ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
四月生まれのお姉ちゃんは三月生まれのあたしより一つ学年が上で、でも実際には二歳くらいの差があるからいつだって大きく見えた。
勉強だってスポーツだって何でもできて、竹刀を握れば年上の男子だって問答無用で叩きのめしてしまう。
いつだってあたしの自慢、完璧なお姉ちゃん。
でもいつからだろう、あたしを見るパパやママの目と、お姉ちゃんを見る目が全然違うことに気付いたのは。
アタシは何でもさせてもらえた。欲しい服やおもちゃ、高いコスメだって何でももらえて、夜遅くまで友達と遊んでても何も言われない。
でもお姉ちゃんは違う。
あたしの落とした箸を拾ってくれた時に、その指先が傷だらけで、すごく硬かった。
いつも怪我に塗れて、それを服の下に隠している。
あたしには優しいパパもママもお姉ちゃんにだけは厳しくて、少しでも嫌がるそぶりを見せれば無理やり引きずって道場に籠って、夕飯の頃にはもっと傷だらけになって帰ってきたこともあった。
パパもママも、明らかにあたしとは違う、異常な熱意と執着をお姉ちゃんに持っているのに気付いた日はいつだったか覚えてない。
「あたしも鍛錬する!」
小学一年生くらいの事だったと思う。
道場の入り口に刺さってた竹刀を握って、胴着なんて来たこともないままあたしは道場に入った。
お姉ちゃんたちはあっけにとられた顔をしていたけど、かまわず入った。
疲れてくたくたになっても道場に居座って、三人で帰った。その日、お姉ちゃんの傷はいつもより少なかった。
あたしが守るんだ。
お姉ちゃんを守るんだ。
その日からあたしは、毎日道場に通った。パパには放置されていたけど、他の門下生と一緒に竹刀を振って、打ち合った。
「……ごちそうさま」
「輝良、全て食べてからにしなさい。体が出来上がらないだろう」
お父さんの低い声を無視してお姉ちゃんが食卓から去る、これも何度も見た景色。
不思議なのは、こんなことをしてるってのに、いつもパパとママの二人ともがつらそうな顔をしていること。
自分たちがやってるのに、なんでこんな苦しそうな顔を出来るのかあたしには分からなかった。
「暴力を振ったのか!」
お姉ちゃんがパパに殴られた。
小学三年生の頃だ。あくまで鍛錬での暴力はあったけど、拳で殴るのを見たのはこの日が初めてで最後だ。
お姉ちゃんが学校で暴れたって。
同級生の男の子たちを全員引っ掴まえて、口にブロックを詰め込んでぶん殴ったって。
もちろん全員病院送り、学校中が大騒ぎになった。
「あれだけ他人には決して暴力を振るうなと言っただろう! その力はっ」
「りつをいじめてたから」
その言葉、たった一言でパパの顔色が変わった。
時々道場に来て、その日だけは夜遅くまでの鍛練が夕方には終わる。
お姉ちゃんとお風呂に入って、いつもは絶対に触らないゲームを一緒にして、たまに泊まって帰っていく。
時にはお姉ちゃんがあっちの家に泊まりに行くことだってあった。普段は絶対に許さないのに、その日だけはパパも何も言わなかった。
いつもは絶対にパパと話さないお姉ちゃんが、りつねぇと一緒の時だけは明るくしゃべる。
お姉ちゃんはすごいんだ。
お姉ちゃんは天才なんだ。
お姉ちゃんは努力家で、ほかのくだらない人間とは全然違うんだ。
美人で、かっこよくて、背も高くて、輝いてて、誰もかれもがお姉ちゃんと話すと気圧されるくらいに迫力があるんだ。
……なのにあの人だけは、お姉ちゃんを『普通』に扱う。
アイツはへらへらしてて何も知らないくせに、お姉ちゃんはりつ、りつ、ってそればっかり。
それが気に入らないから何度もお姉ちゃんを邪魔して、りつねぇの家に行かせないようにしたけど、結局引きずられてあたしまで行くことになった。
あいつは相変わらずヘラヘラしながらあたしたちを迎えて、ムカついたから得意なゲームでボコしてやろうと思ったけど、想像以上の腕前であたしは何もできなかった。
お泊りのたび無理やりついていって、何度挑んでも倒せなくて、結局お姉ちゃんを止めるのはあきらめた。
ムカつく! ムカつく! ムカつく!!
