ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
縦横無尽の立体起動。
獣特有の膂力と人間の器用さが渾然一体となった連撃は着実にこちらの体力を削っていく。
捌き切った先の息切れの一瞬、奴は空にて大振りに足を振り上げた。
「――待ってたよ」
展開された鉄扇が空を切った!
それは姿勢制御のために展開された翼、その先へと浅く突き刺さる!
「くっ」
同時の衝撃がボクを襲う。
正面へ構えたもう一本の鉄扇へ、腕ほどもある鋭い爪たちがくっきりとめり込んだ。
勢いは消えない。
ボクの身体ごと烏天狗は地面に激突、だが今までなら素早く立ち退き次撃といったところが、わずかに精彩を欠いている。
「やっと、効いてきたかなっ!」
隙は逃さない!
地面に押し倒されたボクはそのまま、奴の腹部へと蹴りを叩き込んだ!
見た目からは想像できないほどの軽い蹴り心地と共に、奴の身体はわずかに空を舞った。
素早く転がり抜けだし、その翼にめり込んでいた鉄扇を引き抜き撤退。
「にひ、こりゃもう貰ったね!」
ボクの操る毒は超高濃度、人間がかすればすぐにでも全身の筋肉が麻痺する性能だ。
既に奴の翼から毒は侵入している。先ほどの鈍った動きを見ればわかるだろう、もうじきに奴は動けなくなるに違いない。
こうなれば後は安全を取るべきだ。
ボクは太ももに付けていたベルトから回復剤を引き抜くと、基質励起のため自分でつけた傷へとその中身をぶちまけた。
これで完治対麻痺、結果はあったも同然だ。
余裕綽々で後ろを振り返り――
「うっそぉ」
片翼が、地面へと落ちる。
烏天狗がやったのだ。自分自身で、自分の翼を切り落としたのだ。
まさか傷口から麻痺毒が入ってるのに気づいて……!?
「っ、人間より賢いんじゃないの!?」
「でもこれで動きはにぶる」
「輝良!」
ここで離れて隙を伺っていた輝良が合流。
ボクの基質励起は性能こそ高いものの、輝良の紫炎と違って無差別なのが難点。
仮に彼女が少しでも掠ったりしてしまったら、即座に守るべき対象が生まれてしまうためだ。
……ま、なんかコイツはボクばっか狙ってくるけどね!
なんでだよ! ばーかばーか!!
「じゃあアンタならもう追いつける?」
「もち」
言葉を残して彼女が飛び出す。
クレアちゃんの一件で大幅にレベルが上がり、輝良の身体能力の上昇は留まることを知らない。
もはや地面を滑っているかのような疾走は音すらなく、気が付けば彼女は天狗の前に立っていた。
「『基質励起――』」
だが紫炎を放とうとした輝良へ、ついに烏天狗が動いた。
かたくなにボクばかりを攻撃していたヤツだったが、瀕死の直前となって輝良を敵として認めたのだろうか。
高々と上げられた拳が――振り下ろされた。
輝良の小さな顔など容易く潰されてしまいそうなその刹那。
「『
輝良の姿が消え、そこには一つの紫色を呈した髑髏が転がっていた。
勢いが止まず直撃する拳。
爆ぜる地面。
そして一瞬の静寂を置き――紫炎が爆発的に吹き上がった!
「逃げ場、なし。『基質励起――
たまらず膝をついた天狗の後ろで、既に彼女は構えていた。
静かに顔の前で手を構えた輝良。そして同時に六つの紫炎がゆらりと彼女の背後へ展開されたかと思うと、それは『管狐』の姿を取って空を駆けだす。
まともに視界も見えていないだろう天狗は、しかし、何かを察してよたよたと歩き始めた。
だが、逃れられるはずもなく。
あっという間に炎に囲まれ悶えると、わずかにその嘴が開いて天を仰いだその瞬間――『管狐』達はあっという間に体内へと滑り込んでしまった。
「え……」
ちょっと待って?
何その技知らないんだけど?
いったいどうなるのかと唾をのんで観察するボクの目の前で、天狗の目から、口から、穴という穴から紫炎が吹き上がった!
