ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第12話

「ここが協会登録販売店かぁ」

 

 ダンジョンを飛び出し、輝良のスクーターに飛び乗って訪れた店。

 スマホで調べ上げようやっと見つけた店舗であったが、その外見はあまりにも……

 

「ん、なんか特別感ない」

「んね、なんか活気ないし」

 

 なんというか、とてもさびれていた。

 いや、建物自体はつい最近できたであろうピカピカ具合だ。なにせそもそもダンジョンってのは話題になってから、まだ五年くらいしか経っていないわけで、当然そのタイミングで出来たであろうこの店も経年は同じ。

 

 だが問題が一つ。

 薄暗い店内は外から見える分にも人影がおらず、まあつまり不人気といった様子なのだ。

 人混みが多いところは苦手だけど、活気がない店を頼るのもそれはそれで不安なのが人間の面倒なところである。

 

「すみませーん! ……誰もいないみたい」

 

 おそるおそる扉を開け覗き込むも、しぃんとして気配がない。

 一歩、二歩と無意識のうちに足音を消し忍び込む。誰に命令されたわけでもないがさながら泥棒の気分だ。

 

「いけーっ! 差せーッ!!!!! キレが足んねえだろうがよォなァ!!」

「ひょわ!?」

 

 数歩ほど足を進めたところで突然ボクたちの横から怒声が湧き上がった。

 声の主はすっかり腰の曲がった老人だ、つるつるの頭が窓から漏れる光を受けぴかりと輝く。

 彼は何か新聞を握りしめながら鉛筆を耳にはめ、熱心にイヤホンを抑えてラジオから流れているであろう音へと意識を傾けている。

 

「あ、えっと、こ、こんにちは」

「ちわ」

 

 返事がない。

 ただのやかんのようだ。

 

 動いていいのかすらわからずぴったり止まったボクと、その横でぴかぴか、なんて呟く輝良。

 いったい何分ほどたっただろうか、突如として彼が持っていた新聞を上へと放り投げた。

 

「だーっ、もうやめだやめ!」

 

 どかどかと荒い足音を立ててこちらへ歩み寄る爺ちゃん。

 

「おう待たせて悪いな! 若い子、しかも女の子が二人とは珍しいな!」

 

 彼はハツラツとした快活な笑みを浮かべた。

 どうやら彼がこの店の店主のようだ。他に店員はいない、いや、きっとこのさびれようならいらないのだろう。

 

 ボクが周囲を見回している理由を察したようで、彼は軽い笑みを浮かべた。

 

「ダンジョン探索の流行はとっくに終わっちまってるからな。たまに来ても大半はちょっとの怪我ですぐ辞めちまうし、強え奴は協会からの支給で補っちまう」

「あー……なるほど」

 

 内心を言い当てられたことの気まずさに、ボクは小さく目を逸らしながら頷く。

 

 いつだったか、確か数年前キャンプが流行ったときもおんなじ感じだったか。

 流れ行く時の中では、たとえそれがどれだけ革新的だったり未知の内容だったとしても、あっという間に『当たり前』になって忘れられてしまうらしい。

 そしてその『ちょっとの怪我』、もボクには覚えがある。

 結局大半の人は同じような場所で転んでしまうのだ。

 

「そのうち潰れそう」

「ちょ、輝良! す、すみません!」

「なーに潰れはせん。協会への卸しでたんまり、ね」

 

 輝良の言葉も気にせず指先で円を作り、にかりと笑う老人。

 

 協会の支給、とやらに一枚噛んでいるようだ。

 どうやら単純に快活な好々爺というわけでもないらしい、やり手の商売人だ。

 

「さて、と。その様子じゃちょっと背伸びしたけど大怪我しかけて、慌てて準備しに来たってところか?」

「う……そう、です」

 

 ぐうの音も出ない事実だ、まあ輝良は多分そんなに慌てても気にしてもいないだろうけど。

 

 彼はそこで待つよう言い残し姿を消すと、すぐに両手で掴める程度の袋を片手に戻ってきた。

 それをどさりとカウンターの前に置くと手慣れた様子で開き、右からずらりと中身を並べていく。

 

「ほれ、初心者セット。消毒用の道具に包帯に浄水器、非常食にコンパスと緊急用の自己注射器(・・・・・・・・・)が十本セット」

 

 ほうほう、なるほど?

 大体は人生で見たことあったり、なんとなく使い方わかるけど……?

