ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「うち、うちりっさんがどうなるかって心配で心配で!」
「ついさっき、ダンジョンの外で死にかけたけどね」
にまっとした笑みを浮かべてザクロちゃんが頭を掻いた。
「連絡間に合ってよかったっすわ」
「ザクロちゃんも中々無理するよねぇ、おかげで皆ここに立ってられるんだけどさ」
「へへ、でも役に立ったっしょ!」
ギャルピでアピールをするザクロちゃん。
軽い態度とは裏腹に、ボク達ですら苦労するあの荒野を一人駆け抜け、命がけでボクにまで連絡をつないでくれた功労者だ。
大半の人は自分の命を優先する中でそれを行うなんて、並大抵の精神じゃ成し遂げられない。
正直本当にすごいと思う。
「でも助けられない人も、いました」
「……そっか、クレアちゃんも大変だったね」
ボクに抱き着いたままのクレアちゃんが悲し気に目を伏せる。
何が起こったかは大体予想がつく、それ以上語らせる必要はない。
そっと彼女の肩を抱き寄せると、ルチルちゃん達と話していた輝良がこちらに歩み寄ってきた。
「クレア」
「お姉ちゃん?」
輝良は相変わらず無表情だが、不思議とボクにはそれが少し硬く見える。
彼女はクレアちゃんの元までやってくると、一瞬片手を伸ばし、しかしその手は空で惑ったように動き、すぐに戻す。
「今回はそもそも突発的に起きた事故、クレアはただ巻き込まれただけ」
「……うん」
「それに実力も大したことない、にもかかわらずその全てを救いたいだなんて傲慢じゃないの?」
場の空気が凍り付いた。
なんでも明るく語るザクロちゃんですら笑顔が固まっている、地獄絵図である。
「……はぁ」
相変わらずコイツはまったくもー!
「いたっ」
「違うでしょ!」
痛む頭を押さえつつげしっとそのケツを蹴り飛ばす。
ボクといる時はなんでも好き勝手言うくせに、どうして実の妹にはこうもすべてが下手くそになるのか。
なによその顔は、アンタの口下手が問題でしょ。
ボクがジト目で顎をしゃくり上げると彼女は額にしわを寄せ、泣きそうな顔で見上げていたクレアちゃんの前へとしゃがんだ。
静寂が辺りを包む。
何度か深呼吸を繰り返した輝良は、恐る恐るといった様子でクレアちゃんと視線を合わせると、実の妹と話してるとは思えないほどぎこちなく言葉を紡ぎ出した。
「その……クレア、無事でよかった。ずっと、ずっと心配だった」
「っ、あ、あたしっ!」
「――! ……よしよし、もう大丈夫」
今までのクレアちゃんの行動は叫びだったのかもしれない。
あたしを見て、あたしの言葉を聞いて、なんて結構不器用なのは、姉妹だけあってやっぱり少しだけ輝良に似てる。
それに歩み寄れたのはきっと家を飛び出し、今の輝良に昔より少しだけ余裕があるからなのだろう。
人の目も憚らない大きな泣き声が上がる。
輝良はしゃがみ込んだまま大事な妹をすっぽりと抱きしめ、静かに、ゆっくりとその頭を撫で続けた。
同じ家、されど異なる環境。十数年の間にいつの間にか出来ていた二人の間の壁は、たった一日の出来事でなくなってしまったようだ。
「なんでクレアちゃんは悪くないから気にしないで、ってだけのことを素直に言えないかなぁ」
「ええ話や……! ええ話やなりっさん!」
一転して笑顔を浮かべたザクロちゃんが嬉しそうにボクの肩を叩くも、こちらはちょっと苦笑いである。
結局、もしかしたら人と人の隔たりの理由なんてひどく些細なことで、ひょんなきっかけさえあれば簡単になくなってしまうのかもしれない。
ま、そう簡単に行かないって言われたらそうなんだけどね。
「クレアの泣き顔撮っちゃお~ぱしゃぱしゃ~」
「いじりネタ! いじりネタ確保だね!」
「二人ともそれはやめてあげて……」
輝良においていかれたルチルちゃんとルリちゃんが、にまにまと笑いながらクレアちゃんの泣き顔を激写している。
二人とも一応さっきまでダンジョンで死に直面していたってのに余裕があり過ぎ。
……少しだけ心配だったのは、偶然とはいえ侵食現象に巻き込まれた三人がクレアちゃんを責め立てる可能性。
もしクレアちゃんが三人にそれをされたら、間違いなく気に病むだろう。
「これなら大丈夫だね」
皆本当にいい子ばっかりだ、クレアちゃんは本当に友達に恵まれてる。
それに今回の件でクレアちゃんは無理なんてしなくなるだろうし、周りの子達もきっと何かあったときに止めたり、協力し合えるはずだ。
それがダンジョンであろうと学校生活であろうと、きっとこの四人なら問題を乗り越えていくだろう。
「クレア。いい加減、なきやみなさい」
輝良が突然クレアちゃんの脇に手を入れ、ネコでも持ち上げるかのようにひょいっと立たせた。
「え!? お、お姉ちゃん!?」
「べたべたあつくるしい」
季節は初夏。確かに輝良の言う通り、二人ずっと抱き合っているにはちょっとむさくるしくはある……が。
輝良の少し赤くなった頬は果たしてそれだけだろうか、彼女はぷいと背を向け足早にクレアちゃんから離れる。
「こほん、皆ききなさい」
赤い顔もそのままに、わざとらしく咳ばらいをした彼女はポケットから小袋を取り出した。
こちらへ見せつけてくるので見てみれば、じゃらりと小さく黒い石片がたっぷりと詰まっている。
「ここに魔石がいっぱいあります」
「え!? いったいいつの間に!?」
「ふふん。体育館周りの狼かったときとか、ゴブリンたおしたときとか集めといた」
魔石は基本内部の魔力量によって価格が上下する。
ボク達がマンドラゴラ狩りで生計を立てていることを考えれば、普段の数倍、下手すれば二桁倍ほどの数があるこの小袋の価値が分かるだろう。
正直ギリギリで石を拾ってる余裕なんてなかったので、ボク自身その袋を見てごくりとつばを飲み込んでしまった。
「や、ヤバいっすきらっさん! まじぱねーっす!」
「やべーっす~」
「やべーっすやべーっす!」
「わお、すごい語彙力ぅ」
輝良の周りへとクレアフレンズの三人が集まりきゃいきゃいと崇め奉り始めた。
「ふ、じここーてーかん、バク上がりちゅー」
輝良はさらりと自分の髪をはらい、満足げに鼻息を鳴らした。
今ダンジョン内みたいにケモミミと尻尾が生えていたら、間違いなく普段の十倍は動き回っていたに違いない。
「ということで協会に今から行って、そのまま生還きねんパーティー、しもうす」
『いえーい!!』
……あ、魂抜けてるクレアちゃん回収しないと。