ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第71話

「――ッ!」

 

 背後から襲撃。

 鋭利な爪が切り裂かんと迫りくるも、展開された扇面を火花を上げ滑り抜けていく。

 金属すらもその膂力の前には柔らかいというのか、鉄扇には深々とした傷跡が残されていた。

 

 素早い後退とポケットから取り出した魔石。

 放り投げたそれを対の鉄扇で挟み込み、即座にダメージを修復。

 

『カタストロフベアは膂力に優れておる、気をつけよ!』

「参考にならない情報ありがと!」

 

 みりゃ誰だって分かるけどね!

 

 塵となった魔石を見送ると同時、大熊は恐ろしいほどの膂力をもって突撃してきた。

 一本一本がボクの指ほどある爪が地面に食い込み、深々とした穴を生み出す。

 迫りくるその瞬間――直線的なその攻撃をくるりと回避、がら空きの背中へと双撃を叩き付ける!

 

「かっ!?」

 

 硬っ!?!?

 

 まるで壁を殴りつけたかのような衝撃が腕を駆け抜ける。

 浅い切り裂きなどと言ったレベルじゃない、撫でただけ。

 

 堅牢な毛皮、弾力があり弾く皮膚、そしてその下にある恐ろしいほどの厚みを持つ骨格。

 特殊な能力などない、その体格だけで全てを圧倒してしまう、シンプルな『個』。

 

『獣の毛皮は天然の鎧よ、皮膚の薄いところを探すのじゃ!』

「薄いところったって!」

 

 どこにあるってのさ! そんな場所!

 

 あの全身をびっしり覆った毛皮に隙はない。

 足先から腹、首にかけてまで。一本一本がまるでたわしのように極太の毛は地肌などボクに見せてくれやしない。

 

「……輝良がいればっ」

 

 あの子の鋭い刃があれば、練られた斬撃があれば、きっと。

 あの身軽で素早く、重い刀があれば。

 

「違う!」

 

 心の中を覆う暗雲を鉄扇と共に握りつぶす。

 

 ここに来たのは、レベルや実力が足りないのは分かっていても、ここまで来たのには理由がある。

 ボクは強くなるんだ。

 あの子に縋るんじゃない、あの子についていくんじゃない、ボク自身で切り開くために。

 

「……まだ実戦は未投入なんだけど!」

 

 距離を開け、こちらを覗く大熊。

 ボクは両腕を広げ、まだ未熟な技を叫んだ。

 

「『トキシックアーツ・デッドリースケイル』!」

 

 それは今までの血を使うトキシックアーツとは全く異なる。

 伸ばした腕からまるで鱗のように、ゆっくりと蒼い結晶が生えては覆っていく。

 

 ボクの基質、トキシックアーツの媒体はボクの身体全てだ。

 だが今までは血をメインに扱っていた。

 武器に塗って切りつける、基本の動作の都合上塗り付けられる血が最も便利であり、戦闘時の柔軟性に優れていたから。

 

「今は何でも使わないとね!」 

 

 さながら異形だ。

 鎧や甲冑の腕のようにボクの腕を覆った結晶は、本来の腕から比べ一回りほども大きく成長した。

 それはボクの動きに合わせて互いの結晶がこすれ合い、シャラシャラとした小さな音を上げている。

 

 輝良がいない今、火力に劣るボクが取れる手段は限られていた。

 これはそんなボクが苦し紛れに生み出した新技、デッドリースケイル。

 

『来るぞ』

 

 大ぶりな振り下ろしの一撃。

 本来なら絶対に避けるべき致命の攻撃。

 

「――受け止めるよ!」

 

 結晶が飛び散った。

 膂力に振り切った一撃は容易くデッドリースケイルを砕いていく、大災害(カタストロフ)の名は伊達じゃない。

 

「っ! まだまだ! 『デッドリースケイル』!」

 

 だがこの身は無傷だ。

 再び腕を起点に蒼の結晶が覆いつくす。細かく砕けた結晶たちは獣が暴れる度宙を舞い、無数の乱反射をもって己の存在を誇示する。

 

「もっと! もっと速く!」

 

 ボクが戦うほど結晶の鎧は擦れ、砕け、舞い上がる。

 動くほどに獣の息は上がり、それを吸い込み、踏みつけた脚へと鋭利な結晶が食い込む。

 

 この場に満ちる、致命的な麻痺毒の領域。

 それは既に、完成されていた。

 

『今じゃ!』

 

 獣の動きが、止まった。

 

 ボクは膝をついたその巨体へ縋りつくように飛び掛かり、その首筋へと双扇を押し当てる。

 

「くっ、ここも!」

 

 まったく切っ先が入りすらしない、うんざりしてくる。

 

「まだまだ!」

 

 なら次狙うは関節か?

