ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「ず、随分と……頑張りましたね」
「はい……」
「ダンジョン、ちょー楽しかった!」
全身ドロドロ、こんな姿になったのは小学生以来かもしれない。
理由は言うまでもない。
昼間の受付のお姉さんが僕たちを何度も見直し、苦笑いを浮かべる、
すっかり日の暮れた頃、ボクだけはヘロヘロのままようやくダンジョン協会へとたどり着いた。
なんで『ボクだけは』って? ダンジョンから出て尻尾が消えようと上機嫌なのがまるわかりな、横で興奮している輝良を見れば、ね。
「えー!? 400円にしかならないんですか!?」
「え、ええ。スライムの魔石は含まれる魔力が微量ですからね」
結局持って帰ってこれたのは五つの魔石だけ、つまり最初にボクがとった分だけだ。
そのあとはずっと遊んでたし、仮に何匹かスライムを倒してたとしたってまわりはほぼ真っ暗、さらにゴミが散乱してる草原で拾い集められるわけもない。
「あんなに頑張ったのに―!」
「たのしさ、プライスレス」
「……はぁ。ま、そういう事にしとこうか」
一匹八十円かぁ。
本当にお小遣いにしかならない、遊び場って言葉がしっくりくる。
ゴミが散らばってるのも、その割に人が全く入ってこないのも良く分かるってもんだ。
「はー。ねえ輝良、これで帰りになんかコンビニで買って帰ろ」
「シュークリーム! ダブルクリームのやつ!」
「あーいいねー、ボクもそれにしよ」
いやー、もちろんバイトだってちゃんとやってるつもりだけど、全身運動の疲労感はやっぱり比べ物にならない。
でもその分カロリーを気にしなくていいのはいいカモ。
手のひらのうちでチャリチャリと、貰ったばかりの三枚の硬貨を弄びながら協会から出ようとしたその時だ。
「なるほど、『
「ええ。また情報が入りましたら――」
奥から何やら二人の人物が姿を現した。
一方は恐らく協会の人だろう。スーツに袖を通したシゴデキのおじさんといった様子の人と、もう一人……
「ねえ輝良みてみてあの人……」
「うん……車椅子乗ってる」
「え、そこ? まあ乗ってるけどさ!」
確かに、輝良の言う通り車椅子に乗った女性だった。
だがただ足を怪我している、といった様子ではない。すらりと整い穏やかな風貌、特徴的な白い髪に黒いインナーカラーはオシャレで、いやそんなことより――
「ダンジョンの外なのに耳と尻尾生えてるんだよ!」
「たしかに……全然気付かなかった」
「どう考えても真っ先に気付くことだって! アンタどこに目ついてんの!?」
たおやかに笑うその人は、まるでホワイトタイガーのようなモノクロの耳と尻尾が付いていた。
コスプレじゃない。ダンジョン内の輝良の耳と同じく、右へ、左へと絶えず動いているのが分かる。
え!? どういうこと!?
あれってダンジョン内だけの話じゃなかったの!? それとも最新鋭の付け耳とか!?
いやいやそんなの付ける意味ないでしょ、なんかあんなえらそうなおじさんと話してる最中に!
輝良とこそこそ入り口で話していたボクたちだったが、ふと気が付くと話題の彼女が目前へと来ていた。
「こんにちは、かわいいお嬢さんたち。もしかしてその様子、初めてダンジョンに入ったのかしら?」
「あ、は、はい」
「動物の耳が生えたり、色々驚いたでしょう?」
こんな風に、なんて言いながら自分の丸いケモミミを動かす彼女。
ボクからすれば今、貴方の頭の上で凛々しく左右に動いている丸っこいケモ耳のほうが百倍気になります、なんてことも言えない。
ちょっと輝良! そんな耳をガン見しないの失礼でしょうが!
