ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

57 / 65
第57話

「これは――」

 

 まっさらだ。

 鬱蒼とした木々が生え散らかしてるこの森にしては珍しく、うっすらと草が生えてるだけのだだっ広い空間。

 

 時に人はこれを『なにもない』、という。

 

「なんもないじゃん」

「え!? ある!」

「いやなにもないじゃんって! え? もなにもないでしょ!?」

 

 草! 草! 草!

 驚く要素ISどこ!?

 もしかしてこの小さいバナナみたいな草の事!? それともこっちのなんかドラゴンみたいな木のこと!?

 え!? 全部違う!?

 

「……まさかまたなんかのモンスターの幻覚?」

「ちがう! これ! この祠? いや、神社?」

 

 ばっ! ばっ! と片膝をつき両手を開いて謎のアピールを続ける輝良。

 ここにあるのだと声を張って主張するが、そこにあるのはデカいぺんぺん草みたいなやつだけだ。

 一体いつからぺんぺん草の別名は『ほこら』に変わったのだろう。

 

 いつものおふざけかと思ったけど……尻尾とかケモ耳の動きとかは真面目そうなんだよなぁ。

 こうしゃっきりぽん、とした……動き……?

 

「ん?」

「んー?」

「輝良アンタ耳と尻尾、なんかほんのり光ってるよ!?」

 

 え!? 気のせい!? 気のせいじゃない!

 ケモミミの半分から上とか尻尾の半分から先とか、なんか紫色に光ってる!

 ゲーミングフォックスだ!

 

「おお、ぜんぜんきづかなかった」

「気付かなかった!? 勝手に光ることとかないでしょ!」

「光っちゃったからにはもう……ね」

 

 ふん、と彼女が力を籠めるとなぜか強まる輝き。

 微妙にまぶしくてうっとおしい。

 

「ひかりのせんし」

「うざいから光るのやめて」

「しゅん……しくしく」

 

 ウソ泣きを重ね、とぼとぼと歩き出す輝良。

 結局ここに何かあるってのも嘘だったのか、なんてボクは後ろについて歩き始めたわけだけど……

 

「ちょっと、先進まないの?」

「もうすこしまって、多分……」

 

 どうにも、この少し開けた広場から離れる気がないらしい。

 なにかやたらと慎重に、舐めまわすような態度で中空を眺めていた彼女は、突如として刀を抜きとった。

 

「ここだ」

「……なにが?」

「りつは下がってて」

 

 猫とかが何もないところをじっと見るみたいに、輝良もなんもない空間へ視線を固定している。

 

 まあ別に急ぐ必要もないんだけどさ。

 輝良に言われるがままボクは後ろに立ち、鉄扇を握り閉めて周囲の警戒に意識を割いた。

 

「はっ!」

 

 鋭い声と、にわかな風切り音。

 

「っ、敵!? 輝良! 大丈夫!?」

 

 近づく音なんて何もしなかった!

 

 大慌てで振り返るとそこには――

 

「ほら、あったでしょ」

 

 むふーっと鼻息荒い輝良の背後には、寂れた神社が一つ存在していた。

 

 ん-?

 んー……

 

「……手品?」

「だいたいそう」

「大体そうかぁ、ほなしゃーなしだ」

 

 あっはっは!

 

「ってダンジョンに神社があるかい!」

「いまさら」

「あんたは逆に何でもすんなり呑み込みすぎでしょ!」

「ときに柔軟な思考こそが肝要」

 

 したり顔で勝手に納得して頷く彼女。

 

 スライムにゴーレム、ゴブリンまではまあモンスターの部類ってことで納得できるけど!

 西洋ファンタジーから打って変わって、突然現代でも見慣れたものが出てくるってのは納得できない!

 どういう仕組み!? 侵食現象で外にあった神社が呑み込まれたとか!? いやそれならなんでさっきまで見えなかったの!

 というか輝良も輝良でどうやって神社出したの!

 

「こう、なんか、いい感じにぐわーっと」

「基質励起の時もそうだったけど、いい感じって言ったら大体流せると思わないでよ!」

「だってほんとうにぐわっとやっただけだし……」

 

 もう意味が分からん。

 というか輝良が軽く切っただけでこうやって出てきた感じ、もしかしてこうなるのを分かっててボク達をここに派遣したのか?

 木に貼られたお札だの、見えない神社だの、明らかに何かの封印でも施されてそうな雰囲気だ。

 

 祇穣院(ぎじょういん)さん、いや、あのタヌキオヤジめ! やっぱりなんかいろいろ知ってそうじゃん!

 

「~~っ! やられた!」

 

 ヘラヘラニヤニヤ、適当な依頼ばっかりと思ってたけど!

 あの人も『魂転の巫女』とやらを知っているに違いない! ここはきっとそれに関連した場所だ!

