ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「っ、誰!?」
「ひぃん!?」
ぼよん、とボクが払った腕が当たる。
「ごめんなさぁい……」
泣きそうな声と共に上から声がかかる。
そこにいたのはさっき逃げた彼女、金髪のエルフみたいな人だった。
「なんでボクじゃなくて話しかけてきたアンタがびっくりしてんの」
「いやぁだってぇ……」
悲し気な顔でしょげる彼女。
さっきはさっさこと逃げ出したってのに近寄ってきて、さらに今度は一体何だっていうのか。
いや待て、こんな変な人の相手をしてる暇なんかボクにはない!
「今はそれどころじゃなくて! 輝良が毒でっ!」
「あ、アナトリの毒は麻痺毒ですけど、よ、弱い毒なので死んだりはあんまりしません、よ?」
へ?
唖然とするボクを置いて彼女は輝良の横へとしゃがみ込み、刺し傷をゆっくりと観察を始める。
「アナトリ、ってさっきの大きいサソリのこと? じゃあ輝良は!」
「多分半刻もすれば毒も抜けると思いますけど……」
アナトリの毒は弱いけど大量に注入してくるんですよね~、なんて呑気に語りながら輝良の腕を布で縛る彼女。
まるで全部慣れているかの様子で足元の草をブチブチと千切っていき、指先でぐりぐりとすりつぶし始める。
「えーっと……これと、これと、これも一応入れときましょうかぁ」
ぶつぶつと呟きながら行動を進めていく彼女。
いったい何をしているのか全く分からない。けれど僕は何も分からないし、物知り顔の彼女に全て任せる以外に出来ることなんてなかった。
「あのぉ、何か布切れとかってありますかぁ?」
「え? あ、う、うん。ハンカチでいいかな?」
「十分です!」
彼女はボクのハンカチを受け取ると揉んだ薬草を上にのっけ、湿布のように輝良の傷口へと上から張り付け、紐で手早く縛ってしまう。
そしてふかぶかと息を吐き出し、ニコニコとこちらへ笑顔を向けた。
「これで毒の中和と痛み止め、殺菌も出来るのですぐに動けると思いますよぉ」
「ほ、ほんと!?」
「まあアナトリの毒は弱いですからねぇ」
これが麻痺毒を中和する草で、なんて少し特徴的な足元の草を千切り彼女は語った。
土ぼこりをはたきながら立ち上がった彼女は、ボクへと視線を向けてはたと動きを止める。
「あ、あの……そういえば貴女も刺されてませんでした?」
「え? あ、そういえば!」
そういえばボクも刺されてたんだった!
「うぐ……分かったらなんかすごく痛くなってきた……」
さっき突き刺された傷口を反射的に手で覆い、鋭く帰ってきた痛み、そしてぬるりとした血の感覚に顔を顰める。
あの時は興奮で何も感じなかったけど、冷静に考えれば人間くらいある巨大なサソリの針はそもそも極太で、傷口も相応に大きなものだ。
さらに当然そこから毒を注入されているわけで……言うまでもなく体は痺れて……
「……なんともない? なんで?」
「い、いやぁ、わたしに言われてもぉ……? 種族的に毒への耐性があるとかじゃないんですかぁ……?」
「そうなの?」
「知りませんよぉ!」
まあ確かに人間って毒に実は強いってのはどっかで聞いたことあるけど、でも輝良は毒の効果もろに受けてたしなぁ。
「ま、痺れてないならおっけーでしょ!」
「……そういうものですかねぇ? と、とりあえずお二人とも傷口の手当てでもしましょうかぁ」
すくりと立ち上がった彼女はいったいいつから持っていたのか、枝から切り出したかのようにごつごつとして大きな杖を握りしめていた。
「よいしょっと……あ、そうそう……傷口もそんな大きくないので弱めでお願いしますね」
にわかに杖の先端が輝きを帯び、風もないのに彼女の周囲の草がそよいだ。
「ではちょっと失礼しまして……『レイディアントブレス』」
一瞬の事だった。
とん、と杖先で輝良とボクを彼女が小突いただけ。
それだけで、ボクの傷は消えた。
流れた血の跡だけをそのままに、痛みも痕跡もきれいさっぱりに消して。
「え!?」
今何が起こったの!?
