ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
『かんぱーい!』
買って来たばかりのホットプレートの上に肉たちが踊る。
かぐわしい香りが部屋いっぱいに広がる中、ボク達はキンキンに冷えたジュースを思いっきり飲み干して熱い溜息を吐き出した。
「えー、りっさん学校行ってないんすか!?」
「いやぁ……なんか行く気にならなくてさぁ」
「めっちゃヤンキーでウケる!」
ひょいひょいと少し焦げかけたお肉を拾い集めつつ、ザクロちゃんはボクの不登校を大声で笑い飛ばす。
いやぁ、一応バイトしてる頃はちょっとは気にしてたんだけど、最近はもう開き直ってるよね。
ダンジョンで戦ってた方が百倍楽しいし……何よりまあ、ボクは学校ってのはやりたいことを探す場所だと思ってる。
もうボクはやるべきことを見つけてしまっているのだ! ってことにしといて!
「まあクビになったらなっただよねぇ」
「勉強ならわたしがおしえる、高卒認定ならすぐとれる」
「って事らしいよ、あと輝良それまだ生だから」
乗っけたばっかのお肉を食おうとする手をはたき、ボクが育てていた可愛い牛タンを皿の上へと乗っけてやる。
さすが、既に高卒認定確保済みで家から飛び出した女は言うことが違うぜ。
この部屋の住人はドロップアウトガール二人によって構成されています。
「色々えぐ~! ワハハ!」
「まあ人生なんとかなるもんよ、気合い気合い!」
今ここでみんなで焼肉してることすら奇跡みたいなもんだしねぇ!
とりあえず諦めなければなんとかなるなる!
「炊き立てごはんついか~」
「お肉も! お肉もありますよ!」
キッチンからサシの入った上質なお肉をたっぷり持ってきた二人も合流、彼女らにボクがコーラをコップへ注いでやると満面の笑みでグラスを煽った。
お肉! ジュース! からのお肉!
至福のループを繰り返してるさなか、もう一人キッチンから出てきた女の子がいた。
「りつねえ、お姉ちゃんも普段野菜を食べていないって聞きましたよ!」
ねこの描かれたエプロンを身に着けたクレアちゃんである。
彼女はキャベツや玉ねぎなど盛り付けたボウルを両手で抱え、ぷんすこと頬を膨らませながらボクの横へと座り込んだ。
「え!? ちゃ、ちゃんと食べてるよ……唐揚げの下のレタスとか、ポテトサラダとか……」
「そんなん食べた内に入らないって! ほら口開けて!」
ざく切りのキャベツをググっと口元へ寄せられ、無理矢理に放り込まれる。
ぼり、ぼり、と先ほどまでの幸福感はどこへやら、青臭く微妙に甘い特有の味が口いっぱいに広がった。
せめて加熱してから食べさせてぇ……あとタレもつけさせて。
「お姉ちゃんも!」
「ぷい」
「ぷい、じゃありません! 食べて!」
「まずいからいらないー」
ぶすぶすと菜箸で頬をつつかれながらも輝良はお肉を食べ続ける。
クレアちゃんはどうにか野菜を食べさせようと必死だが、どうやら姉の方が一枚上手らしい。
結局彼女はぶつぶつと文句をいいつつ、大人しくレタスでお肉を巻いてもちょもちょ食べ始めた。
「……なんですか」
「へへ、クレアちゃんちっちゃくて可愛いなぁーって」
頭をなでなでしていたらキッ、と睨みつけられてちょっと離れられてしまった。
かなしい。
「しくしく」
「おお、りつかわいそう。よしよし」
「なんであたしが悪いみたいな雰囲気なの!?」
うがーっとクレアちゃんが立ち上がったところで、突如としてインターホンが鳴り響いた。
「はーい?」
外はもう真っ暗、時刻は二十時を回っている。
はて、一体誰だろうか?
「ちょっと見てくるね」
一応家主としてほっぽっておくわけにもいかないので、渋々と玄関へ向かう。
インターホンを覗き込むとそこに映っていたのは――ぴこぴこ動く丸っこいケモ耳だった。
こ、この人は!?
「ほ、鬼灯さん!?」
「ごきげんよう。外まで楽しそうな声が漏れていたわ、邪魔してごめんなさいね?」
いたずらな笑みを浮かべ両手を合わせる彼女。
誰も何も、限界ギリギリだったボク達をダンジョン内で守ってくれた人、トップクラスの探索者である鬼灯さんだ。
な、なんでこの人が!?
