ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第44話

 体育館は静まり返っていた。

 完全とは言えないがある程度緊張が解けたのだろう、互いに身を寄せ合って目を閉じている人も多い。

 

 ボクはすっかり寝てしまったクレアちゃん達の頭を撫でながら、横で尻尾を揺らしていた輝良へ首を傾けた。

 

「輝良、気付いてる?」

「……ん、増えてきてる」

 

 ボクたちの到着から一時間。

 未だ姿も形もない救難を待ち続ける最中、ボク達だけは互いに見合わせ頷いた。

 

 耳を澄ませると聞こえる。

 荒々しい息遣いと、何かを引っ掻く無数の音。

 

「多分、狼だよね」

 

 その正体はこのダンジョン内に多く存在する狼たち、奴らが結界の周囲へと集まりどうにか破ろうと引っ掻いているらしい。

 幸いにしてその多くは低レベル、平均して数十程度。店主が持たせてくれたこの結界装置は高いだけはあるようで、今のところ破れる気配はこれっぽっちもない。

 

「つられてゴブリンとか来たらしんぱい」

「……そうだね、そうなるとちょっとまずいかも」

 

 不安な要素と言えばやはりゴブリンだ。

 人間ほどある巨大なコンクリート塊を、おもちゃのハンマーみたいにぶんぶん振り回すあの膂力は最悪だ。

 大丈夫だとは信じたいが、何度も何度も攻撃されたら流石に苦しいかもしれない。

 

「りつ、なにかきこえる」

「え、ホント? ボクには……いや」

 

 遠くから何かが聞こえた。

 それはまるで意志を持って、群れなす獣たちの間を伝わってくる。

 荒々しい唸りや吠えとは全く異なる、巨大な集団が一つの群体として成されたときにのみ行う意思疎通法。

 

「――遠吠え」

 

 体育館を囲っていた獣たちが一斉に吠えた。

 今まで異常に気付いていなかった一般人たちも、流石にこの異常事態に顔を凍り付かせ、一斉に声を上げ始める。

 

 ここに来るまで狼とは何度か交戦してきたけれど、今までこんな動き見たことない。

 ボクが指先で遠くにあったリュックと鉄扇を引き寄せると、穏やかな寝息を立てていたはずのクレアちゃんが静かに起き上がり、ゆっくりと目を擦った。

 

「……りつねぇ?」

「大丈夫だよ、疲れてるんだし寝てなー」

「ちょっと見てくる」

「ボクもすぐ行くよ」

 

 刀を引っ掴んだ輝良が素早く駆け上がり、静かに二階の窓を開いた。

 ボクはクレアちゃんを寝かすようにおしたおすと、自分のリュックから残った回復剤を抜き取ってポケットへと詰め込んだ。

 

 人生ってのは不思議なもので、いい予感ってのは大体当たらない。

 一方で嫌な予感ってのはサイアクなことに大体当たってしまう。

 

 駆け上がった先で見た景色は、黒い影。

 荒野の地平線から巨大な群れが押し寄せてきている。

 その数と比べればこの体育館を取り囲む数などカスだ。

 

 先陣を切るのは、とびぬけた体格を誇る大狼。

 間違いない。

 このダンジョンに入ったとき目撃したヤツ(・・)だ。

 

「はやくかえりたい」

「みーとぅー」

 

 ほら、言ったとおり。

 こういう時ばっかり予感ってのは当たるんだ。

 

 群れはあっという間にこの体育館を取り囲んだ。

 幾重もの獣たちが一斉に吠え、その牙や爪を猛々しく振るう。

 大狼は動かない。腰を据え、じっと配下であろう狼たちの動きを見ている。

 

「……結界は大丈夫そうだね」

 

 ひとまずの安堵。

 どれだけの数が増えようと、そもそも狼たちの牙や爪は結界の堅牢さを突き通すことはない。

 だがあの静かに観察を続ける大狼だけは別だ。

 あの鋭く冷たい瞳から、ボクは明確な知性を感じた。

 

 アレはヤバい。

 もしあれが動き出したら。

 

「皆おびえてる」

 

 背後を覗き込めば皆がこちらを見ていた。

 誰もが現状をうっすらと認識し、ボク達を頼るしかない状況。

 

「……輝良、あそこの狼分かる? 一匹ちょっと離れてる奴」

「ん」

「狐火であれ狙ってみて」

 

 ボクの言葉に輝良は即座に構えると、以前より速度の増した狐火が空を舞う。

 集団から少しだけ離れた小型の狼は炎を喰らうと、パニックになったように駆け回り、しかし次いで二度、三度と放たれた狐火によって全身を焼かれ息絶えた。

 

 大狼は動かない。

 いや、興味すら持っていない。

 群れの一匹が攻撃されたというのに、奴は一切視線を向けず群れの動きだけを観察している。

 

