ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「……ボク達は、最初っから全部詰んでたってことか」
あの日の悲しみも、あの日の喜びも苦しみも、決意さえも、何もかもが無駄だった。
ボク達の戦いは全部意味のないもので、ただ滅定が見逃して作られた自由の中で完結していたにすぎない。
「は……はは……あははっ」
冷たい岩に打ち付けた頭から伝わる痛みに喘ぐ。
だが軋んだ心の苦悩に比べれば、打ち消し合い、誤魔化せる分幾分かマシだった。
むしろこれは罰なのだ。何もできず、何かできると勘違いしていた自分への戒めなのだ。
「あんまり自分を傷つけるんじゃねえよ、輝良ちゃんが悲しむぜ」
「……っ、アンタに! アンタにボク達の何が分かるんだよ!」
「分からんさ、俺はキミじゃねえからな」
芭蕉の視線は冷たい。
淡々とした口調に憐憫はなく、その立ち居振る舞いに怖気はない。
真実を告げているのだから仕方ない、とばかりに彼は、一切の手加減を無い言葉を浴びせかけてきた。
「巫女に自由はねえ、一切だ。だからこそ今日あったことは全部忘れるんだ」
「そんなこと出来るわけないっ!」
「するんだよ」
間髪を入れない否定。
彼は地下牢の鉄格子へと足をかけ、こちらへずい、と顔を近づけた。
「国や法律と同じさ、力に抵抗できるのは力だけだ。それがないなら、人は隅で蹲って、その化け物に睨まれないことを祈って生きる以外に選択肢はねえ」
芭蕉の目に活力はない。
だがその瞳の奥に揺らめく昏い炎から、どこか深い怒りと絶望が見える。
無意識にボクは悟った。
この人もボクと同じなのだと。何かを諦め、怒り、そしてまだ……
「さ、お手を。鎖を外すでござるよ」
孫七がするりと牢獄内に入り込み、銀色の金属片をこちらへ見せつける。
ボクはどこかぼう、としながら言われるがままに両手両足を彼女に近づけると、軽い音と共に自由を奪っていた枷は足元へと転がった。
孫七がボクの手へと寝息を立てるみーちゃんを手渡す。
男は持っていた缶をくしゃりと握りつぶすと、牢内のボクへと手を差し伸べた。
「外に車を付けてある、替えの服や軽い食事もだ。遠い分時間はかかるが、真っすぐに君の家まで送ってくれるだろう」
◇
「ひどい言い様でござったな若君」
「下手な希望は持たせたくねえ、むしろ苦しめることになる」
少女が去った牢前で男は座り込み、胸元から取り出したタバコへとライターを近づけた。
目を瞑り深い呼吸、長くくゆる煙を目で追いながら、芭蕉はぽつりとつぶやいた。
「……輝良ちゃんは俺の母さんによく似てるな、特にあの気の強そうな目がそっくりだ」
「それは、先代の」
「特に今日の顔は、あの時とそっくりだ……そういやそろそろあの日から二十年か」
男の顔に浮かぶのは懐古と、少しの苦しみ。
「ここの地下牢に来るたびにムカつく気分になるぜ」
「確かここで、ござるな」
「ああ。次代を生むための孕み袋にされて、最期はここで黒龍刀使って首掻っ切って死んだよ。ひでえ顔だったぜ、未だに夢に見る」
壊れた人間は良く笑う。
芭蕉の記憶にあるのはいつも笑っている母だったが、彼女の目が真に自分を見てくれたことは数度しかなかったように思う。
輝良と同じ十七の確か冬だったか、いつ編んでいたのか分からないマフラーを貰い、喜び勇んで学校へ行った帰りにそれは起こった。
抵抗する母は、芭蕉の記憶ではいつもここに閉じ込められ縛られていたはずだというのに、なぜ最期にこの牢獄を選んだのかは分からない。
少し早くなった鼓動と湧いて出た頭痛、男はタバコを床へと擦り付け深い溜息を吐いた。
「滅爺は老獪で周到さ、引きずり下ろすにも大抵の話じゃ揺るぎもしねえ。反発者は多いが表立って詰める奴も、詰められる情報も今のところゼロ。何もできやしねえ」
去っていった少女と同等の感情を僅かにため込み、彼は深々とした溜息をついた。
今更涙を流すことはなかった。擦れ切った精神は既に麻痺し、あいにく魂転家という異様な家系に肩まですっかり浸かってしまっている。
「大人ってのはホント情けねえよなぁ、高校生一人のほうがまだ勇気がありやがる。俺がガキの頃から変わったのは肺の色くらいさ」
いっそこの家の全てが滅んでしまえばいい。
かつてはそう考えたこともあったが、いざそうなってしまえば
四大封守とは言うものの、そのうちの一家は突如として情報断絶、そしてもう一家は過去の大戦によって既に滅亡している。
昨今行動を強めている曙光の工作もあり、ただでさえ結界の維持は限界に近い。
ままならない現状に手一杯。
さらに言えば滅定に関連する犠牲者は無数におり、その一人一人への手厚い対応など出来やしないのが現実だ。
「孫七、今回の出来事を稀鷹に連絡しておいてくれ」
「はっ、
「それと突飛なことしないように監視付けろって伝えとけ……あの子のためにもな」
男は再びタバコを口に咥えため息をついた。