ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第18話

「んしょ……んしょ……よし、こんなもんかな」

 

 ナイフで慎重に地面を削っていったボクは指一本分ほどまで掘ったあたりで腕を止めた。

 

 今掘っているのはマンドラゴラだ。

 洞窟の中で見つけた一匹のマンドラゴラ、その周りの土を慎重に掘り進め、それが目覚めないぎりぎりのラインを見極めていた。

 

 もう今日だけで三回は気絶してるからね……これ以上あの絶叫を間近で聞いたら耳も頭もおかしくなりそう。

 絶対に起こさないようにしないと。

 

「きらー! 準備おっけー?」

「ぺるふぇくと!」

「なんてー?」

 

 何言ってるか分かんないけど多分大丈夫でしょ、サムズアップしてるし。

 

 ボクはむんずと生えているマンドラゴラを引っ掴むと、小さく揺らしてそれがすぐにでも抜けることを確認する。

 地面を掘っていたのは確実性を上げるためだ。

 マンドラゴラはとても抜けやすいモンスターだけど、仮にちょっとでも引っかかってもたついてしまえば、絶叫をもろに食らってしまう。

 

 よし、時は来たれり!

 

「よっ……こいしょーっ!」

 

 一息にマンドラゴラを引っこ抜いたボクはそれを輝良へとぶん投げた!

 準備に時間をかけただけあって引っかかりはない!

 風を切り裂き一直線に飛んで行ったマンドラゴラは、まだ天使のように穏やかな寝顔を貼り付けたままだ!

 

「ん、『狐火纏い』」

 

 集中を続ける輝良が己の持つ竹刀をそっとなぞると、手のひらから竹刀全体へ紫色の炎がまとわりつく。

 基質励起。

 いわゆるダンジョン内で出来る『魔法』の第一段階、彼女の放つ紫色の炎『狐火』は彼女が望んだものだけを焼き尽くす。

 

 が、いかんせんまだ不慣れで不安定だった。

 『ファイヤーボール』ってな感じで空中でぶつけられたら最高だったけど、残念ながら今の輝良にはそこまで高い精度での操作はできない。

 ほんならいっそ竹刀に纏わせてぶん殴ればええんちゃう? なんてボクのIQ53万の脳筋PCからはじき出された完璧な答えがこれだ。

 

「ほっ」

 

 紫の輝きが薄暗い洞窟を照らす。

 鋭い風切り音、手慣れた竹刀さばきが宙を浮かぶマンドラゴラを天井へ叩き上げた。

 炎は確実にその身へ焼き付いているもののまだ足りない。

 

 苦痛故か、それとも本能か、マンドラゴラの顔がゆっくりと歪んでいく。

 ――あの叫びが来る。

 

「させない」

 

 輝良が身軽に壁を蹴り飛ばし、ふわりと宙を舞う。

 

 まるで重力なんてないみたいだった。

 ウルフカットの髪が、柔らかな尻尾が、薄いカットソーが遅れて彼女に追いついて――気が付けば怪しく輝く竹刀は振り下ろされていた。

 

「どう、かっこいい?」

 

 竹刀の先で魔石を弾き飛ばし掴んだ輝良が、さらりと自分の髪をかき上げて呟いた。

 

「マジ超かっこいいよ! もうほぼ漫画のキャラじゃん!」

「ほんと!?」

 

 嬉しそうにぶんぶん尻尾を揺らす輝良。

 

 元々持つ抜群の運動神経、そして使いやすい火力補助の基質励起。

 この二つが合わさった輝良はまごうことなき無敵だ。なんならもっと高レベルのダンジョンに突入したって、今の輝良なら傷一つなく帰ってこれるんじゃないかなんて思えるくらいに。

 

「もっと! もっとすごいことするから見てて、りつ!」

「あっ、こら! ちょっと調子に乗り過ぎ~!」

 

 ぴょんぴょん跳ねては壁を蹴り、側転をしたかと思えば連続のバク宙。

 一流の体操選手さながらの動きを繰り返しながら『狐火』を尻尾に纏い、さらにド派手な輝きまで追加。

 高額なサーカスを見に行ったってここまで無茶苦茶な動きはしないんじゃない? なんて少し考えてしまうほど、輝良の動きは自由自在、その言葉の通りだ。

 

「どう!?」

 

 すちゃりと着地した彼女がキラキラとした目でこちらへ駆け寄る。

 

「はいはい、すごいすごい」

「かっこいい!? りつはもっと見たい!?」

「強い強い! 抱き着きが強くて苦しいっ!」

 

 抱き着いてきた輝良の勢いはもはや止められはしない。

 ぎゅう、ぎゅう、とどんどん強くなってくる締め付けに、たまらずボクはバシバシとそのバカウルフカットの頭を何度も叩いた。

 

 どんだけ自慢したいのよバカ!