 いや、関節を狙ったところで、そもそも皮膚を貫けない! どこか起点を、切っ先をねじ込む起点を探すしかない!

 そんなのどこに……いや!

 

「くちっ!」

 

 ぴくぴくと痙攣している口角。

 その奥には親指ほどある巨大な牙がずらりと並んでいる。

 

 この麻痺毒は即効性こそ高いものの、一方でこれほど巨大な獣にどれだけの時間通じるかは不明瞭だ。

 もしすぐにでも切れれば……このまま咬みつかれて一発お陀仏。

 

「――だとしても!」

 

 双扇がその口角へと突き刺さった。

 やはりここは柔らかい。内側から外へと突き出すように押し当てた鉄扇は、猛烈な肉の反発を腕へ伝えつつも、確実にその体を切り裂いていく。

 

『おい律や! 麻痺が切れてきてるぞ!』

「っ、もう!?」

 

 ゆっくりとだが、獣が立ち上がり始めている。

 奴の鋭い瞳が、首へ縋りついているボクをねめつけた。

 あまりに鋭利なその爪先が、痙攣しながらも振り払おうとボクの背中へと突き立てられる。

 

「う……ぐ……!」

『いったん撤退すべきじゃ!』

「宿命から逃げない……んでしょ……!」

『いや言うたが! こういう意味ではなーい!!』

 

 今撤退すれば勝つチャンスは無くなる!

 これだけの麻痺毒への耐性だ!

 麻痺を警戒して相手がヒットアンドアウェイに転じれば、ボクの唯一にして最大の強みの麻痺毒は意味をなくす!

 

「ここで……やるしかないんだよ!!」

 

 こっちの胴体が引き千切れるか、それともボクが切り裂くか。

 脳内で溢れた麻薬成分が思考と痛覚を麻痺させ、ボクはただひたすらに鉄扇へと縋りつき力を込めた。

 腕から剝がれていく結晶たち、獣と人の維持の張り合い。

 

 そしてついに、決着は訪れた。

 

「う……らァ!」

 

 深紅の雨が降り注いだ。

 双扇はバツ字を描くように空を掻っ切り、ボクは地面へと滑り落ちる。

 切っ先はついに左右の最も太い血管を断ち切り、獣は苦しみ悶えながら暴れ回り、どこか遠くへ駆け出そうと緩慢に背を向け……どう、と崩れ落ちた。

 

『む、無茶をするのぅ』

「ボクをそうさせたのはみーちゃんでしょ……ちょっと、元の姿に戻って回復剤刺して」

 

 徐々に興奮が落ち着き、強い熱が背中をじりじりと焼き始めた。

 みーちゃんが少し引き気味でボクの頭から降り、この背中へと回復剤を突き立てる。

 

「ふぅ……少し落ち着いたよ」

『ほれ、やつの魔石じゃ』

「うん、ありがと」

 

 子狐姿のみーちゃんが咥えてきた魔石を受け取った。

 事前に測った奴のレベルは800、クレアちゃんを助けるために戦った大狼、そして今のボク自身のレベルの二倍にあたる数値だ。

 大体親指の先くらいはあるだろうか。このレベルのモンスターになると魔石のサイズも大きく、透明度も大分高くなってくる。

 

 一人での戦いは孤独で、逃げが存在しない。

 一度の過ちが致命的となりうる、今までの戦いとは比にならないほどに危険であり、苦しみに満ちている。

 

『あの戦い方は死ぬぞ』

「……うん、さすがに厳しいね」

 

 行くべき道は決まった。

 だがその道程にある数々の戦いを、今のボクではきっと乗り越えられない。

 戦いを知る先人の導きを得なくては。

 

「ふぅー……ひさしぶりに協会、行こっか」

 

 みーちゃんのいたダンジョンの捜索を指示された、あの日以来の訪問が必要だ。

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