ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第32話

「りつ、妖精いっぱい」

 

 きっとボクたちの声や戦闘音に寄せられたのだろう。妖精たちがうじゃうじゃと、一体何匹いることやら。

 姿形は様々、しかしそのどれもが不気味な甲高い羽音(笑い声)を上げている。

 

 ふと気付いたボクはスマホを取り出しその集団をカメラに映した。

 

「キモすぎて吐きそう」

 

 ああ、やっぱり。

 視界に映る姿とは真逆だ。笑う妖精たち、そのどれもが茶色い蛾、蛾、ガ。

 カメラを通せば幻覚は効かない、真実を映し出してしまえばなんとも萎える風景の一部になってしまう。

 

「輝良も見る?」

「おお、かがくのちからってすげー」

 

 のんきにスマホの画面を覗いている輝良。

 

 あれ? そういえばさっきと比べて随分落ち着いてるな。

 

「もう怒りは落ち着いたの?」

「……? べつにわたしはおこってない」

 

 いやめちゃ切れ散らかしてましたやん。

 

 どうやら鱗粉の毒は抜けたらしい。

 効くのが速い分抜けるのも早いとか?

 

 が、しかしボクはまだ気を抜いていなかった。

 輝良はそもそもあんまり表情筋が生きていない分、感情がぱっと見だと分からないという大きな欠点を抱えている。

 ボクはその身振りや態度、発言から察して行動しているのだが、今回みたいに毒で変になっている場合は普段のノウハウが通用しない可能性がある。

 

 一つテストでもしてみるか。

 もし下手に放置して実は治ってませんでした、なんてあったら戦いの中で危ないし。

 

「例えばなんだけど」

「うん」

「六つ入りのチョコかかったアイスあるじゃん、アレ一個ちょーだいって言ったらくれる?」

「りつならあげる、他の人ならなぐる」

 

 ふーむ、どうやら鱗粉の効果は切れたみたいだ。

 いや切れてるかコレ? ギリまだ続いてるか? まあいいか。

 

「じゃあれも全部たおそ」

「むっ! 待たれよ!」

「にょわっ!?」

 

 刀片手に突撃せんとする輝良のしっぽをガシリと掴む。

 

 無策で突撃してもまた鱗粉塗れにされるだけでしょーが!

 アンタの身体能力、最近鍛えてるボクでもついていくので精一杯なんだからね!

 

 まず今回の鱗粉で確定した事実として一つ、ボクはどうやら本格的に毒的な成分は割と効かない体質になっているみたい。

 一方で輝良は普通に効く。しかし一方で今回に限っては、決して手の施しようがないわけではない。

 

 ヒントは彼女がさっきやっていた『狐火纏い』にあった。

 

「あんた『狐火纏い』が出来るのって刀だけじゃないでしょ? 腕とか自分の身体には出来るの?」

「ん、別になんでも付けれる」

 

 指先へ弄ぶように炎を宿らせる輝良。

 小指から親指へ、腕を伝って反対の腕へ。

 まるでお手玉のように炎を操れるのは、初期のうまく操れない姿と比べれば天と地の差だ。

 

 この紫炎は任意の物だけを焼くことが出来る、その性質は決して直接の攻撃力だけに生かされるものではないはずだ。

 

「口元とか喉の中に纏ったりは? それで鱗粉焼けたらいい感じにならないかな?」

 

 こくりと頷き集中を始める輝良。

 すぐに彼女はこちらへ視線を向け、こくりと頷いた。

 

 え? もう出来たの?

 見た目とか変わってないけど?

 

「できた」

「おわっ!?」

 

 口から火吐いた!?

 

「あ、ごめん」

 

 しゃべる度にちろちろと小さな紫炎が口から洩れている。

 どうやら喉の奥に狐火を纏わせているようだ。

 

「せっかくだしちゃちゃっと実験してみよ!」

 

 効果があるかどうかわからないなら試せばいい!

