ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「……おいおいおいおい、どういうつもりだ代理人殿?」
ボクへ拳が突き刺さる直前、何かシールドのようなものが頭上へと展開された。
発動した本人は手に大きな、枝から切り取ったかのように歪な杖を抱え、静かに直立不動の姿勢を取っている。
それは男と共に現れた高身長の女性だった。
あれ、この人の杖どっかで見たことあるような……?
「これは敵対意思と捉えていいんだろうなァ?」
男はにやりと笑う。
まるで仲間を仲間と思っていない様子で、己の拳を胸の前で打ち鳴らしながら全身へ炎を纏った。
「面白れぇ! 澄ましたツラしたアンタの力量をずっと確かめてみたかったんだ!」
「身共は曙光と里長との盟約によって遣わされた代理人、契約はあくまで最終目標の遂行でしょう」
好戦的な男とは対照的に、彼女は淡々とした態度を崩さない。
ローブの下の顔は見えないものの、次いでのため息を聴けば彼女が少し苛立ちを感じているのは理解できた。
「それと、我が里では同族の殺傷は禁忌となっております。これは我々に限らず、貴方の育った土地でもそう変わりはないはずですが」
「あいにく野良育ちでなァ、ぬくぬく育った奴らの理屈は知らねェ」
「野良犬でも噛みつく相手は弁えるほずですが」
「だったらテメエは噛みついていい相手なんだろうがよォ!」
ついに男が口火を切った。
ボクを殺しにかかったさっきは一体何だったのか、大きく口角を吊り上げ駆け出すと、味方のはずの女性へと勢いよく殴りかかる。
彼女は冷静に後退し自身の前にもシールドを展開すると、男の拳が激しい衝突音と共に周囲へと炎をばら撒く。
あ、あちっ!?
背中にも飛んできた!? も~なんなの!?
「別にテメェをここでぶっ殺して、協会の連中にやられたとでも報告すればいいんだぜ?」
「……貴方の短絡的な思考や行動など気付かれないわけがないでしょう」
「やってみなきゃ分かんねえだろうが! チャレンジ精神が足んねえんだよ、里に引きこもってるテメェらエルフはッ!」
熱いし叫びたいけど、この脳筋っぽい人に聞こえたらうるせえ! とか言って殴りかかって来そうなので何もできない。
動かない体を芋虫みたいに転がして、どうにか飛んできた火種を地面へこすり付けていると、彼らはついに互いの力を放ちはじめた。
「――爆炎拳」
「――困った方ですね、
なんかすごそうな技出してる~!?
互いになんかこう、紅かったり緑色っぽいオーラが一帯へと満ち、互いのオーラがぶつかり合って火花を散らした。
多分絶対に人に向けて打ってはいけない類の魔法である。
「……喧嘩するならよそでやってよぉ」
蚊帳の外でボクはしくしくと涙をこぼす。
巻き込まれたら死ぬかもしれないけど、そんな遠くに逃げられるほど体に力は残っていない。
ボクは横に転がった輝良をぎゅっと抱きしめ、ただそれを観察する以外に出来ることはなかった。
いきなり出てきて何なのこの人たち……多分緑の人は優しそうだけど。
なんか協会の人じゃないみたいだし、しょこう? もなんかどっかで聞いた気がするけど、良く分かんないし!
ふええん……輝良早く起きてよぉ! 逃げないと本当に死ぬってぇ!
「――よかった、生きていたのね」
「うぇ!?」
震えて転がるしかなかったボクの横に、突如として人の気配が現れた。
すわ今度は一体誰!?
もーへんな人は勘弁!
「えっ……ほ、鬼灯さん!?」
鬼灯さん、それはダンジョンに潜りたての頃協会で出会った、この国でも有数の実力者らしい人だ。
何より特徴的なのはその白虎みたいなケモミミや尻尾で、本来ならダンジョンの外に出たら消えてしまうそれも、高すぎるレベルによって常に顕現しているらしい。
出会ったときは車椅子に乗っていたはずだけれど、今日はしっかりと立ってこの場にいた。
「あら、ごきげんよう。……確か以前、一度協会であった子よね?」
「そ、そうです! 覚えててくれたんですか!?」
一回、それもちょろっと話しただけなのに!
