ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第53話

「『基質解放 偽真・枯尾花(かれおばな)っ!』」

 

 基質解放!?

 

 『基質解放』はボク達の使う魔法の第二段階、『基質励起』の先にある高度な術らしい。

 あの時、ボク達を救助しに来た鬼灯さんが使っているのを一度だけ見た。

 

 

 驚愕するボクをよそにコスプレ忍者の髪先が輝くと同時、そこには目を疑う光景が広がっていた。

 

「さて」

「本物は」

「いったい誰でござろうな?」

「なっ、えっ!?」

 

 同じ顔がずらりと五名、それぞれが少し異なる動きで一斉にこちらへと襲い掛かってくる。

 

 ぶ、分身!?

 コスプレじゃ無くてちゃんと忍者!? いやそれよりも!

 

「逃げても無駄でござる、拙者足には自信があるで候」

「は、はや!?」

 

 動こうとした時にはもう遅かった。

 ボクの首筋にはクナイが当てられ、気が付くと地面へと押し倒されていた。

 腕をひしがれ押し付けられた地面、少し熱いコンクリートの感覚が腹部へと広がる。

 

「りつ!? りつになにするつもり!?」

「おっと、巫女殿は少し危険なのでこの場にいるでござる。なに、少し脅すだけでござるよ」

 

 こちらへ駆け寄ろうとした輝良も分身によって抑えられてしまっている。

 輝良は見た目以上の怪力がある、それをああもたやすくとは、ボク達とこの変態忍者には残酷なまでのレベル差があった。

 

 速い……力も……曙光のアイツと同じか、それ以上に……!

 

「くそっ、こんなふざけた服装と口調なのに……!」

 

 的確に押さえつけられた関節は、少し身じろぎをするだけでも鋭い痛みが走り抜ける。

 悔しいが、舐めた見た目と態度に反して実力は間違いないらしい。

 

「くっくっく……実に他愛もない、チョロすぎて滅って感じでござる」

 

 首筋に当てられたクナイがわずかにめり込み、鋭い痛みが走った。

 

 目的は不明、その上ふざけた口調や服の癖に実力が高すぎて何もできない。

 自分の無力感に苛まれたことは何度もある、けれど今日みたいな屈辱感を感じたのは人生で初めてだ。

 

「拙者は巫女殿を総家へ案内する使命があるでござる! ふん、雑魚は失せるでござるよ!」

 

 彼女はとことん見下した顔つきで吐き捨てると、血の付いたクナイの先端を舐めまわす。

 今時三下でも見ないようなムーブだ。

 

「あ……」

 

 だが展開に唖然と見ていた輝良だったが、その時小さく声を上げた。

 そしてこちらにちらりと視線を向け、ボクもはた、と思いつく。

 

 あれ?

 今ボクの血舐めたよね?

 

「えっと……『基質励起 トキシックアーツ』」

「はん、今更基質励起ごときでひっくり返るような……こと……!?!?」

 

 ボクを押さえていた力が突如として緩んだ。

 先ほどまで余裕綽々だったコスプレ忍者は一転、表情筋を固めたまま体の動きを止める。

 

「な……え……麻痺毒……いったい、いつ……!?」

「よかったぁ……ダンジョンの外でもどうにかなったかぁ」

 

 トキシックアーツ、クレアちゃんとの一件で目覚めたボクの『基質励起』だ。

 効果はボクの身体や血などを任意の今まで受けた毒にする。ただダンジョンの外ではどうにも魔法は使い辛く、普段の十分の一程度にしか威力を発揮できない。

 今はこいつが舐めたボクの血を麻痺毒に変換した。

 

 この一か月色々試したが、血など体の外に出たものはすぐじゃないと変換できない。

 それこそ五分も経ってしまえば変換できなくなるので、こいつがアホですぐにクナイを舐めてくれて助かった。

 

「りつ!」

「大丈夫! 輝良は変態に変なことされてない!?」

 

 首筋の傷を押さえつつ起き上がると、どうやら分身体も麻痺しているようで、輝良が焦った顔つきでこちらへと駆け寄ってきた。

 

「どうするコイツ?」

「手足をしばって石結びつけて川にしずめる」

「いやさすがにそれは不味いでしょ」

 

 輝良さんブチギレである。

 

「とりあえず縛るか……あ、こいつ縄持ってるじゃん」

「指先もしばって、それと手足も一緒にしばったほうがいい。これで動けなくなる」

「おっけー」

 

 輝良の指示通りに左右の親指を結び付け、さらに足先へとそれを固定。

 その上で両手両足を曲げた状態で縛り付け、もはやちょっとかわいそう……には感じないな、いきなり襲ってきた奴だし。

 あ、マジック持ってるじゃん。顔に落書きしちゃお。

 

「ひゃ、ひゃへほぉ……! ひふぁふぁ……!!」

「舌も麻痺してるから何言ってるか分かんないや、輝良も落書きする?」

「する」

ひふぉふぉお(みこどの)はへぇ……!!」

 

 幸いにして今は十時頃、人通りは少なく目立つことはなかったとはいえ、この忍者やたら騒がしいし見た目も見た目だ。

 ボク達はそのまま縛ったこいつを路地裏まで運ぶと、麻痺しているうちに手早く電柱へと括りつけた。

 

