ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第66話

「巫女殿、準備は全て恙なく済んでおる。お主が頷けば今すぐにでも、磐境(いわさか)の結界の影響、その全てを解除してしんぜよう」

 

 ボクはそっと横へ視線を向けた。

 彼女のただでさえ白い肌に血の気はない。

 普段はあまり開かない目を大きく見開いて、ただ畳の縁をじっと見つめている。

 

「……わたしは」

「魂転の巫女は誇り高く偉大なる使命である。世界を守り、人を守り、人としての尊厳を護る。これほどまでに素晴らしい役儀はあるまい」

 

 有無を言わさぬ言葉と眼光の重圧。

 たとえ輝良が普段多少気が強かろうと、彼と、そして周囲の人間から感じる無言の重圧に抗う事はできない。

 

 責任感。

 家で、学校で、周囲の期待に応えんとする責任感から逃げ、輝良はボクのところへと転がり込んできた。

 その行き着く先はまた、新たな責務の従僕。

 魂転の巫女、神弑しとして摺り潰れるまで戦い続ける運命。

 

「最上の武器はここに。かつて龍の尽きぬ炎によって打たれた名刀、黒龍刀じゃ」

「……はい」

 

 滅定が刀を僅かに抜き取り、鞘の内側から現れたのはぬめらかな漆黒。

 輝良はうつむいたまま、掠れるような声と共にその刀を受け取った。

 

 輝良の姿に老爺は、実に満足げな笑みを浮かべ鷹揚に頷く。

 全ては彼の御心のままに、魂転家の全ては彼によって操られている。

 

「ではこれで以上、魂転の巫女殿に諸君、最上の門出を祝って差し上げようではないか」

 

 一人の拍手が広間で響いた。

 

「おめでとう!」

 

 続けて、二人、三人と。

 気が付けば喝采の拍手がボク達を取り囲む。

 

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「本当におめでとう!」

 

 人々が一斉に立ち上がり、貼り付けた笑顔のままにこちらへ歩み寄る。

 不気味な祭り上げをだれも止めはしない。

 ただ、輝良の両親だけが座ったまま、その顔を俯けている。

 

 きっとあの二人は今の輝良とおんなじだ。

 この家から逃げられなかった。巫女としての戦う力を教え込み、しかしその全てを話せずにいた。

 この、魂転家に脈々と受け継がれてしまった宿痾を隠し、輝良一人に背負わせるその行為を悔い、そして……あぁ、今日まで来てしまった。

 

 めまいがした。

 すり寄る一人一人の顔を見る度に、堪えがたい吐き気がした。

 

「今日はなんてめでたい日だ!」「おめでとう!」「誇らしい!」

 

 やめろ、やめろよ。

 お前らが輝良の何を知ってるんだよ。

 輝良はずっと悩んでたんだ。自分と他人の違いを、家族からの扱いを、力を。

 飄々とした裏でずっと心は泣いてたんだ。

 

「これこそ魂転の誇りだ!」「美しく気高い、これこそが巫女のあるべき姿である!」「素晴らしき巫女殿!」「なんと凛々しい顔立ちであるか!」

 

 醜い。

 なんて醜いんだ。

 誰も彼もが一人に責任を押し付けて、能天気に祝っている。

 

 ボクの握りしめた拳から血が垂れる。

 粘り気を帯びた赤は畳の上に転がり、緩慢に広がっていく。

 

「――この家は腐ってる」

「なに?」

 

 ボクの呟いた言葉に、老爺の落ちくぼんだ眼窩が鈍い輝きで返す。

 

 そのばかばかしい(・・・・・・)視線を睨みつけ、ボクは横の少し冷たく白い手を握りしめて立ち上がった。

 

「帰るよ輝良!」

 

 はらわたが煮えくり返るなんて程度じゃない、超高温で気化してプラズマ化しそうだ!

 

 エロ忍者が下からへりくだってたし、知らない情報が手に入ると思ってここまでやってきたけど、全部時間の無駄だった!

 神だ宿命だとバカバカしい! 誰か一人に責任を押し付けないと滅んでしまうような世界なら滅べ!

 あーもう! ホントあったまきた!

 ここでる前にこの家燃やしてやろうか! お焚き上げだお焚き上げ! 全部燃やして塵カスにしてやれば二度とくだらないこと言えないだろ!

 

「それは困りますな」

「ふん、どういわれようと勝手に帰るよ! 力づくでもね!」

 

 ダン! と畳にボクの足が叩き付けられる。

 同時に手から滴り、畳にこびりついた血が青紫へと染まる。

 握りしめた拳の中で結晶が互いにぶつかり合い、パキパキと音を立てて砕け散った。

 

 外じゃ基質励起の効率は悪いけど……ここにいる人たち全員を麻痺させるくらい簡単だ!

 悠々と帰らせて――

 

「――っ!?」

「斬るな、巫女殿の大切なご友人じゃ」

 

 鋭い刃が首筋へ当たる。

 

「半年戦い続けたと聞いたが、この程度。巫女殿、切磋琢磨は素晴らしい物じゃが、研鑽を重ねる相手は選ぶべきかもしれませんな」

 

 いったい、いつの間に……!?

 

 気が付けばボクを取り囲んでいた黒い影たちが、その刃を体のあちこちへと当てていた。

 心臓、腕、首筋。少しでも妙な動きをすれば切り落とすとばかりに、彼らは黒い衣装に身や顔を隠し、怜悧な視線だけがこちらを貫いている。

 

 ……これは、御庭番、か。

 暗闇に溶け込むかのような黒い影、そして彼らの身体には黒い獣の耳や尾が備わっている。

 その全員が恐ろしいほどの手練れ。

 

 瞬く間にボクは地面へ叩き臥せられ、言葉すら発せられないように喉元を押しつぶされた。

 

「質の悪い砥石では業物もなまくらになります故」

「げ、う……」

 

 さあ、宴会を。

 

 老爺はそういい、輝良の背中を押す。

 輝良はボクへと必死に視線を向けるも、むしろ下手に動けばこちらが危ないと悟ったのだろう、唇を小さく噛みしめ俯き、廊下へと消えていく。

 

「ま……て……」

 

 だめ、だめだよ輝良。

 そっちに行っちゃだめなんだよ。

 あんなに嫌がってたじゃん、あんなに苦しがっていたじゃん。

 どうしてそんなにすんなり諦めるんだよ、どうしてそんなにすんなり踏み込むんだよ。

 

「う……ぎゅあぁ……!」

 

 伸ばした腕も取り押さえられた。

 磨り潰すみたいに、畳に押し付けられて骨が鳴る。

 

 最後に老爺の顔だけが視界に残った。

 取るに足らない塵芥を見るかのように、高く見下した彼は小さく鼻を鳴らした。

 

「どうやらご友人殿は長旅で少し疲れておられるようじゃ、丁重にお連れせい」

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