ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「りつは醤油味とそのまま、どっちがいい?」
「どっちもいや!」
じっとこちらを見つめたのち、小さなナイフで輝良はハサミの肉を小さく切り分ける。
そして百均で売ってる醤油のミニボトルを傾けると、キラキラとした表情でそれをつまみ上げた。
「あーん」
体液の青と醤油の黒が入り混じり、ぽたぽたと地面へ垂れていく。
「いーやームリムリムリムリ! どー足掻いたって無理だって! 人の食べるものじゃないよ絶対!」
色合いヤバすぎる!
青だよ青! 流行のカフェでオシャレなスイーツに使われててギリ許される色合い!
しかもただの青じゃないぞ! なぜか微妙にキラキラしてる、まるでラメでも混ざってるみたいなウルトラマリン!
「ぶー、昨日の図鑑には食べられるって書いてあった」
「……まさか昨日のアレ、それ見つけて興奮してたの?」
思い返せば確かに昨日の夜、図鑑を見ていた輝良が珍しく大興奮していたのを思い出す。
だから嫌な予感がしたんだ!
あの時点で無理やりにでも聞き出していれば!
「サソリはそもそも食べられる」
「そうかもしれないけど……そうじゃないじゃん!」
罰ゲームとか、変わり種としてちょーたまーに食べるくらいならまだ分かるけどさぁ!
「むむむ、すききらいはよくない」
「好き嫌いで片づけられる内容じゃないよ!」
ボクのかたくなな態度に業を煮やした輝良は両手に爪を握りしめた。
なんだ? 力づくか?
確かに輝良に力では勝てないけどボクだってあきらめないぞ。
一体何を企んでいるのか、じぃと睨みつけていると、彼女は両手に握ったハサミを上下へと揺らし――
「うふ~ん、サソリよぉ~ん、たべてぇ~ん」
「バッカじゃないの!? いやもう本当にばっかじゃないの!?」
どういうテンションしてんねん!
大体サソリが自分から食べてとかいうわけないでしょ! いやそれ以前の話だけど!
「これでもだめか」
「ボクはこれで行けると思った根拠を提示してほしいね」
なにがうっふーんだバカバカしい。
胡乱な目で彼女を見ていると今度は一体何を思いついたのか、近くの石の上へと爪を置いてこちらへ振り向く。
そして硬く拳を握りしめ、天へと突き上げた。
「じゃんけん」
「……えー、アンタじゃんけん死ぬほど強いじゃん」
昔からボクは輝良にじゃんけんで勝てたことがない。
マージで強いのだ、何かチートでもしてるのかと思うほどに。
それどころか輝良がじゃんけんで負けているのを見たことがない、給食のきな粉揚げパンや七夕ゼリーは常に彼女の手へと渡っていた。
「だっさなっきゃ負けよ、じゃーんけーん」
「くっ」
な、なんて卑怯な!
『ぽんっ!』
ボクが選んだのは気合いのパー!
輝良の選択肢は――チョキ!
「うぐぅぅぅぅぅぅ!!」
「だいしょーり」
つ、強すぎる……!
カニみたいに両手でチョキを作って高らかに勝利を謳う輝良。
「なんでいっつもそんなじゃんけん強いのよ!」
「手を出す瞬間を見てる」
「どんな動体視力してんねん! もーこれだから剣道全一はァ!」
言ってることが無茶苦茶すぎるのに出来ているから否定が出来ない!
「ん、いっしょに」
「うぇ……もー分かったよ、たべりゃいいんでしょたべりゃ!」
にっこにこで突き出された肉片を手のひらに乗せ、ボクは自分の喉が鳴る音を聴いた。
緊張と恐怖。
コーヒーはミルク多め、寿司はさび抜き、面倒ごとは避けて、流行の物に流される。
マイルドな人生こそがモットーな僕にとって、こういう変なものを自分から口にすることはまずない。
本当に行くしかないのか?
ちらりと前へ視線を向けるも、小さく微笑み、ケモ耳をピコピコする幼馴染の視線からは逃げられなかった。
あかんかぁ。
『いただきます』
震える手で口へと押し込む。
こ、これは……!
