ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第72話

『話は芭蕉から聞いているよ、随分と大変な目にあったみたいだねェ』

 

 画面の向こうに座る祇穣院(ぎじょういん)さんがゆっくりと頷いた。

 

「魂転の巫女、四大封守、磐境(いわさか)の結界。輝良に関する話は大方知りました」

 

 長らく未知であった輝良を取り巻く事情。

 彼女自身も分かっていなかった事実は、たった一晩で全てが詳らかとなった。

 彼女の使命と勝手にされた巫女、魂転家や目の前の祇穣院(ぎじょういん)家を含む四大封守、彼らの守る磐境(いわさか)の結界。

 はっきり言ってしまえば、ボクのような凡人が知るにはあまりに重く、どれも背負い込むには荷が勝ちすぎてしまう。

 

 ボクはポケットから一束の鍵やカードキーをテーブルへと置いた。

 

「輝良は今魂転家にいます……もう、ボクの家に自分から帰ってくることはありません。なのでこれはお返しします、今後はただの探索者として扱ってください」

 

 この鍵たちは協会の倉庫や今いるこの部屋など、重要な部屋に入るためのキーだ。

 回復剤を始めとした物資の自由な使用などもこれがなくてはならないが、言うまでもなく、そういう甘い条件は輝良がいてこそだった。

 魂転の巫女たる彼女への優遇、あるいは監視。それこそが彼らの目的であり、ボクはそれにたまたまついて回っただけの金魚の糞に過ぎない……自分で言ってて悲しくなるけど。

 

「もう、ボクには何もありませんから」

『……おや、残念だねェ』

 

 力もなく、後ろ盾もない。

 今のボクは文字通り、一絡げのよくいる探索者に過ぎない。

 

 それからしばらくの沈黙が続いた。

 本題はここからだ。ボクは何度か視線を彷徨わせてから、画面の向こうでこちらを見つめる彼へと目を合わせた。

 

「……芭蕉さんとの関係があるということは、祇穣院(ぎじょういん)さんは穏健派、と捉えて良いんですかね」

『ああ、芭蕉も随分と話してしまったみたいだねぇ』

 

 滅定を中心とする魂転家の神弑し過激派が巨大な勢力なのと同時、四大封守の家には彼らに内心反感を持つ穏健派もまた存在する。

 語りからいって芭蕉さんは恐らくその一派に属しているのだろう。

 そしてあの晩彼に出会ったことは言うまでもなく彼と、そしてその横にいた孫七以外知らない。

 

 つまりあの日のことを芭蕉さんから聞いているこの人も、やはり穏健派の人間だと言えるだろう。

 

『残されている文献にある神々は千差万別、確かに滅定殿の言う様に悪辣な者も多かったと聞く。だがそういった者は真っ先に狙われていてね、今残っているのは抜けて弱いか、或いは極端に強力で封印以外手段がなかった神ばかりさ』

 

 それは滅定が口にしなかった真実だった。

 彼は、神が磐境(いわさか)の結界と共に封印された、としか語らなかった。

 

『はっきり言ってしまうとね、小生は神弑しに意味がない、そう考えている。弱いと謳われようが神は神、その力は鮮烈だからねェ』

 

 みーちゃんが語った神々の力、それは天候すら操ることが出来る強大な影響力を持っている。

 そしてそれは神々にとって当たり前の力だと、信仰さえあれば出来る程度のことであると。

 そこまでの力が全ての神々に備わっている標準的な力であるとするのなら、『強大』とまで語られ封印以外許されなかった神の力とは、いったいどれほどのものだろうか。

 

 触らぬ神に祟りなし。

 古くからの言い伝えに、偽りはないのだろう。

 

『我々四大封守の使命は平穏の維持、すなわち結界の継続だよ』

 

 なるほど、確かに平穏を最優先とするのなら、むやみに神々へと手を出すことは最悪の行為の一つなのだろう。

 彼らの気持ちも頷けるというものだ。

 

 ……だけど、そんなことはボクにとってどうでもいい。

 

「正直ボクは、世界の平穏だとかには興味がありません。でも、あの子が下らないことに付き合わされて、何もかもを奪われるのを黙ってみてなんかいられない」

『……若いねェ』

 

 いったいどんな感情が混じっているのか。

 彼はたった一言ぽつりとつぶやくと、わずかに目を細めた。

 

「ただ今、ボクは強くなりたいんです。誰にも追いつかれないくらい、あの子に振り払われないくらいに強く」

『一応、聞いておこうか。なんでそこまで強くなりたいんだい?』

 

 シンプルな問いだ。

 

「……ただ、ゲームをして過ごしたいんです」

 

 シンプルな問いにはシンプルな答えがよく合う。

 

