ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「わたしは……どうしたらいいの……? もう何にもわかんない……」
濡れた目だけが暗闇の中で映っていた。
「ボクだって良く分かんないよ、輝良の言ってることも抱えてることも」
返事はない。
無言で輝良の横を抜け、窓をゆっくりと開く。
熱い部屋の空気が静かにボクを追い越し、外の夜中で少し冷えた空気が満ちていった。
「ねえ、なんでダンジョンで戦わないといけないの?」
「……わかんない。でも、そうしないといけない気がする」
「気がするって……誰に言われてるわけでもないのに? アンタが思い込んでるだけじゃん」
「っ、違う! ……気がする」
「また『気がする』、そればっかり!」
「っ、り、りつに分かるわけない! でもわたしには分かるの! きっとわたしが生まれてきた理由がこれなの! 戦わなきゃいけないんだって! 強くならなくちゃいけないんだって!」
見たことのない剣幕でまくし立てる輝良。
ボクの知ってる輝良は自由気ままで、自分を縛るものなんてないかのように振る舞っていて、そしていつも小さく笑っていたのに。
まるで雨道を行く迷子だった。
自分がどうしたらいいのか分からなくて、どこに行ったらいいのか分からなくて、止まない雨の中で歩いていて。
自分は寒くて苦しいのに、それを誰かに訴えることすら出来ずにいる。
「……うん、分からなかったよ」
ああ、ボクはずっと見逃してきたのかな。
友達が苦しんでるのに、自分だけは傘をさしたままで。
ボクは輝良の横にしゃがみ込んで、その手を握った。
今度は無理やりじゃない、そっとだ。血の気が引いてひどく冷たいその手を、そっと、引っ張ってあげるんだ。
「でも今知ったんだ、だからもう一人で抱えないで」
輝良がどんどん強くなっていく、ボクはただ後ろで見ているだけ。
そしてボクは今日ケガをした。輝良にはもう守り切れないくらいに、ボクと輝良の間には差が出来てしまったのかもしれない。
「守られるだけなのが嫌だった。どんどん先に進んでいく輝良の後ろで、何かをしているふりだけするのはもう嫌なんだ」
「……やめて、おねがい」
ボクの手も震えていたと思う。
何度もフラッシュバックする、あの拳に潰される瞬間を。
全身に走る痛みを、ゆっくりと回復薬が失われていくあの絶望を。
「ボクはずっと輝良を守りたかったんだ」
「聞きたくない! 言わないで!」
それでも、だとしても!
目を背けちゃいけない今がここにある!
「――ボクに戦い方を教えて」
弱いさ、体力なんてないし、戦い方だって全く知らないさ。
だってつい最近までこっちはドロップガールまっしぐら、バイト漬けの日々を過ごしてきたんだから。
生まれた時から鍛え続けてきた輝良とボクの間には、途方もない差がある。
でもそれならボクだって努力し続ければいいんだ。
輝良が毎日三時間、十五年間鍛え続けてきたなら、ボクは毎日十五時間……あいや、それはちょっと厳しいかも、うん。十時間だ! 十時間鍛え続けて、四年で追いついてやる!
あ、でも輝良はこれからトレーニングやレベルアップしてくのか……う、うん! それなら五年だ! いや十年経ったっていい、たとえしわくちゃのババアになったって、だ!
「君が無理やり教え込まれたその戦い方を、君が一人で抱えようとするそれを、ボクと二人で半分こしよう」
必ず追いついて分けてやるんだ。
サンドイッチを分け合うみたいに、スライムを倒した初めての報酬を分け合ったみたいに!
「――いつものボク達が、ずっとそうだったみたいに」
「ずるいよ……本当にずるい、輝良はずるい。わたしが
ボロボロの顔をさらにゆがめ、輝良はまたボロボロと涙をこぼして僕に抱き着いた。
ボクもまた、その思ったより小さい肩を抱きしめた。
強くなるんだ。
部活なんて入ったことがないボクだけど、根性なんて言葉とは縁遠いボクだけど、それでも。
絶対にこの子を一人になんてさせない。
「……いつかわたしは、絶対に今日諦めさせなかったことを後悔する」
「ボクだってそうだ、今日を諦めたらいつか絶対後悔する」
ひねりだした笑い声が聞こえた。
ボクも引きつった喉を、むりやりに揺らした。
「もー、ぜったいにがさないから」
「どんとこい!」
◇
「ひ、ひ、ひぃ! も、もうむりっ!」
「はい座らない! 立って!」
カンカン照りの太陽の元、全身の穴という穴から汗があふれ出してボクは地べたへひれ伏した。
服なんてびちょびちょを通り越してもう濡れ雑巾だ。
朝六時の事だった。
あのまま、気が付けばボク達は二人ベッドで寝ていたのだが、突如として飛び起きた輝良がボクの腕を無理やりに引っ張ったのは。
寝ぼけまなこで渡される服を着替え、たった一杯の水だけを飲まされて気が付けば川辺にいた。
そこから始まったのだ、地獄のランニングが。
「し、しぬ!! もー走れない!!」
「まだいける」
「どう考えたって無理だって!」
心臓は痛いほど高鳴ってる、足裏はもうハチャメチャに痛い!
ボクはこんな姿なのにどうして輝良はこんなケロっとしてるの!? しかも竹刀抱えて飲み物入れたリュックまで背負ってるってのに!
パシパシと地面を叩くも起き上がらないボクに、なんだかすごい不満顔を浮かべる彼女。
「ん~……」
「なにが不満なのさ! こんな走ってるのに!」
もう三十分は走ってる、家のある場所なんて遥か遠くだ。
「えっと……ゲロ吐いてからがスタート、だよ?」
「正気すか?」
この女ヤバいっすよ。
自分のイカレた身体能力を基準に全てを始めようとしてやがりますよ。
すぐには立ち上がれないとあきらめたのだろう、輝良はリュックからペットボトルを引っ張り出してしゃがみ込み、ボクの真横へとぴったり張り付いた。
「どんとこい、でしょ?」
絶対逃がさないから。
間違いなくそう聞こえた。
震える手で受け取り、必死にスポーツドリンクを喉奥へ流し込む。
味わってる余裕なんてない! 飲まないと死ぬ! 殺される!
「ほら走った走った!」
「ひぃ~~!!」
なんかいろいろ早まったなぁ!