「と、というかこの前会った時は車椅子だったのに歩けるんですか!?」
「少しだけね、ここまで来るのも大変だったのよ? 車の手配に時間が掛かっちゃってね……遅れてごめんなさいね」
いたずらな笑みを浮かべ彼女はウィンクをした。
いやいや、一番いいタイミングですよ本当!
こちとら突然現れた変な奴らに殺されかけてたんですから!
「それにしても驚いたわ、二人でこのダンジョン内を生存できるだなんて」
「へへ……輝良が戦闘とかは基本引っ張ってくれたおかげです! ボク一人じゃぜんぜん!」
「貴女たちが設置した結界は確認済みよ、よく頑張ったわね。さ、腕を出して」
「ありがとうございます!」
彼女が太腿に手を当てると、見慣れた注射器を取り外した。
言われるがままに腕を差し出すと小さな痛みと共に、少し冷たい液体が駆け巡る感覚と、同時に全身の痛みがみるみる引いていく。
こちらの様子を見て頷いた鬼灯さんは、もう一つ小さな機械を取り出して地面へと差し込んだ。
「さて、じゃあ二人ともここで安静にしていてね? すこしあの二人と話してくるわ」
「こ、コレ結界装置ですか!?」
「ええ、出力も弄ってあるからこの程度のダンジョンなら傷一つつかないわ」
彼女の言葉と共に輝く光壁がボクたちの周囲へ貼られる。
どうやら範囲が小さい分出力が上がっているようだ、光の密度がボクの使った奴の比じゃない。
彼女は優しい笑みを浮かべこちらへ手を振ると、小さなナイフ一本を片手に結界から抜け出た。
「ごきげんよう、曙光の皆さん」
「……アァ?」
互いに魔法を放つ一触即発のその瞬間、その中心へと割り込む鬼灯さん。
突如現れた彼女に気付いた途端、ローブの女性は自分の魔法を即座に消し去ると、ゆっくりと一歩退いた。
だが男にとってはつまらなかったのだろう、魔法を残したままに彼女を睨みつける。
だが鬼灯さんはその男の威圧、存在感など何も感じていないかのように、さらりとした笑みを彼へと投げかけた。
「特記専属部隊の鬼灯よ、よろしくね」
「……協会の首輪付き! やっと来たか!」
「あらまあ……随分と威勢がいいのね。でもこれなら本当によかったわ」
「良かったァ? こりゃついてるぜ、テメエも俺と同じで勝負が好きなタチか!」
同族を見つけたと荒々しい喜びを上げる彼。
男の言葉に彼女はくすくすと笑い、顔の前でばってんを作った。
「ぶっぶー、大外れ。貴方が弱そうで嬉しいだけよ」
「……ぶっ殺す!!」
はっきりいって、ここからボクはほとんど見えなかった。
一応味方相手だったからだろう、先ほどの戦いとは比にならないほどの速度で男は地面を掛けると、気が付けば鬼灯さんの前で拳を振りかぶっている。
だが彼女はいたって冷静にそれを眼で追い、己の前でナイフを構えた。
「ほら、やっぱり。『基質解放――
そして次の瞬間には、大男の背後に回っていたのだ。
同時に男は両腕の根元から激しく血を吹き上げ、絶叫と共に地面へとうずくまった。
「まだ戦う? 次は小指でも落としてあげましょうか?」
「ぐぁぁっ!て、テメェ……!」
「ウソ、そんなひどいことしないわ」
彼女は蹲った大男へ近寄ると、その脚の腱を手早く切り裂いてしまう。
完全な無力化、それは数秒にも満たない合間に終わった。
鬼灯さんが何をしたのかは全く分からないけど、こんな僕でも実力差が圧倒的なのだけは良く分かった。
あの大狼を軽々と屠った大男が、今は子供、いや、赤子よりも弱い存在として扱われている。
派手さはない。ただ全ての敵を倒すことに特化した、とことん洗練された実力の元の蹂躙だ。
す、すごい……これが協会で最強って言われる人の力!
「貴女はどうするの?」
鎮圧された大男の横に立ち、鬼灯さんは振り返った。
その視線の先に立つのはボクを守ってくれたあの人だ。
「身共に敵対の意志はありませぬ。ただそこの男も一応は協力者の一人故、これ以上の戦いとなれば……」
静かに杖を構える彼女。
「ふふ、やめておきましょう。互いにやる気のない戦いほど無価値なものはないもの」
「……寛大な処置に感謝いたします」