白の騎士、竜の聖女   作:アマシロ

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初めましては突然に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 豪奢に彩られた、純白の古城―――。

 その中でも特に念入りに飾り付けられた部屋の内と外で、礼服を身に着けた男女が冷や汗を流していた。

 

 

 

 

 

(………ま、まずい………)

(このままだと………)

 

 

 

 

((本当に結婚させられてしまう…!?))

 

 

 

 

 

(俺には……)

(私には……)

 

 

 

 

((心に決めた人がいるのに…!))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公爵家三男ゼーロス・エインベルと、『剣』の聖女による見合い―――それは急速に勢力を拡大しつつある帝国に対して影響力を高めたい教会と、新興故に教会にロクなツテがない帝国双方にとって利益がある、まさに素晴らしい一手であった。当人達以外にとっては。

 

 帝国がまだ王国を名乗っていた頃の首都であり、現在では古都とも言われる格式あるエインベル。雄大なエイレーン大河とグラムベル山脈に挟まれた天然の要害であり、聖石の産出にも優れることから城塞区画、城下町区画、水運区画、農耕区画、鉱山区画と3段の城壁と5つの区画を持つ巨大な城であり。エインベル公爵家の本拠でもある。

 

 そして、その巨大な城下町が今完全に祝賀ムード一色。

 やったぜ祭りだ! 酒が飲めるぞ! とばかりに市民も大歓迎。ゼーロスがちょっと顔を知られていることもあり、何なら長男の時よりも盛り上がっていると思われる。

 

 

 

 

 そんな渦中のゼーロスであるが、彼には絶対に今回の縁談を断りたい理由があった。

 かつて騎士団に出向し、魔物のスタンピードに巻き込まれた際。任務で生死の狭間をさまよっていた時に救ってくれた教会のシスター。

 

 

 

 初恋の相手に、不器用ながらアプローチを重ねているところだったのだ。教会にいる子どもたちへ彼女がふりまく優しさと、可憐な声を聞いているだけで幸せだった。

 見合いなら断れば? と思うかもしれないが断れば教会の面子は丸つぶれ。下手をすれば国家規模の損害を叩き出すと理解していなければ相当な阿呆である。貴族として生きている意味がない。

 

 

 

 

 そしてもう一方、『剣』の聖女アイリスにも想い人がいた。

 まだアイリスが聖女と呼ばれる前。かつて魔物のスタンピードが起こった折、自らの身を挺して庇ってくれた恩人―――そのせいで生死の境をさまよったにもかかわらず『命の恩人だ』と微笑みかけてくれる優しい騎士様。

 アイリスは聖女になってからも、唯一の我儘として白の騎士団が町に来る時にはいちシスターとして城下町で彼を出迎えるのが一番の楽しみだった。彼の優しい微笑みだけで日々が彩られる気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もちろん、こんな状況になる前に足搔きはした。

 ゼーロスは最も信頼する部下に『剣』の聖女の日頃の素行を徹底的に洗わせた。何か少しでも瑕疵があれば、それを理由に断るつもりだった。が、あの阿呆『いやー。素敵な人ですしそのまま結婚しちゃえばいいんじゃないです?』とかぬかしよる。

 バカか。俺は好いた人がいるって言ってるんだよ!

 

 

 

 

 アイリスもこんな状況になる前に頑張った。

 唯一信頼できる親代わりの司教様に、精一杯伝えたのだ。『憧れの騎士様じゃないと嫌だ』、と。司教様は『まあ騙されたと思って行ってらっしゃい』と言っていた。

 

 その結果がこれなんです。

 騙された…!? もう戻れないところまで来てしまっている。これは聖女と騎士では釣り合わないという現実を受け入れろという意味だったのか…?

 

 

 

 

 

 

 

((ど、どうすれば……?))

 

 

 

 

 

 ここからでも円満に断れる方法があるんですか…?

 ないですね。

 

 

 そこらの騎士と聖女や、公爵家の三男といちシスターではつり合いが取れない。が、なんと公爵家の三男と聖女だとピッタリなのである。

 

 諦めて結婚するしかない状況に追い込まれた二人だったが、まだ希望はあった。

 

 このお見合いで何か相手に重大な瑕疵が見つかれば――――あるいは。

 

 

 

 

 

 

 そして、『部屋に入りたくない』『入って欲しくない』という二人の願いも虚しく、侍女の手によって厳かに扉は開かれた――――。

 

 

 

 

((…………))

 

 

 

 

 

 さて。

 ゼーロスは一応公爵家の人間であり、普段市井に出る時は変装をしていた。そしてアイリスは今、普段と異なり聖女としての正装と、その一部としてベールを身に着けて顔が見えにくい状態だった。

