ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
――速いッ!
間一髪、頭上を轟音がすり抜けた。
その巨体に見合わぬ連撃に翻弄され、ボクたちはひたすら回避に専念を続けている。
薙ぎ払いはまだいい。しかしあの巨大なコンクリート塊だ、もし振り下ろしでも喰らってしまえば、たとえ防御の構えを取っていようとぺしゃんこだろう。
「ちょっと行ってみる」
「気を付けて!」
ついに輝良が動いた。
素早い身のこなしで棍棒を避け切ると、ついに一太刀をその脚へ浴びせる。
「……かたい」
が、撤退。
彼女が間違いなく刀を振り下ろした脛には、一本の薄い傷口だけが残っている。
わずかばかりの血を滴らせつつも、ゴブリンの動きは依然熾烈だ。
撤退してきたと同時、ボクは握っていた計測器に表示される数字を叫んだ。
「輝良! 計測出たよ! レベル200!」
「きつい、ね」
「ちんたらはしてられないってのに!」
互いにリュックから回復剤を数本抜き取ると、岩陰へと放り投げた。
レベル差は圧倒的だった、実数値にしておよそ三倍。
しかし逃げることも出来ず、有効打も与えられそうにない現状に苛立ちばかりが募る。
「弱点を狙う」
「弱点ったって、体デカ過ぎて顔とかには届かないよ!」
「ん……」
再び奴が攻撃へと転じた!
さながらもぐらたたき、縦横無尽の暴力が荒野を叩き割っていく!
もうほんとうんざりするムチャクチャな馬鹿力!
バカ! タコ! このアホ脳筋! キモすぎグリーンマン!
内心毒づきながら地を駆ける。
つくづくこういった大型のモンスターに追いかけられてばっかりだ、背後に感じる風圧に悪寒を感じつつの逃走が続いた。
「二手にわかれる」
「おっけー!」
並走する輝良の提言に頷き、直後ボクたちは左右へと駆け出した!
困惑するゴブリン。しかし大きな尻尾が目を惹いたのだろう、奴は一瞬の逡巡を乗り越え、彼女の方角へと移動を開始する。
気付いたボクは足を止め、両手の鉄扇を展開した。
扇面の外側に取り付けられた刃がギラリと輝く。
弱点。
その全身を大きな筋肉が覆っている、背後から鉄扇で切り付けようとも大した効果は上げられなさそう。
なら目的は行動の制限だ。今の僕でも着実に狙えて、脆そうなのは――
「――ここかなっ!」
ボクの狙いは足の腱だ!
飛び込み、両扇による左右からの二文字斬り。
会心にも思える隙を狙った攻撃だが、しかし半分も行かないところで刃が止まった。
巨体を支える腱はそう易々と斬れるほど貧弱ではないらしい。
「……うっそでしょ」
身の毛もよだつ感覚が全身を包み、ボクは片方の鉄扇もそのままに飛びのいた。
轟雷にも似た爆音が駆け抜ける。
目と鼻の先に巨塊が叩き付けられ、拳ほどもある石片、そして恐ろしいほどの土煙が周囲へと撒き散らされた。
『オォーーッ!?』
しかし舞い上がった砂が目に当たったのだろう、幸運なことに奴が一瞬ひるんだ。
ボクは同じく飛んできたものによってできた頬の傷もそのままに、土煙を突き抜け伸ばされた一本の腕に必死で掴みかかった。
「りついきてる!?」
「アンタが天使じゃないって言うなら多分ね!」
力強くボクの身体が引っ張り出され、視線を上下させ互いの傷を確認。
さしたる痛みを感じないのは幸いにして致命傷を受けたからではなく、ほぼ無傷だからのようだ。
あ、あっぶなっ!
マジ死んだと思った! マジで死んだと思ったッ!!
