ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
クレアちゃんが家に突撃してきてから一週間がたった。
あの様子じゃ毎日にでも家に来るか、なんて考えていたものの、意外なことにあの日以降クレアちゃんを見ていない。
ちょっとこの前は怒ってたけど元々大人しくていい子だしなぁ……案外家に帰ったら冷静になったのかな?
だがしかし彼女の行動はボクのそれを上回っていたと気付くのは、輝良と二人で協会へ足を運んだその時だった。
「あ、クレアちゃん!?」
なんとクレアちゃんが協会へ足を運んでいたのだ!
ラフで動きやすい恰好をした彼女は、片手に少し小さめの木刀を硬く握りしめている。
しかも彼女の周りには同年代の少女がさらに三人、仲良さげに談笑をしていた。
「りつねぇ……プン!」
一瞬昔のままな顔を向けるも、はたと思いだして遠くを向く彼女。
「まさか本当にダンジョン行くつもり? 危ないって!」
「……なに、あたしの勝手でしょ?」
足早に遠くへ歩き出すクレアちゃん。
彼女の行動があまりに唐突だったからか、友人らしき三人は反応しきれずにその場で立ちすくんでしまう。
ボクと彼女ら、互いに顔を見合わせ、最初に口を開いたのは苦笑いを浮かべたボクからだ。
「えーっと、クレアちゃんのお友達かな?」
「あ、はい」
「ご両親にお話は済んでるの? ダンジョンって本当に危ないよ?」
ボクの言葉に互いに顔を見合わせおずおずと頷く三人。
ショルダーバッグから折りたたんだ書類を取り出した彼女たちは、しかし少し浮かない顔つきをしていた。
「……その、そのいきなり行こうって誘われて」
「ウチはちょっと興味あったし!」
「みんなが行くところについていくだけ―」
どうやらクレアちゃんに誘われたらしい。
それぞれ思うところはあるようで、興味があったと一人が言うものの、大人し気な子は小さく顔を顰めている。
しかしクレアちゃんとは大分仲がいいのだろう、断り切れずについてきてしまったようだ。
うーん、やっぱりまだ怒ってるんだなぁ。
まあそもそも――
「――あんたのせいでしょうが! 妹なんだからどうにかしなさいよ!」
横でフラフラとあちこちを見ているバカの頭をはたいた。
このバカがあんなへんな物言いしなければもう少しやりようはあったってのに!
「も、もしかしてもしかして! この人ってクレアちゃんの!?」
大人し気な子がきらりと目を輝かせ突然寄ってきた。
「あのあのっ、高校入って三日で一帯のヤンキーを全員締め上げて! 剣道では三年連続で全国一位を取って! 模試では常に満点を取って! 歩いた場所にはコンクリートの上でも花が咲くっていう!」
「最後は絶対違うと思うよ」
「そう、わたしがクレアのお姉ちゃん。ちなみにはしればそこには大樹が屹立する」
また適当なこと言って!
「すごいすごい! 本物! 話より本物のほうがかっこいいしかわいい!」
「ふふん、なかなか見る目がある。よしよし、ちこうよれ」
大人し気な彼女を満足げに撫でる輝良。
「アハハ……なんか電波あっちゃったみたい」
「ルリはいっつもあんなんだよ! クレアの話ぜーんぶ鵜呑みでウケるんだよねー!」
「だってちょーバカだもんルリー、眼鏡かけてるのに―」
「ルリ? あああの子の名前! そういえばみんなの名前聞いてなかったよね!」
大人しそうで輝良と気の合った子がルリ、快活でギャルみを感じるのがザクロちゃん、そしてのんびり屋な子はルチルちゃんと言うらしい。
聞いてみればやはりダンジョンのことはあまり詳しくないようで、なんかモンスターがいる、なんてちょっと前のボクの認識そっくりな返答が返ってきた。
そうだよねぇ、なんも知らないよねぇ。
身近にダンジョンがあるのに何で、なんて言われるかもしれないけど、そこらにあるビルの会社が何をしてるのかと同じ、まあよっぽど興味がなければなーんも知らないのは当たり前だろう。
が、しかし! 同じ道をすでに通ったボクとしては見過ごせん!
