ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「踏み込みがあまい」
「くっ」
輝良が何気なく振っているような片手の一撃。
だがそれを受けたボクの短い木刀は、あっさりと手のひらから吹き飛ばされていった。
痺れる腕で慌てて拾い上げ再度対峙。
「リーチを意識して、長い武器は内側に潜られるとよわいから」
「そんなのは……分かってる!」
「視線で動きがばればれ」
再び、今度はより一層強く、素早く踏み込んでみるものの、まるで先ほどの焼き増しかのようにあっさりボクはなぎ倒されてしまった。
「うぇぇ……むりぃ~……」
「じゃあ今日もそろそろ終わり」
すっかり辺りが薄暗くなってきたころ、ボクはその場に座り込んで悲鳴を上げた。
長い走り込みから筋トレ、そしてボクは木刀、輝良は竹刀を持っての打ち込み。
ここ二週間はダンジョンにすら潜らずトレーニングを続けているが、未だに輝良へ一本入れることすら出来ていなかった。
これでも結構体力ついてきたんだけどなぁ……階段とか息切れしなくなったし。
しかしこんだけやってぴんぴんしてる輝良がヤバすぎる。
「本当にこれからも武器アレでいくの?」
「あー、うん」
「りつが良いならいいけど……もっとちゃんとした武器のほうが良いんじゃ」
「あんたが渡してきたんでしょうが!」
あれ、ってのはつまり、今訓練でボクの木刀がやたらと短い理由でもある。
つまりこの前の戦いですっかりひしゃげた鉄扇だ。
今ならわかる。
輝良は元々ボクにまともに戦わせる気なんてなかった、自分一人で戦えばいいと思っていたからこそ、あんな良く分からん武器を渡してきたわけだ。
とはいえもうだいぶ慣れてしまったし、まともな槍や剣なんて重くて使えそうにない。拳で殴るの延長線みたいな鉄扇は案外ボクに合っていた。
「……ま、もう壊れちゃったし新調しないとだけどね」
キレイに真っすぐだった鉄扇は今やへし折れ、ねじ曲がり、前衛的な現代アートと化してテーブルの上に
寝っ転がって天を仰いでた視界へ輝良がぬっと入り込んだ。
「わたしいいところ知ってる」
「ほんと!?」
「一緒にいこ」
.
.
.
「この前の店じゃん」
協会登録販売店、要するにダンジョンで使えるアイテムなどが売られてる店だ。
「ん、店の奥に武器がいっぱい飾られてた」
「へー……全然気付かなかったなぁ」
輝良の提案は丁度良かった。
なにせボクの回復薬は全部壊れちゃったからね! 十万もしたのに! まあほかにも色々セットされてだけども!
「おじゃましまーす」
「おじゃすっす」
相変わらず静まり返った店内は薄暗い。
「ああ、ああ、すぐに手配する。シェルターへ自己注射器を五十単位、リカバリーのスポットを十単位だな?」
いや、何か聞こえる。
どうやら店主の老爺は電話をしているようで、少し入ったカウンターの奥にいた。
「曙光の連中、随分と派手に動き始めたみたいだな。よし……ん?」
人差し指でぎこちなくキーボードを叩きながら独り言を溢す彼だったが、いつの間にかこっちが眺めていたことに気付き、快活な笑みを浮かべる。
ひょこひょこと少しおぼつかない歩きでカウンターの前に立つと、その小さな体に見合わぬ大きな声でこちらへ声をかけてきた。
「おう、待たせたなお嬢ちゃん達! また来るとは思ってなかったでよ!」
「あはは……」
あの、それってどういう意味ですか?
ボクは聞きかけた口を閉じた。
なんとなく返答は予想できたし、いちいち噛みついていたって意味がない。
それより今のボクにはもっと大事な予定がある。
「あの、こんな感じの武器って置いてたりしますか?」
仕舞い込んでいた元鉄扇をカウンターの上に転がす。
店主はしわだらけの手でそれをつかみ上げると、実に興味深そうに何度も眺めてから、深々と実に長い溜息を溢した。
「珍しいな」
「いやー……なんと無しに選んだら、まあもう慣れちゃったみたいな?」
「本来は護身用の道具だぜ、本格的なダンジョン踏破で使うもんじゃねえ」
やっぱそういう扱いなんですね……うん、知ってたけど。
「それにこの凹み様、ぐちゃぐちゃにひしゃげちまってる。まさかお嬢ちゃん、これと一緒に攻撃喰らったとか言わねえよな?」
「へへ……いやその……」
色々ぐちゃぐちゃになりかけてましたとも!
そのあとも色々大変でしたしな!
「良く生きて帰ってこれたな」
ばつが悪くて視線を逸らしたボクに大方の察しは付いたのだろう、もう一度彼はため息をついて腕を組んだ。
「悪いことは言わんから死ぬ前にやめとけ、もう片方のお嬢ちゃんはまだ戦えそうだがな」
探索の興隆から人を見てきた長年の勘なのか、輝良へちらりと視線を向け彼は言う。
鍛えられた体なのか、本人の纏う雰囲気か。
彼からしてボクは、まあ、才能がない人間の典型例なのだろう。
ちょっと笑っちゃうな、そんなにダメかボクは。
「それでも、ボクは一緒に戦わなきゃいけないんです」
その眼を睨みつけた。
皺の奥に眠る老獪な視線がボクを貫く。
カウンターの端を握りしめ、じっと視線を固定していると、ふ、と突然彼の纏う雰囲気が柔らかくなった。
「ええでよ。知り合いん鍛冶師に頼んだる、ここに欲しい要素を書いていってくれや」
「本当ですか!?」
出来合いの武器か、ないなら取り寄せてもらうくらいの感覚だったのに!
オーダーメイドの武器なんてめっちゃかっこいいじゃん!
ボクは差し出された依頼書を握りしめて飛び上がるも、とある欄を見てふと冷静になった。
そこに書いてあったのは見積額だ。
そうだ。靴だって、コートだって、世の中のオーダーメイドとつくものは得てしてバチクソ高額品である、という事実はさすがのボクとて存じておりまする。
「あ……でもオーダーメイドなんて高いんじゃ……」
「ああ、本来なら数十万はするでよ。でもまあそうだな、今回は三万でいい」
高い! でもま、まだいける!
いや~でも高い!
慌ててスマホで銀行の口座をのぞきこむ。
「……あやしい、おとくすぎる」
「こら輝良!」
「おいおい相変わらず不躾だなそっちのお嬢ちゃんは! 嘘なんか言っちゃいないさ」
輝良を咎めつつ、ボクも内心確かにと同調する。
通販でありがちな奴だ。事前に死ぬほど値段を吊り上げて、キャンペーンの日に元の値段に下げてほら超割引中だよ! なんて!
はたして何度ボクが引っかかったことか!
「昔、っても五年前くらいだがな、おめえらそっくりの子達がいたんだよ。歳はたしか大学生とか言ってたかな」
ボクが口を尖らせていることに気付いたのか、しぶしぶ彼は語りだした。
「あの頃はまだこの店もにぎわってた、なにせダンジョンが出てすぐだったからな。そんな店の中でも騒がしくてよく目立ってたよあの子たちは」
「へぇ、今はどうしてるんですか?」
「ああ、死んだよ。片方はな」
突然の話に心臓が跳ねた。
その出来事は決して他人の話として扱えるほど、ボクの記憶から薄れていないから。
「え……」
「二人ともずいぶん有名になった頃だったかな、ダンジョンの『侵食』を止めようとして死んだのさ」