「もしかしてこれが魔法!? すご!」
「え? いやいや! これは魔法じゃありません、魔術!」
「どっちも同じじゃ……」
「全然違います! これだから素人は!」
ぷんすこと杖を振りながら怒る彼女。
「そんなのどっちでもいいよ! すごい! 本当にありがとう!」
「ひぃ……」
彼女の手を握りしめぶんぶん振り、そしてまた落ち込んだ。
この金髪エルフみたいな耳の長い人、変な人だけど実力は間違いない。
もし彼女がたまたま居合わせなかったらボクはきっとパニックのまま、もしかしたら大けが、いや最悪……うん、何があってもおかしくはなかった。
「ダンジョンって危ないんだなって……正直舐めてた」
「とーぜんです!」
ボクのなかでダンジョン探索はゲームの延長戦だった。
でも実態は違う。仮に遊びだったとして例えば山登りなんかと同じ、一つ間違えれば大怪我が常について回るものだった。
「そこのキラさんが大事ならなおさら! 二人で旅や冒険をしているのなら、互いが互いの命を守れるよう常に行動するのが鉄則ですからね!」
「ごめん……」
これから二人でいろんなところに行きたいと思うならなおの事、ボクはもっと気をつけなくちゃいけないんだ。
飲み物と軽食だけをリュックに詰めてなんて甘すぎた。
周りに気を使って、ケガをしたときの準備をして、でないとボクたちはいつか取り返しのつかないミスをしてしまう。
「はぁ……ボクのせいだ。」
「あ、わ、わたし偉そうに説教なんて……ご、ごめんなさい!」
先ほどまでの勢いはどこへやら、再び踵を返し走り出そうとする彼女。
「待って!」
「ひぃ!?」
今度はその腕を間一髪で掴むことが出来た。
助けてくれた人をそのままサヨナラなんて出来るわけない。
「その……お礼がしたいんだ、一緒に外でご飯でもどうかな?」
「外に!?」
なぜかやたらと素っ頓狂な声を上げ驚く彼女、慌てた様子で思い切り腕を振り回し振り回そうと叫ぶ。
「む、む、無理です!! 外には邪悪な存在が蔓延って地獄絵図と化しており一度でも踏み出した者は二度と戻ってこれないんですよ!?」
「はい?」
「魂までもがチリになって死んでしまうんです! 絶対に行きません! ひぇぇな、なんと恐ろしい……私は私の命が惜しいです!」
わなわな震えて語る彼女。
なんの話?
やっぱこの人変だな結構。
ぶつぶつ意味の分からないことを続けて語る彼女の裏で、ぴょん、と黒いケモミミがとび上がった。
「ばばーん、わたしふっかつ」
「っ、きら! 体痺れてるところとかない!? 変なところとかは!?」
「もーまんたい」
ぴょんぴょんと跳ねながらピース。
先ほどまでの麻痺はどこへやら、いつも通りの柔軟で俊敏な動きを見せている。
どうやら本当に毒は抜けたようだ。時間にして数分も経っていない、あんなに痙攣していたとは思えないほどの素早い完治だ。
輝良は軽やかにボクたちの元へと駆け寄ると、彼女の空いてる片腕をがっしりと掴み上げた。
「助けてくれてありがと、名前は?」
「ひぇ……そ、その……ミカですぅ……」
視線を彷徨わせながら大きな体を縮こまるミカ。
だが輝良の勢いは止まらない。元々ボクなんか比じゃないほど押しの強い女だ、相手がどう言おうと容赦なんてなかった。
「ミカ、命の恩人。一緒にご飯食べよ、外でなくてもコンビニで買ったサンドイッチある」
自分のリュックからビニール袋を取り出しアピール。
「こ、コンビ……? あちょっ、待って!」
「あっ、二人ともちょっと待ってよ!」
輝良に腕を引かれて連れていかれるミカを目で追い、はたと気付いてボクは慌てて後を追った。