ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染が長年ドロドロ激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「よくぞ参られた、巫女殿。そしてその友人殿」
深い皺を顔に刻んだ老爺が、その年齢からは想像もできないほどに鋭い視線をボク達へ突き立てた。
複数人によって慣れない和服を着せられたボクは、すっかりくたくたな体で背中を無理に張り、痛む足を正座へと整える。
エロ忍者の言葉に首を振った輝良と共にボクがやってきたのは、あまりにも巨大な寝殿造の大屋敷だった。
こんな物々しい雰囲気だというのに、ボクの頭の上のみーちゃんは子狐姿ですやすやと寝息を立てている。
流石神、図太いなんてものじゃない。
「儂の名は魂転
老爺が名乗り、輝良とボクも自分の名前を口にする。
一面畳張りの大部屋には、ざっと数えても左右合計で二十人は人が並んでいる。
その誰もがお堅い服装に身を包み、ボク……いや、同じく和服に身を包んだ輝良へと視線を向けているのだから、居心地が悪いなんてものじゃない。
いやー、なんとなくの流れでついてきちゃったけど……めっちゃ気まずいなぁ。
もう帰りたいよ……クレアちゃんとか呼んで家でゲームしてたい!
誰も彼もがむっつりと口を噤んで重々しい雰囲気を纏っているが、何より重圧感を感じるのは目の前の老爺だろう。
魂転家の当主、と名乗るからには言うまでもなくこの場の重鎮であり、周囲の人間の誰もが彼にだけは異様なほどに一歩引いた態度を見せている。
誰一人として彼に逆らうことなどできない、そんな雰囲気を感じるのだ。
「其方を招いたのは他でもない、巫女殿の使命を全うして頂くためじゃ」
「……使命って?」
ぎろりとした彼の視線が輝良へと突き刺さるも、彼女は堂々として彼へと顔を向けている。
うへ、輝良よく質問できるなぁ。
だってみてよあの人の眼光! ボクなら怖すぎて何にも言えないよ……ホント。
「……ご両親からは何も聞いていないのかな?」
「何一つ」
「ふむ……」
長く白い髭を撫で、
そう、この場には輝良の両親もいる。
いや、エロ忍者の言葉を信じるのなら恐らく、魂転家にて中心に近い人物たちの大半がそろっていると考えていいだろう。
「我々の使命、まさか忘れたわけではないだろうな?」
「い、いえ
「もうよい」
輝良のお父さんは剣道の道場主だ。
言うまでもなくいかつい見た目をしていて筋骨隆々だというのに、ともすれば小柄な
周囲の視線を一身に浴びて、信じられないほど真っ青な顔だ。
「
「神……?」
輝良の言葉は果たして、滅定の言葉に反応してだろうか。
それとも今日のあの出会いに際してだろうか。
どちらにせよその言葉を受けた老爺は分かっていたとばかりに、再び低い声で言葉を吐いた。
「神話の時代、人々は安寧を、享楽を、神の御光によって全てを得ていた。これは寓話ではない、隠された真実である」
重々しく語る彼の言葉は、にわかには信じがたい内容であった。
かつて世界には神が無数にいて、人はそれに支配されていたのだ、と。
神は絶対的な力を持ち人を支配し、同時にその力を持って恵みを与えてきたのだ、と。
だがその全てを虚構であると断じることはできなかった。
神との邂逅を既に済ませていた、今のボクには。
「だが神による支配に抗う者達が現れた、人本来の発展性を重んじ束縛から逃れようとする者達じゃ。その中でも強大な力を持つ四の家系、これを四大封守と呼ぶ」
老爺の語る話はどれもがトンデモの内容だ。
だが彼の口調が、いで立ちが、有無を言わさぬ雰囲気を纏っている。
「我ら魂転、そして既に出会ったであろう
ボクは老爺の言葉に耳を傾けながらほぞをかんだ。
みーちゃんとの出会いで察してはいたが、やはりあの人にも何かしらの意図があって近づいてきたのだ。
「神は天より降臨する、故に我々は世界を封じた。神の辿る道となる力、魔力や神力を全て覆い隠し、世界を切り分け、そして人類の持つ力全てをも覆い隠す、天蓋結界を造り上げた」
四大封守によって世界が封じられた?
随分と大掛かりな話になってきたぞ。
「名を
聞き覚えのない名前……いや、確かエロ忍者が最初に戦った時に言っていたような。
額にしわを寄せ、老爺の言葉を必死に噛み砕こうと考えるボクをよそに、彼は言葉を続ける。
「特定領域、いや諸君らの言う『ダンジョン』に入ると獣の耳や尾が生えるであろう。それは各々に宿る
ボクと輝良、二人で同時に息を呑んだ。
ダンジョンに入ると生えるケモミミ。
今まで生えるのだとばかり考えていたそれは、逆だった。それこそが本来の姿、今までは封じられていたにすぎない、と。
だがこれでやっと納得がいった。
エロ忍者や鬼灯さん、実力者になるとダンジョン外でもケモ耳が残る理由に。
つまり彼らは
「我々は世界を封じた、新たな脅威は現れない。なればこそ次にすべきは――神々の滅殺」
滅定が手にした煙管へとゆっくり火を近づける。
一帯へ甘ったるく、少し焦げ臭いにおいが漂う。
それはねっとりとボク達へへばりつき、静かに思考を奪っていく。
彼の言葉に、ボク達は捕らわれていく。
「神々の支配は絶対である、故に抗うには同じく強大な力が必要となった。故に我々は血を混ぜ、力を高め、そしてついに我が家系より生まれるようになった存在がある」
言われずとも分かった。
「魂転の巫女、それこそが神弑しの刃」
輝良の人生。
子供の頃から戦い方を叩き込まれ、自由を奪われ、そしてここまで彼女を縛り付けた全ての宿命。
異様なまでの成長も、なにもかもがこのためだけに生み出された力。
魂転の巫女。
神を弑すためだけに生み出された存在、それこそが輝良の正体。
「まさか当代が分家の狐天から生まれるとは想定外じゃったが、使命に変わりはない」
彼は煙管をまた一吸いすると、かつん、と灰を受け皿へと叩き付ける。
「世界にはまだ幾つかの神々が残っている。残り全ての神を弑して頂きたい、それこそが魂転の絶対的な運命であり使命である故に」
命令だ。
多少お願いしているように見えていたって、流石の鈍感なボクにも分かる。
周囲も輝良の次の言葉が分かっているかのように、じっと彼女を見つめていた。
あまりに歪な空間だった。
たとえ彼の言葉が正しかったとして、神々を打ち倒していったことがとてつもない偉業だったとして。
どれだけの力を持っていたとして、輝良はただの女の子だ。ただの少しおバカで、口下手な子で。
輝良はずっと不安に押しつぶされそうになりながら頑張ってきたんだ。
言い出せない事だっていくつもあるのに、それを表には出さないで頑張ってきたんだ。
これ以上、まだ背負えって言うの?