ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第51話

「まあそう焦りなさんな、話はまだ終わっちゃいないんだからさ」

 

 ボクの腕を引いた輝良がはっきりと舌を打った。

 

「危険すぎる。そこの人がトップランカーだって言うなら、その人でギリギリの相手をどうして私たちがしなくちゃいけないの?」

「だからさ。キミ達にはあくまで、救助や調査専門として動いてもらいたいんだぁ」

 

 輝良と祇穣院(ぎじょういん)さんの視線が交差した。

 彼はいたって平穏な顔つきを保ったまま、革張りのソファの上で己のコーヒーをくゆらせながら続ける。

 

「曙光の動きは読めないが、各ダンジョンに設置された計測器のおかげで、少なくとも初動の段階から察知は出来る。問題は対処に当たる人員数さぁ」

 

 協会の専属部隊、自治体、軍。

 その連度に差はあれど、いくつかの組織が侵食現象の察知と同時に行動を開始する。

 だが当然そう都合よく組織の近くのダンジョンが曙光のターゲットになるとは限らず、さらに組織の初動は得てして規模が拡大するほどに遅れてしまう。

 

「キミ達にはそういった事案においての初動、つまり取り残された民間人の救助や避難誘導、結界の設置などを行ってもらいたい」

 

 要するに彼が言いたいのは、今回ボク達が行った行為を協会の指示の元、仕事として受け持ってみないか? ということだ。

 当然回復剤や結界装置を基本として支給が行われ、ボク達が個人的に買い集めるより何倍も優れたもの、高額なものを扱うことになる。

 性能は鬼灯さんが使っていたもので勿論折り紙付き、となればなるほど、確かに彼の言う通り危険度は相当下がるだろう。

 

「そしてもう一つ。こちらは全国、レベルの計測やモンスターの生態等の調査を行ってもらいたい。勿論それらに関する費用等は一切をこちらが持とう」

 

 市街地近くはともかく、ダンジョンの多くは調査すら行われていないのが現状だと彼は言う。

 これに関してもやはり前者と同じく、そもそもの調査の難易度が問題に上がる。そもそもレベルの分からないモンスターが闊歩するダンジョンへの侵入のリスクは言うまでもない。

 

「所属のみでの基本給として月五十万、調査したダンジョンのレベルや救助における実績での追加褒賞に一般的な福利厚生、使用した道具の一切の支給、追加発注、さらに可能な限りキミ達のプライバシーは配慮し、普段はこちらからの干渉を避けよう」

「え、ごじゅ……!?」

 

 まさかの条件に思わず口を押えてしまう。

 

「つまりこちらから依頼があるときだけ動いてもらいたい、時間や日にちは都合上自由が効かないけれど、総じて悪くない提案だと思うんだけどなぁ」

「……話が美味すぎる、なにを考えてるの?」

 

 輝良が睨みつけた。

 

 まあその気持ちは分かる。

 要するに普段は好きにしてていいけど、何か調査だったり救助の時だけ手伝ってくれってだけの条件で、こんだけずらりと報酬を並べられているのだ。

 あまりにうますぎる、たとえ協会がいくら人材不足とはいえ。

 

 ボ、ボク達まだダンジョンで戦い始めて数カ月だよ?

 そりゃあ最初よりは確かに強くなったけども、にしたってちょっとおかしいんじゃないか?

 

「市民の平穏を第一に、さぁ」

「は、うさんくさい」

 

 輝良は祇穣院(ぎじょういん)さんの言葉を鼻で笑い飛ばした。

 

「鬼灯クン、小生ってそんなに胡散臭いかなぁ?」

「胡散臭いというより臭いわ、甘ったるい香水は嫌いなの」

「たはは、この匂い結構気に入ってるんだけどねぇ」

 

 輝良の言葉にも飄々と返す彼。

 

「一つだけ聞かせてください」

「一つと言わずいくつでも」

 

 彼がそう頷くのなら遠慮はいらない。

 ボクはここに入ってから長らく抱えていた疑問をぶつけた。

 

「貴方は支部長代理と言ってました、でもそれってウソですよね」

「……はは、やっぱり分かっちゃうかなぁ?」

 

 困ったなぁ、なんてわざとらしく頭を掻く男。

 

