ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「ああ、死んだよ」
淡々と、よくあることだと語る店主。
「二人ともずいぶん有名になった頃だったかな、ダンジョンの『侵食』を止めようとして死んだのさ」
侵食、崩壊。
ダンジョンに関わりのない一般人がダンジョンの名を聞く時、それはこの二つのワードと同時に流れるニュースからだ。
細かな使い分けは知らない。ただモンスターが溢れるだとか、外まで景色が変わるだとか、でもそれは大体数日もすれば次のニュースが流れて、無事解決された、とだけ伝えられる。
その裏で死んだ人間がいるなんて考えたこともなかった。
「もう一人はまだ活動してるよ、この前久々にあったら随分とまあ死に急いでそうだったがな」
唖然とするボクをよそに、どんどんと話を進めていってしまう彼。
「もしあの時、二人とも死んでたら。今とどっちが幸せだったのか俺にゃ分からん」
どこか遠くを見て腕を組む店主。
それだけのことがあってなお戦い続けるその人。
きっとボクと同じで、最初は二人なんとなくダンジョンを潜ったに違いない。
流行のもの、流行の場所、そんな感覚だったはずだ。
出会ったこともないその人の苦しみをボクは全て知ることなんて出来ない。
それでもどこか共感してしまうのは、もしかしたらあの夜、たった一言でも間違えてしまえば全て失ってしまうかもしれなかったからなのかもしれない。
「あの!」
あり得た未来、あり得る未来。
それでも、あえて言わせてもらおう。
「店主さんボク、絶対に死にません。輝良を死なせもしません!」
「……ああ、ハハ! 確かにそれが一番だな! なら一つ覚えとけ、ヤバかったら全部ぶん投げて逃げるんだ。それが長生きのコツってもんよ」
「はい! 輝良だけ連れて全力ダッシュします!」
「おうよ!」
勢いのままボクは一気に見積書へペンを走らせた!
サイズは前のと同じ、でも出来るだけ軽くて丈夫なヤツ! それと全部金属製で壊れづらくして、さらに扇の外のところには刃もつけてもらおう!
それとそれと予備にもう一個同じのもつけてもらって、さらに……!
「これちょーだい」
「おまっ、それ店の裏に置いといたヤツじゃねえか! なに勝手に持って来てるんだっての!」
必死に机へかじりついていたボクの横から、にゅ、といつの間にか姿を消していた輝良が現れた。
彼女はその手に随分と大きな刀を握っている。
うわ、コレ本物の刀?
確か輝良の道場にもあったし何回か触ったこともあるけど……いつも見る奴より結構大きいしなんだか太い。
「すごそうだから持ってきた」
「そりゃすんごい物よ。刃自体は工業品だがな、柄の中がちょいと違うんだ」
「ネクスティインダストリアルの最新式だ、研究段階だが自動修復機能が付いてるんだよ。魔力を注ぐなり魔石をここに当てるなりですぐに直る」
「え、ネクスティってあのゲームとか出してる?」
ネクスティといえば世間で知られてるのはもっぱらネクスティエンターテイメント、幅広いゲームソフトを販売している超大企業だ。
ジャンルはファンタジーからストラテジー、恋愛ゲームまで本当に何でも出していて、昨日の夜も輝良と『PUZZLE DE BUZZLE』、通称パズバズなんて対戦型のパズルゲームをやったばっかり。
あの企業がいつの間にかゲームどころか、工業製品にまで手を出してるなんて知らなかった。
昔は輝良の妹も一緒にボクの家に来て、三人で協力したり対戦したりしてたなぁ。
ちなみに輝良はゲームがマジで笑っちゃうくらい弱い。
どれそれが下手くそとかじゃなくて、まんべんなく全てのゲームで弱い。ボクが唯一輝良に勝てるのなんてゲームの腕くらいだ。
ま、ボクはパズバズで全国ランキング何回も乗ってるくらい強いからね! ふふん!
