ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「全ての戦いは貴方から始まった」
黒い刃を携え少女が言う。
彼女はゆらりと、九本になる尾を揺らすと、目前へと構える巨大な影をその鋭い瞳で睨みつけた。
「
「それは安寧とは言わない、ただの力による押さえつけでしょ」
長い歴史の影に隠れ暗躍を続けた存在の尾、それをようやく、この日につかみ上げた。
多くの人間をかどわかし、狂わせ、ついには世界の行く末すらをも己の望むがままに操らんとしたその存在は、しかしなおも抵抗を続ける九尾の娘に対して拳を振り上げる。
ようやく手に入れた力の試運転、といったところだろうか。
少女、輝良にばかり目が行っている。その背中は隙だらけだ。
「愚かなる魂転の巫女よ、貴様のような存在には分かるまい!」
「輝良は一人で戦い続けたんだ、アンタなんかよりずっと孤独で、辛いままに!」
「っ!?」
突如飛び出したボクは、その背中へと双扇によって切り付けた!
「生きて……いたのか……!」
奴の身体が即座に麻痺を始める。
切り口から胴体、指先に至るまでの即座の麻痺、そしてさらに追って傷口がぐじゅりと崩れ落ちる。
これこそがボクの固有魔法。ありとあらゆる毒素の混合、効果の増幅、そして任意のタイミングでの切り替え。
「麻痺、腐食、痛覚増幅にその他諸々の毒のカクテルだよ、
「りつ!」
「や、待った?」
奴は身もだえしながらも自分自身の傷口を抉り取ると、それを地面へと叩き付けた。
その肉片は地面を腐食させながらぐずぐずと泡立ち、周囲の草もが溶け落ちていく。
だが少し判断が遅かったようだ。本来であれば圧倒的魔力によって即座に回復する傷も、今は遅々として断面を見せたままである。
あの様子じゃ、
「白痴たる我が血族よ……! なぜ魂転の者に味方をする! うぬの祖は、我らが黒龍はその者共によって滅ぼされたのだぞ!」
「力で支配してたのに力を失ったから反逆にあっただけでしょ! 自分たちが傲慢だったのを人のせいにしないでよ!」
鱗に覆われた巨大な尾、うんざりするほど大きく巻いた角と翼。
本来ならこんなの生えてなかったってのに、戦い続けるうちに気が付けばこんな姿になってしまった。
それも彼の言う通り、ボクが龍の血を引いているから。
こんな力に元々興味なんてなかったけど……今は感謝してる。
何もできなかったボクだけど、今はこの力のおかげで輝良の隣にいられるから。
大きく踏み出した一歩が地面を抉り抜いた。
ボクの力の余波でその一帯も毒に犯され、ぐずぐずに崩れ落ちていく。
歩きは走りへ、そして羽ばたきによってボクは空からこちらを睨みつける奴の元へと、一直線に舞い上がっていった。
「魂転の巫女だとか、龍だとか、ボク達が生まれてもいない時代や世界の下らない因縁に興味なんてない!」
「興味がなかろうとそれは付いて回る! それこそが摂理!」
「そんなのが摂理だって言うならぶち壊してやる!」
もううんざりだ。
どれだけ輝良が、ボクが振り回されてきたと思う。
何もできずに泣いて、あきらめて、苦しんで、絶望してきたと思う。
……だがそんな日々ももう終わる!
今のボク達ならば、それでも戦い続け力を求め、多くの人たちと連携してここまでたどり着いたボク達なら!
「ボク達は今を生きる! ただ出会って、友達として日々を過ごして、くだらない喧嘩をして、ただ普通の人間として生きていく!」
「師を失い、片目を失い、なおも愚かな妄言を吐くか! ならば後悔するがよい!」
「後悔しないためにここにいる! 過去に縋りつくのはアンタだけだ、ボクは輝良と明日を生きる!」
双扇を振るう直前、奴の目前にてボクは口角を吊り上げた。
「それに……眼ならあるさ! あの人だって、願いと共にここにいる!」
伸ばした髪で隠していた片目がボクの動きと共に露わになる。
そこにあるのは蒼い義眼。ボクが師と仰いでいたあの人が最後に遺した、たった一つの願いと希望。
「――『蒼穹の銀華』」
「っ、くっ!?」
彼女の魂、固有魔法を刻み込まれた無垢なる蒼石が生み出す力が、奴の身体を一瞬硬直させる。
1秒だ。
きっかり1秒だけ、奴の思考、感覚、呼吸、神経を駆ける信号の一切までもが、『完全停止』を遂げる。
これこそが彼女の遺した力。絶対的な感覚の支配は、わずかな時間ですらも致命的な影響を生み出した。
力の行使と同時に、ボクの脳天へと鋭い痛みが駆け抜ける。
奴の力が強大過ぎるが故、本来であればさほど生まれない副作用も増幅されているのだ。
「りつ!」
「輝良!」
空を駆け上がってきた輝良がボクの横で頷く。
いつぶりの共闘だろうか。だが、ボク達の連携に淀みはない。
「――『ルナティックオーバードーズ』」
黒に近く、しかし光を受け虹に輝く結晶たちがボクの身体を覆っていく。
そして育った結晶はボクだけでなく、横に立ち手を握った輝良すらも犯していった。
この一見華美な結晶は、その一つ一つが激烈な毒を秘めた固体だ。さらに本来であれば毒に耐性がある身体も、あえてそれを落とすことによって毒へと犯されていく。
本来ならばただの自傷。しかしその毒は同時に副作用として、各々身体能力を強制的に引き上げる。
「――『日輪の装い 玉藻』」
横に立った輝良が、小さく呟く。
同時に彼女の黒い髪や九尾、そして共に手を握ったボクの身体へと紫炎が上がっていった。
これほどまでに恐ろしい色合いだというのに、その炎の熱はどこか優しく、温かい。
まるで守るかのように結晶の隙間へと駆け上がっていった炎は、ボク達の身体についた傷や、毒の影響で滲んだ血を穏やかに癒していく。
浄化と治療、そして更なる身体能力の強化。
真逆の力を以て、ボク達は互いの力をさらに高めあう。
『これで終わらせる』
横をちらりと見る。
彼女もやっぱりボクと同じ考えだったみたいで、互いに視線が交わって少しだけ笑った。
「行くよ」
「ん」
奴の視線が緩慢にこちらを向く。
だが既にボク達の武器は振り切られていて――