それにしてもオーラがすごい人だった。
なんだろう。動きというか、纏っている雰囲気というか、口調も笑みもすごく柔らかいはずなのに。
以前輝良の剣道の試合を見に行ったことがあったけど、あの時の輝良みたいに少し迫力を感じる。
いったい何を言えばいいのか、もういっそ逃げてしまおうかと気圧されていたが、後ろからゆっくりと受付のお姉さんが現れて救いの手を差し出してくれた。
「この方は
「え!? もしかして凄い人なんですか!?」
「うふふ、たまたま戦い続けてるだけよ。普段はほら、みての通り足も悪くしていてね」
やっぱすごい人なんじゃん!
絶対ボクみたいな通りすがりの一般人Tが話しかけていい人じゃない!
ねえ輝良、そろそろ帰ろうなんてこっそり横に話しかけようと思って振り返ると、既にそこに彼女はいなかった。
車椅子の横に立ち、てろんと垂れている太くて白い尻尾をじっと眺めている。
「気になるかしら?」
「触りたい」
「ふふ、かまわないわ。優しくお願いね」
「ちょ、輝良!」
羨ましいけど……アカンて!
その人絶対お偉いさんやねんって!
「自由な子ね。さすがは
しゃがみ込んで尻尾を撫でている輝良の頭を彼女は撫でると、ふと、ボクの視線に誤魔化すかのようにニッコリとほほ笑んだ。
「ああ、そう言えばこれ、貴女も気になるのよね?」
「え? あ、は、はい! ダンジョン内だとボクたちにも出たんですけど……」
「んー……簡単に言うと、ダンジョンで戦い続けて体内の魔力量が増えるとね、こうやって外でも常に出るようになってしまうの」
「鬼灯様はこうおっしゃっていますが、国内でもこの現象に至っている方は数えられるほどしかいませんよ」
「もう、そんな祭り上げないで頂戴! たまたま私はダンジョン内での活動が長いだけなの、これからきっと増えていくと思うわ」
にこにこと優しく笑いながら謙遜する鬼灯さん、すっごい謙虚な人だ。
「さ、もう夜も遅いから早く帰りましょう。寝不足はお肌の大敵よ、若さに胡坐掻いてたらあっという間なんだから!」
.
.
.
「なんかすごい人だったね!」
「ん……」
買ったばかりのシュークリームを一つ投げ渡すと、コンビニの前で輝良が俯いていた。
なんだかさっきから口数が少ない。
「どうしたの輝良? 元気ないじゃん」
まさか今になってダンジョンの疲れが出てきたとか?
輝良はシュークリームを一口かじると、その穴からじぅー、とクリームを吸いながら視線を下へ向ける。
「わたし、あの人ニガテ」
「えー鬼灯さんのこと? あんなしっぽ撫でてたじゃん!」
「しっぽは良かった」
そっちは良かったんだ。
それからしばらく輝良はシュークリームを咥えたまま黙りこくった。
一体なんだっていうんだろう。
ボクは自分のシュークリームを一口かじりながら、そう言えば今日はすっかり見ていなかった、なんて思いだしてスマホの画面をいじっていると、小さく彼女が呟いた。
「め」
「め?」
彼女がつま先でトントンと地面をたたく。
どこまで言ったらいいのか、なんて吟味しているようにもごもごと口を動かし、少ない言葉をぽつりと漏らした。
「目がこわかった」
「んー……そっかぁ」
ずっと優しい雰囲気しかしてなかった気がするけど。
なんか淑女! って感じですごい素敵だった。
ボクの事をじっと見ていた輝良は、突然手にしたシュークリームを袋ごとボクの胸元へ押し付け、スクーターを押しながら歩き出した。
「あげる」
「もういいの?」
「プレゼント」
シュークリーム大好きなのにめずらしい。
いやー太っちゃうかなぁー、いやでも今日はいっぱい動いたし……そう、夕飯のご飯をちょっと減らせばおっけーか。
パクリとかぶりついた時に違和感。
何かが足りない。足りないというかない、まるっきりない!
「……クリーム全部ないじゃん!」