ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「きんにくつ~」
「えいえい」
「お゛ぐぅ……やめ゛て……」
つんつんと脇腹をつつかれるたび、ボクの全身に凄まじい激痛が駆け抜ける。
妖精たちとの戦闘は苛烈を極めた。
なにせ毎回高所からの遠距離攻撃ばかり、となれば倒すには二人で協力してジャンプするしかないわけで、火力も考えれば毎回攻撃役は輝良だ。
つまり彼女を毎回放り投げるボクは常に超高強度の全身運動をしているに等しい。
単純に言ってしまえば腕も太ももの内側辺りも、なんなら背中も全部筋肉痛である。
「おちゅうしゃいりますか?」
「えー……」
ガサゴソとリュックを漁った輝良が一本の注射器を見せつけた。
「なんか回復薬で無理やり治すのって不健康じゃない?」
「どうせ怪我したらつかうんだからいまさら」
問答無用で太ももにぶっ刺された。
冷たい感覚が全身を駆け巡り、急速に痛みが引いていく。
「はー、復活」
肩を回しつつため息。
一本一本が中々高級品な回復剤をただの筋肉痛に使うとは、中々に贅沢な行為である。
ま、今回の筋肉痛は三日は続いただろうし、それに引き換えなら悪くないのかな?
あんま筋肉痛酷いと戦いもトレーニングもまともに出来ないしなぁ。
「昨日の連携はよかった」
「あー。正直ぶっつけ本番だったけど、やってみたら案外出来るもんだね」
「ただもう少し――」
実のところ戦闘すらもトレーニングの一つだ。
ボクの動き、対応の良しあしを輝良が語り、ボクもボクなりの考えを上げ互いの認識をすり合わせる。
昨日のとっさの行動も互いの意思疎通を普段しているからこそ。近頃ボクたちは確実に、パーティとしての連携を高めている。
まあまさか輝良があんなに毒とかに弱いとは思わなかったけど。
「こんちわー」
「ちわ」
がらりと扉を開けた。
その店舗に相変わらず人はいない。
「おう、二人ともまだ死んじゃいなさそうだな!」
奥から見慣れた店主が顔を覗かせた。
好々爺といった様子の顔つきながら飛ばしてくるジョークは苛烈だ。
「ちょっと店主さん勘弁してください!」
「縁起わるすぎ、ハゲ」
批難轟々にもかかわらず彼は快闊な笑い声をあげる。
競馬新聞片手にスリッパを鳴らし歩くと、店主はどっかりとカウンターの椅子へ座り込んでボク達へ入るように促した。
「調子はどうだ?」
「まあ普通ですよ。いま隣の市の妖精が出るところで戦ってます、妖精の正体が大きい蛾なのはちょっと、ね……」
昨日ファンタジーアンチになった原因を思い浮かべ顔を顰める。
いやね、別に蛾のすべてを嫌ってるわけじゃないんですよ。
カイコガとか昔見た時ちょっとかわいいなって思ったし、でもね? かわいい妖精の正体がデカい蛾でね? しかも結構害虫となれば話は変わってくるって寸法ですよ!
鬱々とした気持ちでここ最近の戦いを語ると、店主は興味深そうに何度も首を縦に振った。
「驚いた、もうそこまで行ってるのか」
「えへへ、まあ色々ギリギリですけどね!」
「いやはや結構結構! 基質励起も近いんじゃないか?」
基質励起、何段階かある魔法の発動段階、その一番最初の状態だ。
輝良でいう『狐火』やその操作が基質励起に当たるが、今のところボクに何か発動しそうな兆候は全くない。
毒無効の体質はあるけどあれは違う、だって魔法発動してる感ないし!
最初に輝良が狐火出して以降黙ってたけど……内心ちょーうらやましい!
ボクだって魔法ぶわーってやりたい! でもやり方全然わからないしどうしようもない!
