ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「うぇえぺっぺ! ……そういえばまた今回もボクだけ痺れなかったなぁ」
口の中の草を吐き捨てながらふと気付く。
「それがりつの基質、多分。毒が効かないとか」
「あー、なるほど! これがか!」
復讐を果たした輝良が尻尾を振りながら答えた。
基質。
ダンジョン探索の専門店で聞いたそれは、分かりやすく行ってしまえば『魔法』的な概念の総称……なんかな?
自分が放つ魔法的な力も基質の一つだし、或いはそう、まさにいまのボクみたいに体がマヒしないのも多分、基質の一つってワケだ。
「なんか実感ないなぁ」
「あっ」
再確認ついで、口直しとばかりにひょいひょいと小さく切った爪肉をつまみつつ、ボクは小さく首をひねった。
なにせ体が光るわけでも風が吹くだの、なんかしら分かりやすい現象が起きるわけじゃない。
ボクからしたら刺身でカニ食べてるのと大して変わらないのだから、こう、実感が全くわかない。
散歩してたら『あなたの特殊能力は歩くことです!』って言われてるようなもんだ。
そもそも本当に毒無効なのか?
もしかしたらただ、たまたまこの麻痺毒だけ効かないだけかもしれないし、性能が分かりやすく書かれてるわけでもない。
うーん……なんか地味だし分かり辛いし、考えれば考えるほど微妙に信頼しきれないぞ。
「ずるい! わたしもそんな便利な基質ほしい!」
「こらこら! なに食べようとしてるの、また痺れたら意味ないでしょ!」
横から伸びてきた輝良の手をはたき落とす。
アンタが麻痺したら誰が介護すると思ってんの!
第一あれだけ薬草嫌がってたのに二度目に挑戦するんじゃないよ!
「第一本当にこれ食べられるって書いてあるの?」
まずそもそもの前提からボクたちは疑うべきだった。
まあ味は美味しいけど……輝良ががっつり麻痺してる辺り『可食』ってのが怪しい。
例えばシイタケの生食、フグの内臓、食べられると言われているものでも有毒なものはいくつも存在するワケで、何か特殊な加工が必要なんじゃないのか?
「あった! 絶対にあった! りつだけずーるーいー!」
「あーあーかわいそー、でもこれも基質の問題だから仕方ないよねぇ~?」
「うるるるるる……!」
がおーポーズで牙を見せつける輝良。
いくらダンジョンでケモミミ尻尾が生えるとて心までケモノになるな!
「ほんとに書いてあったのに!」
「ダンジョン内は電波通じないよ」
ぺしぺし頭を叩いて彼女の内なるケモノを押さえつけていると、むすっとした顔でスマホを取り出し弄り始める輝良。
ダンジョンの中では電波が通じない。言うまでもない、なにせ入り口から始まって空間のサイズ感すら無茶苦茶なんだから。
「ん!」
「あーそっか、アンタスマホ普段使わないもんね」
しかし黙々とスマホを弄った輝良は、意気揚々と確かに昨日と同じページを開いてボクへと見せつけてきた。
輝良は超常的な機械音痴だ。
音痴というかそもそも普段あまり使わないので知らない、ってのが正しいのかもしれない。
しかし今回はそれが功を奏していたようで、ロックを開けばすぐに昨日見ていたページが表示されたようだった。
しぶしぶ見てやるとなるほど、確かに可食、とは書いてある。
うん。
少しスクロールした続きの文章で、赤文字の但し書きと共に。
「タンパク質性の毒のため、加熱によって可食……だってさ」
静かなまばたき。
じっと悲し気な視線がボクを貫く。
「生はだめ……?」
「だめです」
「そんなぁ」
ほらー! 言うたやんー!
