ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第69話

「なあなあ~」

 

 暗い部屋の中で少女の声が響く。

 

「のう律やぁ~!」

 

 頭まで被った布団の中からは全てがくぐもって聞こえた。

 ボクは布団の端をぎゅっとつかみ、ただひたすらに目を瞑る。

 顔はすっかり乾いてしまっていて、涙腺と頭に走り続ける痛みだけが、ボクの感情を嫌でも自分自身に教え込んできた。

 

「ええい! そろそろ起きんか! いつまでそんなことしとるつもりじゃ!」

 

 突如として冷たい空気が布団の中に溢れた。

 というか引っぺがされた。

 渋々見上げると、金髪の少女が頬を膨らませてこちらを睨んでいる。

 

 彼女は幾本もの尾をゆらゆらと揺らめかせ、その大きなケモミミをぴん、と立て己の存在や感情を主張していた。

 

「……冷蔵庫の中の好きに食べていいって言ったじゃん」

「れいぞうこ? とやらももう空っぽじゃぞ! 妙にしょっぱかったり酸っぱい液体しか入っとらん!」

 

 ケチャップやマスタードを舐めていたらしい、よく見ると口の端には赤色や黄色が張り付いている。

 

 ……思えばボク達は家で料理をすることなんてほとんどしない。

 ちょっと残っていたコンビニのパンだとか、アイスだとか、それくらいしか残っていなかったのだろう。

 

「……ごめん」

 

 もぞり、とベッドから這い出して呟く。

 

 あれから三日。

 何も考えられなかった。

 思考の中は答えなき無意味な反芻を繰り返すばかり。

 名前を付けることすら出来ない感情の吐露が溢れることも、枯れ果てることも、すべてが煩わしかった。

 

 ベッド横のテーブルに置かれた、いつ用意したかも忘れた水を一口飲み立ち上がる。

 カーテンの隙間から見えた空は暗闇だ、薄暗い部屋の中でエアコンから吐き出された冷たい風が、活力すら湧かず冷え切った身体には辛い。

 

「む、うぬは少し匂うぞ」

「……かもね」

 

 霞む視界で少女をぼんやり眺めるも、三日たった彼女の和服は皺ひとつない。

 

「みーちゃんはなんだか綺麗だね」

「わらわは神ぞ、人の子と違って匂ったりなどはせぬ! 偉大故に!」

 

.

.

.

 

 

 シャワーから注がれるお湯は誰にでも平等だった。

 冷え切った心、凍え切った身体、全てを固まり切った汚れと共に流していく。

 今はもう、ボクしか使う人のいないドライヤーを握って、少し伸びたショートの髪を手櫛でほぐす。

 

 冷えた廊下を歩いてリビングへと戻ると、少女はまた小皿に出したケチャップをぺろぺろと舐めながらこちらへと視線を向けた。

 

「ごめんね、みーちゃん。いきなり連れだしたり放置したりして」

「まったくじゃ!」

 

 耳や尻尾を感情的に動かしながらも、なぜか彼女は笑顔だった。

 性格や表情は全然違うのに、そういう細かな動きがどこか輝良を思わせる。

 

 滅定の話を聞いて確信へ至った。

 みーちゃん、いや彼女は文字通りの『神』なのだと。

 

「多分だけどみーちゃんが生きてた時代からもう数百年、もしかしたら千年以上経ってるかも」

「な、なんと!」

 

 俄かには信じがたいことだが、こうも証拠を並べられてしまっては仕方がない。

 彼女の言動も、服装も、あまりに物の知らなさも、悠久の時を経て封印から出てきたとなれば納得だ。

 

 みーちゃんはすこし大げさに驚き、目をまんまるにして――

 

「その程度とは、案外経ってないんじゃのう!」

「え?」

 

 思ってもいない言葉だった。

 

「わらわからすれば百年など一瞬じゃ、人の子からすれば悠久であろうがのぅ。なにせわらわは偉大であるが故、数万は生きておるのじゃ! さあ驚け!」

「へー、すご」

「反応薄すぎじゃろ!!」

 

 だって……万とかいわれても想像つかないし。

 

