ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第31話

「……殺す」

 

 ぬらりと抜かれた鈍色の刃が輝いた。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょまっ! ストップストップ!」

「だいじょうぶ、あいつを殺したらまた編むから」

「ちがーう! そうじゃなーい!」

 

 あかん、輝良はんバーサーカーモードに入ってしまっていらっしゃる。

 

「ほーらかわいい妖精さんだよ~? ん? ちょっとまって、アイツさっき魔法使ってなかった!?」

 

 しれっとモンスターが魔法使ってるの初めて遭遇した!

 ボクまだ基質励起すらしてないのにっ!

 

「すてい輝良! ボクにまあ任せてって!」

 

 せっかく長い道かけて妖精に会いに来たってのに、このままだとファーストインプレッションがこの世の終わりみたいな感じになってしまう!

 

 慌てて輝良の前に飛び出したボクは、しぶしぶといった様子で刀を納めた彼女の前に立ち、ゆっくりと妖精へ歩み寄った。

 キラキラと輝く羽を羽ばたかせた金髪の妖精は、実に無邪気な笑みを浮かべながら空を舞っているではないか。

 

 おお、まさに物語で想像した通りの妖精……!

 

「あ、あの~? はじめま――どひゃぁ!?」

 

 なんか嫌な予感がして避けたら、問答無用でスレスレに風の刃が駆け抜けた!

 ボクの前髪はざっくり切れた!! 避けてなかったら右脳と左脳がロボトミーするところだったぞ!

 めっちゃ小ばかにして笑ってる! アイツは言葉の通じない害獣だ! 絶対に許さん!!

 

「輝良、あいつ倒そう! 今すぐ倒そう!」

「コロス……『狐火纏い』」

 

 輝良が刀をなぞった瞬間、紫炎がその切っ先へと静かに灯る。

 彼女が地を蹴ると同時、ボクもその横へ同時に駆け出した。

 

「くるよ」

「おっけー!」

 

 一陣の風が突き抜ける瞬間、ボクたちは左右へと飛びのいた!

 

 カマイタチさながらの風魔術は切れ味抜群、指程度なら容易く切り裂いてしまえるほどの切れ味を誇っている。

 事実、ボクの前髪右端辺りはお亡くなりになられた。

 しかし不可視の斬撃には弱点があった。このダンジョンならではの弱点だ。

 

 蒼い花々が揺らいだ。

 妖精の方向へと吸い寄せられるように、そして突如として止まった。

 

「もう一回」

「分かってる!」

 

 ――来る!

 

 直観のままに横へ飛び込む。

 刹那轟音が通り抜け、蒼の花々が瞬く間に散っていった。

 

 空気の圧縮と解放、それがあの魔法の正体だ。

 威力は空気と思えないほどだが、同時に圧縮のため妖精を中心とした空気の渦が生まれる。

 逆に言えば空気の渦が消えた瞬間、それは準備が完了したサインと言えるだろう。

 

 そして弾道は――

 

「直線的!」

「ん」

 

 ボクたちの視線が交差する。

 既に互いの武器は振り出されていた。

 

 中空を無防備に舞う妖精、左右から襲い来るボクたちの逆襲が空を割き――

 

「ぼへっ!?」

「んぉ」

 

 ひらりと妖精は空へ逃げた。

 バランスを崩して地面へ転がるボク達。

 

「いったぁ……!」

「ごめん、だいじょうぶ?」

「へーきへーき、ちょっと膝擦っただけ!」

 

 心配したように一瞬こちらへ視線を向けるも、彼女は素早く立て直し刀を握る。

 

「ちっ」

「うぇ!? 舌打ち!?」

「べつに」

 

 こちらを振り返ることもなく飛び出す輝良。

 しかし手の届かぬ距離で跳び回る妖精には届かない。それどころか苛立ちのままに刀を振り回し、狐火を飛ばしてヒートアップするさまは、彼女より戦闘に不慣れなはずのボクですら違和感を覚えた。

 

 輝良、さっきからちょっとキレすぎじゃない?

 

 確かに頑張って作った花かんむり壊されてムカつくのは分かる。

 妖精の甲高い笑い声が耳に障るのも分かる。

 とはいえあんな切れ散らかす、それもあの輝良が、だ。

 

「ちょ、ちょっと冷静になろ! 攻撃も届かないしさ、作戦立てて」

「うるさい! 倒せるったら倒せるっ!」

「ちょっと本当にどうしたのよ輝良~! アンタそんなキャラじゃないでしょ! もっと冷静になりなって!」

 

 妖精はひらひらと舞い、どんどんボクから離れていく。

 しかし興奮しきった輝良は周囲も気にせず、フラフラと刀を振りながらそのあとをついていくばかり。

 挑発だとかとは違う、一方向へ連れていくかのような動きに、ボクははたと止まった。

 

「……もしかして、本当に誘われてる?」

 

 妖精の輝く羽、その周りへかすかに舞う鱗粉。

 思えば輝良がやたらと興奮し始めたのは最初の攻撃を受けてからだ。もしあの風に鱗粉が混じっていて、それを吸い込んだから輝良がこうなったとしたら?