「えぇ……なにそれ……こわ……」
「効率だいじ、内臓はじゃくてん」
「大事だけども! 弱点だけども!」
もはや烏天狗と呼ぶことすら出来まい、ここまで脳天が炭と化してしまっては。
その姿を唖然と眺め、ボクはほんのりと引いてしまった。
「……輝良、あんたも大概敵側の攻撃してるよね」
「ちがう、魂転の巫女」
「巫女さんはこんなことしない!」
巫女ってもっとほら! こう! なんか白い奴が付いた棒振ったりとか、お守りを笑顔で渡してくれる奴じゃん!
決して! 敵の口をこじ開けて、内臓から全部を焼き尽くすようなことはしない!
それをやっていいのは残虐非道な悪役だけだ!
「だいじょぶ、これをやるのは敵だけ」
「頼むから本当にモンスターだけにしてね!」
「わたしとりつの『敵』にしかやらない」
珍しくにっこりと笑う輝良。
巫女、ね。こいつになんちゃらの巫女とやらの力を与えた神様がいるとしたら、そいつはきっととんでもない節穴に違いない。
だが舌を巻くべきなのは彼女の努力と成長速度だろう。
普段使う狐火纏いは、本来うまく扱えない炎を直接ぶつけるための技。
今回の
さすがというべきか、それともボクも負けてられないと奮起するべきか。
「あれ、これは?」
なんか新技でも出来ないかなぁ、なんて考えつつ魔石を拾いに近寄ったその時だ。
一枚の紙ぺらが魔石と共に転がっていた。
だが先ほど見つけた御札と異なり、少し特徴的な形をしてる。
丸い頭と振袖のような腕の部分。そう、これは所謂――
「ん、式札」
「だね。さっきの烏天狗……のだよね?」
いわゆる式神を操るための式札という奴だ。
創作の陰陽師とかが使いがちのアレである。
拾ってみるも、輝良の炎のせいだろうか、下の方が焼け焦げてしまって元の形は保っていない。
あれこれといじくってみるも何も起こる気配もない、力は元から何もないのか、それとも失われてしまっているのか。
「……今までのモンスターでこういうことあったっけ?」
「ない。切り落とした部位ならのこるけど」
「だよね」
ダンジョンの特徴としてやはり真っ先に上がるのは、モンスターを倒せばその全ては塵となって消え、最後には魔石だけが残るというのがある。
ただし例外として今輝良が言った通り、戦闘中に切り落とした部位だけは残るのだ。
しかし、今回残ったこの札はどちらにも当てはまらない。
ここはダンジョンだ、なんでもありの世界だ。
今更何をという話かもしれないけれど、なんでもありの中にも何かしらの理由は必ず存在するはず。
仮に式神だったとしてだれが烏天狗を操っていた? 何のために操っていた? それともダンジョンの中でたまたま生成されたに過ぎない?
「りつ、いこ」
「あ、うん」
考えても答えなど出るわけもなく、ボクは大慌てで魔石だけを拾い上げて先へ進む輝良の背を追いかけた。
そもそもダンジョンのモンスターとはいったい何なのか?
ゲームじゃダンジョンによって勝手に生み出された、なんて設定が多いけれど、もし勝手に生み出されているのだとしたら、マンドラゴラのダンジョンであったことに矛盾が生じる。
あのダンジョンではその特性から乱獲できたのだが、あまり続けるとそこでのマンドラゴラの個体数が激減、それどころか一切枯れてしまったのだ。
ステラーカイギュウやアホウドリ、身近な物ならマグロやサケ。生き物の数は決まり切っていて、当然同じ場所でアホほど取れば個体数は減っていく。
もっと単純な話をすれば、地面に生えてる草を引っこ抜けば当然、そこから草は無くなる。即座に突然生えてくるわけないのだ。
それはまるで現実の生き物の様だった。
そして時々見える捕食関係や多様な生態系、生物的な衝動や行動、欲求。
世間ではダンジョンを未知の空間、ゲームのような世界と評されることも多いけれど、こうやって触れてきてボクが感じたのは、どこまでも現実的な世界。
そう、まるで世界を小さく細切れにしたかの――
「あだっ、ちょっ、輝良いきなり止まんないでよ!」
「りつ、これ」
「またお札とか……いわ……な……?」
彼女の指差した先のものは――