ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第59話

「わらわは御食津神(みけつかみ)。そなたらの仰ぎ見る天こそが我と知れ」

「――さっきのお札、まさか本人?」

「なに? お主、見るところによれば魂転のものであろう? 何をいまさら、長い付き合い(・・・・・・)ではないか」

「魂、転……」

 

 しばし黙りこくった輝良だったが、しかし納めていた刀を再び静かに抜きさった。

 その眼は据わっている。

 手にした刃と同じ冷たい輝きを湛え、彼女は静かに前へ進んだ。

 

「りつに何をしたのか、話すつもりがないならいい――斬る。術者を殺せば洗脳も解けるはず」

 

 ――速い!

 

 眼で追うことすら叶わぬ一撃。

 だがそれをボクが受けきれたのは、日々彼女と共に打ち合っていたからだろう。

 

「りつ!」

「輝良、やめなよ」

「わたしはりつとは戦いたくない!」

「あんたがこんなことしなければ戦う必要もないんだけどね!」

 

 『おかしい』

 『いったいどうしちゃったんだろう』

 『おかしい』『おかしい』

 

 攻撃している側だというのに、一体どういう事だろう、輝良の顔は切羽詰まっている。

 普段ならボクのほうが圧倒的に膂力が下だというのに、今は彼女の斬撃を余裕をもってすら受けていられた。

 

「ううむ、魂転と龍は相変わらず(・・・・・)相性が悪いのぅ。いやしかし、先ほどまでは仲良く見えたのだが……」

 

 悲し気なあの子のつぶやきが聞こえる。

 

 そうだ、ボク達はずっと仲良かった。

 色々あったけど二人で乗り越えてきた、それは今も変わらない。

 それだって言うのに、いきなり輝良ったらこの子に斬りかかって来ちゃって。

 

「っ、誰のせいで!」

「そんなに意識散漫で大丈夫なのかな!」

「くふっ」

 

 彼女の刀を横に流し、同時にその腹部へと鋭い蹴りがめり込んだ。

 輝良は一瞬強く顔をしかめつつも、素早い動きで撤退、口から洩れた唾液を肩で拭ってこちらを睨む。

 

「輝良、まだやる気?」

 

 既に打ち合いのレベルは越している。

 互いに持つのは本気の得物、本気で振るえば骨すら断つ切れ味。

 

 こんなことはしたくない。

 でもボクの基質なら、致命傷までは避けられるはず。

 

「――『基質励起 トキシックアーツ』」

「っ、どうしてこんなことに……!」

「迷ってる余裕はあるのかな!」

 

 当然、先手を打ったのはボクだ。

 自身の腕を切り裂き鉄扇にへばり付いた血は一瞬で濃い蒼へと変化する。

 

 麻痺毒。

 圧倒的格上の変態忍者ですら容易く麻痺する効果は、輝良相手であればなおさら。

 掠っただけでも容易く彼女を無効化できる。

 

「くっ……『狐火纏い』」

「ふん、本気出してきたね!」

 

 毒を焼き尽くし打ち合う衝撃で飛び散る紫炎。頬をかすめるもしかし、ボクがやけどを負うことはない。

 しかし輝良の炎を受けた鉄扇が赤熱する。

 

 輝良の炎は任意の物だけを焼く、彼女もあくまでこちらの無力化だけを狙っているようだ。

 

 あまり長く連続では切り合えない、熱で鉄扇がまともに握れなくなる。

 数度の打ち合いの末、ボクは展開した鉄扇を大きく薙ぎ払って距離を取った。

 

「どいてりつ! りつはそいつに洗脳されてる!」

 

 一体何を根拠にそんなこと?

 斬りかかられたら守るのなんて当然じゃないか、だってあの子はボクの――ボクの――?

 

 なんだっけ?

 ま、いいか。

 

「そんなことより輝良、そんなのんびりしてていいのかな?」

「なに……を……!?」

「ああ、やっと効いてきたんだ」

 

 するりと刀が彼女の手を滑り落ちた。

 気が付かなかったのだろう。当然だ、感覚すらも麻痺してしまっているのだから。

 

「鉄扇の先についた麻痺毒、ボクが動き回る度に空気と混じってるんだよ」

 

 ボクが展開した鉄扇を軽く扇ぐと、空気中に見えないほど小さな粒子がキラキラと光を受けて輝く。

 

 基質による肉体の完全な置換。

 それは打ち合ったり、或いはボクが振り回す衝撃によって少しずつ粉砕、周囲へとばら撒かれることになる。

 輝良とボクが互いに切り合えば切り合うほど、空気中の毒成分の濃度は跳ね上がっていくというわけだ。

 

 そして当然、激しく動くほどに呼吸は上がり、麻痺毒が体内へ蓄積していく。

 

「り……つ……」

「喋らないほうが良いよ、麻痺の時間が長くなる」

 

 跪き、ゆっくりと仰向けで倒れた輝良の元へ静かに歩み寄る。

 

 傷つけるつもりも、苦しめる必要も、その気もない。

 当然だ。ボクがどうしてここまで戦ってこれたと思う、力を手に入れてきたと思う。

 『この子』を。

 

「っ!?」

 

 突然、鉄扇を握った指先が震えた。

 頭がくらくらする、吐きそうだ。

 

「きら? どうして泣いてるの?」

「……ごめん」

 

 突如、麻痺していたはずの輝良が跳び上がった!

