ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第70話

「あ、そういえば会ったあの時、龍だとかなんだとか言ってなかった? アレなに?」

『なに? ああ……そうか、結界の影響でうぬらは姿を封じられとるのだったな』

 

 みーちゃんがボクの頭をちらりと眺める。

 

 ボクの頭には、ダンジョンに入ると生える角がある。

 黒くてつやつやしてくるりと巻いた、結構大きめの奴だ。

 だがこれは輝良の耳や尻尾みたいに動くものでもないし、視界を邪魔するほどでもないため普段はあまり気にならない。

 強いて言えば少し重いくらいだろうか。

 

『うぬには立派な角が生えるであろう、あれは龍人の特徴ぞ。本来であれば尾もあるはずじゃが……まあよい』

「ふーん。龍、か。なんか強そうだね」

『ま、比較的身体能力には優れておるかもしれぬ。だがの、結局のところはどれだけ困難を乗り越え、鍛え続けたかが力に繋がるものじゃ』

 

 その通りかもしれないけど……現実的で少ししょっぱい事実だ。

 にしてもボクってドラゴンだったんだ……え? 翼とかもなんもないけど?

 

 まさかの事実がさらっと出てきた。

 多分みーちゃんの時代からすれば当たり前くらいの感覚なのかもしれないけど、あいにくとこちらは人生の九割九分を立派な人間として過ごしてきた身。

 まさかドラゴン的な存在だったなんて考えたこともない。

 

 え? ほんとに龍人なの? イメージ的に力に溢れてムキムキな感じなんだけど?

 学校通ってたときとか握力10くらいしかなかったけど? 50m10秒くらいだったけど?

 ほんとにボクって龍人なの?

 

『それよりもそうじゃな、龍と言えばやはり嫉妬深さが第一じゃろう。一度自分のものと思ったのなら絶対に手放さないところは他の種に無い特徴じゃ』

「えー? 嫉妬ぉ? ボク別にそんな嫉妬深くないけど……」

『何を言うとる! 輝良輝良とうるさいくらいではないか!』

 

 いったい何を言い出すかと思えば!

 

「それは! ……それはずっと一緒の幼馴染だしさ……べっつに……」

『友情じゃろうが憧憬じゃろうが、或いは情愛であろうがなんでもよい』

 

 少し顔を赤らめたボクをよそに、彼女は話をドンドンと先へ進めていってしまう。

 

『執念深さとは諦めの悪さ、それもまたうぬの強みになるかもしれぬ。それを生かすも殺すもうぬ次第じゃ』

 

 自分が執念深い、だなんて考えたこともなかった。

 むしろいつもどうにも少し流され気味で、なんでもぼんやり笑って乗り過ごしてきたと思っていた。

 それでいい、いや、それが良いのだとずっと信じて過ごしてきた。

 

 薄暗い街灯の下で、ボクは両手を眺めた。

 半年前とは大分違う、少しだけ皮が厚くなってマメの出来た掌。

 記憶の中の彼女の手はこんなのじゃなかった。 

 

『第一、それだけ執着していながらうぬは信じておらぬのか?』

「……信じる? いったい何をさ」

『決まっておる、魂転の娘をじゃ』

 

 ……輝良を?

 

『聞く分には、あの魂転の娘は神狩りだのなんだのの使命を知らなかったのであろう?』

「多分ね……ただずっと、なんとなく察してはいたみたいだけど」

 

 輝良は時々、自分が理解している以上の何かを、本能的に察知しているようなことがあった。

 ボクのこの家に転がり込んできた時、そして今目の前にいる子狐の封印を解いたあの時も同じく。

 おそらくそれもまた、巫女としての力の一つなのだろう。

 

『それは知っているうちに入らぬ!』

 

 だがそれをみーちゃんはばっさりと切り捨てた。

 

『第一、使命や宿命などというものは人が作った概念に過ぎぬ。少なくともわらわや他の神は人の子の人生全てを決めてるわけでもない』

「まあ、確かに……」

 

 今輝良を縛り付けている『巫女の使命』、神弑し。

 それを命じているのはあくまで滅定、言うまでもなく今目の前で唐揚げを食べている『神』が命じているわけもない。

 

『そして次に、使命や宿命の概念とはなんぞ? 己の恨みがあり、願いがあり、そして為さねばならぬことに直面して人は初めてそれを宿命や運命と直感するのじゃ』

 

