ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
第26話
YOU WIN!
細身のキャラクターが飛び跳ねる横で、大柄筋肉質のキャラクターがばったりと地面へひれ伏す。
ボクは悔しがる輝良の横でニヤつきつつ、コントローラーから
「輝良相手なら足でも勝てちゃうよ~!」
「ふぬぬ……!」
地団駄を踏む輝良を尻目に、ボクは冷凍庫を漁り小さなアイスのカップを引っ張り出す。
これは格別なる勝利の味だ。んまあ輝良とゲームすればいつでも味わえるけど。
「んじゃあ輝良がお皿洗いね、よろぴく~!」
「も、もう一回! 次できめよ! ね!」
「それもう三回目じゃーん、もうダメでーす!」
その全部がボクのパーフェクトゲームだったのは言うまでもない。
しくしくと脚に縋りつく彼女をげしげし蹴りつつアイスを頬張っていると、突如としてインターホンが鳴り響いた。
時刻は夜の八時、すっかり太陽も沈んだ時間帯だ。
んん?
こんな時間に?
「輝良なんか通販頼んだ?」
「なんも」
首を振る彼女にボクも首を傾げる。
ボク自身ももちろん何かを頼んだ記憶はない、そしてこんな時間帯にわざわざ予定を組んだ記憶ももちろん。
知り合いで突然こんなことをしてくるようなのは輝良だけだが、張本人は地面に転がってボクの足の爪を弄っていた。
「ん~……まあ出るかぁ」
しぶしぶインターホンへ近づく。
なにせボクの記憶の中じゃこんな時間帯にくる奴はろくでもない奴ばかりだ。
あれはそう、一人暮らしを始めた頃だった。
こんな時間帯にやってきて一体何かと思えば、そこから始まるウォーターサーバーの押し売り。
閉じようにも差し込まれた足、ペラペラと無限に連ねられた無価値な言葉。
確かあの時は警察に通報してどうにか……ああ、嫌な記憶が次から次へと。
首を振ってインターホンへと手を掛ける。
「はい、なんでしょ……ありゃ?」
うちのインターホンは外の人が見えるタイプだが、不思議なことにそこには誰も映っていなかった。
いや、よく見ると下の方で何か動いている。
つやつやの黒いポニーテールだ、それだけがひょこひょこと。
子供?
「はーい?」
カメラから見えないんじゃ仕方ないので、すごすごと玄関まで足を運び扉を開く。
「夜分遅くにしつれ、いや、違うかった!」
そこに立っていたのは一人の少女だった。
身長は平均値のボクより頭一つは小さく、まだ着慣れていないのだろう、ピンと張ったブレザーに身を包み、少し緊張した面持ち。
この子、どっかで見たことあるような……?
そう、現在進行形でゴロゴロしてるうちのバカウルフカットに似ていて、でもすこしこの子の方が吊り目気味で――
「――もしかしてクレアちゃん?」
「っ、はい! そうです!」
彼女はパっと表情を明るくして面を上げた。
クレア、本名は
名前からしてもはや言うまでもないかもしれないけれど、輝良の一歳下の妹ちゃんである。
高校に入る少し前から会ってなかったからもう三年近い? 身長は前からあんま変わってない気がもするけど、髪型などで少し気付くのに遅れてしまった。
こちらが気付いたことで勢いづいたのか、彼女は食らいつくほどの勢いでこちらへ詰め寄った。
「あの、りつねぇ……じゃない! おねえ、じゃない! 谷百合! さん! ここにお姉ちゃんがいますよね!」
「あ、ちょ、い、いないって!」
そういえばこの子、輝良の事大好きだったなぁ……。
いっつも輝良にべったりで、そのままボクの家まで引きずってきた輝良とクレアちゃんの三人で、仕方ないからとゲームを何度もしたことだってある。
ごまかしながら薄ら笑いを浮かべ適当に彼女をあやしてみるものの、なんと目ざといことか、彼女は玄関の靴を指差して叫んだ。
「嘘つかないでください! だってこの靴お姉ちゃんが履いてたやつです!」
「あー……」
それは輝良が普段から履いている白の運動靴だ。
乱雑に脱ぎ捨てられたそれは、土や砂ですっかり茶色に汚れてしまっている。
なんで靴まで覚えてんの?
