ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第43話

「これでっ、いいのかな?」

 

 店主から貰った装置の一つを突き刺した瞬間、奇妙な駆動音が手のひらから伝わってきた。

 あとは言われた通りボタンを押すだけで結界が貼られるようだ。周りには決して押さないようにと注意をするボクの元へ、輝良がもう一つの装置を握って表れる。

 

 しかしなぜか彼女の握る機器は虹色の輝きを放っていた、さながらゲーミング仕様である。

 仕様? いやいや絶対違うでしょ。

 なんでそうなったの?

 

「りつ、これでいいの?」

「逆になんでそれで行けると思ったの? もー、ちょっと貸しなさいな!」

 

 これ高いらしいんだからね!

 

 色々弄繰り回した結果、ようやく上部から黄色い光を放ち正常な状態に戻ったっぽいので、ボクは外の少し離れた場所へとそれを突き刺した。

 こっちはポインターだ。

 協会から派遣された人はこれから放たれる電波だかなんだかをキャッチできるらしい。

 

 ふう、準備終了っと。

 

 戦いからすぐの行動に肉体の疲労は当然たまり切っている。

 それでも素早く行動した結果、二度目の襲撃を喰らう前に全ての手筈が済んだ。

 体育館の入り口へ再びバリケード、ただこれはどちらかというと守護のためというよりモンスターの視線から隠れるため。

 再び薄暗い体育館の中に集まった人々を一人一人眺める。

 

「これから結界を張ります、皆さんこちらに固まってください!」

 

 額の汗を拭って叫んだ瞬間、周囲へ人々が殺到した。

 皆不安だったのだろう、一様に安どした表情を浮かべ、口々にボク達へと感謝の言葉を告げていく。

 それはボクの苦労が報われた瞬間でもあって、心に達成感と満足感が満ちる瞬間でもあった……の、だが。

 

「ぷふっ」

「ちょ、輝良ダメだって! ふふ、み、みんな大変なんだから、ふふ、わらうのはさぁ」

 

 ボク達は口角を引きつらせつつも必死に冷静を保ち、慌てて後ろへと顔を向けた。

 

 お気づきだろうか。

 ここ、ダンジョンである。

 ダンジョンに入った人間へ真っ先に起こる変化は?

 

 そう、突然ケモミミだの尻尾だのが生えるのだ。

 クレアちゃん達みたいに似合ってるのはかわいくてよい、とても良いのだが……うん。

 スキンヘッドで筋肉質のおっさんだの、サングラスかけた人にまでオニカワなケモミミや尻尾が生え散らかすものだからたまらない。

 しかもそのケモミミが、感謝の言葉と共に可愛らしくぴくぴくと揺れたり跳ねたりするんだもん、これはあまりに犯罪的な景色が過ぎる。

 

「け、け、ケモミミ似合わなすぎぃ! あはは!」

「ふ、り、りつ、わらってる、だめ」

 

 くそっ! ボクは人の容姿を笑うようなゲスにはなりたくないってのに……!

 ボクの気持ちがわかるかい? この渋く掠れた声と共にぴこぴこ揺れ動くケモミミの優雅さを!

 それをいたって冷静な顔で見なくちゃいけないこの気持ちを!

 

「じ、じゃ、じゃあ結界、ふふ、張りますねー! 一度張った状態で外に出るともう中に入れないみたいなので、皆さん気を付けてください!」

 

 あ、あかん、逃げるしかない!

 

 もちょもちょと口元を動かしてうまくごまかし、ボクは結界の機械へと近づいた。

 既に準備は終わっている。浮き上がったreadyの文字を確認し、ボタンを押し込んだ瞬間――

 

「わっ!?」

 

 周囲へ突如として、半透明の壁が生み出された。

 これが結界らしい。

 少し不思議な感覚だ。店主の感じからしてとりあえずこれを張っておけば安心、って感じだったけど、こんな半透明の膜一枚で何が出来るというのだろう。

 

「……本当に出たら戻れないのかな?」

 

 ボクは使い切った一本の注射器を取り出し、ちょぴっとばかし結界の外へと押し出してみた。

 結果は――抵抗すらなくすんなりと先っぽが飛び出す。

 

 あれ、なんもな――!?

 

「ふぎぎぎっ!」

 

 出すのは抵抗が全くなかった。

 だがその先端を戻そうとした瞬間、その注射器はまるで壁に突き刺さった棒でも引っ張っているかのようにピクリとも動かなくなる。

 ボクはあきらめて注射器を手放すと、それは軽い音を立てて外へと転がっていった。

 

 マ、マジか!

 これ本当にちょっとでも外出たら絶対戻ってこれないじゃん!

