ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
この洞窟には無数にいる、マンドラゴラたちが。
そのすべてがボク達を見ていた。
「『狐火』!」
一瞬で紫炎が全てを呑み込んだ。
這いずる根が、揺れる葉が灰燼と化し、炎を引き裂いて輝良が駆け寄る。
「立って!」
「う、うん!」
温かな伸ばされた手をまた握りしめボクは駆けた。
もつれる足もそのままに、焦げ臭さを突っ切って、小さく切れる息を必死に呑み込んで走り続けた。
「なっ、なにあのマンドラゴラ!?」
「知らない、でもあの数は捌ききれない」
「そ、そうだね!」
輝良の炎はすごいけど、まだ不慣れなのもあって今のところは一発一発放つのが限界。
燃え広がるとはいえ洞窟中にいるマンドラゴラ全てを焼くなんて到底無理だ。
走れ、走れ!
まだ洞窟のそんな奥にまでは入り込んでない、出口はすぐそこ!
「っ、跳んで!」
突然輝良がボクの腕を思い切り引っ張った。
躊躇や配慮なんてあったもんじゃない牽引。いっぱいいっぱいで走っていたボクに耐えられるわけもなく、体は宙を浮き、直後に顔面が地面へと叩き付けられた。
「うく……っ」
じゃりつく地面と鋭い痛み、衝撃に詰まる息。
だが意識はすぐに別へと向かった。
バゴォォオンッ!
前方にて猛烈な音を立て、何か途方もない質量が衝突するその爆音へと。
「ひっ」
「おきてりつ! はやく!」
もう何も分からない。
混乱と恐怖、ひたすら促されるままに立ち上がる。
ずきずきと膝から、顔から伝わる痛み、生温い液体が頬を伝う。
「まずい、出口が塞がれた」
霞む視界で前を見ると、先ほどまであった入り口の光が失われている。
巨大な岩がまるっきり穴を塞いでいた。
なにがおこったの?
岩? まさか後ろからとんできたの?
どうして? 後ろにはマンドラゴラしかいなかったはずなのに、ナニがこれを?
痛む腕を押さえ、振り向いたボクは確かに見た。
「
――天井にすら届くほどの巨体を軋ませる、
「マンドラゴラたちが岩を操ってる、根っこで繋がって動いてるみたい」
「そんなの無茶苦茶だ!」
そんな特性あるなんて聞いてない!
図鑑にもそんなの載ってなかった!
だからこそ気付いた。
載ってなかったんじゃなくて、きっと載せられなかったんだって。
あんな化け物、今までのサソリや、それこそマンドラゴラの比じゃない文字通りの『モンスター』じゃないか。
遭遇した人間はどうなった? マンドラゴラしかいないと高を括ってダンジョンに潜って、ボク達みたいに運悪く交戦することになったその人たちは。
報告できなかった、その人たちは?
現実がボクの喉元に鎌をかけた。
心臓が痛いほどに鳴り響いて、全身の傷がそれに共鳴していく。
「倒すしかない」
軋む足音が確実に近づく中、輝良は竹刀を片手に入り口から背を向けた。
「絶対無理だって!」
「逃げ道もない、他に方法なんてない」
たしかにないかもしれないけど……!
大人が抱えられる岩だって100キロは優に越す重量がある。
でもあいつが投げた岩はそんなの比じゃない、十トンは間違いなくあるような巨岩だ。
そんなのを軽々ぶん投げるような奴に、たとえ多少身体能力が優れてようが、ただの人間が同行できる相手じゃない。
「りつはわたしが守るから」
いつも通りの言葉を吐いて駆け出す輝良、竹刀に纏った炎がテールランプのように暗闇へ跡を残していく。
無茶なヤツ!
もし直撃すれば、いや掠めてでもしてしまえば死んじゃうかもしれないのに!
「~~! ボクだって!」
のんびり戦ってるのを座ってみてられるかっての!
脚はまだ震えていた。
痛みはじんじんと辛いままだ。
だけれど友達が戦う雄姿に背を押され、ボクは必死に地面を蹴り飛ばした。
「戦うのはムリ! でも……!」
輝良とゴーレムが攻防を繰り広げる横をすり抜け、何度も周囲を見回す。
洞窟とはいえここには天井に穴がある。
そこからこぼれた光を中心にマンドラゴラは育っているみたいだが、今はそれよりも大事なことがあった。
「――! 風!」
さあ、とボクの髪が凪ぐ。
天井から吸い込まれた空気は涼しい洞窟内を駆け巡り、一つの方向へと流れていった。
なぜ空気の流れが生まれているのか?
その答えはただ一つ、外へとつながる穴がこの先にある。
「輝良! こっち! こっちからなら出られるかも!」
最悪出られなくたって構わない。
とりあえずゴーレムをやり過ごして奴が落ち着くのを待つ、落ち着けばきっと元のマンドラゴラに戻るだろうし、そうなればそっと横を抜けて元の出口からどうにか出る手段を探せばいい。
ボクはそのまま風の方向へ賭け、確かにそこにはもう一つの通り道があったことを確認する。
輝良へ手を振り合図。
ラッキー!
「りつ! 逃げてッ!」
「え?」
入り口からの光が、何かによって遮られた。
「うそ……もう一体……?」
あちらと比べれば小型だが、確かにゴーレムの姿。
そして避けるにはすべてが遅すぎた。
苔むした拳がボクのおなかへ突き刺さる。
「う……ぎゅ……」
生鈍い何かが潰れる音を聴いた。
肺が潰れ無理やり空気が喉からこぼれる。
おもちゃのように体がだらりと垂れ、気が付くと体は宙を舞っている。
「ぇ……?」
意識が追い付かない。
視界が歪む。痛みはない。ただただキモチがワルい。
何が起こってるのか分からない、だからコワい。
地面にぶつかる瞬間、二回は衝撃を感じたと思う。
弾き飛ばされたリュックが遅れてボクの前へと転がり落ちた。
「ぅぁ」
視界の端で何かが走っていた。
何かを叫んでいるけれど、キィン、って頭の中がうるさい。
しぬ。
「くすり……くすり……」
死ぬ。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。ボクは殺される。
ぐちゃぐちゃにつぶされる。
つぶされて殺される。
「くすりつかって、にげないと」
震える手でバッグを掴んだ。
でもあんな軽いバッグがいやにおもくて。
ぐちゃぐちゃに潰れたジップの隙間から、ガラスの冷たい光が見えた。
ボクは必死に霞む視界でにらみつけ、指先を間に滑り込ませた。
ちくりと指先が痛む。
「あ、ああ……!」
バッグがじんわりと濡れていって、突き刺さったグラスだけがボクの指先には残っていた。
買った回復薬は全て砕けていた。
とくとくと地面に広がる中、這いつくばるボクを嘲笑うように、濡れた指先の小さな傷だけが治っていく。
「ぁう……」
いきないと。
這いつくばって、はいずって、地面を舐める。
砕けた注射器の小さなガラス片が舌先へ突き刺さって、それでも舐めて。
大きな影がボクを覆う。
苔むした大きな巨岩が、ぱらぱらと砂を溢して。
やめて。
「……ぁ、めへ」