 不気味な感覚が次第に胸の中を埋め尽くしていく。

 格上ゲーマーとの対戦、蟻をなんとなく踏みつぶす小学生の足、残酷な狩人の照準。

 ボクは自由に見せかけた死の直前の空白、それに似たものを本能的に感じていた。

 

 今ボク達は、奴の気まぐれの上に立っている。

 

「……狼を減らそう」

「わたしも同意見」

 

 輝良が二対の狐火を生み出した。

 結界を突き抜けた炎は瞬く間に燃え広がり、毛皮を持つ獣たちを瞬く間に焼いていく。

 密集した分炎の拡散は早い。次から次へと押しよせる狼たちは、混乱の中で悲鳴のような泣き声を次々に上げ、あっという間に息絶えていく。

 

 だが群れの数は圧倒的だった。

 一匹が息絶えれば二匹、二匹が潰えれば今度は四匹。

 無数の獣たちが次から次へと補充され、変わらず結界の表面を引っ掻き回す。

 一度執着した獲物は決して逃さないという集団の意志が、奴らを恐怖のない兵士に変えている。

 

「……やっぱり動かないか」

 

 大きなあくびをして奴は地面へ寝転がる。

 退屈そうに前足を重ねて顎を載せ、変わらずじっとこちらを見ている。

 仲間の命など屑同然、価値など感じないというかのように。

 

 輝良による遠距離の殲滅は続く。

 二分、五分、明確に群れの数が減っていると感じたその瞬間――

 

「っ、ストップ!」

 

 遠くから巨体が駆け寄ってきた。

 ゴブリンだ。今までのものと比べてもより一層大柄なゴブリンは、苛立たし気に唸りながら大狼へと掴みかかった!

 

「……仲間割れ?」

「多分、狼たちが勝手にもっていかれたから」

 

 輝良が指差すと、数匹の狼がまるでそのゴブリンを知っているかのように、何度も視線を向けていた。

 

 ゴブリンと狼たちは時に使役関係にある。

 輝良が言うには、その狼たちが大狼の指示によってここまで連れていかれたためゴブリンが怒っているのだという。

 いわば狼の奪い合いというわけだ。

 

「……うそでしょ?」

 

 苛立たし気に起き上がった大狼の行動は早かった。

 掴まれるより早く立ち上がった奴は巨大な尻尾でゴブリンを薙ぎ払うと、よろめいた瞬間にその喉元へと食いついた!

 ゴブリンがどれだけ暴れようと意味はない。むしろ次第に強くなる咬合はその喉元を確実に締め付け、瞬く間にゴブリンの動きは緩慢に、そして見る間に地面へと倒れ伏した。

 

 瞬殺だ、文字通りの。

 

 そして勢いづいた奴は鋭い遠吠えを天高く奏でた。

 もはや雑兵に任せてなどいられないとでも言いたいのだろうか。目の前で怯える狼たちを噛み潰し放り投げると、ゆっくりと結界にまで歩み寄る。

 

 そして――咬みついた!

 

「いっ、ヤバいよ輝良!」

「こわされる」

 

 たった一撃だ。

 結界には奴を中心に一瞬で巨大な亀裂が走る。

 

 圧倒的な存在感、圧倒的な力。

 暴力という名に毛皮を着せたその存在は、得意げに喉を鳴らしてこちらを睨む。

 そしてその巨大な尻尾を満足げに揺らすと、わずかに後ろへと退いた。

 

 あきらめたわけじゃない。

 逃げるわけでもない。

 それは――全てを終わらせるための助走だ。

 

 ヤツは、駆けた。

 結界へと迫る巨大な砲弾。決着の二撃目。

 暴風を纏った大狼の突撃は堅牢であったはず結界にとって致命的だった。

 

 

『ハアァァァッ!』

 

 既に結界は背後だ。

 

 ボク達の武器が互いに交差し、大狼の突撃全てが全身へと襲う。

 引き裂かれるような苦痛と骨のきしみ、衝撃に飛びかけた意識と視界が白へと変わる。

 暴力的なまでの膂力と質量による突撃は、間一髪飛び出したボク達をたやすく弾き飛ばす。

 

 背中を再び衝撃が突き抜けた。

 自分たちが結界まで吹き飛ばされたと気付くのにそう時間はかからない。

 気が付けば奴は目の前にいた。

 

「っ、きら……」

「だいじょうぶ……りつは……?」

「まだ、まだ……!」

 

 ボクは右に、輝良は左に。

 互いが互いの回復剤を突き刺し、即座に武器を抱えて飛びのいた!

 刹那、轟音と共に地面が抉り抜かれる。間に合わなければ右と左で真っ二つだっただろう。

 

 未だ眩む視界の中、ボク達は鉄扇を、刀を真正面へと構えた。

 

「結界から離すよ!」

「ん、少しでも時間をかせぐ」

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