「ぷりぷり、これはほぼえび」
「……く、結構おいしいのがムカつく……!」
ぷりぷりとした食感。
コクは少なくあっさりしているが、確かに感じるほんのりとした甘みとうま味。
エビである。取れたての車エビを刺身にしたのを昔たべたことがあるが、確かにそれに近い。
ボクは血の涙を流しながら口の中のそれを噛んだ。
許せなかった。
このボクがちょっと納得して、むしろもう一口くらいなら全然食べていいんじゃないか、なんて頭の片隅で考えてしまっているこの現実が。
「炙ったらもっとおいしいはず」
「……マヨとか持ってきてないの?」
「あーわすれてた、ぜったい合うのに」
輝良が自分のリュックを漁り、鼻歌交じりに小さな焚火台を取り出す。
いったいいつの間にそんなもん買って来たんだ。
二人であたりに転がっていた小枝を集め始めたその時、ボクの後ろで小さな物音が聞こえた。
「ぁ」
「輝良!?」
輝良が無防備に地面へ転がっている。
「あばばばばば」
「これ、麻痺毒!?」
いったいいつの間に!?
気が抜けてたところを刺された? いやでも周りにサソリの姿は……いない、ね。
鉄扇を引き抜き周囲を警戒するも気配はない。
木々の隙間、遠くに羽兎が飛んでいる姿だけが視界へ映りこむ。
警戒を解かずに輝良の体へと手を伸ばすも、刺し傷どころかかすり傷一つない。
「一体なんで」
そもそも輝良は反射神経がイカレてるくらい良い、じゃんけんで相手が出したのを見てから後出しするほどに。
昨日刺されたのだってボクを守るためにかばっただけ、きっと一人だったら不意を突かれたって避けてしまえるだろう。
まさか、さっき食べた刺身のせい?
脳裏で浮かんだ可能性、ボクはそれ以上考えることもなく周囲の地面へと手を伸ばした。
「確か葉っぱの形が……これだ」
ミカの集めていた『薬草』、それが目的だ。
でもいくつかは結構特徴的な葉っぱの形をしていたし、ほんの少しだけだけどミカが解説してくれたから特に麻痺を抑える草は覚えてる。
「全部は覚えてないけど……」
間違いなくこれ、といえる奴を集め手のひらで揉みしだく。
確かに昨日感じた、つん、とした鋭い匂いに頷き、昨日の通りにやってみようと手を伸ばして、ボクははたと止まった。
「あ、傷口が無いから直接体内に入れられないのか」
昨日は刺し傷に直接貼り付けていた。
でも今日は肉を食べたせいで麻痺してしまったとしたら……うーん、どうしたらいいのかな?
経口摂取?
確かミカはサソリの毒は弱いからすぐ治ると言っていた。
それに食べた量も一口で、刺されるよりははるかに毒の量も少ないはず……まあ放っておいても治るらしいけども。
とはいえここはダンジョン、何が起こるか分かったもんじゃないんだからさっさと治ることに勝ることもなし。
「ほらあーんして、おくすりでちゅよ~」
握りつぶした草の塊を鼻の先でゆらゆらと震わせる。
寝転んでいる輝良は少し眉間へしわを寄せ、痺れる体を無理やりに動かし少しだけ横へ顔を傾けた。
ふはは、ゆかいゆかい! 普段は好き勝手している輝良がこうも抵抗できないとは!
無駄に動いたり喋らないとキミは本当にかわいいねぇ!
「あばばば……ちゅ、ちゅーでおねがい……」
「バカなこと言わないの! というか余裕あり過ぎでしょ、自分で噛みなさい!」
「ん、んもぉ」
無駄に抵抗する口を指先でねじあけ、緑色の塊を無理やりにねじ込む。
わ、犬歯なが。
もしかしてダンジョンの中に入ったら、尻尾やケモ耳だけじゃなくて体も少し変わってるのかな?
しぶしぶ口に含んだ輝良がもっちゃもっちゃとそれをかみしだく。
効果はばっちしだった。十数秒もすると彼女は胴体をむくりと起こし、うえぇ~なんて少し緑色に染まった舌をこちらへ見せつけてきた。
「にがい、大自然の味」
「野菜よ野菜、ビタミン接種は大事だからね」
「じゃありつも食べてよ、コンビニ弁当ばっかで栄養偏ってるでしょ」
輝良が足元の草を千切って揉み始める。
明らかに薬草と関係ない、ほかの雑草も混じっている。
ボクは即座に察して走り出す。
輝良も負けじと追いかけてくるがまだ毒が抜けきってないのだろう、よたよたと不格好でいつもほど動きに素早さを感じない。
ふ、その程度ならボクでも逃げれちゃうもんね!
「ぬあああ逃がさない! わたしだけが苦しむ、これは許されない!」
「ボクは痺れてないからいーの!」
おそいおそーい!