 十分見てるって!

 

「じゃあ次はこれね!」

「はいはい。一回うまく行ったからって、気を抜かないでしっかり準備してよね」

「まかせろ~!」

 

 アンタが自信満々の時ほど心配なのよねぇ。

 

 ポリポリ頬を掻きながら、輝良に指定された花の根元を掘っているさなか、ボクは違和感に気付いた。

 

 葉っぱも花の形も今までのマンドラゴラそっくりだけど、なんだか色違くない?

 今までのマンドラゴラは全体が黄色い百合みたいな花だったけど、これは少し花びらの先が白っぽいし少しだけ波打った形してるし。

 別のただの草? いやでもちゃんとマンドラゴラと同じで根っこ太い感じするしなぁ。

 

「もういけるー!」

「わかったー!」

 

 いかん、輝良がやる気満々だ。

 竹刀をぶんぶん振り回して、まるでごはんを待つ犬みたいにウキウキである。

 

 ま、いっか。

 別に雑草なら雑草でまた別のマンドラゴラ掘ればいいし。

 

 幸いにしてこの洞窟、びっくりするぐらいあちこちにマンドラゴラが咲いているのが見えた。

 右も左も、何なら数十センチの距離にだっていくつも咲いている。

 

「よっこいしょっと、いくよー!」

「ん!!」

 

 ワシっと地上部を掴み上げる。

 思ったより硬い。他のは案外するっと抜けるのに、やっぱり外れかな?

 

「ふんぬっ! よし! えいっ!」

 

 思いっきりガニ股になってようやく抜けたのを、息をつく暇もなくぶん投げる!

 少し力の入れ方をミスったのか、へろへろと飛んでいく草の塊。

 

『へ?』

 

 だが突然、草の塊は細かな根を急速に生やした!

 見る間に伸びていく根は地面につくや否や、無数に伸ばした根を束ねて地面へとすっくり立ち上がった!

 

「うそぉ!?」

 

 なにあれ!?

 マンドラゴラ……ではあるっぽいけど、なにあれ!?

 

 驚愕に動くこともできないボク。

 しかし輝良はすぐに行動を開始、竹刀へ狐火を纏わせ一目散に突撃した。

 

「なんだかわかんないけど……!」

 

 だがマンドラゴラ? のほうが一手早い。

 生み出した根っこを素早く二つに編み上げると、植物にあるまじき速度で屈み輝良の竹刀を避け切って見せた。

 

「は、はやっ!?」

 

 まさか彼女の攻撃を避けると思っていなかったボクはついつい叫んでしまう。

 しかし輝良は油断していなかった。勢いを消すようにステップ、反転し再びモンスターへ切りかかる。

 

『キャアアアアアアアアッ!』

 

 だが遅い。

 既にそれは、いやに甲高い叫び声を上げていた。

 

「うっ……く……」

 

 間近で喰らった輝良はたまらず屈み込んでしまう。

 だが気絶はしていない。

 何度も聞いたマンドラゴラの叫びとは何かが違う。今までのは爆音でこちらを威圧するようなものだったが、今度のはどこか、そう、女の悲鳴の様で――

 

「っ、輝良っ! なんか……変じゃ……!」

 

 風もないのに、洞窟内がざわめいた。

 鋭く冷たい感覚が全身を襲う。

 恐怖に似た直観が一瞬でボクの身の中を満たした。

 

 今、ボクたちは無数の視線にさらされている。

 

「逃げよう!」

 

 輝良がボクの手を握る。

 半分無意識だった。それを必死に握りしめ、ボクは分かりもしない恐怖の正体を考えながら必死に震える足を立たせた。

 

「に、逃げないと……!」

 

 何が何だかまったくわからない。

 今何が起こってるの? 何から逃げるの?

 

 怯えながらもやっと第一歩を踏み出した、その時だった。

 

「――あっ」

 

 何かが足を引っ張る。

 

 ごろりと地面に転がり、遅れて鈍い痛みがおでこに走った。

 

「こんなときにっ」

 

 ボクはなにやってんの!

 

 湧き上がる怒りと羞恥に震えながら立ち上がろうとして、動けない。

 ボクの足に根が絡みついている。

 脚のすぐ横にそれはいた。怒りに染まった鋭い視線、地面から半分だけ顔を覗かせたマンドラゴラ。

 

「うそ……なんで……?」

 

 根が伸びてくる。

 右からも、左からも。

 

 この洞窟には無数にいる、マンドラゴラたちが。

 そのすべてがボク達を見ていた。

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