白の騎士、竜の聖女   作:アマシロ

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和やかな夕食も突然に

 

 

 

 

 

 

 

 結婚式――――それは祭りであり、戦場である。

 聖女と公爵家三男ともなれば気の遠くなるような多数のしきたりや儀式、儀礼に則るのが正しい。が、本人たちにやる気がない。

 

 これにゼーロスの腹心は爆笑しすぎて蹴りを入れられ。アイリスの育ての親はどう真実を伝えるべきか頭を抱えた。

 

 

 

 

 『これ、真実に気づいてからじゃないと後悔するだろうなぁ』と周囲を呆れさせた二人は、周囲の配慮により仕事が落ち着かないので結婚式はまだ挙げないということになった。

 

 気づいていないのは当人ばかり。

 ゼーロスの父も、息子の命の恩人である聖女にいたく感謝しているし裏取りもしてある。何なら今回の見合いの仕掛け人の一人だが、それはそれとして面白いので『神話になぞらえて結婚式まではベールをつけておこう』と提案した。

 

 

 肉体関係どころか顔も見ていない、これは真っ白な結婚!

 

 

 二人は喜び、アイリスの育ての親も顔面蒼白を通り越して真っ白。

 ゼーロスの腹心は笑いすぎて脇腹の筋肉が攣った。

 

 

 

 

 当然、公爵家の配備したメイドもその辺の事情は周知徹底されている。『認められていないし冷遇してやろう!』などという不届きなメイドは現れなかった。現れなかったが、それはそれとしていつになったらゼーロスが気が付くかは賭けの対象になった。不届きなことに。

 

 

 今のところ最も優勢なのは1カ月以上3カ月未満、2番目は3日以内、3番目は1週間以内と、オッズは割れている。が、ゼーロスの腹心は「1年気づかない」に賭けた。なんという忠誠心の高さだろうか。ゼーロスに近い人間ほど気づかない方に賭けているあたり、普段の行いが察せられる。

 

 まあ、賢ければスタンピードで命を張ったりしない。

 ちょっと抜けてる方が我らが主人らしいし、外れたらそっちの方が目出度い。と、ゼーロスの腹心は言うが、それはそれとして『なんで気づかないんだよ』と笑うのを必死にこらえる日々である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一つだけ、お願いがあるのですが――――」

「うん? 私にできることであれば、なんでも叶えるよ」

 

 

 

 

 

 そう、ゼーロス・エインベルはお金と伝手には自信がある。

 伊達に公爵家の三男ではないし、スタンピード事件以降、ちょっとした城下町の英雄扱いである。実はその時の影響で『剣』の聖女が誕生したのだが、生死の境をさまよっていたゼーロスにはあずかり知らぬことである。

 

 手に入らない(と思ってる)のは、初恋の少女の心のみ。

 

 

 

 

「実は、白の騎士団が任務から戻られた時に、教会でお出迎えをしたいのです」

「ああ、それは助かる。君も来てくれていたんだね」

 

 

 

 まさか『剣』の聖女まで来てくれていたとは。

 自分も白の騎士団に在籍している身である。……恋する相手ばかり気にして、聖女に気づかないとは不覚だったな、と反省する。

 

 

 

 

「……? ゼーロス様も、いらっしゃるのですか?」

「おっと、これは秘密だった」

 

 

 

 

 背後で笑いを押し殺す気配がし、簡易的な魔力のつぶてを見えないように椅子の影から背後の腹心にぶつけて黙らせる。

 

 

 

 

 

 

「……えっと、その。ゼーロス様もお迎えした方が……?」

「いや、気にすることはない。君も想い人と過ごしたいだろう」

 

 

 

 

「それは、その………はい」

 

 

 

 

 ふわり、と花がほころぶような笑顔に、思わずベール越しながら見惚れてしまう。……くっ、我ながらなんと単純な男であろうか! 白い結婚を申し込んでおきながらこの体たらく! 

 

 

 

 

「ふっ。貴女のような方に迎えられる男は果報者だな……しかし、どのような身分の者なのだ? 可能であれば我が家の力も貸せるとは思うのだが」

「本当ですかっ! ……うれしい………ぁっ、でも……その……普段は、あまり――――身分の話などは、できなくて……」

 

 

 

 

「そうか。まあそれもそうだな……白の騎士団は実力主義、身分を無駄に誇るものはいないが必ずしも身分があるわけでもない……聖女ともなれば、色々と周囲も五月蠅いだろうしな」

 

「……はい。そうなのです」

 

 

 

 

「貴女の配慮は、きっとその騎士殿にも届いているよ」

「…ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 感情移入したせいだろうか。声が想い人にそっくりなような気がしてくる。……我ながら本当に度し難い。

 そのような具合に、腹心の腹筋を破壊しながら夕食は和やかに進んでいく。本当は父親が「こんな面白い状況見ずにいられるか!」と暴走していたり母親が「早く孫の顔が見たいからネタばらしして!」と拗ねていたりするが、二人はのほほんとしていた。

 

 この時までは。

 

 

 

 

 

 

 カツカツ、という軍靴の音が明らかな緊急の速さで近づいてくることにゼーロスが眉を上げて腹心に目線をやり、アイリスは不思議そうにそんな様子を窺って。

 

 

 

 

「―――――緊急につき失礼いたします!」

「良い、要件は」

 

 

 

 

 扉をギリギリ許される速さで開けた軽装の連絡兵が部屋に飛び込んでくるのを、ゼーロスは食事を切り上げて出撃の準備をしつつ問うた。

 

 

 

 

「――――スタンピードの予兆ありと! 第二師団長と『剣』の聖女様の出撃要請です!」

「メイベル! アイリスに必要なものを全て整えろ。万全にな。ゲイル、私のものは!?」

 

「承知いたしました」

「いつものように」

 

 

 

 侍女頭のメイベルは、幼少期から世話になっており信頼できる。今回は教会側の派遣したシスターもいるので、恐らく出撃の手筈は万全に整えてくれるはずだ。

 

 腹心ことゲイルは、まあいつも通り。できる男だ。

 

 

 

 

 

「え、えっと……」

「すみません、アイリス様。わたくしがご案内いたしますね」

 

 

 

 

「アイリス、もし体調不良などあれば今のうちに言ってくれ。出撃要請を別の聖女に回すように手配する」

「…っ! いえ! 私も出ます! 白の騎士団のみなさまもいらっしゃるなら……必ず!」

 

 

 

 

 

 

 

 魔物のスタンピードは、命の危険が付きまとう――――通常は十分以上に安全を確保して戦うのが基本であるのに対して、スタンピードは何が出てくるのか一切不明な上に突然襲い掛かってくるため準備不足になる。

 

 貴族の跡取りや貴族の子女などは暗黙の了解として『体調不良のため』出撃見合わせ、ないしは後方待機が許されるのが一般的だ。アイリスは貴重な聖女だが、公爵家の嫁になった以上その『暗黙の了解』を利用できるようになった。

 

 が、答えは迅速で。

 にやりと笑ったゼーロスは、思わず乱暴にアイリスの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

「いい気迫だ。安心しろ、お前は私が守る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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