ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「案外入るのはチョロかったね」
回復剤も届けられたし、事前に二人で考えた方法で容易く視線を引くことが出来た。
ボクたちは荒れた大地を踏みしめ、互いに頷いた。
「さて、と。入れたはいいけどどうしたもんかな」
踏み入れたダンジョンの風景は無茶苦茶だった。
岩々の連なる荒野、しかしあちこちに日本のごく一般的な建築物が転がっている。
さながらツギハギの景色は異常以外の何物でもない。
「これが侵食現象の起きたダンジョンの姿、か。想像以上だね」
「むちゃくちゃ」
おそらくあの転がっている建物たちは本来外の世界に存在していたのだろう。
そしてこうも散らばっているということはつまり、侵食によってダンジョン内部に移動する場所はランダムという事。
仮に一般人が孤立して侵食に巻き込まれた場合、無傷での脱出は絶望的だろう。
「……ザクロちゃんの様子はどうだった?」
「ん、これ」
輝良が一枚のカードを取り出す。
上に紐が付いたそのタグには何やら色々描き記されていたが、特に目を惹くのは一番下の黒色部だろう。
その見慣れないカードの名を、残念ながらボクは知っていた。
「……トリアージ、黒」
災害時などに使われる識別札の一種だ。
四段階からなる色分けは患者の緊急性を示しており、症状の程度で緑から黄色、赤、そして黒へと変化していく。
黒の意味は……救助不可。
手の付けようがない人間、死を待つのみの人間につけられる、最悪のタグ。
「っ、ダメだったんだね」
彼女がこくりと頷く。
「もしわたしたちが、あと五分でもおくれてたら」
「……! じゃあ!」
そして彼女は、くしゃりとトリアージタグを握りつぶした。
それはもう必要ないという言外の表明だ。
「あの子から話は聞いた」
輝良曰く、ザクロちゃんはあの中で一番足が速かったらしい。
周囲のモンスターはどれも強敵、それでも助けを求めるためにあえて自分からその役を買った、と。
ボクから貰った回復剤の内四本を抱え、使い、全てが尽きても必死に走り続けたそうだ。
「皆小学校の体育館にいる、方向もだいたいならきいた」
「おっけー!」
そういえば店主も言っていた、近所の小学校も侵食現象によって呑み込まれた、と。
どうやらクレアちゃん達はダンジョンで戦っているさなか侵食現象に直面、命からがら周囲を彷徨うさなかで件の小学校を発見、避難所として機能していた体育館に逃げ込んだらしい。
「っ、その前に一端隠れよう!」
視界の端で何かが動いた。
輝良も同時に気付いたようで即座に頷き、ダンジョン入り口近くの岩陰へと身を伏せる。
やはりモンスターの様だ。
姿は狼型、それにしても体格が大きい。ここから見えるのでも一軒家の入り口ほどの体高だ。
そんな怪物がしなやかに体をくねらせ、実に優雅に歩いているものだから笑えない。
「……せめてレベルが分かれば、ね」
すぐにでも駆け付けたいってのに、現状入り口での足踏みに苛立ちが募る。
今までは既に計測されたレベルをみての挑戦が常、極端にかけ離れた強敵はあのゴーレム戦くらいだった。
しかしこの数度の侵食を繰り返し変異したダンジョン内、既に出回っていた過去のダンジョンとは、モンスターの様相からしてまるきり異なる。
レベルが低いならなぐり込みに行けるってのに……!
「あるよ」
「あるの!?」
「てってれー簡易レベルけいそくきー」
輝良がうきうきと尻尾を振り、バッグから一つ取り出した。
それはそう、一番近い形のものを上げるのなら拳銃だろう。しかし銃口はなく、後ろには何かモニターのようなものが貼り付けられている。
彼女はこれが便利アイテムなのだと、十レベルごとではあるが簡単に使えるのだと意気揚々と語っていたが、朴には気が気じゃない。
なにせ見るからに高そうだったからだ。
「……何それ!? 一体いつ買ったの、無駄遣いはだめでしょうが!」
「
「む、それはまことか?」
わしづかみにしたほっぺを手放す。
「ざくろに注射するついでに、テントにあったからもってきた」
「ご立派な泥棒ですやん」
「でもいっぱいあったよ」
いっぱいあろうがダメなもんはだめでしょーが!