 最初の頃、ボク達が初めて鬼灯さんと出会った時、彼女は一人の男性とこの協会で何か話している様子だった。

 どうにもその時は男性側はかなり低姿勢だったのだけれど、今日の彼は鬼灯さんと対等か、彼のほうが慣れた雰囲気を纏わせつつ目上のようにすら見える。

 

「そんな人がボク達にわざわざ……ううん、輝良ですよね。輝良にわざわざ会いに来るなんて、相当の理由が無いとおかしいでしょう」

「それはァ……」

 

 言ってしまおう、彼のボク達へ出した仕事ははっきり言って雑務だ。

 勿論真っ先に救助へ駆けつけることは大事だし、ダンジョンのレベル調査もとっても大事なことだけど、月に数度、それどころか一度もないことだってあり得るそれのために、破格な報酬をつけるってのはおかしい。

 

 まるで首輪をつけたいみたいだ。

 自分の監視下に置きたい、そんな意志を感じる。

 そしてその対象は間違いなく輝良だ。ボクはあくまでおまけ、ただ輝良が連れてきたから一緒にしただけに過ぎない。

 

「りつ……」

「ねえ輝良、輝良はどう思う? この人たちは輝良に何か酷いことをしたくてこんなことを言ってると思う?」

「わたし、は……」

 

 握った手が少しだけ震えていた。

 

「悪意は、ない、とおもう。けど……もしなにかあったら……」

「ボクは大丈夫。何度だっていうよ、ボクは輝良がやるならなんだって手伝うしついていくって」

 

 その手のひらをぎゅっと握りしめてボクは前を向いた。

 協会側の二人は動くことなく座っている、まるでボクがそういうのを分かっていたかのように。

 

「受けます。ただ貴方たちが信じられないと思ったら二人で逃げます、ぴゅーっとどっかに」

「ハハ、小生たちの前で随分と色々言ってしまうんだね?」

「高校生のバイトはバックレが常識ですよ、もうボクは一回やっちゃってますからね」

 

 

「……少し強引だったかな?」

 

 少女たちの去った客間で低い男の声が響いた。

 

魂転の巫女(・・・・・)には随分警戒されていたわね」

「とはいえこれは必須の事項さ、四代結守の一当主としても逃すことは出来ない」

 

 男はすっかりぬるくなったコーヒーを一口に呷り、白磁のカップをソーサーへと静かに戻した。

 

 つい先ほどまでいた二人の少女は若く、そして青い。

 だが洞察力は確かだった。事実として男は協会における実質的なトップであり、狐天輝良を一目見るためにここまで足を運んでいたのだから。

 

「キミが谷百合律クンを連れてきてくれて良かった、おかげで話が早くに纏まったよ」

「……ええ」

「おや、随分あの子を嫌っているようだね。真っすぐで小生は好きだけどなぁ」

「才の無い蛮勇ほど醜いものはないわ」

 

 男が愉快そうに笑うも、横に座る彼女は苦々しい面持ちで呟いた。

 

「それはキミ自身の後悔からかい?」

「……フン、そうかもね」

 

 男は少し意外そうにあっさり認めた女の横顔を見るも、彼女が想像以上に深い皺を眉間へと浮かべているのを見ると、気まずそうに皿の上の茶菓子へと手を伸ばす。

 ザラメの張り付いたクッキーを幾度か咀嚼した後、彼は沈黙を誤魔化すかのような声音と共に無機質な天井を仰いだ。

 

「心配ならキミが彼女らを育ててあげればいいじゃあないか」

「ありえないわ、私忙しいもの」

「ハハ、よく言うよ」

 

 しばしの沈黙が再び降り、鬼灯は静かに傍らの車椅子へと座り変える。

 そして静かにホイールを回すと、未だ座り続ける男へと淡々とした表情のまま視線を向けた。

 

「これで仕事は終わりね、もう行くわ」

「はいはい、お疲れさん。あまり羽目を外し過ぎないようにね、今の君を見ればきっと彼女(・・)も悲しむよ」

 

 返事はない。

 静かに彼女が去り、すっかり一人になった男はレザーのソファーへと深く身を沈め、おもむろに目を閉じた。

 

「……にしても、言われてた内容より随分甘い契約にしてしまったぞ。さて、天神地祇(てんしんちぎ)のジジイ共をどう言いくるめたものかなぁ」

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