「よし、それならまずはこれ!」
バックから取り出したるは三本の注射器だ。
ついでに横のバカのバックからも同じ本数抜き取ると、ボクは目の前の三人へ二本ずつ手渡した。
「ほらほら、遠慮しないで! 一人二本ずつね!」
不思議そうに注射器を見る三人。
安心してください、怪しいお薬じゃあございませんよ!
「これね、あーっと、ゲームでいう回復薬って言えば分かりやすいかな?」
これはこの前あの店で買い増した回復薬だ。
その効果はお墨付き、間違いなく死にかけたボクがここで立って話しているのだから間違いない。
いくら感情的になっているとはいえクレアちゃんは元々まじめで大人しい子だった、そう無茶はしないだろうと踏んでいるけど……ま、何があるか分からないし。
使い方を説明すると彼女たちは興味津々な様子で注射器をいじくり始めた。
この調子ならきっと問題が起こったときすぐに使ってくれるだろう。
「皆なにぼさっとしてるの! さっさと行かないと夜になっちゃうよ!」
遠くで怒り心頭のクレアちゃんが叫んだ。
三人は困ったように顔を寄せ、どうしたらいいかとこちらへと視線を飛ばす。
「ちょいまち」
しかしそこで前に出たのは、意外にも輝良だった。
彼女は自分のリュックから二本の回復薬を取り出すと、一番近くにいたルリちゃんへと手渡しこくりと頷く。
「だいじょうぶ、いって。あの子を守ってあげて」
輝良がそういうと、彼女は口々に感謝の言葉を上げてクレアちゃんの元へと歩き出した。
「ふ~~ん」
「なに?」
「意外だなーって」
ボクは頭の後ろに手を回して横へと視線を向ける。
「輝良ってクレアちゃんのこと面倒がってるだけだと思ってた」
そもそも輝良の態度は誰にでも大体そっけない。
それは妹も同じで、この前の出来事を見ていれば誰にだって分かることだろう。
そんな彼女がわざわざその妹用の回復薬を手渡すなんて。
まあボクの分渡したところで捨てられるのがオチだから良いと思うけどね。
輝良のを貰ったといえばクレアちゃんだって捨てたりしないだろう、むしろ自分の部屋に飾ったりしなければいいんだけど。
「あの子、わたしと育てられ方がちがうから」
輝良は彼女たちが消えた後を目で追った。
「戦闘訓練だって別に、教え込まれてるわけじゃない。全部自由にさせられてた」
思えば、確かに道場で竹刀を握るクレアちゃんを見る機会は少なかった。
輝良がボクの家に来るのはかなり稀で、いつもボクは道場にいる輝良に会いに行っていた気がする。
まあだからこそボクの家に行こうとした時、勝手に引っ付いてくるクレアちゃんのことを輝良は嫌がっていたのだろう。
「わたしはそれがうらやましかった、でもあの子はわたしに憧れる」
柄に手を置いた彼女は目を瞑った。
「んぅ……よくわかんない」
心から憎んでいるわけではない。
けれど一言で語り切れぬ複雑な感情が絡んでいるようだ。
それでも心配は間違いなくしてるのだろう。でなければこんな何度も、指先で柄を弄ぶように触ってはいない。
ボクの中じゃ輝良は自由気ままなヤツだった。
でもあの日、コンビニで出会った日から彼女の知らない顔を見て、たった数か月でどんどんイメージが変わっていっている。
きっと輝良は言葉にしないだけで、ボクの何倍もいろんなことを考えているのだろう。
「ふ~~ん?」
「……なに?」
「べっつに~~~?」
結構人間らしいところあるじゃん、なーんてね。
「さって、今日もダンジョン行きましょー!」
「りつ! 無視しないで!」
「何の話~? あー忙しい忙しい、急がないと日が暮れちゃうよ~!」