お姉ちゃんを守るのはあたしなのに! 守れるのはあたしだけなのにっ!
お姉ちゃんの何度目かのお泊りの夜、一人、道場でいつもより強く竹刀を振ったら肩を脱臼した。
お姉ちゃんの取った金メダルは居間に何十個も飾られてるけど、あたしはこれまでで銀メダルを三つだけ。
お姉ちゃんが強くなればなるほどあこがれは増して、りつねぇへの恨みはどんどん強くなるばかりだった。
「よわすぎ」
そうしてあたしが高校生になった春、ついにお姉ちゃんがパパに勝った。
ワンサイドゲームだった。しばらく戦ってなかったからその成長にパパは対応しきれなくて、取り落とした竹刀をじっと見つめて唖然としていた。
それからすぐに、お姉ちゃんは家を出た。
すぐに帰ってくると思ったけど、全然帰ってこなかった。
パパもママも探さなかった。捜索届すら出さなかった。あれだけ執着していたのに、いつも通りあたしにだけは優しく振る舞って、パパも道場から帰ってくる時間が早くなっていった。
「なんでお姉ちゃん探さないの!?」
「……いいのよ、これでいいの」
「今は自由にさせてやりなさい、直に……」
「意味わかんない! あたし探してくるから!」
パパもママも、どこか肩の荷が下りたような、ほっとした顔つきで放っておけなんて口々に言うものだから、あたしはすっかり頭に血が昇って家を飛び出した。
この前買ってもらった最新のスマホを片手に、
行く場所は分かってる。
ムカつくけど、お姉ちゃんは絶対にそこにいる。
たどり着いた安そうなアパートの二階、玄関に立った時に気付いた。
楽しそうな笑い声が聞こえる。悔しそうな唸り声が聞こえる。二人だ。二人の女性の声が、本当にうれしそうに、楽しそうに響いてる。
「お姉ちゃん……」
そこで湧いたのは喜びじゃない、悲しみだった。
あたしの前じゃ絶対に出さない声で、無意識にあたしは、完全に打ちのめされてしまっていたんだと思う。
それから起こったことはあんまり覚えてない。
でも谷百合律に対する恨みだけはやたら覚えていて、アパートから飛び出してすぐに友達たちにメッセージを送ったのははっきりしていた。
お姉ちゃんはあたしに何も言わず探索者になってて、ダンジョンで今は戦っている。
じゃああたしも戦う! 一緒に戦う! 一緒に戦って、家に帰って、いつもより優しくなったパパとママなら、今ならきっと……!
ルリ、ザクロ、ルチル。
友達の中でも一番仲のいい三人を引き連れて、土日だけのダンジョン冒険。
それはわくわくもするものだったけど、限られた時間だけしか戦えないあたしたちを置いて、お姉ちゃんと谷百合律はどんどん先に進んでいるのを聞いて、表現しきれない苦しみが胸からせり上がった。
また届かない。
お姉ちゃんにとどかない。
勉強と同じ、剣道と同じ、なにもかも届かない。
……お姉ちゃんがあたしのことを興味ないのなんて、一緒にいたいなんて思ってないことは分かってた。
分かってるからこそ、堪えがたい苦痛。
「もっと強くならないと」
それから一人でも戦うようになった。
いつもならだらだらみんなと帰る道を、全部断って早歩き。
家にある刀を勝手に持ち歩いてダンジョンに突撃、それでも足りなくて……
「え、も、もう次のダンジョンに行くの!?」
また、置いていかれた。
今度もきっと、置いていかれる。
あたしはその日、ダンジョンを変えた。
いつもより背伸び、まだあたしを除いてレベルは十未満だったけど、四人ならいけるって推奨レベル20程度の、ゴブリンが出るダンジョンに向かった。
みんなは人型なんて怖いって言ったけど、ザクロだけは結構乗り気で、あたしの推しもあって乗り込んだ。
実際、最初の数時間はその心配は杞憂だって実力で黙らせたんだ。
四人連携すれば、あたしたちの
どんどん倒して快調快調、でも進み始めて三十分もすると、突然景色が変わり始めた。
「……家?」
古い木造の一軒家が荒野に転がっていた。