「りつ」
「なに?」
「あやまる頭は一つより二つ、ん、ついでに四つ追加でむっつのほうが良いと思う」
何を言ってるんだコイツは。
ボクはともかく、ついでにクレアちゃんとそのフレンズにまで罪をなすりつけるでない!
ため息交じりに手癖の悪い狐娘の耳をぐにぐにと引っぱる。
「ボクからするとなんでこのボクがクレアちゃんに嫌われて、アンタみたいなのが崇拝されてるのかさっぱり分からないよ」
まったく困ったヤツだ、ダンジョンに出てからすることがもう二つも出来てしまった。
「でも役にたつでしょ」
「まーね」
ボクは差し出された拳銃を掴み、遠くにて闊歩する大狼へ照準を合わせる。
拳銃は初めて触るけど、きっと本物のそれと比べれば圧倒的に扱いやすいのだろう。自動で標準の補正が行われ、ターゲットロックの文字が画面へ浮かび上がる。
「弱かったらぶっとばしてすすもう」
「おっけー!」
輝良は今にも駆け出さんと柄に手を上げ、耳をピンと張った。
今は一分一秒すら時間が惜しい。今のボクたちのレベルはおよそ70、たとえ二倍のレベル差があろうと、着実に精度の上がってるボクたちの連携があれば無理な相手じゃない。
命の危険は分かってる、分かり切っている。
それでも飛び込まなくちゃいけないときだってある。
照準を合わせて……引き金を引く!
計測はわずか数秒で終わった。
無数の分析ポップが半透明の画面に浮かんでは消え、ついに数値が示された。
「レベル450だってさ」
「時に人は遠回りをうけいれるべきだとおもう、メルカトル図法ならそれが最短だから」
「奇遇だね、ボクも三秒前からそういう気分だったんだ。やっぱりウサギより亀であるべきだよね」
ダンジョン探索には冷静さが大事だ。
時には戦わない、という選択肢を取らねばならぬことを、ボクたちは長いダンジョン探索の暮らしで嫌というほど知っている。
どれだけ焦る気持ちがあろうと、今は着実に一歩、一歩と進めていかなくてはならないのだ。
獣の聴覚は鋭い。
大きな音や声なら感づかれてしまうという緊張の中、確実に前へ前へと進んでいく。
ボクたちはゆっくりと岩場の影と影を歩き、悠然と歩くヤツの死角へと伝い、あの怪物がはるか遠くへと駆けていくのを見送った。
「……ひぇ~、死ぬかとおも」
「りつ! 右!」
突如飛んできた鋭い指示。
ボクは無意識に、普段輝良とのトレーニングのまま右へと対の鉄扇を構え後ろへと跳んだ。
「っ!」
間髪入れず駆け抜ける強烈な衝撃。
こらえきれず体は大きく吹きとび、もつれながらもどうにか足は再び地面を掴み、ボクは攻撃を喰らった方向へ視線を向けた。
脚だ。
ともすれば人間のそれに見えるが、異様な緑の肌と点在する濃緑の斑がその存在の異常性を際立たせる。
「けがは!?」
「大丈夫、輝良も気を付けて!」
互いに頷き武器を構える。
その存在は乱杭歯からだらりと唾液を溢すと、手にした歪なコンクリート塊を軽々と持ち上げると、冷たい三白眼を吊り上げ嗤った。
ゴブリン、でいいのかな?
だが体格があまりに想像のそれと離れている。
身長の時点でボクの二倍、それに全身を纏う筋肉は分厚く力と生命力に満ちていた。
そして手に持つコンクリート片は、恐らくそこいらから拾いあげたものだろうが、単純故にそれを振るう膂力、生み出される衝撃は筆舌に尽くしがたい。
もし鉄扇で受けてなかったら、後ろへ衝撃を減らすために飛んでなかったら……一撃だったかも。
冷や汗がボクの頬を伝う。
この巨体で音を立てず近寄る素早さと知性、この嘲るような笑い。
「逃がしては……くれなさそうかな」
「ん、狩る」
不本意な交戦が、今火蓋を切った。