ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第67話

「おい! おい!! ここから出せよっ!」

 

 ボクの声は薄暗い岩の中へと染み込んでいく。

 湿気った地下牢に人はいない。使い古された溶けかけのろうそくだけが、身動きの取れないボクの影を大きく壁面へと映し出した。

 

 気が付けばボクはここにいた。

 手足は拘束され、壁際に取り付けられた古さびた鎖によってまともに動くこともかなわない。

 

『まあ落ち着くのじゃ律、騒いでも出られんもんは出られんぞ』

「うるさい! そんなのは分かってるッ!」

『全くうるさいのぅ……これだから龍の者は、執着が強くて敵わんわ……』

 

 くそっ! くそっ!

 全然外れないッ! もっと力があれば! こんなの簡単に壊せるくらいの力があればっ!

 

 それから何度叫んだだろう。

 声はすっかり枯れた、けれど心の中に湧き上がる激情の熱は収まらない。

 それでも体は動かない。エネルギーも何もかもを燃やしてしまったかのように、ただ腕だけが吊り上げられたままぐったりと、ボクは壁に寄りかかって座り込んでいた。

 

「いやはや、あの様子じゃ暴れ狂ってるかと思ったが案外大人しいじゃあねえか」

 

 何者が暗闇の中で口を開いた。

 それはぬるりと闇から身を乗り出し、牢獄の鉄格子へと顔を近づける。

 

 男だ。

 年齢は四十行かない程度だろうか。縮まった髪を乱雑に束ねた男は、細い目をより一層狭めて獄中のボクへと語り掛けた。

 

「まさかあの滅爺に食って掛かるとは、中々肝が据わってるね嬢ちゃん」

「……誰?」

「魂転芭蕉(ばしょう)、次男坊にて拙者の上司にござるよ!」

 

 その言葉にボクの心臓が跳ねる。

 

「……エロ忍者! アンタさえ来なければッ!」

「ブハッ! 孫七、お前エロ忍者とか呼ばれてんのかよ!」

 

 ふざけた服装に身を包んだ女が、芭蕉と呼ばれた男の背後から現れる。

 

 エロ忍者!

 こいつが! こいつが来なければ! こいつのせいでっ!

 

「あー、孫七を送り込んだのは俺だ」

「っ!」

 

 わざとらしくすら見える申し訳なさそうな顔で男が言う。

 

「あーっと、言い訳をするとだな、キミが暴れなけりゃもう少し穏便に済むはずだったんだぜ?」

「それは……」

「つってもまあ、黙ってみてなんていられないよな。分かるぜ、連中と違ってオレも多少は人間の血が通ってるもんでよ」

 

 自分の髪をガシガシと粗野に掻いた芭蕉はその場にどっかり座り込んだ。

 いったい何のつもりか。地面を睨みつけるボクの前で彼は壁に背を当て、すっかりくつろいだ姿勢を取って横のエロ忍者へと手を伸ばす。

 

「おい孫七、俺は少し長話がしてぇ。腹割って話すにゃ必要なもんがある、酒だ!」

「飲むのは若殿だけでござろう、それと拙者はチューハイしか飲まないでござる」

「それで結構!」

 

 エロ忍者、いや、孫七はどこかから缶を取り出すと、ボクの前でおもむろにそれを開け一気に煽る。

 まるでここが自室化のような態度はこの場の空気に合わない。

 男が軽快に喉を鳴らす様子をボクは見せつけられ、ただ内心の苛立ちだけが延々と高まっていくのを感じた。

 

「っかー! クソぬるい! お嬢ちゃんも飲むかい?」

 

 ちゃぷちゃぷと缶を鳴らし見せつける芭蕉の姿にほとほとうんざりする。

 目を見開き、噛みしめた唇からは嫌な鉄さびの匂いがした。

 

 この人は頭がおかしいの?

 まあエロ忍者の上司ってんなら頭がおかしいのも当然か。

 口の中の血を毒にして吹き付けてやろうか。

 

「……はー、気まず。困ったねこりゃ、ちょっくら真面目に話すべきか?」

「最初からそうすべきだと言ったでござる」

「緊張してる若い子の心を解きほぐす小粋なジョークって奴だよ」

 

 こちらの苛立ちも知らぬと彼らは自由な会話を続ける。

 

「……遊びに来たの、ならさっさと帰って」

「ほらー! 律殿もご立腹にござる!」

「はー、はいはい。ちゃんと真面目に話しますよ」

 

 ようやく彼らが黙ったかと思うと、芭蕉は手にした缶を一気に飲み干し力強く床へ叩き付けた。

 そして先ほどの態度から一転し、低い声で小さく囁く。

 