 きっとこれは彼女にとって虎の子の決め台詞だったのだろう、淡白なボクの態度にフローリングへと足を叩き付けた。

 あ、フローリングに傷つくからやめてねそれ。

 大家さんは優しいけど追い出されたら困るから。

 

 表情を多彩に変える『神』をじっとながめ、ボクはぼんやりと思った。

 ……もしこの子を差し出したら、滅定に神であると告げれば、また輝良に会えるのかな、なんて。

 

「にしては随分と人の子の暮らしようは変わっておったな。うむうむ、よきことじゃ!」

「っ! そんなに……いいことかな?」

「当然じゃ!」

 

 言い切る彼女に目を剥く

 

 神は世界を停滞させた、滅定はそう言った。

 停滞とはすなわち緩やかな滅び、故に人類を守るため彼らは立ち上がったのだ、と。

 

「わらわは人の子を庇護せし神ぞ? なぜ発展を恨む必要がある!」

 

 だが当の神は人の進歩を喜んでいる。

 勿論ボクが知ってるのはこの子だけ、全ての神がそうではないのかもしれない。

 

 それでもボクは――

 

「――外に、でよっか」

「む、なぜに?」

「おなかすいたんでしょ。ボクもそうだから、さ。コンビニにご飯買いに行くよ」

 

 ま、こんな時間に空いてるところなんてそれくらいしかないからね。

 

.

.

.

 

 

 深夜の公園には誰もいない。

 蛾が幾匹も舞う街灯の下でボク達はベンチへと座り、熱を帯びたビニール袋をおもむろに開いた。

 

「みーちゃんは他の神様に会ったことはあるの?」

『あるぞ!』

 

 子狐の姿で唐揚げへとかぶりついた彼女が声を張る。

 

『とはいえ先日の話を聞く限り、もうほとんど生きとらんようじゃがな』

「みーちゃん……」

『まあどいつも威張り腐りおって、ろくでもない奴ばかりじゃったから清々するがの! くふふ!』

 

 なんだこいつ。

 

 どうやら神様同士にあまり友好関係はないらしい。

 これは少し意外だった。みーちゃんは耳や尻尾が生えているのを除けば、見た目も性格も普通に人間の子供っぽいわけで。

 少しこういったところに神らしさを感じる。

 

「ねえ、そういえば神様たちってどこから来たの?」

『分からん! 気が付いたら地上におった!』

「えぇ……」

 

 突然地上に生えてくるとか、完全にパンに生えるカビじゃん。

 

 神の生態はあまりに謎に満ちていた。

 まあ人間だって生まれ落ちてから何も学ばければ、自分がどう生まれて育ったのかのメカニズムなんて分かるわけもない。

 適当なのかもしれないけど、案外それくらいでいいのかもしれない。

 

 色々聞いてみたものの彼女の返答はほとんどが分からない、ばかりだ。

 だが彼女がかつて何かをしていたか聞いてみると、子狐はどこか誇らしげに自分の尻尾を揺らした。

 

『人の信仰を受け世界を操るのじゃ! 天候も、豊穣も思い通りよ!』

「へー、すごいじゃん」

『じゃが疲れるからの、人の子が神を求めぬならわらわはどうでもよい。律、うぬがわらわを養うとよいぞ! 偉大なるわらわの御使いなぞ誰もが泣いて喜ぶ大役ぞ!』

 

 それってつまりニートみたいなもんじゃん……いや、基本子狐の見た目だしペット?

 本当にそこらへんは頼まれたからやってやるか、みたいな感覚らしい。

 まあ輝良に襲われた時の態度だとか、普段の振る舞いからしても何か強い責務の元に動いていた、というよりは自由気ままな暮らしを昔からしていたようなので納得である。

 

 じゃあせっかくだしなんかやってみてよ、なんて言ってみたものの、

 

『ちなみに今は出来ん! 誰からも信仰されてないのを感じるぞ!』

 

 とのことだ。

 まあ彼女が信仰されてた頃の人間なんていないわけで、そりゃ当然か。

 神の世界も案外世知辛いものである。

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