 

「あの、自己注射器ってなんですか?」

 

 見慣れない手のひら大の筒を指差す。

 外観はほぼ白いプラスチックで囲われているが、隙間から何か緑色の液体が垣間見える。

 注射器としてイメージする針の飛び出した姿とは違う、随分みょうちきりんな見た目だ。

 

 老爺はそれを一本掴み上げると、その筒の先端をボクの方へと向けた。

 

「簡単に言うと使い捨ての回復薬って奴だな、使うと傷が治るんよ」

「えーっなにそれーっ!? めっちゃ便利!」

「あくまで応急処置だがな! 切り傷くらいならどうとでもなるが、ざっくり腕が落ちた、なんてなるとさすがに厳しいからよ!」

 

 回復薬!?

 なにそれ!? そんな都合がいいモノあるの!?

 

「内部にふっとい注射針が入っててよ、足にぶっ刺してぐっと押し込めばばっちりよ!」

「ちゅ、注射器か……これは痛そう……」

 

 よく筒の先端を見れば、確かに黒い影の奥に何か輝くものが見える。

 構造や話を聞いてみればなるほど、つまりこれはエピペンって奴に近いものなのだろう。

 ボクも知り合いにアレルギー持ちの子がいて何度か見たことがあるが、アレも緊急時に太ももとかにぶっ刺して薬を注射するアイテムだった。

 

 でもぶっ刺すのかぁ……こわいなぁ。

 

「緊急時に四の五の言ってられるかよ、それに経口摂取は吸収が遅ぇ。ザクっとぶっ刺してさくっと治療、刺し傷もついでに回復よ! これであとは気合いでダンジョン抜け出して協会に駆け込みな!」

 

 なんだかファンタジーと現実の境目にあるようなアイテムだ。

 効果は奇跡みたいなものなのに、動作だとかやってる内容があまりに身近過ぎる。

 

「ん? 協会に駆け込む? 病院じゃなくて?」

「あぁ? 知らねえのか」

 

 病院じゃなくて?

 

 首をひねるボクに呆れた顔で彼が話した。

 

「協会には必ず治療系の『基質』持ちがいるんだ、駆け込めば大体は治してくれるで。まあもちろん有料だがな、大体一万前後ってところか」

「基質?」

「おめえさん、本当に何にも知らないでダンジョン潜ってるんだな……」

 

 ご、ごめんなさい……なんかちょっとミカみたい。

 

 話にならんとばかりに首を振る彼の前で、ばつが悪くなってつま先へと視線を向ける。

 

 もしかしてボクって本当に無知なのか?

 結構調べたつもりだったんだけど、ガバガバなんてレベルじゃない?

 

「どこから話したもんかな……まず魔法、なんて巷で言われてる奴だがな――」

 

 つらつらと、きっと死ぬほど分かりやすく噛み砕いてくれている彼の言葉を、ボクは聞かされるままにコクコクと頷いていく。

 

 基質ってのはつまり、魔法、いや魔術? まあどっちでもいいけど、それの事らしい。

 さらに深掘りすると魔術は人それぞれで性質が全く異なるそうで、火を放てる人もいれば精神を操れる人、極端な話料理することで発動する人とか体質の変化まで、本当にまるきり同じ人がいないそうな。

 

 じゃあボクが必ずファイヤーボール! なんて火を出せるわけじゃないんだ。

 なんか残念、変な『基質』だったらどうしよう。

 

 そして協会には治療の『基質』を持つ人が待機していて、とりあえずそこまでくれば大体の傷は治してくれるらしい。

 なるほど。

 

「つまり、この包帯だとか自己注射器で命と外れた手足だけは繋いで、あとは這ってでも気合いで協会に戻って来いってことだ!」

「わおワイルド」

 

 ちょっと待って、手とか足ってそんなポコポコはずれるものだっけ?

 人間は十数年やってきたけど人形になったことはないんだけど?

 

「うーん、なるほど……」

 

 ボクはすっかり腕を組んで悩み込んだ。

 

 ダンジョンの危険性は言うまでもない。

 協会に登録され卸しまで任されてる店の『初心者セット』、この名前の重みと価値はもはや語るまでもないほどだ。

 

「よし、買いまぁす!」

「あいよ、じゃあ十万と消費税分ね!」

 

 はひ?

 じゅうまん? じゅうまんって……

 

「じゅ、十万!?」

「今日ならなんとおまけにもう三袋もつけるぞ! どうせ新人なんて滅多に来ないからよぉ! 実質四分の一だぁ! これで四十回は死にかけても平気と考えりゃ、買わない理由はないぜェ!」

「四十回!?」

 

 え、うそ!

 実質四十万円得してるじゃん!?

 それにそんなにあれば下手したら一生使いきれないんじゃ、そんな何十回も死にかけるはずもないし!

 

「買ったァ!」

「まいどぉ!」

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