ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第41話

「っくぅ~! 効くなぁ……!」

 

 上手く逃がしたはずの衝撃に腕全体が痺れた。

 少し涙目で、だけどギリギリ救えた少女へと視線を預ける。 

 

 足は妙な方向に曲がって、呼吸には何か水気が入り混じった奇妙な音。

 うつろな瞳でこちらを見上げるクレアちゃんは、息も絶え絶えに何か伝えようと口を開いている。

 

「や、クレアちゃん。いやぁ、かわいいお顔と服がボロボロじゃないの」

 

 ちょっとでも気を抜いたらそのまま逝ってしまいそうだ。

 もしザクロちゃんがボク達に連絡を取らなければ、間違いなくサイアクの事態になっていただろう。

 ボクは冷や汗をかきつつ大慌てで彼女の足へと注射器を突き刺す。

 

「無理して喋らなくていいよ、変なところに骨が刺さったら困るからね」

 

 何かこっちを見て必死に伝えようとするクレアちゃんの頭を撫で、ボクは後ろへと叫んだ。

 

「ルチルちゃーん、ルリちゃーん! クレアちゃんとついでにこのバッグおねがーい! あと怪我人には中の注射器使って―!」

 

 攻撃を避けつつ逃げ回り、周囲の人間へと必死に声掛けをしていく。

 

「周りの皆さんも一か所に固まってくださーい! この戦い終わったらやることありますから―っ!」

 

 切迫した事態、ギリギリではあったが、不幸中の幸いでバリケードを崩しきれず外に出られなかったため、声が届かないほど遠くに逃げた人はまだいない。

 これなら何とかなりそうだ。

 

「っと、あぶな」

 

 凄まじい風圧と共に横の壁が弾け飛ぶ。

 このゴブリンも大概な身体能力をしているが、最初のアイツと比べれば幾ばくか余裕を感じる。

 この道中までに戦い続けたことが要因ではあるが、もう一つ大きな要因がある。

 

 おそらく侵食現象によって上がるモンスターのレベルは、個体によって大きなばらつきがあるということだ。

 最初に見た大狼は圧倒的な巨体とレベル、絶大なまでの『個』を持ち合わせていたが、一方道中で何度か狼の群れと出会ったものの、それらのレベルはおおよそ50前後。

 無論それが十匹近くで群れているのだから厄介ではあるけど、ボク達でも十分対処可能なレベルだ。

 

 このゴブリンも体格は立派だが、膂力に関しては明らかに最初と比べ劣る。

 

「っても一人じゃきついかなぁ」

 

 展開した鉄扇を両手に駆け出す。

 連続攻撃の隙、確実に足の腱を狙って攻撃を重ねていくも上手く刃が入らない。

 やはり体格から生まれるゴン太の腱は堅牢だ、そう易々と切らせてくれるわけもなく。

 

 ――まだかな?

 

 繰り返しの連撃を避け、受け流し、寄ってきた顔へ鉄扇を突き込むも避けられる。

 一進一退の攻防のさなか、待ち続けた彼女の声が降り注ぐ。

 

「ただいま」

 

 二階の窓を突き破って黒い影が舞い降りた!

 

「待ってたよ!」

「またせてた」

 

 彼女が一つの魔石を放り投げてきた。

 ボクは回避のさなかにうまくキャッチ、ダメージによって歪んできていた鉄扇の持ち手へとそれを押し付ける。

 新品同様に修復されたそれを再び構えた。

 

 ここへ突撃する際、ボクたちは二手に分かれていたのだ。

 まず一番ヤバいゴブリン、これの気を引き被害を抑えるボク。

 そして輝良は周囲の狼の掃討だ。

 

 このダンジョンのゴブリン達、少し面白い性質を持っている。

 どうにも狼と共生関係、或いはハンターの飼う猟犬みたいに使役関係がある場合があるのだ。

 こいつらを全部相手にするのははっきり言って最悪レベルの悪手。素早い狼たちの連携と凶悪な一撃持ちのゴブリン、まず太刀打ちできない。

 

「周りの狼はぜんぶ倒した」

 

 よって基本として、二手に分かれての行動が必須になる。

 火力殲滅力に優れて素早い輝良は狼狩りに最適で、必然ボクがゴブリンの気を引かなくちゃいけないってワケ。

 

「おっけー! じゃあつまり……」

「ん」

 