「輝良に突然凸してきていったい何が目的なワケ?」

「貴様ごときに誇り高き拙者が話すとでも?」

 

 まるで勇敢な戦士とでも言わんばかりの態度と顔つきで忍者が叫ぶ。

 やはりダンジョンの外では効きが弱い、もうすっかり麻痺の大半は取れてしまったようだ。

 

「問答無用で襲い掛かってくるのに誇りも誉れもないでしょ! この馬鹿コスプレ忍者!」

「き、貴様ぁ! 一度でなく二度までも御庭番の衣装を侮辱するとは! これは若より賜った素晴らしき装束にござる!」

 

 もるんもるんと首を振っているが無駄だ。

 輝良の言った縛り方はあまりに完璧であり、文字通り手足すらまともに動けていない。

 

 それはいい……いいのだが、ボクはすっかり痛んできた頭を押さえて横へとため息をついた。

 

「輝良! どうするのコイツ! 全然話通じないし頭おかしいよ!」

「うーん……まず魂転家ってなんだろ……」

「魂転の巫女を輩出する偉大なる四大結守の一家でござる!」

 

 かたくなだった対応が一転、突如なんか良く分からん重要そうな情報を吐き出すバカ忍者。

 なんで突然こんなあっさりと話してくれたのか。

 ボクは大慌てで忍者へと近寄り、その肩を掴んで振り回した。

 

「ちょ、ちょっとコスプレ忍者! さっきから言ってるコンテンの巫女ってなんのこと?」

「貴様ごときに話すわけないでござろう! この間抜けェ!」

「輝良、こいつこのまま埋めていかない? うん埋めていこう! もうこのままさ!」

「その程度の脅迫で拙者が屈すると考えるその心こそ大愚! 所詮は無知な庶民のなす行為でござるな! わっはっは!」

 

 なんだこいつ~~! むっかつくなぁ!!

 

 きりりとした顔つきでこちらを罵倒するエロ忍者。

 どうやらなんでも話すのは輝良だけらしい。そう言えばさっきも輝良の事は押さえるだけだったし、最初も妙に敬意を出して接していた気がする。

 

「ねえ、巫女についておしえて」

「はい! 魂転の巫女とは封印の力と浄滅の炎を操る偉大な存在でござる! 巫女殿の力がなければ世界がヤバいらしいでござる!」

「なるほど」

 

 らしいよ? みたいな顔でこっちを振り向く輝良。

 返事にボクは眉を顰め、呆れたため息を盛大に漏らして肩を竦めた。

 

「世界がヤバいって……設定ふわっとしすぎでしょ、もう少しせめて練って来なよ」

「貴様ぁ! 拙者を愚弄する気かァ!」

「さっきからうるさいなぁ! もう黙っててよ……『基質励起』」

「き、きさま……やめろ! 寄るな! 拙者になにをするつもひふぇ……!」

 

 忍者の腰に備え付けられていたクナイを抜き取り、ボクは自分の手首を小さく切り裂いた。

 慣れない感覚に顔をゆがめつつ、どくどくとあふれ出した血を、彼女の頬をわしづかみにして流し込む。

 

「やりかたが悪役」

「ちょっと気にしてんだからやめて! 基質が基質なんだから仕方ないでしょうが!」

 

 先ほどの比ではない大量の血――もとい麻痺毒を流し込まれた忍者は、あっという間にその喧しい口をふさいだ。

 やれやれ、余った回復剤をぶっかけながらボクはうんざりする脳内の思考を放り投げた。

 

 輝良への敬意は伝わる、それになにやら重要そうな話を知っていそうなのも分かる。

 ……少しだけ、少しだけボクも不安に駆られていた。輝良やその一家が抱える秘密に近づいている、そんな確信が頭を覗かせたから。

 

 浄滅の炎って輝良が普段操るあの紫炎のこと?

 それに世界がヤバいって、一体人間一人に何が出来るってのさ。

 大層な話は出てきたがどうにも、言ってる本人がアホっぽ過ぎて鵜呑みには出来ない。

 

 せめてもっと大物感ある奴とかが襲ってきてよ!

 こいつがシンプルに頭のおかしい妄執の狂人の可能性を排除しきれないんだけど!!

 

「どう思う? コンテンの巫女サマ?」

「りつ、やめて」

「だってコイツがそう言ってるんだもーん」

 

 なにがなんやらさっぱりだ。

 

祇穣院(ぎじょういん)さんは絡んでると思う?」

「ん、多分関係ないとおもう。もしそうならさっきの時点で普通にあって話すだけですむ」

「やっぱりそうだよね、でもなんかしらは知ってるかも」

 

 今すぐにでも話を聞き出したいところだが、彼はこちらからの連絡ではまともに出てくれない。

 まあシンプルに偉いから忙しいのも大きいと思う。この一か月で言葉を交わしたのは最初の一度きり、二度目は先ほどカメラ越しなのだから。

 

 と、なれば確実に話せるタイミングは――

 

「――とりあえず調査の後に話きこ、こいつは警察に通報して放置で。時間もないからね!」

 

 新幹線に遅れちゃう!!

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