 

 先陣を切って、というにはフラフラと寄ってきた妖精へ、ボクは足元の鋭い石くれを思い切り放り投げた。

 

「くる」

「分かってる!」

 

 鱗粉と共に飛来する風の刃。

 軽々と避けたボクたちは再び並走、妖精の元へとまっすぐに駆け寄る。

 

「輝良!」

「なに?」

「二つ入りの大福アイスあるじゃん、アレ一つちょーだいって言ったらおこる?」

「りつならあげる、他の人ならなぐる」

「おお!」

 

 実験はたぶん成功だ!

 

 輝良の動きは相変わらずいつも通りのキレを保っている。

 しかし空を飛べるという利点は圧倒的だ。ボクたちが追いすがろうと、ひらり、ひらりと攻撃を避けては、上空から魔法を放つばかり。

 

 輝良の狐火は妖精の飛行速度と比べれば遅い。

 基本物理攻撃がメインのボクたちにとって、かの存在へ確実に攻撃を当てる手段はない。

 

「じりひん」

「輝良! さっきので分かったんだけど!」

 

 このままでは無駄に体力を消費するばかりだ。

 まだ周囲には何匹もの妖精が飛んでいる。一匹でこんなに手間取っていては、複数匹の相手など夢のまた夢。

 

「この風の刃、多分そんなに有効距離ない!」

「なるほど」

「あと妖精は魔法発動するとき止まる!」

 

 あくまで目測だが十メートル、これが風の刃の有効距離だろう。

 

「一旦後ろに下がるよ!」

 

 ボクたちが後ろへ引いた途端、妖精は突如として上空での攻撃をやめた。

 やはり攻撃距離が足りないのだろう。こちらへ距離を詰める度、その高度は緩やかに下がってきている。

 

「オーライ! じゃあ狩ろうか!」

「ん、おっけ」

 

 反転、疾走!

 

 鉄扇を仕舞い、一方で刀を構えた二人が地を蹴り妖精の元へと駆け出す。

 奴の高さ、およそ五メートル。

 空気の収束が始まる。目標は二人固まったボク達、風のうなりがボクたちの髪を煽った。

 

「今!」

「ん、高すぎる」

 

 たとえ輝良と言えど五メートルの高さ、一人で飛べるはずもない。

 

「だいじょーぶ!」

 

 一人なら。

 

 その場にしゃがみ込んだボクは、両手を地面へとあてがい彼女へ視線を向けた。

 彼女のジャンプをボクが押し上げる。

 チアリーディングでたまーに見る奴だ。ま、あっちは大体下の役割ムキムキの男の人だけどね。

 

「跳んで!」

「で、でもりつを踏むのは」

 

 風の収束が止んだ。

 リミットは目前だ。

 

「信じて!」

「……ん、わかった」

 

 輝良が刀を納めた。

 無言の踏み込み。スニーカーの裏がボクの指先へと食い込んでいくをの感じる。

 全身の筋肉が震えた。

 

「っ、どりゃっしゃぁ!!」

 

 黒い影が空を舞う。

 太陽を背負い妖精を覆いつくした彼女は、静かに居合の一閃を振り払った。

 

「おわ」

 

 真の姿を見せ空中で霧散する羽虫。

 小さな魔石、そしておっきな輝良が地面へ落ちてきた!

 

「お、お、お!」

 

 ちょま! めっちゃ姿勢崩してる!

 ヤバイヤバイ! 流石に頭とかぶつけたら回復薬あるとはいえ怖いって!

 

 わたわたとしながら必死に広げた両手の中に、とんでもない衝撃がドカンとぶつかった! 

 

「と、と、と……!」

 

 じん、と痺れる指先。気合いで少しだけ保って、膝から崩れ落ちるボク。

 

「ナイスきゃっち」

「どういたしまして!」

 

 へへ。

 腕ちょー痛いっす。

 自分回復薬いいっすか?

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