていないのですが……。

 

 

「いやメッチャ周りから引かれてますよ? 敵が消えていく歓喜よりも先に恐怖が来てます。あと私も怖い。逃げていい?」

 

「だめ。あと次。」

 

「ほいさ。……う~ん、このしょうもない話の間に敵さんがどんどん消えていくの色々バグってるなぁ。」

 

 

そんな言葉を聞きながら9本目を投射。横目で周囲にいる他のお味方へと視線を向けてみますが……。

 

何が起きているのかマジで解らんって顔してる人ばっかりですわね。うん。起きてることを脳が処理できなくてバグってるけど、視界に映る大半の人の足が震えてるから根源的な恐怖を感じちゃってる、ってやつでしょうか。

 

あ、目が合った人尻持ち搗いてる。おもしろ。

 

 

「んでどうします? 恐怖で支配するならこのままでいいんでしょうけど、英雄からの仕官的な感じで行くなら方向転換いる奴ですよ? 今はもう単なる魔王です。死ぬほど怖い。このままじゃ勝っても討伐隊組まれる奴。」

 

「あらそう? んじゃいい感じにお願いしますわ。」

 

「……私がするの? こ、こういうの苦手なんですけど……。」

 

 

そういうと、私に残りの槍の束を投げ渡しながら、何故か喉を押さえ始めるジェーン。そして急いで追加の弾頭を運んできたベルカちゃん、そしてその後ろに続いていたウチの兵たちに手信号で何かしらの指示を飛ばしています。

 

……ウチの部隊というか、国で使われてる奴ですね? “合わせろ”?

 

 

「んんッ!!! ……『すっっげぇ!!! これでセヌリア軍の奴ら一網打尽だぜ! よっ! 一騎当千! ほら! もっとやってくれ! というか槍だ槍! もっと槍持ってこい! この人助けてアイツらこっから追い出してやるんだ! ほらねぇちゃん!!』」

 

「え、あ、はい! 追加です!!!」

 

「そうだそうだ!」「もっとやれー!」「後悔させてやる!」

「あいつら全員たおしちゃる!」「ほらお前さんも! ぼーっとしてないで準備するんじゃ!」

 

 

ジェーンから出てくる、ちょっと男にも取れそうな低めの声。

 

実際のものと聞き比べるといささか綺麗すぎる気もしますが、“お調子者な感じ”は確実に押さえています。そしてそれに続く、ベルカちゃんや他の子たちの言葉。ワタクシという目の前の『恐怖』を味方であると伝え、敵に備えようという前向きな感じの言葉たち。

 

冷静に現状を見ればサクラしかいないじゃんと突っ込まれるところでしょうが……。ここは戦場。正気など即座に吹っ飛ぶ場所です。それまで蔓延していたこの身への恐怖が徐々に薄れていき、何故かワタクシを応援する様な声まで聞こえてきています。各区画に配置された部隊長の指示の声も響き始めましたし、『防衛戦』に向かってようやく進み始めた、ってところでしょう。

 

というわけで13!

 

 

「……もういいだか?」

 

「もういいです。……はぁぁぁ、喉痛。私コレ苦手なんですよぉ。演技の種類も少ない方ですし、絶対ボロしか出てないです。はぁぁぁ、鬱。ちにたい。というかこの暴力主人から逃げたい。あ、ほいさ。」

 

「よいしょぉぉ!!!」

 

 

ジェーンから投げ渡された槍を投擲しながら窺ってみると、そんな風に項垂れている彼女が。

 

けれど目は完全に据わってますし、その手は自身の装備の最終確認を行っています。口はアレですけど完全に戦士ですわね。……正直に言ってマジで素晴らしい働きなので今後がちょっと不安ですわ! どうやって報いればいいのでしょう! や、やっぱりどこかいい感じの小国を攻め落とした後、女王として君臨させるくらいしか……!

 

 

「なんか私の仕事増やす様なこと考えてません? マジで過労死するので止めてください。ほいさ。」

 

「よいしょぉ! ……すぐばれますわねぇ。何にせよ、感謝しかありませんわ。」

 

「お褒め頂き至極恐悦。可能ならばメイドとしての仕事増やしてください、私メイドなので。ほいさ。」

 

 

それはちょっと難しいですわね……。

 

なんて零しながら、15投目。

 

既に3000近い敵兵を吹き飛ばしていますが、依然その行動は“突撃”のみ。一生懸命にセヌリア兵たちが突っ込んでくるのが見えます。そろそろ優秀な将軍であれば撤退、もしくは何かしらの奇策を取って来そうですがそれらしき動きは見えません。確かに距離の問題から城壁に辿り着くまで10000は残るでしょうが……。防壁戦でもワタクシ暴れるつもりですわよ? そこの所解ってるのかしら?