 ボクが別にそこまで興奮していない理由が、あのサソリに刺された時と同じで効かなかったからだとしたら?

 

「っ、ちょっとまずいかも」

 

 両手へ鉄扇をにぎり駆け出す。

 

 モンスターには生態がある。

 妙な行動をしてくるとき、大体何かしらの理由があるのだ。

 輝良が妖精の後を追って歩くその先には、巨大な湖に隣接する鋭い岩場があった。

 

「もーバカッ!」

 

 ついに輝良が岩々の間へと足を踏み入れた。

 不安定な足場も気にせず、奥へ、奥へと進んでいく彼女の後を必死に追うも、足場の悪さに悪戦苦闘。

 

 夢中になった彼女は一段大きな岩の上へとよじ登った。

 瞬間、妖精が動きを大きく変える。

 先ほどまでは手が届くか届かないかの高さでフラフラと飛んでいたというのに、突然素早く彼女の足元へと接近したのだ!

 

「わ」

 

 彼女の体がぐらりと揺れた。

 足場の悪い中で無理な姿勢を取ろうとしたからだ。

 普段なら難なく姿勢を整えていたに違いない。しかし今の、鱗粉によって視野狭窄に陥った彼女には致命的だった。

 

 濡れた岩から転がり落ち、鋭く尖った無数の石くれへとその身が転がり――

 

「きゃっちぃ!」

 

 落ちさせるわけないでしょーが!

 ギリギリのところでキャッチ大成功!

 

「わ、りつ」

「いつまでもぼーっとしてるんじゃないよおバカ!」

 

 だらーんとぶら下がったままの輝良がぼーっとこちらへ視線を向けた。

 鱗粉を吸い込むほどに思考にも制限がかかるのだろう、下手したら今自分がどんな状況になってるかすら分かっていないのかもしれない。

 

「ふんぬぬ……」

 

 必死に彼女を岩から引っ張り上げようとするボクの背後で、確かに風が吹いた。

 ヤツだ。

 確実に当てるためだろうか、後ろ髪が巻き上げられるほどの近距離で奴は、今まで以上の風を周囲に纏っていた。

 

「……はぁ」

 

 クスクス、クスクス、ボクの耳元で奴が羽ばたく(・・・・)度に不愉快な笑い声が聞こえる。

 まるで勝ちを確信しているかのように、ゆっくり、着実に魔法が練り上げられていく。

 

 なめんなよ。

 

「輝良ー!」

「なーにー?」

「ちゃんと着地してね」

 

 手を離した。

 同時に地面へ転がっていた鉄扇を握りしめ、縦の一閃。

 薄く軽い羽は金属の質量に耐え切れない。一瞬でぐしゃぐしゃになり、弱弱しく地面へと落ちていった。

 

「ムカつくならトドメどーぞ!」

「ん」

 

 岩を蹴り跳んだ輝良が刀を抜く。

 目にもとまらぬ一撃はその体を易々と切り裂き、ついに笑い声は途絶えた。

 

「ひっ!? なにこれ!?」

 

 妖精が地面へひれ伏した瞬間、消えるその一瞬に奇妙なことが起きた。

 確かに妖精だったはずのそれは、目の前で巨大な茶色い蛾へと姿を変えたのだ。

 

「キモキモキモっ!?  え!? さっきまで金髪のかわいい妖精だったよね!?」

「……? 赤い髪のムキムキな妖精でしょ?」

「はぁ?」

 

 奇妙なことに同じ敵と戦っていたはずが、輝良の言葉とも姿が食い違う。

 

 ……信じられないことだけど、どうやらボク達が妖精だと思っていたのは巨大な蛾の作り出した幻覚だったらしい。

 見た目の違いは多分魔法なのだろう。

 見た目で欺き、鱗粉の毒で惑わせ、倒してみればデカい蛾の見た目でうんざりさせる。

 ボクからすればサイアクのモンスターの一匹だ。 

 

「はぁぁ~……結局がっかりだよ……」

「よしよし」

「疲れてるのあんたのせいでもあるんだからね」

 

 バカになぜか頭を撫でられながら立ち上がると、風に乗って笑い声が聞こえた。

 

「あー……妖精郷、ね」

 

 右から、左からその甲高い笑い声は止まらない。

 この鳴き声もよく見てみれば羽ばたきと同時に生まれている、つまりコオロギと同じ羽ばたきそのものによって生み出されてるに過ぎない鳴き声の一種なのだろう。

 

 タネさえ分かってしまえば、この視界を飛ぶ色とりどりの羽虫(・・)にはうんざりさせられる。

 

「輝良」

「ん」

「今日からボク、妖精アンチになるから」

 

 はー、妖精キッモ!

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