 

 

 

 

 

 

 そしてそのことが、大きな勘違いを――――というか、見過ごしを犯させた。

 あろうことか二人とも『初恋の人にそっくりだから勧められた!?』と勘違いしてしまったのである。

 

 

 

 

 違う、そうじゃない。

 二人の腹心と親代わりが涙を流して笑い、あるいは頭を抱えそうなことだが、二人とも精一杯冷たい対応を心掛けた。涙ぐましい努力だが、それが余計に勘違いを加速させた。

 

 

 

 

 だが、ひとしきり冷たい――――儀礼的な対応をして、二人は気づく。

 

 

 

 

 

((あれ、この人いい人だな……?))

 

 

 

 

 

 慇懃無礼とでもいうべき己の対応に対しても、特にイラつく様子も(都合がいいので)なく、よくよく考えると声も好きな人に似ている気がする。

 そこで気づけば良かったのだが、普段ゼーロスは公爵家特有の金髪に緑の瞳を魔法で隠して更に目元の印象も変えていた。好きな子にカッコイイと思われたかったので。要らないワンポイントである。

 

 アイリスはベールで顔を隠しているのと、普段のおっとり優し気な声と、一生懸命がんばって出している威厳ありそうで機嫌悪そうな声が絶望的に乖離していた。

 名前も、普段はセフィとアリアで本名を名乗っていない。

 

 

 

 

 

 さながら『いつになったら好きな人に気づくのかドッキリ』状態であるが、二人とも残念ながらそれを楽しめる状態ではなかった。だって好きな人に胸を張って会いたい。なんか知らない人と結婚する……ゼーロスは公爵家の三男として弁えてはいたが、それはそれ。

 

 貴族社会の一般常識として、ゼーロスは正妻を迎えて、好きな子を妾にでもすればいいだけの話ではあるのだが。教会の教義は一夫一妻。優しく純真なあの子が悲しむ、というか胸を張って求婚できなくなると思えば真剣にもなる。

 

 対するアイリスは『恋する乙女は無敵』なのだが、無敵のまま場外負けしそうな状況に焦るばかり。

 

 

 

 強いて言うなら失うのが己のプライドだけなゼーロスが有利で、結婚してしまったら終わりなアイリスが不利。残念ながらまだ男女平等とは程遠い時代であった。

 

 

 

 

 

 

 ちょっぴり泣きそうなアイリスに、自分の慇懃無礼な態度のせいだと勘違いしたゼーロスは、「このまま騙すのは気が引ける」と罪悪感に負けて頭を下げた。

 

 

 

 

 

「……申し訳ない。実はこの縁談がどうにか円満に解消されないかと足掻いてみたのだが……私には想い人がいる」

「まあ………私もです」

 

 

 

 

 ここでコロリと本音をこぼすアイリスに、ゼーロスは『迂闊にも言質を取られたのに賠償を毟り取るでもなく同意しちゃうの!?』とあんまりにも純真なアイリスに危機感を覚えた。アイリスは呑気に『打ち明けて下さるなんて、誠実な方なのね』とか考えていた。

 

 お見合いで貴族令嬢に『実は想い人がいるんですけど』なんて言おうものならどれだけ不利な条件を呑まされるのやら分かったものではない。致命傷である。

 というか、『教会の教義に反する!』とブチギレれば破談にして賠償をむしり取れるかもしれないレベルの失言だった。

 

 むしろそうすれば流石に二人の周囲がネタばらししてくれたのだが。

 幸か不幸か、喜劇なのか悲劇なのか、そうはならず。

 

 

 

 

 

 

 

「………恥を承知でお願いする。今回のことは『白い結婚』となるようにご協力願えないだろうか」

 

 

 

 

 

 ゼーロスは頑張って調べた教会の結婚の仕組みから、『白い結婚』を提案した。してしまった。かつての神話から肉体関係を持たないまま1年間経過するか、子ができないまま3年間過ごせば破談にできる制度である。

 

 女性は『出戻り』などと言われてしまう世間の風潮は冷たいが、なんならアイリスからすれば一介の騎士とくっつく口実になるので有難い提案だったりして。

 

 賠償金などは全面的に従う、というゼーロスにアイリスは恐縮しつつも言った。

 

 

 

 

「正直なところ、わたくしも同じ気持ちです」

 

 

 

 

 渡りに船。

 にっこり笑顔で、でも聖女の威厳は忘れずに。

 

 

 

 

 

((なんていい人なんだろう!))

 

 

 

 

 互いに想い人だと気づかないまま、契約は結ばれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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