ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「うぇ~、まだ動くの~?」
足元でうぞうぞと蠢くこぶし大の粘液へ、ボクは再び手にした鉄扇を振り下ろす。
「もう腕パンパンだよ……えいっ!」
このスライムってモンスター、攻撃力とかはほぼ皆無だし動きも緩慢だが、一方でやたらとしぶとい。
叩くほどに小さくはなるが、一方で叩けど叩けど動き続けるのだから面倒なものだ。
……まあ、なんか生き物感薄いのは助かるけど。なんか透明な奴がうぞうぞしてるだけだし。
もし普通に動物の見た目とかだったら、ボクは鉄扇を一度振るより前にダンジョンから逃げかえってるね。
「お」
いったい何度叩いたことか。
最初は大股で跨げるほどの水たまり大ほどだったスライムが、掌より小さくなったあたりでついに力尽きでろりと地面に広がる。
さらにスライムの肉片(?)はさらさらと砂の様に崩れていき、最後に指先より小さな黒い石ころだけが残った。
このちみっこい石ころがいわゆる魔石って奴だ。
これでボクが集めた魔石は合計五個。たった五個? なんて思うかもしれないが一回やってみればわかる、延々うにょうにょし続ける粘液を鉄扇で叩き続けることの虚無さが。
「ん~、もう五時かぁ」
赤く色づき始めた空に背伸びをし、ボクは鉄扇をポケットにしまい込む。
「はー、きゅーけいきゅーけいっと……おっ、ここでいいや」
その中で草原にも関わらずむき出しになった地面の一部、
心地いい香りが口いっぱいに広がり、ほんのりとした甘みがボクの少し張った気持ちを緩めた。
ダンジョン、か。
正直な感想を言ってしまうと全く良く分からない。話に聞いてた魔法とかもどうやって使うのか分からないし、こんなことしててお金が稼げるってのも本当か? って感じ。
「でも別にいやってわけでもないんだよなぁ、まあたまーに来る分にはいいかも」
ゴミが散乱していてダンジョンそのものの感動は薄れてしまったけど、自分や友達の見た目が変わるのも結構新鮮だった。
まあ……角は正直横とか見辛くて邪魔だけど。本当にゲームみたいだし、あんまり感情が顔に出ない輝良も尻尾や耳はいっぱい動いていてわかりやすい。
そろそろ帰ろうかな、とペットボトルに再び口をつけたところで、ふと思い出す。
あれ? 輝良どこいった?
さっきまで一緒にスライム叩いてたはずなのに気が付いたらいないぞ。
「きらー? 帰ろー!」
もー、いっつもフラフラどっか行っちゃうんだから。
右へ左へ首をひねり、ふと、夕日を背に立つ異形の影をボクは見た。
「――っ!?」
人の形をしていた。
ただ、片腕と片足、そして首から上が異常に大きい。
しかも不定形で蠢き、時々なにかがずるりと滑り落ちる。
あれは……あれは……っ!
「たす、け……りつ……」
何匹ものスライムにへばりつかれた輝良だッ!
絶対さっきみたいにスライム触って遊んでたら外れなくなったヤツ!
『ああ、ただ必ず二人以上で行動してくださいね』
「こ、こういう事かーッ!!」
もーアンタ何やってんの! 本当にバカなんだから!!
.
.
.
「やっと取れた」
「とれた、じゃなくて取ったの! ボクが!」
「りつのためにいっぱい持っていこうと思ったけどちょっと重かった」
全身ねばねばのスライム粘液まみれの顔で輝良が笑う。
これで気づいたのだが、モンスターは倒すと砂みたいになって消えるようなのだが、スライムの粘液みたいに別れた部分は消えてくれないらしい。
微妙に不親切な仕様だ。
「取ってくれてありがと、だいすき」
「ひっつかないで! きたない!」
「ひどい……」
一番ひどいのはあんたの今の服装だよ。
「もう……それで、少しは輝良もスライム倒したんだよね?」
「んー、二十匹くらい?」
「え!? そんなに!?」
うそ!?