 

敵兵たちが集まる場所、そこに吸い込まれるように落ちていく槍の切っ先を眺めながらそんなことを考えていると……。

 

 

軌道が、ズレます。

 

 

 

「…………へぇ?」

 

 

敵兵の一人に突き刺さるはずだったその軌道がズレ、宙へと打ち上げられる投槍。そして耐えきれず爆発し、空を抉る真っ白な炎。

 

……防ぐのではなく、受け止め逸らし無力化する。

 

ワタクシの攻撃を、です。

 

確かに、即席で組み合上げているのが『グングニル』。単に魔力を流して込めるだけという単純な手法故に連発でき、この身に宿る王族故の莫大な魔力を前提としているため誰にもまねできないワザ。投擲し、地面か人に突き刺さり、その衝撃によって限界まで溜められた魔力が爆発する。言葉にしてしまえば簡単ですが、基本的に防御不可能なモノへと仕上がっています。

 

けれどそれを見極め、対処した者がいる。

 

明らかな、強者。

 

 

「ふふ、楽しくなってまいりました。」

 

 

まだ相手の強さは解りませんが、敵国。セヌリア王国側も20000という大軍を持ってきているのです。一人くらい規格外の存在がいてもおかしくはないでしょう。そして、その相手がワタクシレベルであるのならば……。今いる防壁など何の役にも立ちません。

 

この身にとって、石で固められた壁など本気で殴れば崩れる障子。敵も同じであるならば、アレを防壁に到着させた時点で終わりです。この身が暴れに暴れれば痛み分け程度に持っていけるかもしれませんが、お味方であるドンエーニュ王国はかなりの深手を受けることになるでしょう。

 

 

(なにせ今この場にいる者たちは王が集めた兵が基本、貴族の割合が少ないがゆえに、損耗は王家の影響力が更に減る原因になる。)

 

 

戦功を上げれば爵位は狙えるでしょうが、影響力が減り王権が低下すればそんな授爵にすら他の貴族が口出してくるかもしれません。国を乗っ取るつもりなので“現王権”の力の低下は確かに望ましいのですが、下がり過ぎると困るのです。

 

そしてなにより……。

 

ワタクシが参加した戦に、完全なる勝利以外相応しくないでしょう?

 

 

「ジェーン、全部。」

 

「あ、はい。どうぞ。」

 

 

ベルカちゃんに運んできてもらい、ジェーンが受け渡しを担当していた投槍を全て受け取り、ただひたすらに投擲を開始します。先程までより魔力を込めず、ただ数をばら撒くことを意識したソレ。爆発によって巻き込める数は限られますが、それで構いません。

 

留意するのは……、“強者”から離すこと。

 

 

「少なくとも5000は一人で持って行きたいですから、ねッ!!!」

 

「規格外なんだよなぁ……。馬は用意しますか?」

 

「いりません。」

 

 

五月雨のように放ち、強者から離れた位置に着弾していく攻撃。

 

消し飛ばされていく敵兵を横目で眺めながら、此方も次に向けた準備を進めていきます。

 

そんなワタクシの行動と、先ほどの事象。そこからこの身の次の行動を考えたのでしょう、そう聞いて来てくれますが……、答えは否定。何せ走った方が速いのですから。母国にいたころであれば見栄の為に運ばせていたでしょうが、今の自身は単なる傭兵。足で走った方がいいならそうするまで、です。

 

あぁ、それと……。

 

 

「ワタクシ一人で行きますから。供はいりませんわ。足手まといです。」

 

「……畏まりました。行ってらっしゃいませ、我が主。」

 

「えぇ、勝鬨の用意をしておきなさいな。」

 

 

握るのはこの大陸に来てから初めて手に入れた長剣。

 

それを片手に、防壁から飛び降ります。

 

ワタクシの攻撃を弾けるほどの強者がいて、それが防壁に辿り着けば戦線が崩壊する。

 

ならば導きだされる答えは一つ。

 

 

「こっちから殴り込みに行ってやればいいのですッ!!!」

 

 

さぁさぁ! どこの誰かは知りませんが、ワタクシと一緒に踊りましょうか!!!!!

 

 

 






〇グングニル

アデライードが使用する技の一つ。この世界にも存在する神話に登場する武具の名を冠している。実物は投げると必ず命中し手元に戻って来る投槍であり、不壊の効能も持つ神の槍ではあるが、彼女が使用するのは武器に消滅寸前まで魔力を込め、そこに彼女が得意とする“火”の要素追加。外部からの強い衝撃を受けた瞬間、融解し爆裂するというもの。相手は大体死ぬ。射程は約2km、爆発範囲は武器の耐久に比例する。

なお『これ手元で誘爆したら半身吹き飛びますわね……』であるため、接近戦では使用できない。







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