 

「コワ~……皆さん、結界の端には寄らないほうが良さそうです! なるべく真ん中に集まりましょう!」

 

 こりゃなんかちょろっとでも指とかが外に出たら大惨事だ。

 ボクは周囲へと大慌てで声をかけ、自分も中心へと身を寄せた。

 

 結界を張ってから五分、十分、二十分くらい経っただろうか。

 

「りつねぇ。あの、ちょっといいですか」

「いいよー」

 

 周囲の大人たちと話していたボクの元へ、クレアちゃんやその友達たちがやってきた。

 ルリちゃんルチルちゃんはどうにも輝良の戦いにすっかりお熱なようで、寝っ転がっていた輝良の元へ集まり、めんどくさそうに見ている彼女へと矢継ぎ早に質問を投げかけている、

 

「ほりほり、おいで!」

「え……」

 

 空気を察して人々が去ったと同時、ボクは床にどっかり胡坐をかき、彼女がボクの前へと座るように手招きをした。

 恥ずかしさに戸惑いながらも、最後はしぶしぶと座り込んだクレアちゃんをボクはそっと抱きかかえる。

 

「もう大丈夫だからね」

「……うん」

 

 少しだけ嘘をついた。

 

 まだ危機を完全に脱したわけじゃない。

 おそらくモンスターのレベルは今も上がり続けている。時々起こる奇妙な空間の振動は、おそらく侵食現象が絶え間なく起こり続けている証拠だ。

 救助隊が到着するまで緊張の糸、その全てを解くことは出来ない。

 

「あたし、りつねぇにはいろいろ酷いことしてて……」

「うんうん」

 

 しゅん、と彼女の大きなケモミミが垂れた。

 流石は輝良の妹だ。輝良も狐って感じの大きな耳と尻尾を持っているけれど、クレアちゃんは輝良よりふた回り体が小さいせいだろう、耳と尻尾がよりよく目立つ。

 

 ボクはその頭をよしよしと撫でた。

 

「ダンジョンなんて大したことないって、でもこうやって後悔しても遅くて……」

「うんうん」

 

 尻尾も触り心地いいなぁ!

 ダンジョン内だと基本危ないし、外じゃ消えちゃうから輝良のも中々触れないんだよね。

 うんうん、よきかなよきかな。

 

「二人が来なかったら、きっと……あたし、あたしのせいで皆まで巻き込んで、戦おうとしたところで差があり過ぎて何もできなかったんです」

「うんうん」

 

 えー! ちょっと待ってウソでしょ!?

 良く触ると尻尾の上と下で結構触り心地違くない!? 尻尾のほうがふわふわでめっちゃ気持ちいい!

 

「ちょっと! さっきからちゃんと聞いてるんですか!?」

「えー? もちろんちゃんと聞いてるよ~? ねえみてみて、抜けた毛で作ったゆきだるま」

「怒りますよ!? 尻尾触るのやめてください! 気が散るんですよ!」

 

 クレアちゃんはぷんすこと声を張り上げ、するりとボクの胡坐から抜け出してしまった。

 猫の威嚇のように唸る彼女へ手を振り、まあ落ち着きたまえと横に座らせると、ボクは少し真面目な口調で彼女へと言葉をかける。

 

「もちろんボクも心配したけどね、今回一番焦ってたのは輝良だと思うなぁ」

「お、お姉ちゃんが? そんなはず……」

「そんなはずって、そりゃないでしょ!」

 

 今回すぐ行こう、まっすぐいこうって最短ルートばっかり選んできた。

 勿論ひたすらスニーキングするよりは早かったけど、そのせいで戦闘回数がやたら嵩んでしまったのも事実。

 

「輝良はね、そりゃ顔もバカみたいにいいし、頭だっていいし、それに顔にはあんま出さないせいでちょっとオーラ醸し出しちゃってるのは分かるけどね?」

 

 剣道もめちゃくちゃ強いし。

 

 一息つく。

 横目で輝良を見ると、彼女は紫炎を適当に操って二人と遊んでいるようだ。

 

「アイツはアイツで多分クレアちゃんとあんま変わんないよ」

 

 輝良は見た目や雰囲気でやたらと持ち上げられる。 

 でもその実態は本当に普通だ。食い意地は張ってるし結構適当なことを言う、それに一人で勝手に抱え込みがちだし、大分素直じゃない。

 そのひねくれっぷりは家族にだって同じ、本当は心配してるしどうしたらいいか悩んでるのに、それもまた適当な物言いで誤魔化そうとする。

 

「でも輝良って変なところで真面目なんだよね。だから抱え込むし、周りに求められるとそれをしようとする。ちょっと本当に困るんだよね~」

 

 小学、中学、輝良の周りにはいつも人がいた。

 みんなが憧れる眉目秀麗文武両道の『狐天輝良』、だけどそれが輝良は息苦しかったんだと思う。

 それでも妙にまじめだからそれをこなそうとして、結局無理だからボクのところにばっか来て。

 

「お姉ちゃん……」

「大丈夫、全部終わったらまた家に戻るよ。というか帰らせる!」

 

 いつまでもいていいとは言ったけど、流石に一生はちょっと色々考えなくちゃいけないことが多すぎる!

 

「だからクレアちゃんはさ、輝良が戻ったらあのバカのこともっと等身大で見てほしいな。憧れの大好きなお姉ちゃんもいいけど、だらしなくて、変なこと言って、つっばしりがちの意固地なバカをさ」

 

 うつむいた彼女は何も返さなかった。

 ボクはその頭を撫で――ついでに耳ももにょっと触り――、ゆっくり立ち上がる。

 

「なんかさっきから悪口言われてる気がする」

「うん、言ってるよー!」

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