ボク五匹でも結構全力だったのに!?
でも初心者で二十ってすごいんじゃない!? やっぱり剣道やってると違うなぁ。
「ねえねえ見せてよ魔石!」
「……?」
「うん?」
ボクが首をかしげると、向かい合う輝良も同じくこてんと首をかしげる。
なんで君が不思議そうな顔をしているんだい? ボクが一番今不思議な経験をしているんだけど?
「ませきって?」
「まさか魔石全部置いてきたの!? 稼げないじゃん!」
ちょっと期待したのに!
「……りつ、お金が欲しかったの?」
「え?」
しゅん、と輝良のケモ耳が垂れた。
「りつ、人が多いところとか嫌いだし、はやりの場所とかも行きたがらない。こういう所なら楽しめるかなって思って来た、ここなら安全って書いてあったし」
ボクはその言葉にあっけにとられ、握っていた手のひらをゆっくりと下におろす。
輝良はばつが悪そうに指先をいじいじと絡め、目線を彷徨わせていた。
「でも怒ってばっかだし楽しめなかったのかなって……ごめん」
「っ、それはっ!」
言いたいことはいくつも浮かんだ。
でもボクは輝良の頭に手を添え――思いっきりケモ耳を引っ張り上げた!
「それはあんたが説明せずに突拍子もなくあれこれするからでしょうが!」
「ううう~痛い~……」
「遊びたいなら遊びたいっていいなさいな!」
もうちょっと言葉を口にしなさいよ昔からもう!
アンタ昔クラスメイトとかにはもう少しちゃんと喋ってるでしょ! なんでボクの時だけこんな自由なの!?
もちもちとケモ耳をいじりまわしながら、薄暗くなっていくダンジョンの入り口でぐちぐちと説教を垂れる。
輝良はなにか小さく声を上げているが無視だ無視。ついでに触ってみたかった尻尾も弄繰り回しながら、ボクはしばらくその触感を堪能した。
ほんのりあったかいし触り心地もよくて一家に一つ欲しいぞこれ。
「……まぁ、全然楽しめなかったワケじゃないけどさ。最近バイトばっかだったし」
しばらく撫でまわしたのち、ぽつりと輝良の後ろで呟く。
正直、ボクは学校になじめてない。
理由も理由で、元々輝良と同じ高校に行く予定だったけど、願書を出し忘れて結局地元のヤンキー率120%みたいな高校にどうにかギリギリ願書を出せたってのが現実。
だから真昼間からバイトをしてる、それを咎められもしないのがボクのいる高校だ。
でもバイトだってお金が欲しいわけじゃない。ただ何となく、本当になんとなく働いてるだけ。
だから正直、ほんのちょっぴりだけ、輝良が飛び込んできた時にほっとした。
中学生の頃と何も変わってない空気が、その時だけボクの周りに流れてきた気がしたから。
「ホント!?」
「うっそー」
「うそだー、だってりつスライム叩くのすっごい熱中してたもん」
そんなの絶対言わないけどね、輝良調子乗るし!
ボクがそっぽを向くと、輝良は尻尾を文字通りぶんぶん振りながら一瞬走り出し、すぐに戻ってきた。
その両手にスライムを再び抱えて。
ん?
ちょまっ、こら寄るな!
「ぃ!?」
「わたしスライムでの遊び方けんきゅーしてたから、りつにも教えてあげる!」
ひんやりとした感覚がボクの胸元へ広がった!
輝良はにんまりと口角を上げ、両手のスライムをずりずりとボクへこすり付けている!
さっきあれだけ拒絶したというのに!
ほら! ほら! もう! 調子乗ってる!!
これだからこの子の態度は信用できないんだ! 昔からずっとそう!
「っ、きーらー! もう怒ったからね! アンタいい加減に堪忍しなさいよ!」
「りつ怒っても怖くないもーん」
「あっ、こら待て!」