 準備は整った。

 

 ボクたちは肩を並べ武器を構える。

 ソロプレイは終わり、こっからはパーティの時間だ。

 

「『あとはこいつだけ』かな!」

 

 ここまでの道筋は過酷を極めた。

 絶えず襲い来るモンスター、いつかも分からない、しかし着実に縮まるタイムリミット。 

 焦れば裏を掻かれる、臆せば命を取りこぼす。恐怖と焦燥の中、しかしそれこそが今のボク達を成長させた。

 

 あの時みたいに、もう足がすくむことはない。

 

「とりあえず外に追い出すよ!」

「わかってる、『狐火』」

 

 輝良の狐火がゴブリンの顔へと襲い掛かった!

 

 ヤツはそれを胡乱気に手で払うも、彼女の紫炎は生憎特別製だ。まるで食らいつくかのように手へ広がると、その炎は決して消えない。

 一瞬驚愕するも、しかしその火が派手な見た目ほど高温でも、素早く燃え広がるわけでもないことに気付いたのだろう、奴は再び前へと視線を向けた。

 

 が、もう遅い。

 

「こっちだよ!」

「なかはだめ」

 

 既に横をすり抜けボクたちは外にいた。

 三つの刃が閃く。

 

 一つは理想的な太刀筋だ。真一文字に切り結ばれた奴の腱には深々とした傷がつけられた。

 残りの二つは粗雑だ。刀と比べれば切るには向いていない、しかしそれを二度、三度、さらにその二重、三重と連撃を重ねていく。

 

 こちらへ振り向こうとゴブリンが体を曲げ、しかしその重みに耐えきれずヤツはよろめき倒れ伏す。

 即座に撤退したボクたちは息を整えようと空気を吸い込むも、さらに何度か背後へとステップを刻んだ。

 

 ヤツとて必死、健全な両腕で地面を這いこちらの身体を掴まんとして来た。

 赤子じみたハイハイと侮るなかれ、化け物じみた膂力から生み出される推進力は決してうかうかと眺める余裕はない。

 

 でもそれももう、何度も見たから知っている。

 

「ごめんね、許さなくていいよ」

 

 その首元へボクたちは立ち、何度目かになるその景色を眺めた。

 モンスターとはいえ人型を殺すという行為に忌避感を覚えないわけじゃない。だってモンスターたちは感情豊かだ、本当に生きてる(・・・・・・・)みたいに。

 でもボク達は余裕をもって情緒に浸れるほど強くなくて、ダンジョンで気を抜けば自分の命すら手のひらから滑り落ちてしまう。

 

 ボクはボクの大事なものを守るので精一杯。

 だから謝るけど、容赦はしない。

 

 展開した鉄扇を振りかぶり投げ、ゴブリンの首元へ浅く突き刺さる。

 勿論致命傷には程遠い。

 

「おわり」

 

 輝良が反対から刀を振り下ろすと同時に、ボクは鉄扇を思い切り蹴り込んだ。

 互いの切っ先がぶつかり合う感触と同時に、ごろりとその首先が転がる。

 あっさり、あっけなく、それで終わり。

 

「……さて、と」

 

 砂になって消える怪物の横を抜け、体育館へとボク達は歩みを進めた。

 無数の視線が突き刺さる。

 恐怖、怒り、懐疑、そして……ほんの少しの光。

 

「皆さん、これからここに結界を張ります。直に捜索隊が来ます、それまでは結界内でやり過ごしましょう」

 

 寄ってきたルチルちゃんとルリちゃんからバッグを受け取り、ボクは中の数十はある注射器を見せつけた。

 勿論バッグを持ってるのはボクだけじゃない。

 輝良も同じく自分のバッグを下ろすと、中から注射器を取り出し両手の指の間に挟むと、妙な踊りをして周囲へと見せびらかした。

 

 こら、コーン菓子を指にはめて食べるみたいに注射器ハメるのやめなさい!

 

「回復剤もここに十分あります、怪我人の方はボクの元まで! 移動できない人がいる場合は呼んでください!」

 

 皆顔を見合わせている。

 まだ何が起こってるのか理解しきっていないのだろう。

 

 不満げな顔をした輝良がボクの前に立つと、刀を納め両手でピースを作った。

 

「いえーい、美少女ふたりがきゅーじょしにきたぜぇ~」

『う、うおおおおおおおおお!!』

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