ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第34話

「はっきり言っちまえばな、死にに行くようなもんだぜ」

 

 店主は深々とため息をつき、椅子へと腰を深く沈めた。

 

「もしかしたら助けられるかも、なんて考えてるのかもしれねえがな。知識も技術も、経験すらねえガキが行って何になる?」

「知り合いが、友達の妹やその友人がダンジョン内に残されてるんです」

「だから助けたいって?」

 

 彼が鼻で笑う。

 

「お前らみたいなガキは何人も見てきた、帰ってきた奴は数えられる程度だがな」

 

 低く掠れた声で語る現実。

 底冷えするほどに怜悧なその目線にねめつけられ、ボクの足は無意識にすくんだ。

 積年の経験が生み出したその実感からすれば、ボクの言葉などどこまで行っても現実を見え据えていない、子供の戯言に聞こえるのだろう。

 

「それでも!」

「それでも何かできるってか? 何もできやしねえよ、事前の準備無く突っ込む奴らなんて。ましてや基質励起にすら至ってないヤツが」

 

 言葉がつかえたボクへ、突き返すような言葉を浴びせる店主。

 

「悪いことは言わねえ、協会の首輪付きの探索者が集まるまで待ちな」

「その人たちが集まるのに、探索を始めるのにどれだけの時間がかかるんですか!?」

「早けりゃ数時間、サイアクでも半日もありゃ始まるだろうよ」

 

 もし、戦闘の経験がない人間が妖精と出会ったのなら、間違いなく逃げることなど敵わず命を奪われるだろう。

 クレアちゃん達が入っているダンジョンがどれほどの物かは分からない。

 しかし『侵食現象』によって妖精並みか、もしかすればそれ以上にレベルの上がったモンスターたち、それに彼女たちや巻き込まれた周囲の人々が襲われたのなら……結果は分かり切っている。

 

「その間にどれだけの人が犠牲になると思ってるんですか! ダンジョン内のモンスターのレベルが上がってるんでしょ、それならなおさら!」

 

 あれを送ってきたザクロちゃんの気持ちを考えるだけで、ボクの心には鬱々とした気持ちが降り積もっていく。

 もし彼女以外のパーティメンバーが一緒に逃げ出せていたとしたら、間違いなく他のメンバーからも何かしらの返信があるはず。

 けれど他の二人に送ったメッセージ、そのどれにも既読はついていない。

 

「だとしても、それもまた仕方のない犠牲だろう。生き残った者だけでも確実に助ける、それが救助ってもんだ」

「ボク達なら十分で始められます!」

「その五分後に死んでるかもしれないがよ」

「……っ」

 

 彼の顔に嘲りの色はない。

 淡々と、真実だけを語っているのだ。

 ボクに行くなと、ただ死ぬだけだと、きっとボクたちの事を思っての言葉なのだと、思考では理解できた。

 

「お前たち若い奴らはいつも変わんねえ、どいつもこいつも無謀、無策、無鉄砲な思い付きでの行動ばかりだ。これっぽっちも年寄りの功ってのを大人しく聞いちゃくれねえ」

「……それでもあの子は、ボク達に助けを求めてくれたんです」

 

 既読だけが付いたタイムラインを手に握りしめ、ボクは輝良へと視線を再び向ける。

 刀と鉄扇を手に、彼女は既に入り口に立っていた。

 

 脳が理解したからって、心が追い付くわけじゃない。

 ぶつりと噛みちぎった唇から錆び臭い匂いが口の中へ満ちる。

 湯だった思考は既に決まった答えだけを脳裏へと反芻させた。

 

「待ちな!」

 

 静かに入口へ近づいたボクの後ろで店主が声を張り上げる。

 

「配達の依頼だ」

 

 その小さな体に見合わぬ膂力で巨大な段ボールを持ち上げ、ボクの前へと乱雑に置く。

 重々しい音を上げたそれを手で叩くと、ニヒルな笑みを皺だらけの顔に浮かべ、突如意味不明な言葉を連ねた。

 

「っ、なにをっ!」

 

 バカにしてんの?

 この状況で!

 

「まあ聞けよ。半日後の救助に比べりゃ、年寄りの長話だってさしたる時間じゃない。そうだろ?」

「ふざけな――っ!?」

 

 粗雑に彼がガムテープをまくり上げた!

 耳障りな音、しかし段ボールの隙間から顔を覗かせたそれに、ボクたちはたまらず息を吞んだ。

 

 回復剤だ。

 一本一本が丁寧に梱包されたそれがみっちり、見える一面だけでも数十は下らない。

 このサイズの段ボールの中に限界まで詰め込まれているとすれば、合計で数百……いや、千も超すだろう。

 

「侵食が進んだダンジョンの周囲にゃ回復剤の不足が起こる、直に協会から依頼が飛んでくるだろうからよ。お前らにゃ現地(・・)までこいつを運んで貰いてぇ」

 

 お前らのスクーターならさっさと運べるだろ?

 

 顎をしゃくり上げボクたちの乗ってきたものを指す彼。

 

「だがまあ、こんだけの数だ。現地の混乱を考えりゃ十本や二十本の不足なんぞ気付かれもしないだろうよ」

 

 に、と彼は一本の注射器を掴み上げるとこちらへ見せつけ、実に好々爺な笑みを浮かべた。

 

「店主さん……!」

「それとこれはポインターだ、地面に突き刺しゃ緊急信号が送られる。協会から派遣された人間なら信号を拾えるだろうよ」

 

 おまけと言わんばかりにいくつかの機器をにぎり、さあ持っていけとボクの胸元へ押し付ける店主。

 

「こっちは臨時の結界装置だ、直径二十メートルに結界を張る。ただし中から外に出たら戻れねえから気をつけろ」

 

 どれもこれも聞いたことのない装置ばかりだった。

 構造は単純、分かりやすくシールが貼られたボタンを押すだけだと彼は言うと、冗談めかした口調で肩を竦めた。

 

「どれもクソほど高級品だ、もし紛失なりぶっ壊しでもしたら協会に七桁の請求を行わなくちゃいけねえ。おめえらの家にも連絡が行くかもしれねえな」

「それは……絶対に返しに来ないとですね」

「おう」

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