ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第30話

「どっち?」

「あーっと、次の次の交差点右、そのまま真っすぐ……五分くらいかな?」

「ん」

 

 スクーターが初夏の街を駆け抜けていく。

 ボクは彼女のおなかに片腕を回しながら、スマホの地図や周囲の景色と必死ににらめっこした。

 

「いやー、妖精郷なんてめっちゃファンタジーじゃない?」

「んー……スライムだってファンタジー」

「いやいや、ちょっと違うって!」

 

 確かにね? デカい粘液が動き回ってるスライムも、羽が生えた兎や大きなサソリ、それに歩き回る植物だってファンタジーではあった。

 しかし妖精、という言葉が持つ魅力を輝良は分かっていない。

 今までのがゲームの敵役としてのファンタジー要素だとしたら、妖精ってのは物語や創作での魔法的不思議さ、ファンタジー要素なのだ!

 

「妖精と仲良くとか出来るのかなぁ~!」

「むり、モンスターだし」

「むっ、輝良はロマンってものが分かってないね!」

 

 ネズミがトレードマークのアイツの物語を始め、子供のころから妖精の存在に触れ、憧れなかった人間なんてそうそういない。

 ましてやそんな存在が多くいるであろう、『妖精郷』に今から足を踏み入れるとなればなおさらだ。

 

「やっぱり妖精って言ったらゴシックな服着ててさぁ、花畑でこう……いい感じに戯れたり、不思議な魔法をつかったり、ね?」

「人型は食べづらい」

「妖精食べるわけないでしょ!!」

 

 アンタそんなおなかすいてんの!?

 

 なんて嘆かわしいことだ。

 誰もが憧れる妖精と出会えるってのに、今目の前でスクーターを操っているこのバカウルフカットは、神秘に触れるどころか胃に入れることしか考えていない。

 ボクは本当に悲しいよ!

 

「あっ、ストップストップ! この小道通ったらすぐつくってさ!」

 

 ヘルメットをバシバシと叩きつつファンタジーから醒めきった彼女を誘導。

 ボクたちは小道のその先、小型で簡素な門の前まで吸い寄せられるのであった。

.

.

.

 

「ども~こんにちは~! ここって『妖精郷』で合ってますか?」

 

 駐輪場からすぐの窓口へ近寄ってみるものの、中から返事などは何一つない。

 

「ありゃ、無人だ」

「りつ、これ」

 

 無人管理中!

 御用の方は下記の電話番号まで!

 

 あっさりした文章と共に添えられた一本の電話番号だったが、紙の劣化具合からして随分と長らく放置されているらしい。

 

「まあ全部の管理なんて無理だよねぇ」

 

 実のところこんなダンジョンはここだけじゃない。

 この前のマンドラゴラのダンジョンも、そして兎のダンジョンも同じく管理人はいなかった。

 

 確か日本だけで確認されてるダンジョンの数は万を超えているはず。

 その一つ一つに管理人をつけるってのは無理な話だ。実際に大半のダンジョンはおおよそのレベル測定、管理用の建物の建築などを行いほぼ放置されているのが大半。

 なんなら山の中など気付かれていないダンジョンも含めれば、現状から数倍に増えてしまうのではないだろうか。

 

 となればもう手慣れたもの。

 ボクたちはさっさと入り口の門まで近づくと、すっかりさび付いたそれの取っ手へと互いに手を掛けた。

 

「いっせーのでいくよ!」

「りょ」

 

 ぐっ、と力を籠めるも門は開かない。

 さびで張り付いてしまっているのだろうか、でも入り口はここしかないから頑張るしかない。

 

「ふぐぐ……よっこいしょぉ!」

 

 擦れた金属の重低音と共に小さな隙間が生まれる。

 あともう一歩だ。ボクたちは必死に扉へ縋りついて――押し寄せる冷たい風と共に、ようやくその道の先が顔を見せた。

 

「え、うそうそ!?」

 

 暗い通路の先、小さく見えたその景色にボクは息をのみ、輝良も置いて駆け出してしまう。

 だってそうだろう? 

 

「わぁ……」

「おお」

 

 この一面の、碧を見てしまえば誰だってそうするはず。

 澄み切った青空、静かに打ち寄せる海岸線……いや、湖岸、かな? それになによりこの一面へと咲く、真青の花畑を見れば!

 

「すっご! これほぼ絵画じゃん!」

 

 興奮のままにボクはスマホのカメラを世界へ向けた。

 

 レンズに映るのは青、碧、蒼!