 元々ボクはシンプルな人間だ。

 辛いのは嫌だし面倒ごとからは逃げる、楽しいことだけしていればいいなと思うし、遊べるお金が欲しいのもあってなんとなくバイトをしていた。

「輝良とか、その妹のクレアちゃんだとかその友達だとか、ただ友達と楽しく遊んで、笑い合って過ごしたいんです」

 

 今はそれがこんなにも遠い。

 シンプルなままじゃ、シンプルな喜びを保っていられない。

 

 周りを囲う事情は複雑怪奇、一つの問題が解決したら今度は三つ、四つと意味の分からない出来事が出てくる。

 それでもやるしかないじゃないか。

 だって友達が困ってる。それをほったらかして生きていたら、きっと明日のボクが後悔する。

 

「だから鬼灯さんに師事したいんです」

 

 失ったものは多い。

 それでも今ボクには一つの可能性がある。

 間違いなく頂点に近い存在、鬼灯さんとの薄い関係性が保たれている。

 

 ……あの人から戦い方を教われば、それはきっと現状でのボクが輝良に近づける最短ルートだから。

 

 ボクはただ膝の上に手を置いて画面をじっと見つめた。

 彼女の師事を得られるかは部の悪い賭けだ、何もないボクにわざわざ時間を割く理由などない。

 どうしようもなくて可能性の芽すらないのならそれは諦める、自分一人で戦って力を蓄えるだけ。

 それでもできることはやりたい、選べる術の一切を諦める理由にはならない。

 

『構わないよ、鬼灯クンには話を通しておこう』

 

 意外なことに、彼はあっさりと頷いた。

 驚くボクを尻目に、しかし祇穣院(ぎじょういん)さんは少し変わったことを口にする。

 

『キミにはあとで彼女の居場所を送ろう。ただ彼女が頷くかは分からないよ、なにせ彼女は気難しいからねェ』

「……そうなんですか?」

 

 出会ったときから鬼灯さんは優しい雰囲気を纏っていた。

 いやなところはなくて、大人な対応なのに話しやすい、まさにスマートでかっこいい女性といった態度。

 そんな彼女が気難しいなんて。

 

 ……いや、輝良は最初に会った時から鬼灯さんのことを苦手って言っていたっけ。

 

『力を求めるには相応の理由がある、キミと同じようにね。ま、もしキミが彼女に気に入られたら本人から直接聞くと良いさ』

 

 人の事情など、その顔から図ることはできない。

 言葉を交わし合ったとて理解しきれないのだから。

 

 彼の言葉にボクはこくりと頷き、おもむろにソファーから立ち上がる。

 

「……ありがとうございます、それじゃ」

 

 もうこの部屋に来ることはないだろう。

 相当の立場にいる彼に会うこともまた、おそらくない。

 

『ああ、ちょっとちょっと! 相変わらず気が早いね、ちょっと待ちたまえよ』

 

 画面の向こうの彼がこちらへ手を伸ばす。

 指差しているのはそう、ボクが最初に提出したキーたちだ。

 輝良を補助するために渡された、協会からの補助を得るための、ボクなんかが本来持ち歩いてはいけないようなものたち。

 

『机の上のそれ、まだ持っておきたまえよ』

「え、でももう輝良は……」

『おいおい、勘違いしないでくれたまえ!』

 

 わざとらしい口調と態度で彼は両手を広げる。

 

『小生の使命は市民の平穏、今はどんな力であれ喉から手が出るほど欲しいって前伝えたじゃあないか!』

「てっきり輝良に適当に近づくための嘘かと……」

『おいおい困ったなァ、こんなに親しみのある笑顔と誠意のある態度を見せてるってのに!』

 

 彼はにぃ、と胡散臭い笑みを浮かべる。

 その顔つきはどこか彼の友人、芭蕉のそれと似ていた。

 

『……波風立てると厄介でね、表立っての対応は出来ない。ただ、滅定殿の影響をある程度排することなら出来る。是非にとも、強くなってくれたまえよ』

祇穣院(ぎじょういん)さん……」

 

 その顔には少しの憐憫と、どこかまぶしいものを見るかのような表情が浮かんでいた。

 

 胡散臭い雰囲気の人、最初に感じたものは今も変わらない。

 だがもしかしたらこの人の態度は、曲者ぞろいの人々をまとめ上げ、そして勢力争いなどを上手くやり過ごすために作られただけなのかもしれない。

 本当の彼はきっと……いや、それはまだ分からないか。

 

 ボクはその鍵束たちをぎゅっと握りしめ、彼が映るタブレットへ頭を深々と下げた。

 

「いままで、強く当たってすみませんでした。必ず、強くなります」

『はは、魂転家の連中と比べたら子犬の鳴き声みたいなものさァ! さあ行きたまえ、キミにはやるべきことがいくつもあるんだろう?』

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