一位は取れなかったけど! あのカルミアとかいう奴が何回もボクの邪魔してきて……思いだしたらムカついてきた!
「へー」
「おいこら言ったそばからへし折ろうとするんじゃねえ!」
ボクがかつての屈辱を思い出している横で、輝良が刀の刃を地面へ押し付けぐいぐいと蹴り始めた。
艶やかで伸びた刀の姿はどこへやら、あっという間にグニャグニャに曲がってしまっている。
えぇ……何やってんのアンタ。
それ一応商品だよ? いや裏にあったから売られてすらいないんじゃ。
「りつ、魔石持ってる?」
「え? あ、うん。この前のマンドラゴラの魔石ならあるけど」
なにせ倒した直後にゴーレムと交戦、速攻でボクはダウンだった。
アレ以降ダンジョンにも潜れていないし協会にも足を運んでないとのことで、一個だけリュックの中に転がったままだ。
リュックをひっくり返して見つけ出したそれを輝良に手渡すと、彼女はさっき店主が指差した柄頭へと魔石を押し当てた。
「うそ!? すっご!」
「おお、なおった」
にゅるって感じだった。
金属にあるまじき動きで刀がグニャグニャになったかと思うと、あっという間にピンシャンの一振りの完成だ。
マジか、めっちゃすごいやんネクスティ!
パズバズプレイヤーとして鼻が高いよボクは!
「お、お、おう! 当たり前よ! 最新式だぜ!」
「めちゃ挙動不審じゃないですか」
内心店主も疑っていたのだろう。
汗をだらだら浮かべながら、しかし分かっていたかのような飄々とした表情で鷹揚に頷いている。
いやー、弁償とかなったらさすがに泣いちゃうからボクも安心したよ。
そんなボク達を置いて、彼女はぽてぽてと歩いて店の端にあったものを引っ張ってくる。
それは薄い畳みたいなやつをぐるぐるに巻いた奴だった。
なんだっけこれ? これも輝良の道場で見たことあるなぁ、巻き藁? いやこの形は畳表だっけ?
「これ切っていいの?」
「しょうがねえなぁ……おう、好きにしろ。ただし乾いた竹入りは素人がそう簡単に出来るもんじゃねえぞ」
店主の言葉を聞いているのかいないのか、輝良は店の中央、広く空いたスペースに巻き藁を五つ、一直線に並べる。
彼女は手にした刀を鞘へ納めると、静かにその柄へ手を当て――
いやに軽い音と共に、横一文字へ刃を走らせた。
「気に入った」
巻き藁は、まだ元の姿を保っている。
輝良が刀を仕舞い、振り返ると同時に、中心からゆっくりと五つの巻き藁は地面へ落ちた。
「支払いは狐天の家につけといて」
「……ああ、なるほど。お嬢ちゃん、
「私が誰とどこにいたかは言わないで」
いやー、相変わらず輝良はすごいなぁ。
凄すぎて逆に簡単そうに見えるけど!
遠くで店主と輝良が何か話してるのを見ながら、ボクは見積書をドンドンと書き進めていく。
居合切りは何回かやらしてもらったことあるけど、あんな簡単そうにやってるのに、ボクがやると一本もきれないんだよなぁ。
あっ、そうだ! あの刀の修復機能もボクのにつけてもらお! 絶対便利だし!
ようやく書き終わった紙をウキウキで握り、ボクは輝良たちの元へと駆け寄る。
「こ、これでお願いします! さっきの輝良の刀の修復機能ってボクのにも付けられますか?」
「や、アレはネクスティの技術だからなぁ。また色々と……」
途中まで話しかけた店主が、ふと輝良へと視線を向ける。
「ん、これも
「分かった、二週間もしたら家に届けよう」
体は疲れ切っていた。
日々のトレーニングは苛烈で、毎日どこかしらが筋肉痛だ。
だがしかし、店主の好意で自分だけの武器が手に入るとなれば、不思議とこんこんとやる気が湧き上がってくる。
二週間かぁ! よっし、その間みっちりトレーニングしよ!