ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「へぇ、初めてのダンジョンなんですねぇ」
ニコニコと、門の前で立っていた管理人の男性がボクの話に相槌を打った。
輝良のスクーターに乗ってたどり着いたのは街中も街中だ。
ビルが立ち並び、様々な店が軒を連ねるありふれた市街地の中、突如として物々しい大掛かりな門と柵、その先に謎の建物が見えるこの場所こそが目的地だった。
ダンジョンダンジョン、なんていうからもっと広いお城だとかが突っ立ってるのかと思ったのに、なんか思ってたのと違う。
ぱっと見の面積は少し大きな一軒家ほどしかない。
「そうなんです、横のバカに無理やり連れてこられて……」
「あっはっは! そりゃ大変だ! でも大丈夫、ここは最低レベルのダンジョンですから、よっぽどのことがないと怪我もしませんよ!」
「じゃあさっそく失礼いたしまする」
「まてまて、失礼するんじゃない!」
目を離せばすぐダンジョンに突撃しようとするな!
「ちなみに武器はお持ちで?」
「あ……」
そっか、ダンジョンって戦うんだよね。
武器なんて考えもしなかった。
「わたしは持ってる」
口に手を当てるボクの横で、輝良が背負っていた袋のジッパーを引っ張る。
中から露わになったのは使い込まれた竹刀だ。
ボクのバイト先に突撃してきたのだから言うまでもないことだが、準備は完璧に整えていたらしい。
「いやどうせならボクの分の武器も持ってきてくれよ!」
「輝良はわたしが守るよ」
「自分でも武器持ってないと安心できないでしょ!」
なんならさっきアンタ一人で突撃していこうとしていたでしょうが! 安心できるかっての!
「大丈夫ですよ。本格的に冒険者稼業に手を出すならともかく、ここは初心者の方も多いので貸し武器もありますから」
「え!? 本当ですか!?」
「工房から試作品、失敗作、それに寄贈品など色々あってですね、中々幅広くそろってますよ。刃は全部引いてありますけどね、欲しいものがあればお売りもいたしますから」
奥にしまってあるんです、なんて言いながら建物の影に消えていった管理人の人が、戻ってきたときには人一人ほどある大きな箱を左右に二つひょい、と気軽に抱えていた。
随分軽そうに思えるそれが地面へと下ろされた時、鈍重な音が響く。
中にはぎちぎちに様々な武器が詰め込まれており、鈍い黒色の輝きが太陽に照らされる。
この中の好きなものを一日百円で借りられるようだ、下手な貸し自転車なんかよりも安い。
それに欲しければ千円程度で購入までできるようで、ボクは意気揚々とお財布から千円札を引っこ抜いた。
ん?
これ中身ほぼ金属製?
ちょっと待って。小さいアレイとかでも一キロとかあるのに、この箱一体一つで何十、いや下手したら百……
「さすがに何もなしで入ると多少は危ないですからね、これなんてどうですか? 初心者にはお勧めですよ」
彼が取り出したのは一本の槍だ。
曰く、剣やナイフに比べ距離を取れるので安全であり、初心者であればとりあえず、といったレベルの武器らしい。
「ぬ……ちょっと重い、ですね」
「先端以外木製なんですけどねぇ。これでも重いってなると……やっぱりナイフとかですかね」
ぬらりと輝く先端に少し怯えながら初めての武器を握るも、先端の重さに少しよろけてしまう。
うーん、武器って難しいんだなぁ。
安全なのはすごくいい。ボクは心の底から平和主義者であり、そもそも戦いたくない穏健派なのだ。
輝良があれこれやってる横でツンツンするぐらいがいいんだけど……なにせへにゃ筋すぎて振り回すどころかつくことすらまともに出来なさそう。
「りつ、りつ、これ!」
「……なにこれ?」
勝手にもう片方の箱を漁っていた輝良が一つの塊を嬉々として取り出す。
それは槍に比べると、いや、剣に比べてすら比べ物にならないほど小さい。というか扇子だった、所々が金属でできた扇子だ。
なにこれ?
「
「え~? 嫌だよ、危ないじゃん」
「律は……わたしが守るよ」
だからそれ信用できないんだって!
そんな決め顔で言われたってさっきとなんも変わらんねん!
「変わった武器を使ってつよい、これは『映え』る」
「強くなる気ないんだけど……」
しぶしぶ握るとやはりずっしりと重たい。
でもまあ、さっきの槍と比べれば振りやすい。
ぶんぶん適当に振っていると管理人が解説を始め、長さがあるものはやはり遠心力で持っていかれやすいとのこと。
ん~……まぁ、これでいいか。
どうせダンジョンとか今日限りだろうし。
「ああ、ただ必ず二人以上で行動してくださいね。では良い冒険を」
「とつげき~!」
「こらちょっと輝良! すみませんありがとうございます! コレ借りていきますね!」
意気揚々と竹刀を振り回し門へ突撃する精神年齢小四の後を追い、ボクも鉄扇を片手に駆け出す。
「あ、足はやっ……ちょっと待って……!」
しっかり走ったのなんていつぶりだろう。
学校はサボってるし、そもそも割とインドア派なボクは、運動神経が服を着て歩いているような輝良の、しかもテンションが上がり切った疾走にはついていくのもやっとだった。
薄暗く長い通路の先、小さな明かりが見える。
もつれる足で走るさなか、ボクは胸の中に湧き上がった、あの小学生や幼稚園の頃遠足などをするときに感じていた、ふわふわとした気分に気付いて目を逸らした。
……いや、ちょっとだけ、湧いたのはほんのちょっとだけ、だし?
別に輝良みたいにバカっぽい歓声を上げるなんてさぁ。
「おぉ……」
「はぁ、はぁ……ここが……」
息も絶え絶えで輝良にやっと並んだ時、ボクはあの光の先にいた。
荒い息を整え、一歩、一歩と歩みをそろえ歩き出す。
この先だ。
この先が、五年前に世界を震撼させた超常空間だ。
世界に恐怖と興奮、危険と利益を齎した、未だ解明されない不思議の満ちた――
「――なんかめっちゃきたない!」
「……ぬ、ちょっとがっかり」
ペットボトル!
近くのバーガーチェーンの紙袋! タバコの吸い殻にビニール袋!
ごみ! ゴミ! ゴミ!! ゴミが散乱しまくっています!! なにこれーっ!?
期待外れもいいところじゃん!
確かに通路を抜けた先は、さっきの外見と異なるだだっ広い草原、見たこともない草もあちこちに生えていて、確かにここはおぉ、って言いたいところだけど!
あっちこっちに見慣れたゴミがぶん投げられて感動なんてあったもんじゃないよ!
「ねーもう帰らない?」
なんだかどっと
モンスターとかもうどうでもいいや……どうせ魔法だってそうすぐに使えるわけじゃないだろうし。
腕をぶらぶらさせながらボクは隣の輝良へ振り向き――
「んぉ……りつ」
「あれ、輝良?」
互いに上へ、下へと視線が動く。
「りつ、つの生えてる」
「輝良アンタ、尻尾と耳生えてるけど!?」
輝良のサラサラの黒髪の上に堂々と鎮座する大きなケモミミと、ふわふわのデカい尻尾に目を見開いた。
ぴくぴく、パタパタと、まるで本物の様に動いている。
いや、確かにここに来るまでの通路でこんなおもちゃは付けていなかった、はず。
『え』
な、な、なにーっ!?