 三百六十度すべてに様々な青が広がり、決してこちらの目を飽きさせることなどない。

 もし遠くに赤レンガの風車が一つでもあったのなら、ここは間違いなく人が途切れることのない観光地に早変わりしていただろう。

 

 これをボク達でふたりじめ(・・・・・)に出来るってんだからたまらない!

 

「これこれ! こういうのよ! ボクはダンジョンにこういうのを求めてたの!」

 

 きっとこれはある程度推奨レベルの高いダンジョンだからだろう。

 レベルが上がるほど内部へはいれる人間は限られる、故に保たれたこの壮大な自然環境。

 

「えへへ~、久々に花かんむりでも作っちゃうおうかなぁ~!」

「つくれるの?」

「小学生きりだけどねー!」

 

 草むらに座り込み一本の花を抜いてみる。

 ひょろりと長い茎。うん、これなら出来るかな。

 

 数年のブランクがあって少し不安だったけれど、やってみれば不思議と指先は動きを覚えている。

 青空の下打ち寄せる波音を聴き、ゆるゆると花かんむりを編み上げていたつもりだったが、気が付けば随分と熱中していた。

 

 ボク的にかわいい花かんむりを作るコツは密度だと思う。

 ゆるっとやればあっという間に一個作れるけど少し見た目が寂しい、ぎゅっと詰めて編んであげることでかわいさが爆発するのだ!

 

「ほい、いっちょあがりっと!」

 

 五分も経っていないだろうか、あっという間にボクの手中には蒼い花かんむりが編み上がっていた。

 横でぼーっと眺めていた輝良に見せつけるも、少し反応が鈍い。

 

 しょうがないなぁ。

 

「え……」

「ほれほれ、どんなもんよ!」

 

 ピクリとケモミミが動く。

 突然自分の頭の上に置かれた花かんむりの感覚に困惑しているのだろう。ボクは自分のスマホでその姿を一枚撮り、少しだけ赤らんだ顔へと見せつけてやった。

 

「似合ってんじゃーん!」

 

 少し恥ずかしそうに冠を触っているその一枚は、周囲の景色自体幻想的なのも相まって、まるでゲームヒロインのスチルみたいだ。

 ケモミミと尻尾もあって、こんな適当に撮ったのに手の込んだコスプレ写真にも見える。

 

 これ上げたらめっちゃバズりそう!

 ま、輝良は顔が強すぎて何しても大体似合いそうだけど! 

 

「わ、わたしもつくる! りつにあげるっ!」

 

 耳をピン! と立たせて輝良が叫んだ。

 

「え~? 出来るかなぁ?」

「やる! できる! 絶対つくるっ!」

 

 目を輝かせて周りの花をぶちぶち適当に引っこ抜き始めたので、あわててそれを止めてボクは彼女の前へと座り込んだ。

 花かんむりは茎の長さも結構重要なのだ、そんな適当に抜いてちゃただの可哀そうな花くずが量産されるだけ。

 

「ここをこう、あーそうそう。そうやって入れて、あとはそれを繰り返すの」

「ん……こう?」

「あってるあってる!」

 

 花かんむりの構造自体は単純だ、なにせ全国のちびっこが草原に出れば量産しているものの一つなわけだからね。

 わっかを作って通す、次の花を差し込む、またその茎でわっかを作ってのループ。

 元々呑み込みのいい輝良だ。ボクが軽く教えてあげれば、もちろん不格好な見た目ではあるものの、ちゃんとした花冠が彼女の手の上で編まれていった。

 

 彼女はそれをにぎって小さく身震いし、天へと高々に掲げて叫んだ!

 

「できた!」

「おー! ようできとる!」

 

 がたがたで隙間だらけ、時間だってボクの何倍もかけている。

 それでもはじめてのそれは彼女にとってたまらなく可愛らしい物なのだろう。子供みたいにぎゅっと両手でそれを握りしめ、真上に掲げたままボクの前で立ち上がってこちらへ視線を向けた。

 

「りつ! りつ! じゃ、じゃあこれ――」

 

バツンッ!

 

 花かんむりが引きちぎれた。

 彼女の両手の間を、鋭く無情な風が駆け抜けていく。

 

「あげ……る……?」

 

 音もなくもなく地面へ花が転がった。

 

 絶句する輝良の背後に何かが飛んでいた。

 それは光を受け輝く羽をひらめかせ、くすくすと笑う人型の生き物だった。

 妖精だ。種族は分からない、だがこのダンジョンの、そしてファンタジーの代名詞でもある妖精がいたずらな顔つきで飛んでいた。

 

 無表情の輝良が、ケモ耳をそっと後ろへ寝かせる。

 尻尾はだらりと垂れ、冷たい抜刀音だけがその場に残った。

 

「……殺す」

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