「あいつヤバいくらい硬いよ! 火力足りないかも!」
「せめて首にとどけば……」
「前のアレやる!?」
「隙が大きすぎてむり」
二人で協力しての跳躍。
それは身体能力を超えた飛距離を出せるものの、中空ではほぼ無防備になる。
あくまで魔法発動時に隙の生まれる妖精相手だから使えたもので、あの絶え間ない攻撃を浴びせてくるゴブリン相手には危険すぎた。
「くる」
輝良がピン、と耳を立たせると同時、重々しい足音が土煙の中から響き渡る。
腕を奥へと構え接近と同時に薙ぎ払う構えだ。
先んじて輝良が背後へと飛びのき、ついでボクも構えとは逆へ逃げようと駆け出したその時。
「っ!?」
うそ、はや――
既にそこには腕が迫っていた。
先ほどの数倍はある速度。
ありえない、さっきだって別に力を抜いてたわけじゃないのに!
「武器がないっ!?」
その手には何も握られていなかった。
あの巨大なコンクリートをゴブリンは手放し、素手でこちらへと襲い掛かっていたのだ。
「うぐっ」
巨大な両手がボクの胸元を握り掴んだ!
まずいまずいまずいまずいッ!?
恐怖が全身を包み込む。
「はな……せ……っ!」
いやな音が骨を駆け抜けた。
着実に、確実に、かかる力が増していく。
胸元の服が捲りあがり、ゴブリンの巨大な指先がボクの胸元へ、脂肪へ、肉へとめり込んでいくのが分かる。
「かひゅ、あ……ぐ……っ」
足が浮いた。
まるでオモチャでも抱きしめているかのように軽々と、ボクの身体が奴の顔前まで持ち上げられていく。
肺は捻り上げられ、空気は絞り出され、意識が飛ぶほどの激痛だけが脳へと警告を鐘を鳴らす。
乱杭歯から低い嘲笑が漏れ出ている。
奴にとってボクは敵じゃない、ちょろちょろとうざったい虫程度でしかないのだろう。
そしてその虫を捕まえたゴブリンにとって、弄んでいるにすぎないのだろう。
「りつ!」
「きら……火を……てっせん、に……! はや……く」
「っ、『狐火』!」
鉄扇を握りしめた片腕を天へと突き上げる。
意識が何度も飛びかける中、ボクの片手はようやくショートパンツのポケットへと届いた。
冷たい注射器の食感が指先へ伝わる。
それをどうにか自分の足へ叩き付け、感覚もないままにピストンを押し込む。
「あんた、さっき……砂ぼこりで目、擦ってたよね……」
全身の激痛にボクは何も感じなかった。
ただ、空っぽになった注射器と、紫炎によって燃え上がる鉄扇だけがボクの両手に握られていた。
「めん玉は、けっこー……効くんじゃないの……!」
鋭い針先と刃、そして敵だけを焼く紫炎がゴブリンの眼球を襲った!
今までとは全く異なる、恐怖と苦痛の絶叫を奴が上げる。
まさか獲物に反撃されるとは思っていなかったのだろう、突如として自分に痛手を与えた存在を乱雑に放り投げ、ゴブリンは地面にのたうち回った。
力なく宙を舞うボクの身体。
だが地面へ叩き付けられる直前、間一髪で輝良がボクの身体を抱きしめた。
「っ、むちゃしすぎ! バカ!」
「へへ……」
輝良がボクの身体をそっとおろすと同時、全身に巡った回復剤の効果が表れる。
握りつぶされた肺へ急速に酸素が巡り、歪み赤く染まった視界がクリアに変わっていく。
ボクは数度の咳を繰り返し、足元へ転がっていた鉄扇を拾い上げた。
あー、キッツ。
鼻から内臓絞り出されるかと思ったよ、もしかしたらちょっとはみ出てたかも。
「捕らわれのお姫様も自分で逃げ出さないとさ、今はそういう時代だからね」
ヤツはまだ地面で暴れている。
巨大な獅子が暴れ狂う姿は壮絶、されど今ならば手にとどかなかった首筋がさらけ出されていた。
「いくよ輝良」
「うぃ」
どちらともなく自分の武器を構え、互いの刃の輝きが視界の端を通り抜けていく。
二人息の合った直進。
彼女は右へ、そしてボクは左へ。
合図などなく、視線すら向けない。だが同時にボクたちは互いの武器を振りかぶり――
「ハァッ!」
「よっこいしょォ!」
対の刃がその首筋へと突き刺さり、その巨体の動きが止まった。