ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「りつ、つの生えてる」
「輝良アンタ、尻尾と耳生えてるけど!?」
え?
「ボクにも生えてるの?」
「うん、ほら」
輝良がバキバキのスマホの画面をこちらへ向ける。
ゴミ塗れの草原を背景に立つボクの頭には、確かにくるくると巻かれた羊のような角が二本生えていた。
「えぇー!? なにこれーっ!?」
つの!?
よりによってつの!? なんで!? それにせめてケモミミならともかく角なんて可愛くないじゃん!?
なでなでと自分の角を撫で、その冷たい感触に違和感と混乱が脳内に満ちるその瞬間、ボクの脳内にまるで稲妻
「あ、そっか」
これは夢だ。
冷静に考えれば、街中のコンビニに知り合いがスクーターで突っ込んでくるなんて、そもそもがありえない。
それにダンジョンに行くなんて普通の学生なら思いつかないし、さらに角が生えてくるなんて全部突拍子もないじゃん。
「輝良。ボクの角引っ張って、全力で」
「ぇ、いいの?」
おずおずとボクの前に立つ輝良にコクコクと頷く。
うんうん、夢だ夢。
こりゃ明晰夢ってヤツだ。いやーバイト漬けの日々で疲れてるせいだろう、初めてだよ明晰夢なんて見るの夢じゃなかったんだなアハハ。
「それじゃえんりょなく」
「ほぎゃああああ!? 死ぬ死ぬ死ぬしぬっ!!」
おごごごご!?
なんだこの頭蓋骨に直接張り付いている角を無理やり引っこ抜くような激痛は!?!?
「ふぎぎぎ」
「ふぎぎじゃないよ! もうやめい! い、痛すぎて死ぬわっ!?」
痛すぎて脳みそ引きずり出されたのかと思ったわ!
夢じゃない。
これ夢じゃない、本当に羊みたいな角が生えてしまっている。
「やれって言ったのりつなのに……」
「そうだけど! そうじゃないじゃん!」
想定外のことが起こってるときに現実を確かめるためやるアレでしょうが!
分かれ! 伝われ! 幼稚園の頃からの関係なんだから!
はぁ、もういいや。
ボクは再び自分の角をなで、このあまりに想定外の出来事、その真実を唯一知っているかもしれない存在へと声をかけた。
まあつまり、いきなりダンジョン行こうなんて言い始めた横のバカウルフカット、輝良である。
「……ねえ輝良、これなに?」
「しらない。でもこれも全ては流れの中、身を任せるのがきち」
「いきなり悟りの境地に至らないでくれる?」
全然ダメそうだった。
うーん、ぽかぽかなんて言いながらあくびまでかましている。この女間違いなく何も知らないし、別にそこまで興味もなさそうである。
「あ、そうだ! さっき協会で貰ったパンフレット!」
あれならなんか書いてあるかも!
その場にしゃがみ込みあせあせとページをめくっていると、突然本との間ににょきりと黒い頭が生える。
「みせて」
「うわっ!? ちょっと……もう、しょうがないなぁ」
ボクが文字に目を通し動かなくなったことで退屈になった輝良が、さながら仕事を邪魔する猫の様に間に挟まってきたのだ。
仕方ないので間に輝良を挟みつつ文字を追う。
しかし序盤はさっき軽く一読した内容。モンスターだとか……換金だとか……社会との……
うん……
「耳と尻尾じゃまっ!」
デカい三角のケモミミがパタパタくねくね、目の前で動き回ってるんだからじゃまったらありゃしない!
尻尾も常にゆらゆら動いていてバチバチおなかに当たる、地味に痛い!
というか普段あんた表情筋あんまり動かないくせに、耳も尻尾も動きすぎでしょ!
「そんなこと言われても……」
しゅん、と尻尾や耳が垂れた姿は少しかわ……いや、まったく。
ボクはぷんぷんと輝良を追い払い、今度は本をきゅっと近づけ文字へとかじりつく。
おそらく、これは一般的な出来事のはずだ。
ボクも、そして腕っぷしは異常に立つけど輝良も、一応これでも花の女子高生をやらせていただいている身である……ボクはサボってバイトしてるけど。
特別なことなんてない二人がなんとなしにダンジョンに入って、突然二人とも動物みたいな体の一部が生えてきた。
これは偶然起こったこととしてはちょっと出来過ぎていると思う。
と、なれば――
「やっぱり、見つけた」
冊子の中間あたりの記述。
やはりボクたちに起こったこの出来事は、ダンジョン内に入ればだれにでも起こることのようだ。
見た目は人それぞれ。でも大体はいわゆる獣人、とでも言えばいいのか、そう言った見た目になって、尻尾や耳などは神経が通っているように感じるとのこと。
でもそれより最も重要なこと、それは――
「――ダンジョンの外に出たら消えます、と……良かったぁ!」
ほっ、と胸をなでおろし本をたたむ。
いやー、ケモミミとか尻尾ならまあコスプレとかの感じでまだかわいい~で終わってくれるかもしれないけど、このゴツい角が外に出ても消えなかった、なんてなったら明日からボクはひたすら布団の中で震えることになるところだった。
ボクはこれでもメダカ並みの心臓しか持ち合わせてない。輝良の様に角があろうと歩き回れるような強い精神はしていないのだ。
「ごめん輝良、もう大丈夫。そろそろダンジョン本格的に――」
「りつ! りつ! スライム拾った!!」
「え?」
目を輝かせて輝良が遠くから走ってくる。
いったいいつの間にそんな遠くに!?
いや、それよりも!
「うええええ!? 何それ!?」
輝良はなんかプルプルとした物体を抱きかかえていた。
それは昔近所の池の中で見た、そう、オオマリコケムシのように少しきたない半透明で、しかしおもちゃのスライムのように粘液質の物体だ。
キラキラした目で目前に差し出されるも、それは抱きかかえた彼女の胸元からだらりと地面ヘ垂れ、うぞうぞとわずかに蠢いている。
スライム?
これが?
せめてあの顔が付いてるとか……ただの粘液じゃん……!
「き、キモ……!」
「ダンジョンすごい! 本当にスライムいるなんて! ゲームみたい!」
「ちょ、近づけないで! いやーっ!?」
ムリムリムリムリ!
キモ過ぎるっ! 鳥肌止まらんって! なんかちょっと動いてるのが余計キモい!!
ジリ、ジリと後ろに下がる度、輝良が一歩ずつボクへと歩み寄る。
ねとり、ねとりと地面に落ちる粘液に頬をぴくつかせ、数秒先に迫る絶望を察したボクは踵を返さんと後ろを振り向くが、そこには建物の壁。
に、逃げ道が……!
「冷たくて気持ちいいよ」
「いやなんか土とか混じっててちょっと汚いし! やめっ、近づけるのやめろォーッ!!」
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モンスター図鑑
スライム
学名:学名 similisamoeba
アメーバの仲間であると学会では指摘されている、典型的なダンジョンに存在するモンスターの一種。
湿地帯から草原など湿気のある幅広い環境に適応しており、その多くは無害であり、地面の有機物を消化する分解者。
最近ビニールなど石油製品を分解する酵素を多く含んでいることが発見され、その繁殖性などからダンジョン内にて廃棄物等の処理へ活用する術が研究されている。