「いやー、ボクは全然もう! 第一どうやってやるのかも分かんないですし、調べても情報少ないしで……」
「オレは売り専門で戦いはからっきしだからよ、いいアドバイスってのは難しいんだがなぁ。ふむむ……」
黙りこくった店主が、しばらくしてから思いだしたように呟いた。
「ああ、体から溢れる魔力を感じた時、ってのは聞いたことがあるな」
「はぁ……魔力ですか」
魔力なんて出した記憶が一度もない。
血なら結構出してるんですけどね、あっはっは。
なんとも抽象的な、アドバイスと言っていいかすら分からないアドバイスに渇いた笑いを返す。
レベル30も行かないくらいで基質励起にまで至った輝良が異常なのは分かっている。
とはいえ焦るものは焦るのだ。次のダンジョンに行く度、敵の攻撃はどんどん苛烈なものになり、ついには魔法を放ち始めた。
いつまたボクが足手まといになるか、そればかりが最近脳裏を過ぎる。
「ま、自分の直感を信じろってことだ! 結局世の中最後は勘よ!」
「そ……そうですねぇ?」
「ハゲの言ってることはあってる」
横で話を聞いていた輝良が腕を組み、したり顔で頷いた。
「こう、ぶわーっと来たらハッ! って感じ、そうするとぐわーっと来るからあとはもうふんぬってやったら出る」
「やめて、アンタの説明聞いたら余計できなくなりそう」
「こんな分かりやすいのに……」
クソっ! なんでこんなアホっぽいのに実は頭いいし魔法まで使えるんだ! この世界は間違っている!!!
「それで、今日はどういった用だ?」
「あーっと、敵が強くなる分怪我も増えてるので回復剤を多めに仕入れたくて……」
カウンターへ寄ったボクだったが、突如として流れた通知音に足を止めた。
「っとと、すいません。誰だろ」
店主に断りを入れつつスマホをカウンターに置いて確認すると、そのメッセージはザクロちゃんからだ。
「ちずだ」
横から覗き込んだ輝良が呟く。
メッセージは一つだけ。マーカーが付けられた地図のURLだけが送られている。
位置はこの町から駅一つ分だけ離れた場所。ここからならスクーターでも五分とかからないだろう。
『どうしたの?』
既読はつくも返事はない。
「その位置はダンジョンだな」
地図を見た店主がボクへ伝えた。
『ザクロちゃん?』
『大丈夫?』
既読、既読、返事はつかず。
ザクロちゃんはハイテンションで明るいギャルだ。
昨日の夜、さっそくあれこれと連絡を入れてくれたのだが、次から次に送られてくるメッセージの返信を考えていると、さらに追加でメッセージが届いててんやわんやしたほどには。
「輝良」
「ん」
彼女がこくりと頷く。
きっと考えていることは同じだろう。
「ちょっと待ちな」
足早に店を出ようとしたボク達へ店主が鋭い声をかける。
彼は自前のラップトップへ人差し指でカタカタと打ち込んでいくと、重々しい表情で口を開いた。
「そこのダンジョンだが侵食の情報が出回ってるみたいだぜ、周囲の小学校のや民家も十数件呑み込まれたらしい」
誰かがため息をついた。
いや、もしかしたらボク自身だったのかもしれない。
「ダンジョンの『侵食』については?」
「正直……良く分かってません」
以前この店に来た時、ボクたちの先輩にあたる人たちの話は聞いた。
その危険度については理解したつもりだが、詳細については正直まるきり分かっていない。
そんなボク達へ店主は視線を向け、額にしわを寄せてから静かに語りだした。
曰く、侵食とはダンジョンに突如起こる異変の一種とのこと。
理由は不明。突然周囲の空間がダンジョン内部に転移、それはまるで吸い込まれるかのように一瞬で起こり、不定期にそれを繰り返す。
最終的に本来のダンジョンの数倍にまで転移する空間は膨れ上がり、内部のモンスターも極端に強力な存在へ変異してしまう。
止める手段はただ一つ、内部のモンスターを狩り、ダンジョンコアと呼ばれる物体を破壊することのみ。
しかし外からでは実情の分からぬ、つまりほぼ未知のダンジョンと化したその中へ飛び込みコアを破壊できるか。
「はっきり言っちまえばな、死にに行くようなもんだぜ」
店主は深々とため息をつき、椅子へと腰を深く沈めた。