 

「っ!? どうして……!」

「まえ、りつが考えてくれたから」

 

 彼女の口から、紫炎がちろりと漏れる。

 

 これは、妖精のダンジョンで鱗粉対策を考えた時の――!

 

「うぎゅっ」

 

 伸びてきた輝良の手によってボクは無理やりに地面へと叩き付ける。

 視界が真っ白になるほど強烈な衝撃、意識が飛んでいきそうだ。

 そのまま輝良はボクの両手を力強く握り上げ、地面へと二つを重ね刀を抜きさった。

 

 鋭い切っ先が鈍く輝く。

 

「ごめん、ごめんねりつ……」

「や、やめっ」

 

 音もなく、それは地面へと突き刺さる。

 二つに重なったボクの手のひらをも貫いて。

 

「ああアアアァっ!?」

 

 イタイ、いたい、痛い痛いいたいいたいいたいいたいッ!!?

 

 腕を通り脳天すら突き抜け、神経を焼き切る激痛が思考を埋め尽くす。

 まだ熱を保ったままの刀の切っ先から煙が上がる。

 地面から抜き取る気力すら奪われていく、吐きそうなほどの恐怖の感覚。

 

 どうして?

 輝良はこんなこと絶対しないのに?

 どうして? ねえ輝良、どうして?

 

「ごめんね……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 刀もそのままに彼女は歩いていく。

 ぽつり、ぽつりと地面にぬるい染みだけを残して。

 

 どうして泣いているの?

 どうして?

 

 輝良を泣かせてるのは、だれ?

 

「な、なんじゃ!? お、お主魂転の巫女じゃろう!? なぜわらわにこんなことを!?」

「……本当に分からないの? りつに、わたしの友達にあんなことして。早く洗脳を解いて、これが最後」

「じゃ、じゃからな、なにもしておらぬぞ!? 第一わらわに傅くのは当然の事じゃろう、お主の方こそ先ほどからなんじゃ!?」

 

 怯えた少女が尻もちをつき後ずさる。

 輝良は彼女の様子を呆れたような目で眺め、深々とため息をついた。

 

「……自分でも制御できないんだ、その洗脳。じゃあ本当に仕方ない」

「そ、そうじゃ! 仕方ないんじゃ! なんだかわからんが、仕方ないのじゃ!」

「仕方ないから、殺す」

 

 足元にあった一抱えほどある岩をひょいと持ち上げ、輝良はゆっくりと近づいた。

 少女は服が汚れるのも気にせず、必死に後ずさるも、自分の背中に大木が当たり逃げ道がないことに気づくと、顔色を真っ青に変える。

 そして震える声を必死に張り上げた。

 

「だ、誰か! おい黒龍や! 魂転や! 家僕! いや誰でもよい! 魂転の者が狂っておるぞ!? こ、このわらわに手を上げようなどと!?」

「さよなら、みけつかみ(・・・・・)

 

 彼女の両腕で天へ高々と石が振り上げられ――

 

「っ、りつ!?」

 

 背後からボクがその手を掴んだ!

 

 ま、間に合った……!

 ボクは残った片腕で回復剤を足へぶっ刺し、まだ傷のふさがり切っていない手のひらから伝わる、未だ鮮烈な激痛に小さく言葉を漏らす。

 

「お、おお! 律や! よくぞ守ってくれた! うむ、うむ! よき働きじゃ、そちには必ずや褒賞を……」

 

 御食津神(みけつかみ)と名乗った少女は、ぱっと表情を明るくさせ、頭の耳をぴくぴくと動かせる。

 その様相は輝良が喜んだ時と少しだけ似ているが、ボクは顔を思い切りしかめた。

 

「ごめん輝良。でも、輝良にはこんな奴(・・・・)のために人殺しになってほしくないから」

「む? なんじゃ?」

 

 くるりと振り返り、不思議そうにこちらを見上げる少女をじっと眺める。

 

 可愛い。

 うん、確かに可愛い。

 顔立ちも整ってるし、くりくりとした紅い瞳はまるで宝石みたいだ。

 それに九尾って感じの尻尾はふわふわでとてもよい……が……!!

 

 脳裏に今までの出来事がよぎる。

 すべてがあまりに自然だった。感情、思考、その全てがあまりにナチュラルに、だが完全に上書きされていたのを今なら理解できる!

 

 最悪だ! 全部最悪だ! なーにが『無礼』だ!

 だれがへーこらするってんだ! こんな……こんな良く分からん洗脳してくる自称神に!!

 

 そのもちもちとしたほっぺは、さぞかし抓りがいがあるだろうね!

 

「こん……のクソ狐ーっ! なにしてくれとんじゃコラーッ!!」

「ふひぇえ!? なにふゅるのひゃー!?」

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