◇
「りつ!」
「はいはいっ……とな!」
輝良が竹刀でちょいちょいと巣穴を突っついた瞬間飛び出す針先。
間髪入れずにボクはそれを踏みつけ、素早く広げた鉄扇で一文字に切り結んだ。
「ないすぅ~」
尻尾が地面へ落ちると同時、飛び掛かった輝良が竹刀を連続でオオサソリの脳天へと打ち込んでいく。
以前にもましてキレがある連続攻撃に、オオサソリはあえなく撃沈、魔石と斬られた尻尾だけを残して消えてしまった。
「今回のムーブ完璧じゃん!」
「うむ、われら敵なし」
嬉々としたハイタッチが森の中に響く。
ボクはあせあせと地面へ転がる魔石を拾い集めポーチへ放り込んだ。これで丁度二十個目、順調も順調だ。
輝良はもーめちゃくちゃなくらい強い。魔法……ああいや基質、ね、基質なんて今のところ全く分かってないけど、素の身体能力がそもそも高いんだから、大体なんだってできる。
ゲームだったら完全にメインアタッカーだろう。
一方で毒には弱い。大体は避けられるが時々掠ってしまうこともあるし、そのたび一々薬草を取っていたんじゃキリがない。
そこでボクの出番ってわけだ。
オオサソリは結構臆病な性格の様で、大半の奴はまず先に尻尾で突っついてくる。
慣れてくれば単調な攻撃だ。さくっと靴で踏みつぶしてやれば尻尾自体は柔らかく、あまり鋭くない鉄扇でも簡単に切り裂けた。
あとは輝良による蹂躙劇の始まりだ。
「そろそろ帰ろっか!」
「ん……はっ」
ダンジョン内だろうと日は暮れる、なんでかは知らないけど外の世界とリンクしてるみたいだ。
こくりと頷いた輝良だったが、突如として素早く空中へ手を伸ばした。
「捕まえた」
だらーんと彼女の手の内で羽を掴まれぶら下がる羽兎。
自分が今どうなってるのか分かってないのだろう、暴れることすらなくぶらーんと無気力に垂れている。
その実、サソリ狩りの間に羽兎は結構遭遇している。
それにこうやって易々と輝良につかまってるので分かるが、ぶっちゃけサソリより狩りやすいのも事実だ。
僕自身も、もちろん彼女みたいに曲芸じみた捕獲は難しいけど、一応飛んでいる奴を叩き落とすことくらいは出来るようになってきた。
「逃がしてあげなさい」
「ん、ぽーい」
乱雑にぶん投げられた羽兎が森の中へと消えていく。
無事かはわからんが祈っておこう、南無。
じゃあなんでやらないのかっていうと理由は単純で、どうにも羽兎、オオサソリと比べると推奨レベルが低いらしいのだ。
サソリが狩れるならわざわざ狙う意味もないし、サソリ狩りはなんだか昔やったマテ貝堀りみたいで結構楽しい。
……まあそれに、狂暴ではあるけど兎は兎、ちょっとかわいいので倒すのに気が引けるってのも正直ある。
「ん~、ふぁあ……なんだかボクちょっと強くなったかも? 筋肉もついてるのかな?」
あくびと伸びを一つ、すっかり少なくなった水筒の中身を一気に煽りリュックを背負い直す。
ダンジョンで戦う人、特にその中でもすごい人は身体能力がすごいらしい。
この前動画をちょっと調べたけど、人間離れなんてレベルじゃない動きを次々にしていた。
流石にそのレベルまではまだ届きそうにもないけど、もしかしたらボクも多少は身体能力が上がってるのかも。
考えたら最初なんて兎の動きを目で追うことすら出来なかったんだよな。
でも今じゃ結構ちゃんと追えてるし、むしろちゃんと一人で倒すことすら出来る。
レベルが上がると、つまり体内の魔力量が増えると身体能力が上がるってのは間違いなさそう。
「にのうでぷにぷに」
「さすがに怒るよ?」
もちもちとボクの腕を勝手に揉みながら輝良が笑みを浮かべる。
そりゃアンタの普段から鍛え上げてる体に比べたら仕方ないでしょうが。