ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「も~! 誤魔化さないで!」
口に牛乳ひげをつけて彼女は叫んだ。
くっ、流石に成長していたか……!
昔はこれで大体誤魔化せたのに!
「お姉ちゃんもさっきから黙ってないで何か言ってよ! あと夜遅いんだからポテチなんて食べないで!」
「わたし太らないから」
「そういう問題じゃない!」
「あー……『至福のマキシマムじゃがバター×ギルティはちみつ味』が~……」
クレアちゃんの手元でくしゃりと潰される袋。
なんて真面目な子なのだろう、同じ環境で育ったはずなのに輝良と一体何が違うというのか。
しくしくと泣きながら輝良がボクの足へ縋りついた。
「りつ~……」
「はいはい、明日一緒に買いに行こうね」
「コンソメも! 限定版至高の濃厚リッチコンソメも!」
ええい調子に乗るんじゃない!
「二人とも! ちゃんと聞いてよ!」
テーブルをバシバシしばいて少女が叫んだ。
「突然お姉ちゃんが消えて二か月。実の娘がいなくなったっていうのに、パパもママもほとんど探す気がないし、そもそもなんでいなくなったのかも分からないし!」
「ふむ……」
やっぱり、輝良の両親は輝良を本気で探すつもりはないのか。
いや、探す気がない、というよりここにいることを察しているってところかな。実際クレアちゃんもここにいるって来たワケだし。
「絶対に何か隠してるのに……!」
「あっ、ちょっとクレアちゃん!?」
少女がすっくりと立ち上がった。
額に深いしわを刻み、こちらの制止も聞かずに足音荒くリビングを荒らしていく。
テーブルの下、ソファの裏、そしてついにベッドの下を覗き込んだ。
「……これ、鞘?」
あ、まずい。
彼女がにょっきりと引っ張り出してきたのはそう、この前買ったばかりの輝良の刀だ。
そしてそれが見つかってしまったとなれば――
「刀だ、それもちゃんと刃が付けられてる……こっちは鉄扇? こっちも刃付き……」
「あちゃー……」
続々と引っ張り出されてくる武器の数々。
もし彼女がただのピカピカな高校一年生だったら、こうも素早く気付かれることなんてなかっただろう。
だが彼女とて輝良と同じく――記憶じゃ輝良ほどトレーニングはしてなかったはずだけど――剣術道場で竹刀を振っていた。
勿論、実物の刀にも触れたことがあるはずだ。
というか鉄扇もすぐに分かるんだ。
ボクなんてダンジョン入る前に初めて存在知ったんだけど……近頃の女子高生には常識だったりする?
「あ、あ~、言い忘れてたけどさ、輝良と二人でダンジョン潜ったりしてるんだよねぇ~」
「ダンジョンに……?」
恐る恐る口にした瞬間、彼女の目の色が変わった。
「危ないです!」
「ごもっともでごぜえます、へへ」
ストレートにそこ突かれるとめちゃくちゃ弱くて困っちゃうんだよなぁ~!
学校サボったり家飛び出して生活してるドロップアウトガール二人にとって、一番効果のある攻撃は正論パンチなのだ。
弱ったな、なんて頭を掻いていると突然輝良が立ち上がった。
彼女は凛々しい顔つきでこちらをじっと見つめ、静かに口を開いた。
「りつ、もう正直にはなそ」
「輝良!?」
「いい、だいじょうぶ」
そこにあったのは覚悟が決まった表情だった。
まだ正直、ボクは輝良を取り囲む実態のすべてを把握しているわけではない。
だが同時に分かっていることとして、どうにも輝良の実家はかなりキナ臭い、ということもまた事実。
それを包み隠さず言う、というのは輝良自身にしても、そしておそらく何も知らないであろうクレアちゃんにも大きな負担になるはず。
本当に、言うつもりなの?
「クレア、よく聞いて」
「……! おねえ、ちゃん……?」
誰かの喉が鳴った。
輝良は自分よりふた回りは背の低い妹へ歩み寄ると、静かにしゃがみ込んでその肩を掴んだ。
「わたしもうあの家には戻らないから、帰ったらあの二人にもそう言っといて」
「あの輝良さん?」
ちょっと?
「これからはりつといっしょに暮らす。ジャマだからアンタはさっさと帰って。以上」
「おバカ! もうほんと……ほんとおバカ!」
スコーン、とその頭を平手打ち!
随分シリアスな顔したと思ったら何を言い出してんのか!