 誰かに命じられることではない。

 なにかに操られるわけでもない。

 自分が、自分自身で変えたいと信じた未来、それこそが宿命だと『神』は語る。

 

 彼女はボクをじっと見ると周囲を一度見まわし、誰もいない事を確認して姿を元に戻した。

 

「よっこいしょ……ふむ」

 

 さらりとした金髪をたなびかせ彼女はベンチの上へと立ち上がる。

 コンビニ弁当を膝に少女を見上げると、彼女は実に傲慢不遜な顔でこちらを見下ろした。

 

「なればこそ、律や。今のうぬの宿命とは何ぞ? 今為さねばならぬことは?」

「ボクが……すべきこと……」

「単純じゃ、後悔しないように行動せよ」

 

 薄暗い街灯がスポットライトのように『神』を照らす。

 もはやこの場の支配者は彼女だった。

 果たしてその振る舞いは無意識か、少女は大きな耳や尻尾を一層膨らませ朗々と語った。

 

「人の多くは後悔しながら死んでいく。富者も貧者も、病める者も健やかな者も、最期には必ず何かしらの後悔を抱えるものじゃ……ただ、ごく一部の人間を除いて」

「一部?」

「宿命から逃げなかった者じゃ」

 

 少女の、どこまでも呑み込まれてしまいそうな深紅の瞳がボクを貫く。

 

「多くの人の子は何かしらの宿命を諦めて生きていく、しかしそれもまた賢い選択の内。身の丈に合わぬものなど抱えても苦しいだけじゃからの」

 

 気が付けば彼女はボクの前に立ち、胸元へと指先を這わせていた。

 

「じゃがその傷は、たとえ忘れたと思ってもふとした拍子に、己の心が弱った時にこそ再び開く。負けるその時、また何かを諦めた時、そして……死ぬその時」

 

 彼女が触れた胸元が痛む。

 まるで縮こまったかのように、この三日間痛み続けてきた存在しない傷口(・・・・・・・)から、とろりと苦悩の昏い血が流れだす。

 

 終わりのない脳内の反芻、湧きあがる恐怖と苦しみ。

 ああ、確かに彼女の言う通りだ。

 きっとこの心の傷は残り続ける。ボクがこの先ぼんやりと生きていく度に、きっと何度も姿を現して耳元で後悔を囁くだろう。

 

「不可能に挑み、不可視を睨みつけ、不可侵すらも犯し、不可壊すらを打ち壊す。精魂尽き果てようとも挑み続ける挑戦心、言葉では単純だが為すのはいたく耐えがたい。もしそれを為し続けるのであれば、その人生に後悔なぞあるまいよ」

 

 この傷を癒す方法はただ一つ。

 上から押さえつけるでも、忘れるでもない。

 

「結末を決めるのは決してあのいけ空かぬ魂転の老獪でも、或いはましてやわらわのような神々でもないぞ」

「……うん」

 

 ボクが、前に進むしかない。

 強くなるしかないんだ。

 諦めず進み続ける、その日のために。

 

 本当は気付いていた。

 でも怖かった。今までは輝良と一緒なら、彼女のためならってがむしゃらになれた。

 でも今はいない。今、ボクと共に暗闇の中に進んでくれる人なんていない、それでもあの人達に立ち向かわなくちゃいけないことが分かってて、それが怖かった。

 

「……あはは、みーちゃんったら本当に神様みたい」

「神だというとるじゃろ! 人の求む姿こそが神じゃ!」

 

 ボクの首元に抱き着き無邪気な笑みを見せる『神』。

 今の彼女に力はない。人の心をかどわかす魅了は封じられ、天を操る雄大な力も持ち合わせてはいない。

 

 強大な力を与えるでもなく、振るうでもなく、ただ、迷う人の前に一筋の明かりを灯すだけ。

 けれど、彼女は今、最も『神』らしかった。

 

 ボクはその子をぎゅっと抱きしめ、空の弁当箱をビニールへと詰め込んだ。

 そして気付かず解けていた靴ひもをもう一度、固く、固く結び直して立ち上がった。

 

「ね、クレープ食べにいこっか。ここら辺に夜遅くまでやってる店があるんだ!」

「くれーぷ? 良く分からんが食い物ならば行くぞ!」

「あ、その見た目はだめだからね! ちゃんと子狐モードになってからだよ!」

「窮屈じゃのぅ……」

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