ボクなんて家族の靴の形全く覚えてないのに。
まずいなぁ、なんて考える暇もなくクレアちゃんはボクを押しのけ、丁寧に靴を並べてからの室内への侵入を試みる。
ちょっと抵抗してみるも無駄だった。小柄ながらもしっかりとした力強さ、そして何より確信を持って行動しているクレアちゃんを止めることなど不可能なのだから。
勢いよくのしのしと廊下を歩く彼女の後ろで歩くボクはさながら死刑囚だ。
「ん、クレア。おいすー」
勢いよく開かれたリビングへの扉、
カーペットに寝っ転がった輝良が適当に手を振った。
「おねえちゃーん!」
「おひさ」
さっきまでの不機嫌そうな顔はどこへやら、素早く駆け寄ったクレアちゃんは輝良の胸元へ顔をすり合わせている。
輝良も輝良で、彼女の頭を適当になでなでしながらポテチを貪っていた。
「はぁ……もう。輝良、皿洗いは?」
「今はまだそのときではない」
反省なんてない態度、パリパリとポテチを運ぶ腕は止まらない。
ポテチを食べ終わるまで彼女は動きやしないだろう。
しばらく二人の様子を眺めていると、もう十分堪能したのだろうか、クレアちゃんは輝良に抱き着いたままきりりとした表情を浮かべ、力強くこちらを睨みつけた。
「谷百合さん! どういうことか説明してください!」
.
.
.
「……つまり、ただお姉ちゃんが帰りたくないからここにいるだけ、と」
「んまあ、そういう事になるね」
と、言うわけでボクはしぶしぶクレアちゃんに今までの話を説明した。
勿論細かいところ、輝良の本音などは大半隠してある。本当にざっくりと、輝良が帰りたくないというので、二人で仲良く学校サボってますって内容だけだ。
ローテーブルに向かい合ったクレアちゃんが鋭い目つきをこちらへ向けた。
「谷百合さん、なにか隠してませんか?」
「えー? 全隠してナイヨ~?」
「ふぐぐ……」
うーんめちゃバレてらぁ。
ぷっくりと口を膨らませ怒る彼女からボクはそっと目を逸らし、今までの会話を全て脳内から吹き飛ばした。
今必要なのは戦術A、つまり全部うやむやにすることだ。
「いやー、それにしてもクレアちゃん何年振り? もう三年くらい? 髪伸びたね~!」
「そうなんです! 昔お姉ちゃんがやってたポニーテールにしたくて……って違う! 誤魔化さないでください!」
「髪の毛すっごい綺麗~! ボク長い髪はどうも面倒ですぐやめちゃうんだよね~」
「えっへへ……お手入れは大変なんですけど頑張ってます!」
ちょろすぎるぜ、ボクは少し心配だよクレアちゃん。
彼女の機嫌がいいうちにボクは台所へと足を運ぶ。
手に取ったのは大きめのマグカップとインスタントコーヒー、ミルク、そしてはちみつの瓶。
これはかつて何度も彼女の機嫌をひっくり返した最強の作戦だ。
「はい、クレアちゃんの好きなはちみつとミルクたっぷりのカフェラテ」
「わ、ありがとうございま――ちがーう!」
「もしかしてしばらく会わないうちに味覚変わったりした?」
「い、いえそういうわけでは……も~! 誤魔化さないで!」
口に牛乳ひげをつけて彼女は叫んだ。
くっ、流石に成長していたか……!
昔はこれで大体誤魔化せたのに!