 

「輝良! この神社徹底的に調べるよ! 多分アンタと関連してる!」

「ん、とーぜん」

 

 ボクは足音荒く神社へ歩み寄った。

 

 この神社が長いこと放置されていたのは、このボロボロの見た目を見れば誰だって一目瞭然だろう。

 そして輝良の手によって解除された封印。

 これが表す意味は即ち、おそらく祇穣院(ぎじょういん)さんたちですらこの内部には立ち入れていないという事実だ。

 

 まずそもそも、彼らが自由に中へ立ち入りできたのなら、ボク達を派遣する意味などない。

 つまり、ここには彼らも知らない何かが存在する。

 ボク達はそれをこっそり知ることが出来る!

 

「あっちが調査しろって言ったんだからね! させてもらいますとも!」

 

 神社と言っても長らく放置されているものだし、いわゆるお賽銭箱の類は存在していなかった。

 お祈りする場所、社殿とその後ろの本殿だけ。それもどれも小さく、田舎にあるようなものだ。

 

 横から回り込んでボク達が本殿の前へと足を踏み入れたその時だった。

 

「どわーっ!?」

 

 突如神社が輝きだした。

 

「りつ!」

「ふん、ボクぁ今更何が来ようと驚かないよ! 神社に手足が生えてロボットになったって戦ってやるね!」

 

 こちとら覚悟は決まってんだ!

 必ずあのボク達に情報を隠すタヌキオヤジ達のはなを明かすような、重大情報を掴むまでは絶対に帰らないからね!

 

 輝良とボク、互いに横並びで武器を抜き取り構える。

 焦りはない。ダンジョンの中にいるなら常に警戒態勢だ。適当に喋っているときだってそれは変わりは竹刀。

 烏天狗とは戦った、なら次は大天狗か? なんて心の余裕すらあるくらいだ。

 

 強烈な輝きにうっすらと目を開け耳を澄ましていると、次第にその光は薄れていった。

 そして本殿が合ったところには……一人の女の子が倒れていた。

 

「りつ、気を付けて。モンスターかもしれない」

「……妖精を思い出すね」

 

 かつてのダンジョンでも出会った、見た目だけは可愛らしい妖精たち。

 だがその実態は巨大な蛾であり、幻術のようなもので見た目を偽っていたのだ。

 

 ここから見える少女の見た目はさらさらとした金髪、クレアちゃん程度の身長。

 はたしてその見た目が幻術なのか、それともそのままなのか、紅白の巫女服らしきものに身を包んでいる。

 しかし何より目立つ尻尾を見れば、どちらでもいいと分かるだろう。そう、あの九本生えた尻尾を見れば。

 

「ん……」

「動いたよ!」

 

 うつ伏せだった体が、ゆっくりと起き上がる。

 くぁ、と小さなあくびをこぼすのは、輝良にも負けないほど整った幼い顔立ち。

 

「……なんじゃ、ここは」

 

 鈴を転がすようなきれいな声が耳を打つ。

 彼女はくりくりとした紅い瞳をこちらへちらりと向けると、とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 

「おお、『龍』の子か。丁度良い、近う寄れ」

「あ、うん」

「りつ!? ちょっと……ま……」

 

 輝良がボクの腕を掴んだ。うっとおしいので振り払う。

 

 何か叫んでいるけど無視だ。

 呼ばれたんだから寄らないと、『無礼』でしょ?

 

「うむ、よう来たな。名を名乗れ」

「谷百合、律です」

「ほうほう、良い名じゃのう! なあ律よ、ここはどこじゃ? わらわは確か扶桑の本殿にて――」

 

 突然輝良が刀を抜いて襲い掛かってきた。

 ボクは鉄扇を交差させその攻撃を真正面から受けきると、何か焦る彼女に対して鋭く睨みつける。

 

「輝良、なにするの。危ないでしょ」

「りつ! なにしてるの!」

「あんたこそ何してるの、もし当たったらどうするつもり」

 

 ちょっと『無礼』すぎる。

 今のは明らかに斬りに行っていた、流石のボクでもこんなの許せないよ。

 

 だが彼女は寛大だった。

 ころころと笑い、一つ間違えば斬られていた相手へと優しく声をかける。

 

「よいよい、何か勘違いしておるのだろう、なあ? そちは輝良と言うたか? 落ち着け、その武器を下ろせ」

「ふざけないで! りつに何したの!? それに何者!?」

「何者? わらわの名をも知らぬと? ふむ、随分と妙なことを口にする」

 

 ぶしつけな輝良の質問にも、彼女は飄々とした態度を崩さない。

 おもむろに立ち上がった少女は土ぼこりのついた巫女服を軽くはたき、にんまりと笑みを浮かべた。

 

「わらわは御食津神(みけつかみ)。そなたらの仰ぎ見る天こそが我と知れ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。