「魂転滅定、滅爺はバケモンさ。いったいいつから生きてんのか知らねえが、俺がガキの頃にゃあの見た目で魂転家を支配してやがった」

 

 男の纏う雰囲気が変わったことに気づいたボクは、初めて男の姿をまじまじと眺めた。

 飄々として軽薄な態度とは裏腹、芭蕉の目には薄暗闇の中でも分かるほどに深い隈と、声の若さに合わぬしわが刻まれている。

 そしてどこか、滅定に似た重圧を感じる気配。

 

「勘違いしないでほしいんだが、四大封守の全ての家が神弑しに賛成なワケじゃあねえ」

 

 こちらが話に耳を澄ませていることに気づいてか、彼はゆっくりと語りだす。

 

 四大封守、文字通り世界を封印した者達の生き残り。

 魂転家や協会で出会った祇穣院(ぎじょういん)稀鷹はそのうちの一つであるが、必ずしも一枚岩の上で成り立っているわけではないと芭蕉は語る。

 互いに意見は異なり、完全なる神の抹殺を試みる者もいれば、一方で現状維持、或いは柔軟に現状を変えていくべきと主張するものも。

 

「だがあの爺さんだけは神弑しの急先鋒でな。それにやたらと長生きなもんで財政界にも強い影響力を持ってる、表立って逆らえる人間がいねえのさ」

 

 心臓に重しでもつけられたかのようなやりきれなさが全身を襲った。

 

 そんな奴に……そんな奴に輝良はついていったのか!

 ついていかせてしまったのか!

 

「ま、お嬢ちゃんが知るわきゃねえだろうがよ、まさか逆らった時には驚いたぜ」

「輝良を苦しめる奴は……許さない……」

「友達を思う気持ちは良いがやり方が悪いな、感情だけじゃあこっちの世界で通用しないぜ」

 

 言われずともそんなこと分かっている。

 ボク達に出来ることなんて何もなかった、最初からだ。

 

「滅爺にとって神の抹殺こそが使命、故に魂転の巫女には多少の配慮をする。輝良ちゃんにとって唯一に近い君は、まだ利用価値があるからこそ生かされている」

 

 輝良が魂転の巫女としての力を持っていた時点で、神弑しに異様なまでのこだわりを持つ滅定が見逃すわけがない。

 そして御庭番を始めとした実力者を揃え、圧倒的な情報収集力までをもそろえている彼の行動を阻止することなど。

 

「だが一度警戒が利用価値を上回れば……こう、だ。オレはそういった奴らを何人も見てきた、だが君みたいなカワイ子ちゃんをみすみす殺させるってのは後味が悪いんでね」

 

 所詮ボクはただの小娘だった。

 文字通り後ろ盾も何もない、少しだけ力を持っただけの小娘。

 滅定からすればボクの存在を消すことも、赤子の手をひねるよりもたやすいことなのだろう。

 

 分かっていた。

 あの場で、あの人たちに囲まれて、あの老爺に視線を向けられた時点で全部分かっていた。

 

「……それでも、ボクは」

 

 何かしてやりたかったんだ。

 一人ぼっちでなんでもしようとするあの子の隣に、たとえなにも出来なくてもいてあげたかった。

 

 情けなくて涙が出た。

 本当にボクは何もできないんだって、心の底から無力な自分に苛立った。

 所詮ボクの覚悟だとか努力なんてものに価値はなくて、力を持った人間からすれば容易くひねり潰せるようなしょうもないものなんだって。

 

「どうして……こうなっちゃったんだろう……!」

 

 もっと遠くに逃げてたら良かったのかな。

 もっと勇気を出して、輝良の手を握って、海外にでも逃げてたら良かったのかな。

 でもきっとすぐ捕まっちゃうんだろう。だってエロ忍者はボク達の元へ直接やってきた、それは普段から行動が魂転家に全て監視されていたってことで。

 

 輝良が家から逃げても何も両親はしなかった、クレアちゃんはそう言った。

 きっとそれも、逃げられないことが分かっていたからだ。

 狐天家は魂転家の分家だとも言っていた。

 分家であろうと逃げられないと、両親はそれを理解してしまっていたから。

 今日の会合、あの場にいた二人の絶望した顔を見れば誰だって分かる。

 

 考えれば考えるほどに、思考の逃げ道は塞がれていく。

 ああ、そうだ。

 全部だ。全部がはじめから。

 

「……ボク達は、最初っから全部詰んでたってことか」

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