いやまあ面倒な状況になってるし、早く帰ってほしいのは正直ボクもそうだけども!
案の定狼狽えだすクレアちゃん。
「ど、どうして……やっぱりパパかママと何かあったの!? それとも……」
「クレアが知る必要はない」
「っ、なんで……!」
「クレアに言う必要はない」
どうやら輝良は武器だけでなく言の葉でも相手を切り裂くのが得意な模様。
もうクレアちゃんは泣く一歩手前だ。
なにせこの子は昔から輝良にべったり、ボクの記憶が正しければちょっと崇拝に近いところにまでいたってのに、こうもにべもなく切り捨てられたら、ねえ。
見てられん!
「アンタは言葉が足りな過ぎる!」
「ふぇぇ……
もうちょっと言い方ってもんがあるでしょうが!
バカのほっぺを抓り上げながら、ボクはクレアちゃんに苦笑いを送った。
まあ事情なんて言えやしないのは分かっちゃいたけれども! 普段から言葉が足りないのは分かってたけど!
というか昔からこんな調子なのに、なんでこの子はこのバカをこんなに崇拝してるんだ!
「ご、ごめんねクレアちゃん? なにも輝良だって悪く言いたいわけじゃないんだよ、ただこのバカにもちょっとだけ事情があって……ね?」
「ぐすっ……!」
「ああああ! 泣かないで! 問題解決したら必ず家に帰らせるから! 大丈夫だからっ!」
みるみるうちに彼女の頬へ涙がせりあがっていった。
あ、あかんで……!
これは!
「どうして……」
掠れた小さな呟き。
「どうしであ゛だじには相談じでくれないのっ!? なんで何も話してくれないの!? あだじだってお姉ちゃんの役に立ちたいのにっ!!」
ついに彼女は限界を迎えた。
堰を切ったように涙、そして共に大量の言葉があふれ出す。
さっきまでの少し丁寧な口遣いはすっかり壊れ、等身大の彼女の気持ちが次々に紡がれていった。
不安だったのだろう。
いつも堂々として凛と張っていた――もちろんクレアちゃん視点の話――自慢の姉が突然姿をくらませたのだから。
ボクももう少し気をかけてあげればよかった、輝良に連絡するように言ってやれてればまた違ったのかもしれない。
「許さない……絶対に許さない……!」
「ど、どうしよう輝良!」
「ん、放置でいい」
放置って!
あんな仲良かった姉妹仲がおかしくなっちゃうなんて……!
「絶対に許さないから、
「えええ!? ボク!?」
なっ、ななななっ、なんで!?!?
逆でしょうが! どう考えても! 間違ってるでしょうが!!
目を真っ赤にしてなぜかこっちを強く睨みつける少女。
拳を硬く握りしめプルプルと震えるさまを見ながら、あまりの理不尽さにボクは素っ頓狂な叫びをあげてしまった。
「ふ、二人でこっそりダンジョン探索したんだ!」
「したけども!」
「あたしだってしたことないのに! お姉ちゃんとダンジョン探索!」
「いやでも危ないしさぁ! クレアちゃんはやめたほうがいいって!」
普通に人死ぬんだから!
「ふ、不健全! サイテー!!」
まあ学校サボってるから不健全ではあるけどさぁ!
唖然とするボクを尻目にリビングを飛び出し、どかどかと廊下を走っていくクレアちゃん。
一応、って感じでとりあえずボクも後を追うと、彼女はパンプスを必死に履き、きっとこちらを睨みつけた。
「あたし絶対諦めないから!」
必死にドアノブを回すも扉が開かない。
「スマートロックだからボクのスマホ使わないと開かないよ」
「~~! ~~っ!!!」
ぽちっとな。
「絶対に絶対にぜーったいにお姉ちゃんを連れ帰るから! 覚悟しろ谷百合律!!」
荒々しく叩き付けようと途中まで勢いづき、最後はためらってそっと扉を閉めていく彼女。
「なんでボク嫌われたの?」
「でもわたしはりつのこと大好きだよ、えへへ」
リビングに戻ると既に輝良はカーペットへ寝っ転がり、クレアちゃんがさっき握りしめていたポテチの袋を開いていた。
ポリポリと中身を食みつつ小さくウィンク、自分の発言のせいでこうなったとは思ってもいないようだ。
「えい」
はぁ~! どうしたもんかなぁ……ん、コレ結構イケるじゃん。
全部食べちゃお。
「あ~! わたしの『至福のマキシマムじゃがバター×ギルティはちみつ味』が~!」