申し訳なさそうな顔立ちを浮かべ、慌てるボクの後ろへと彼女は視線を向けた。
「急で申し訳ないのだけれど狐天輝良さんはいらっしゃるかしら」
「あ、はい。輝良ー! 鬼灯さんが来てて、ちょっとこっち来て―!」
しばらくすると、随分いやそうな顔――といっても無表情で分かり辛いけど――のまま、輝良がのそのそと廊下を歩いてくる。
「……どうも」
さっきまでの本当に楽しそうな顔はどこへやら、実に適当に首を動かしての挨拶。
「ふふ、ごきげんよう。いきなりだけれど時間はあるかしら?」
「ない、さよなら」
「ちょ、ちょっと輝良! 鬼灯さんはボク達を助けてくれた人だよ!?」
以前、初めてボク達が鬼灯さんと出会った日、輝良は彼女のことを苦手だと言っていた。
正直何が苦手なのか良く分からないけれど、たとえその気持ちを尊重するにしてもあんまりだ。
「まあ、そんな冷たくあしらわないでちょうだい? うふふ、何も取って食おうだなんて考えてないのに」
寛大にも彼女はたおやかな笑みを浮かべ、少し冗談まで飛ばしてくれた。
せっかくこの家まで来てくれたってのに怒らせてしまうんじゃないか、なんてちょっとびくびくしていたのだが良かった、流石強い人は精神面でも余裕がある。
しかし輝良はなおも頑固だ。そのままドアノブを引っ掴み閉じようとするも、鬼灯さんは涼しい顔で足を差し込んでそれを阻止した。
「あらあら、思ったより気短みたいだから手早く話しましょうね」
くすくす、なんて擬音が付きそうな軽い笑い声だった。
鬼灯さんが余裕の表情で言葉を紡ぐ度、輝良の眉間に深いしわが刻まれていく。
「貴女には協会に足を運んで貰いたいの、勿論車の手配は済んでいるわ」
「ざんねん、無駄足」
一体輝良どうしちゃったんだ。
何だか苦手だとか嫌いって言うより、むしろどこか怒っているみたい。
「……さいなぁ」
かたくなな態度の輝良に鬼灯さんは困ったような笑みを浮かべ、何か小さく呟く鬼灯さん。
「うーん、こういう方法は好みじゃないのだけれど」
彼女の笑みが、一層深まった。
「協会規約の第七章二十五条、全ての正会員は当法人による緊急時の招集を拒否してはならず、不適合と認められる理由での拒否を行った場合、本会によって許諾、付与された一切の権利を即座に喪失するものとする」
胸元から一冊の手帳を広げこちらへ見せつける鬼灯さん。
「さて、文面での確認は必要かしら?」
押し付けるようにそれを輝良へと手渡すと、彼女はドアから足をどけた。
輝良は動かない、いや、動けないのだろう。なにせそれは実に分かりやすい脅迫、ついてこなければ探索者として行動できなくするぞ、といった内容なのだから。
ハラハラと状況を観察するだけだったボクだけれど、ここですかさず口をはさむ。
「ね、ねえ輝良、鬼灯さんはボク達を助けてくれた人なんだし、話を聞くぐらいいいんじゃないの?」
うつむいた輝良の目がボクと合う。
「……りつが一緒に来るなら」
「もちろん構わないわ、貴女の大事なパーティメンバーですもの」
渋々といった様子で頷いたところで、ボクはいったんリビングへと戻る。
少し不安そうに見るみんなへ明るく話しかけ、ボクの合鍵を渡してパーティーは終わりだと告げた。片づけだけを任してボクもまた玄関へと足早に戻る。
残念だけれど機会はいつだってある、それこそ次の週末にだってかまわない。なにせ今回の収入はたんまり入っていて、そのほとんどはまだ余っているのだから。
「おまたせ~、いこ!」
「……ん」
渋い顔つきの彼女に腕を絡ませ、ボク達は互いに少しボロボロになったスニーカーへと足を通す。
うすぼんやりとした街灯の下、つやつやと輝く黒い外車が待っていた。
階段の途中で輝良が少しだけ止まって、ぽつりとつぶやく。
「りつ……ごめん」
「なーに気にしてんのさ! アンタが家に来た時から大して変わらないって!」